「皆さんと目指したい場所があります。もう一度さいたまスーパーアリーナに立てるように、私たち私立恵比寿中学は邁進していこうと思います」
2022年12月17日、千葉・幕張イベントホールで行われたライブ「私立恵比寿中学 New Style 大学芸会~run in our ebichu family~」のステージ上で、私立恵比寿中学の最年長・真山りかはこう宣言した。新メンバーの桜井えま、仲村悠菜を迎えた新体制の第一歩となったステージで新たな目標を立てたえびちゅうは、そこから2年あまり、埼玉・さいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に導くべく活動を重ねていく。そして2025年3月20日、グループ結成15周年のアニバーサリーイヤーを飾ったさいたまスーパーアリーナ公演「私立恵比寿中学 15th Anniversary 大学芸会2025~LOVE&BRAVE~」はえびちゅう史上最多の1万5000人を動員。15年の歴史とその先の未来を感じさせたステージは大成功と言えるだろう(参照:私立恵比寿中学15周年、過去最多1万5000人が10年ぶりSSAに集結「ずっと皆さんを幸せにします!」)。
このライブの前日、えびちゅうはメジャー通算15枚目のシングル「SCHOOL DAYS」をリリースした。さいたまスーパーアリーナでも披露されたこの楽曲は、新たな道への一歩を踏み出す人を優しく後押しする、春にぴったりのほんのり切ない旅立ちの歌だ。
さいたまスーパーアリーナの余韻冷めやらぬ3月末、小林歌穂がグループを卒業することが発表された。小林は2014年1月に中山莉子とともにえびちゅうに“転入”(加入)。穏やかで人間らしい、ある意味アイドルらしからぬ素朴なキャラクターで広く愛されてきた小林だが、近年は歌唱面でもグループを支えるキーマンとしての評価も高い。えびちゅうのピースフルなムードを象徴する彼女の存在が、「愛される準備ができてる君に贈る歌」と歌われる新曲「SCHOOL DAYS」の歌詞とリンクする。卒業発表の翌日、音楽ナタリーはえびちゅうメンバー9人へのインタビューを行い、さいたまスーパーアリーナ公演の裏側、ニューシングルにまつわるエピソード、そして小林の卒業について話を聞いた。
取材・文・撮影 / 臼杵成晃
最大級の突風に向かって突き進んだSSAの先に追い風
──本題に入る前にホットな話題として……風見さんの走り、すごかったですね。
風見和香 あー、ありがとうございます。
──TBS「オールスター感謝祭」の名物企画・赤坂5丁目ミニマラソンでスタートから終盤までずっとトップの位置をキープしたことによって、実況で常に「えびちゅう」「ののかまる」が連呼され続けるという。最終的に7位となったものの、ニュースターの誕生で番組は大盛り上がりでした。少し前には「SASUKE」の女性版「KUNOICHI」への参加もあったり、すっかりスポーツの人に。
風見 「新しいスポーツアイドルだ」みたいな実況をされていて、わあって思いました。
──本人としても手応えあり?
風見 がんばりました!
──そんなトピックも含め、今のえびちゅうにはいい追い風が吹いているんじゃないかと思うのですが。
真山りか なんでしょうね。「仮契約のシンデレラ」のちょっとしたバズとか。
──それもありますし、何よりもグループの悲願だったさいたまスーパーアリーナでのライブが大成功に終わったことが、えびちゅうの長年の活動の中ではすごく大きなことだと思うんです。チケットは完売になり、メンバーの健康状態はよく、終始ハッピーな状態でライブを終えたことが、失礼ながら予想外で。常に何かと戦い続け、苦労し続けてきたえびちゅうを長く見ていたから、今回もまた何かを抱えて終わるんだろうなと。
真山 わかります(笑)。本当に包み隠さずに言うと、私たちがさいたまスーパーアリーナを目指すと宣言したときとはメンバーの人数が違いますし……。
──「10人でさいたまスーパーアリーナを目指す」という目標でした。昨年秋に星名美怜さんがグループを離れ、そこから半年足らずで9人体制を固めていかなければならないという。
真山 はい。深い痛手を負いながらも、最後の最後で……なんだろう、少年マンガとかで言う、傷だらけの状況の中でかつての仲間たちが集まってくるみたいな感じの(笑)。
──「土壇場に立たされているえびちゅうを救わねば!」と、最近ライブから離れていたえびちゅうファミリー(私立恵比寿中学ファンの呼称)までもが集まったからこその満員の景色だったかもしれないですね。
真山 ファミリーとの絆がここまで確固たるものだったんだなと改めて実感させてもらったライブでした。えびちゅうは何かと向かい風に立たされてきたグループではあるんですけど、今「追い風」と言ってくださったようなことって、きっと私たちががんばってきたことへのご褒美だったんじゃないかなと思うんです。おごらずがんばっていかねば、というのが今の率直な気持ち。素敵なサイリウムの光と声援と、皆さんの本当に心からの笑顔を、ステージ上からでもわかる状態で、しかも広いさいたまスーパーアリーナで見られるという、そんな心から幸せなライブはひさしぶりだったので、本当に感動しました。
──確かに最近の追い風ムードでちょっと忘れかけてましたけど、夏にはえびちゅうを結成直後から育ててきた2代目校長もいなくなり、その後星名さんもいなくなり……この数カ月の向かい風はえげつなかったですよね(笑)。
真山 最大級の突風で(笑)。巨大扇風機でズババババーッとやられてるみたいな、昭和のバラエティみたいな向かい風でした。それでもメンバーみんな踏ん張って、3代目校長もあの大変な中でグループと組織をもう一度立て直してくれて。ファミリーのみんなはきっと疑心暗鬼になりつつも、私たちを信じてついてきてくれた。本当に感謝の気持ちが大きいです。
──誰かが体調を崩していたりということも過去えびちゅうには何度となくありましたけど、皆さん本当にベストコンディションで挑まれているように見えました。実際そうだったんですか?
安本彩花 はい。SSA(さいたまスーパーアリーナ公演)は本当にメンバー1人ひとりがすごく楽しめたライブだったんじゃないかなって。最後みんなで顔を見合わせたときにそう思いました。それがやっぱり一番うれしかった。えびちゅうは向かい風に立ち向かっていく、ある意味負のパワーを使ってずっと走ってきたところがありますけど、それは本当にいろんなものを犠牲に、削られながらやってきたことだから。そんな向かい風の先で、本当に心の底から楽しい!っていう、すべてがプラスの気持ちでできた幸せな空間だったので……まあファミリーの皆さんの中には演出でざわついてた人もいたみたいですけど(笑)。
一同 あはははは。
──「私立恵比寿中学」が廃校になる、というシリアスなドラマ映像ですね(笑)。安本さんが見た夢の話、という設定ながら、ここまで向かい風を受けまくってきたえびちゅうを見守ってきたファミリーたちからすれば、ちょっと笑えないシリアスさで。
安本 あの演出がそんなふうに受け止められるって自覚がないくらい(笑)、本当に9人で心ゆくまでライブを楽しめたことがすごくよかったなって。
えびちゅう妹メン、初めてのさいたまスーパーアリーナ
──初期メンバーのお二人に話してもらいましたが、最も歴の浅いエマユナのお二人は初めてのSSA、いかがでしたか?
桜井えま エマユナ初ライブのときに「私たちはさいたまスーパーアリーナにもう一度立つ」と新しいグループとしての目標を発表したんですよ(参照:エビ中、新メンバーのエマユナ「大学芸会」で堂々初ステージ!10人体制の今ここがスタートライン)。2人にとっては加入してすぐに立てられた目標のステージだったので、逆にそこしか見えていなかったというか。だから本当にSSAのステージに立てた瞬間、ステージからの景色が見えた瞬間に、なんかもう「あああーっ」って。
──言葉にならない喜びが。
桜井 ようやく立てたこのステージで、私が一番楽しんでやろうって。スタンドの上のほうまでたくさんのファミリーの皆さんがいる景色をしっかり堪能しました。
仲村悠菜 目標を発表したときは、さいたまスーパーアリーナってすごく大きな会場だから、順調に進めるわけじゃないだろうなと思ってたし、えびちゅうというグループに入ったからには何かしら起こるんじゃないかなって……。
真山 ハハハハ。
仲村 試練が来るのけっこう早いな、みたいな。でも、いろんなことがあったからこそ絆が深まった状態でSSAに行けた気がしたし、いろいろなことがなかったら、ライブが終わったあとにみんなでハグして流したあの涙はなかったのかなと思います。成長する機会を与えてもらったし、何よりあんな一番上まで人がいる光景なんて想像もできていなかったので、本当にうれしかったです。
──2021年に“転入”(加入)したココユノノカのお三方もSSAは初体験ですが、いかがでしたか?
桜木心菜 私はSSAに立ったあと、自分の中に初めての感情が出てきていて。去年のクリスマスライブのときにも「もしえびちゅうに入ってなかったらこんな感情になることはなかった」みたいな話をしましたけど、SSAでも「あー、めっちゃ緊張する!」と思ったら「あ、落ち着いてきた」みたいな……なんだろう、ソワソワと安心感が混ざったような、ほかのライブでは味わえないような気持ちになりました。終わったあとの「やり切った!」という感情も、単なる「楽しい! やり切った!」じゃなく「なんか燃えたぜ……」みたいな?(笑) そういう気持ちになれたのが自分的にはうれしかった。
小久保柚乃 ココユノノカが加入したばかりのときは、「これを目指す」みたいな明確な目標がなかったんですよ。……あ、でも柚乃がぼんやりして知らなかっただけかもしれない。
真山 いや、なかったよ。
小久保 あ、よかった(笑)。そのあとエマユナが入ったときに「SSAに立つ」という目標ができて、目標に向かってがんばる、そのためのルートみたいな感じでここまで必死にやってきて。道の途中にはいろんな石が転がってましたけど……。
真山 でっけえ石がね(笑)。
小久保 そこを全部乗り越えて……なんだっけ? 何を言おうとしたんだっけな。なんかいいこと言おうとしたんですよ。
一同 あはははは!
小久保 心菜の話聞いてたら忘れちゃった。
桜木 ごめーん。
小久保 なんだろうな、私にとって今までライブは楽しいものじゃなかったんですよ。でもSSAでは終わってから「楽しかったな」と思えたことが、自分にとってはすごく大きかった。
桜木 初めての感情じゃーん。
風見 (笑)。私はライブが終わったあと、寂しさとか、目標を叶えてしまった喪失感みたいなものが生まれるのかなと想像していたんですけど、実際は「やり切った!」という達成感のほうが大きかったです。やりたいことができて、出したいものがすべて出せたライブだったし、改めてえびちゅうファミリーさん1人ひとりの愛が伝わってきて。私は途中で加入した者なので……。
──者なので(笑)。
風見 者なので(笑)、ファミリーの皆さんに感謝したのと同時に、お姉さんメンバーってやっぱすごいんだなって。ライブをやってる最中もそのあとも、改めてめちゃめちゃ思いました。これまでのえびちゅうメンバー全員に感謝。そんな気持ちになりました。
「さっきまで私、さいたまスーパーアリーナでライブやってたよなあ?」
──2014年に転入したカホリコのお二人は、2015年末、えびちゅう2年目でSSAを経験しています(参照:あの未確認中学生が帰ってきた!エビ中、2年ぶりのSSA大学芸会)。2回目とはいえ、あの頃は今となっては信じられないくらい“THE 子供”だったし、ほとんど記憶に残ってないのでは?
中山莉子 ん? 2015年のときか。あー覚えてないでーす。
一同 アハハハハハ!
真山 空を飛んだのとか覚えてないんだ(※中山は岩山のようなメインステージ上方の高台から急降下する派手なワイヤーアクションを披露した)。
中山 飛んだ記憶はないけど、上のほうに行くのに階段めっちゃ登ってキツかった記憶はある。
小林歌穂 殺陣をやったんだっけ。やり切るのに必死で全然覚えてない。
──2度目のSSAはいかがでしたか?
小林 本当に夢を見ているような気持ちになっちゃって……その、終わるじゃないですか。
中山 へ?
小林 一旦その、終わってお家に帰るじゃないですか。帰ったらお母さんが餃子を作ってくれていたんです。それで餃子を食べながらハハハーなんてしゃべってたら「あんたホントにライブやってきたんだよね?」ってお母さんに言われて。自分でも「さっきまで私、さいたまスーパーアリーナでライブやってたよなあ?」って思うくらい、なんかホントにふわふわしていて……いまだに余韻を感じていて、実感という実感がまだない。おっそいんですけど(笑)。
──確かに、どんなに大きな場所でライブをやっても、だいたいの人は家に帰るわけですもんね。SSAのステージに立った人も、終わったあとは家に帰る。
小林 そうなんですよ。みんな帰るべき場所に帰っていくと思うんですけど(笑)、私も同じように家に帰ったら「え? 私、ライブやってたんだよね?」っていう、なんか不思議な気持ちになって。でも、あの時間は本当に大勢の人の心がこう、グッと動いたというか。私たちも含めて、こんなにたくさんの人の心を動かせるライブってやっぱりすごいなと思ったし、えびちゅうの新体制の基盤が固まった瞬間をたくさんの方にお見せできたことがうれしかったです。
中山 さいたまスーパーアリーナについては実は3年前くらいから話していたんですよ。本当にやるかやらないか、1回やらないってことになったんだけど、なんか悔しくて「本当にそれでいいんですか?」って2代目校長と話したこともあったし。やると決まって会場を押さえて、ファミリーのみんなに発表した2年前は「やっと発表できた」ということがまずうれしかったんです。そこから2年かけてようやく本当にステージに立つことができて……うれしいことはうれしかったんですけど、はじめましての人もたくさん来てくれていたはずだから、なんというか、その人の人生を背負っていると思うと責任を感じてしまって。私、アイドルに興味ない友達とかも誘ったんですよ。
──「初めて体験するアイドルのライブ」がその人の人生において大きな分岐点になるかもしれない。えびちゅうがその大事な瞬間を提供することへのプレッシャーということですね。
中山 はい。でも、ライブ中に彩花ちゃんが言った、えびちゅうは初めてライブを……なんて言ってたんだっけ?
安本 (笑)。「ライブを観た人を好きにさせる自信がある」みたいな話?
中山 そうそう。私は「そうかあ?」って思ってたんだけど。
一同 アハハハハハ!
中山 来てくれた友達がライブのあと、TikTokとかでえびちゅうをすっごい調べたらしくって。えびちゅうのライブにはそういう力があるんだなと再確認できました。
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SSAの裏側、メンバーが見つけた褒めポイント