京本大我「PROT.30」全曲レビュー|30歳という節目に改めて人生と向き合い、表現したかったこと

京本大我(SixTONES)のクリエイティブプロジェクト・ART-PUT初のアルバム「PROT.30」がリリースされた。

ART-PUTは京本がさまざまなインプットを経て、音楽をはじめとする“ART”へと昇華させるプロジェクト。昨年9月、「クリエイティブな発想を形にすることでSixTONESの活動に貢献したい」という思いから始動したART-PUTを通じて、ソロライブや写真展を実現させてきた。

「PROT.30」を構成するのはリード曲「滑稽なFight」を含む12曲。初回盤Aには「癒えない」、初回盤Bには「margarine」、通常盤には「Over Dub」「Desire」「終わらせぬ世界」というボーナストラックも収められており、全曲のソングライティングに京本自身が携わっている。昨年12月に30歳になり、この先の人生を見つめ直した京本が自らの言葉、メロディで表現したかったことはなんだったのか? 音楽ライター森朋之による全曲レビューを通じて京本に宿る優れた芸術性に触れる。

文 / 森朋之

京本は自身が所属するSixTONESで、ジェシーとともにメインボーカルを担当。高音域を生かした声の響き、美しさと激しさを行き来する表現力によって、グループの音楽的支柱と言っても過言ではない役割を果たしている。またミュージカル作品への出演も多く、「エリザベート」ではオーストリア皇太子のルドルフを演じ、「ニュージーズ」「シェルブールの雨傘」「モーツァルト!」といった名作で主演を務めるなどミュージカル俳優としても着実にキャリアを重ねてきた。昨年12月に30歳になった京本が、キャリア / 人生の両方で1つの節目を迎えたタイミングで届けるのが「PROT.30」というわけだ。

京本自身がすべての楽曲の作詞作曲を手がけ(作曲はクリエイターとの共作)、彼のソングライターとしての資質もあらわになった本作。さまざまなメディアを通し、Mr.Childrenやマカロニえんぴつ、Mrs. GREEN APPLEへのリスペクトを表明してきたが、「PROT.30」を聴けば、彼の音楽性がバンドサウンドにとどまらないことがわかる。基調はロックなのだが、そこにR&B、ソウル、ジャズ、ラテンなどのテイストを交えることで、独自のサウンドを実現しているのだ。自らの感情を吐露するような楽曲から官能的なラブソングまで、多彩なソングライティングも本作の魅力と言える。そして、楽曲の世界観やメッセージを増幅させるボーカルも素晴らしい。以下に記した全曲紹介を通して──もちろん、アルバムを聴きながらアーティスト・京本大我の世界に触れてほしい。

「PROT.30」全仕様共通収録曲

01. Prelude
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Hayato Yamamoto / 編曲:Hayato Yamamoto]

「PROT.30」のオープニングを飾るのは、「Prelude」(前奏曲)と題された楽曲。ディレイのかかったきらびやかなギターフレーズで始まり、疾走感にあふれたバンドサウンドへと移行するロックナンバーだ。生々しいドライブ感をたたえたビートを乗りこなしながら、京本は未来に対するポジティブなビジョンを高らかに歌い上げている。それを象徴しているのが「世界の向こう側へ行こう 蒼に染まってゆけ 鳴り止むなPrelude」というフレーズ。ここには“いくつになっても夢を追い続けよう”というメッセージ、そして、アルバムに対する彼自身のモチベーションが確かに宿っている。

02. WONDER LAND
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Keiichi Oosawa / 編曲:Keiichi Oosawa]

ハイハットの軽やかな音、鋭利に響くギターリフに導かれたファンキー&ロッキンなアッパーチューン。京本が体をしならせて踊りまくるシーンが脳裏に浮かび、思わずテンションが上がってしまう。起伏のあるリズムをナチュラルにつかみ取り、しなやかなフロウを描き出す歌声が示しているのは、ロックボーカリストとしての高い資質。かなりラフに歌い倒しているのだが、メロディラインを明確に描き出し、すべての歌詞を正確に伝える技術とセンスに強く惹き付けられる。「呆れ笑って 反吐が出らぁ」という乱暴なリリックの表現も、楽曲の世界観を際立たせている。

03. KOYOI
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、KOUDAI IWATSUBO、Kuwagata Fukino / 編曲:KOUDAI IWATSUBO、Kuwagata Fukino]

ロック系のアッパーチューンが2曲続いたあとは、憂いを帯びたミディアムナンバー。トラックの基調となっているのは、R&Bのテイストを反映したビート。シンセベースの無機質なグルーヴとギターの生音が融合し、“有機的にしてエレクトロ的”と称すべき独創的なムードを生み出すことに成功している。多彩なボーカル表現も「KOYOI」の魅力。Aメロでは「だって君が側にいたこと それが全て」とささやくように歌い、サビでは切ない感情を強調している。さらにラップやファルセットを生かしたパートもあり、京本の幅広いボーカリゼーションを堪能できる。

04. RAY
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Yocke / 編曲:Yocke]

4曲目はヘヴィロックの色合いが強い「RAY」。ずっしりとした重みを感じさせるベース、強いダイナミズムを備えたドラムなどはまさにヘヴィロック直系だが、ドラマティックなメロディ、美しいレイヤーを描き出すギターのアンサンブルによって、壮大なスケール感をまとった楽曲へと昇華されている。「悪意の無い矛盾を 許し合うことが出来たなら」というラインも印象的。いろいろな解釈ができる歌詞だが、その背景にはおそらく、今のSNSにおけるシリアスな状況があるのだと思う。失敗や失言を攻めるのではなく、お互いをもう少し許し合うことで、“RAY”(光)が見えるのではないか、と。

05. 孤言
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Mine Kushita / 編曲:Mine Kushita]

アコーステックギターの響きがフォーキーな手触りを感じさせるミディアムバラード……と思いきや、楽曲の前半でいきなりテンポアップし、ギターロック然とした雰囲気に。感情の揺れとリンクするようにBPMや曲調が変化する、その構成自体にソングライターとしての京本大我の特徴が刻まれている。幅広い音楽的な素養を持ちつつ、それらを自在に組み合わせることで、独創的な楽曲へと導く。それは間違いなく、彼の音楽性におけるひとつの武器だろう。手紙のようでもあり、独り言のようでもある歌詞も心に残る。孤独や矛盾を抱えながら、それでも生き続ける──そんな心情を吐露した言葉が並んでいる。

06. Blue night
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Hayato Yamamoto / 編曲:Hayato Yamamoto]

アルバム「PROT.30」の中で、最も官能的な香りが漂う楽曲。アコースティックギターのループ、厚みのあるベースラインとキックの音色、鋭利なエレキギターの響きの中で京本は、「過ちと分かっていて堕ちてゆく二人」の姿を描いている。決して未来がないとわかっていても、どうしても交わることを止められない“二人”。そんな刹那的な関係性を映し出すリリックは、匂い立つような生々しさと上質な恋愛映画のような美しさを兼ね備えている。感情の発露をギリギリのところで抑え、歌詞の世界観を的確に表現する歌声にも、大人な色香がたっぷりと含まれている。