S.A.R.特集|メジャーデビューEPは実験作、気鋭オルタナティブクルーが見つめるシーンの未来

S.A.R.が4月23日に1st EP「202」をポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsから発表した。

S.A.R.はsanta(Vo)、Imu Sam(G, MC)、Attie(G)、Eno(B)、Taro(Key)、may_chang(Dr)の6名からなるオルタナティブクルー。音源のみならず映像やアートワークなどあらゆる制作物を自ら手がけており、昨年3月発表の1stアルバム「Verse of the Kool」は耳の早いリスナーを中心に注目を浴びた。彼らのメジャーデビュー作となる「202」には、すでにライブで披露されている「juice」「Side by Side」「Back to Wild」や、現在はハワイを拠点に世界で活躍するヒップホップ界のレジェンド・Shing02を迎えた「New Wheels (feat. Shing02)」などが収められている。

音楽ナタリーでは謎の多いS.A.R.の魅力を掘り下げるべく、体調不良で欠席したAttieを除くメンバー5名にインタビュー。飄々としながらも音楽と真摯に向き合う彼らに、クルー結成の経緯から各メンバーの音楽的ルーツ、「202」の制作エピソード、今後の展望について語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / Goku Noguchi

いい音楽は、いい環境から生まれる

──S.A.R.は2022年から現在の体制で活動していますが、結成の経緯を教えてもらえますか?

santa(Vo) 僕とギターのAttie、もう辞めてしまったけどコロンビア出身のAlexというやつがいて、S.A.R.はその3人で始めました。3人とも専門学校に通ってたんですけど、Alexは専門学校を卒業してから音大に入って。音大で今のメンバーと出会うんですよ。最初はImu Samだったかな。

Imu Sam(G, MC) 初めはフィーチャリングという形で「Skate」という曲を一緒に作りました。それから僕も正式に加入して、どんどんメンバーが集まってきた感じですね。

──皆さんの中で「どんな音楽をやるか?」というコンセンサスはあったんですか?

santa いや、そういうことは話したことはないかな。

Imu Sam 明確に「こういうことをやろう」というのはないですね。そのときどきでやりたいことが変わってくるので。

Eno(B) ……いや、ちょっと待って。彼(Imu Sam)はオールしてきて寝てないみたいなので。

Imu Sam (笑)。

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──(笑)。ではEnoさん、補足してもらえますか?

Eno 例えば「でっかい会場でやりたい」とか「何万枚売りたい」とか、そういう具体的な目標はないんですよ。ただ、「本当にいいものを作る」というのは一貫してるんじゃない?

Imu Sam そうだね。

Eno 音楽のために集まったというか。ダサい言い方だけど、アベンジャーズみたいな……これはよくないか。

──(笑)。でも、実際そうですよね。友達同士で組んだというより、いい音楽を作るために集まったわけだから。

Eno ああ、それはどっちもあるかもしれません。

santa うん。Alexを介してメンバーと知り合って、音大のスタジオを使わせてもらったりしてたんですけど、その頃からよく一緒に遊んでたので。

Imu Sam そうだね。

Eno いい音楽って、環境から生まれると思うんですよ、たぶん。メンバー同士の関係性だったり、そのときの環境が音楽を作るというか。「こういう音楽を目指そう」というのはあまり重要じゃないし、そこに向かえば今の関係性は簡単に壊れてしまうんじゃないかなと。持論ですけどね。

──“いい環境”というのは?

Eno それも難しいんですけどね。超セレブリティみたいな制作の環境があればいいものが作れるかって言えば、別にそうじゃなくて。今の環境がよくないってわけじゃないんですけど(笑)。

Imu Sam 制限がある中でやってる感じだよね。

Eno いい言い方をすれば、そうかな。……これはあとでまた話します(笑)。

──may_changさんとTaroさんは、S.A.R.で音楽をやることの面白さをどんなところに感じてますか?

may_chang(Dr) そうですね……まず、友達として面白い人たちなんですよ。

Imu Sam 一緒に過ごしてて、笑い転げるようなことがいっぱい起こるっていう(笑)。それもいい影響を及ぼしてるかも。

may_chang あと、いろんな音楽を教え合ってますね。現行の音楽から60'sや70'sまで、各々が見つけたものを「こんなのあるよ」という感じで。

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Taro(Key) いろんな考えの人たちが集まってるから「こういう音楽の捉え方があるんだ?」って刺激を受けてます。それに自分は人前に立ったことがほとんどなかったので、演奏するうえで「人に伝える」という意識が抜けてたんですよ。このバンドを始めてから、その意識はだいぶ変わったと思います。

──ステージで演奏すること自体をやっていなかった?

Taro 全然やってなかったです。音大でくすぶってたときに、声をかけてもらったので。

Imu Sam Taroは大学の頃、赤髪で短髪だったんですよ。「ヤバいやつがいるな」と思ってたんだけど、あるとき彼がサンダーキャットのTシャツを着ていて。Enoが「声かけたほうがいい」って言うから、「君、サンダーキャットが好きなのかい?」と話しかけました(笑)。

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多様な音楽が混ざり合うS.A.R.のルーツ

──S.A.R.の音楽にはジャズ、ヒップホップ、R&B、ロックなど幅広い要素が反映されていますが、そもそも皆さんのルーツはどんな感じなんですか?

Eno 自分はボブ・マーリーからですね。その後Nujabesだったり、Commonの「Be」をきっかけにカニエ・ウェストを聴くようになりました。

Taro カッコよ(笑)。

santa 僕はエミネムが最初ですね。小学校高学年の頃に「8Mile」が流行っていて。当時高校生だった兄が、「8Mile」で使われているインストを流しながら遊びでラップをやってたんですよ。それを見て「おもろ」と思って、その後、ギターとかも始めて。そこからレイ・チャールズやThe Beatlesを聴くようになって……という感じですね。

Taro 幼稚園の頃に聴いた映画音楽がきっかけで、エンニオ・モリコーネが手がけた「ニュー・シネマ・パラダイス」のサントラを聴いて「ワーッ!」と感動したのを覚えてます。あとは家の中でいろんな音楽がかかっていて、The BeatlesからUKロックにいって、ジャズ、ヒップホップなんかも聴き始めて今に至ります。

Imu Sam 最初に好きになったのはロックやファンクなんですけど、ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)やFunkadelicに衝撃を受けてブルースも聴くようになりました。もともと家族がR&B好きだったから、エリック・ベネイやクレイグ・デイヴィットなんかも聴いてましたね。

──Imu Samさんはラップも担当してますけど、ラップミュージックは聴いてました?

Imu Sam クレイグ・デイビッドのラップが入ってる曲は聴いてましたね。ゴリゴリのラップは聴いてなかったけど、カナダに留学して、英語がわかるようになってからは「カッコいいな」と思うようになって。A Tribe Called Questとかも好きですね。

may_chang うちは親父がロック好きで、僕もそれを聴いてて。最初はLed Zeppelinからかな。その後、ドラムを始めて。Deep Purpleだったり、ヘヴィメタルもちょっと聴いてました。

──ハードロックがルーツなんですね! S.A.R.にはJ・ディラ以降のレイドバックしたビートの曲もありますが、そういう音楽は?

may_chang 高校生くらいからですね。仲よくしてた先輩がディアンジェロの2ndアルバム(「VOODOO」)をオススメしてくれて、それから聴くようになりました。

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──それぞれルーツが少しずつ違いますが、アレンジする際はメンバーの得意なところをどう生かすかは意識してますか?

Eno 全員を生かすというのは無理なので、中間を見つけようとはしてるかもしれません。「メンバーみんなの気持ちを汲んであげよう」なんて嘘というか、不可能じゃないですか。もしやろうとしても、わかったつもりになってるだけだと思うので。

「202」は実験作

──では、EP「202」について聞かせてください。メジャーデビュー作ということで、制作環境がかなり変わったのでは?

Eno そうですね。1stアルバム(「Verse of the Kool」)はすごく豪華なスタジオで録ったんですよ。めちゃくちゃデカいし、クオリティでいったら日本で一番みたいな環境だったんですけど、「こんなのヒップホップじゃねえな」と思ってしまって。そのときから「次は宅録かな」と考えていたんです。Shing02さんと一緒にやった曲(「New Wheels (feat. Shing02)」)はスタジオでレコーディングしたんですけど、それ以外は全部、宅録です。ちなみにタイトルの「202」はマンションの部屋番号から取っていて。

S.A.R.

S.A.R.

may_chang 僕の部屋ですね(笑)。

Imu Sam みんなでmay_changの家に集まって、ギッチギチの状態で作ってました(笑)。

may_chang 防音がんばりました(笑)。今回は打ち込みが中心だったので、ドラムは叩いてないんですけどね。

Taro 俺もキーボードはラインで録るから、あまり変わらなかったかな。それよりボーカル録りが大変だったと思います。レコーディング中に救急車が通ったりして(笑)。

santa あったね(笑)。

──メンバーそろって宅録すると、いろんなアイデアが出てきそうですね。

Eno そうですね。録り方もそうですけど、試行錯誤しながらやってたし、いろいろ実験した感じはありますね。