阿部真央「マリア」インタビュー|その愛は誰のため?母親だからこそ生み出せた新曲を語る

デビュー15周年を駆け抜けた阿部真央から、新曲「マリア」が届けられた。

アルバムリリースや複数のツアー開催など、トピックス満載の周年期間をエネルギッシュに完走した阿部。彼女の新曲「マリア」は、ドラマ「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」のエンディングテーマとして書き下ろされた1曲だ。「母性」や「支配」などがキーワードであるこのドラマのテーマ曲を制作するにあたり、1児の母である彼女が込めた思いとは。

音楽ナタリーでは充実のアニバーサリーイヤーの振り返りとともに、讃美歌のように美しくも狂気をはらんだ新曲「マリア」について阿部にじっくり語ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 森好弘

15周年を経て気付いた「私ってちゃんと怖いわ」

──昨年1月21日にデビュー15周年を迎えた阿部さんは、そこからアニバーサリーイヤーを駆け抜けてきました。大充実の1年を完走した今の気持ちはいかがですか?

いい15周年でしたね。周年は5周年、10周年、15周年と3回やってきたけど、今回が一番身の詰まったものになりました。15周年の直前には世間的にコロナ禍があったりして、自分の中で音楽性を改めて掘ってみたり、生き方やマインドもいろいろ改造してみたりしたんですよ(参照:11thアルバム「NOW」インタビュー)。そこで種まきしたものが結果として見えた15周年だった気がします。もちろん、大きな収穫はまだまだこれから先だとは思うんですけど、この1年でやった弾き語りツアー、Zeppツアー、東京ガーデンシアターでの自分のパフォーマンスとお客さんの反応を見ても、ここ4、5年で取り組んできたことの結果がちょっとずつ得られている実感があったので。

阿部真央

──15周年イヤーの締めくくりとなった、今年1月26日開催の「阿部真央らいぶ2025 -15th ANNIVERSARY- at 東京ガーデンシアター」は本当に素晴らしいライブでした。これまでの歩みを噛みしめつつも変に感傷的になることなく、終始カラッとハッピーなムードに包まれていた印象で(参照:阿部真央が言葉以上の「ありがとう」伝えて15周年イヤー完走、輝いた人生の先で再会を約束)。

わかります。自分でもハッピーでカラッとしたライブだったなってすごく思う。そこはだいぶ変わったところですね。例えば10周年のときには日本武道館や神戸ワールド記念ホールという大きな会場でライブをさせてもらいましたけど、あの頃のライブはまだまだ戦いだったんです。大好きなファンのみんなに会える楽しい場ではあるんだけど、それ以上に失敗できないという思いを持って挑む場所だった。そういう張り詰めた感覚がいい作用を生む場合もあるんだけど、基本的にはピリピリした雰囲気がお客さんに伝わってしまうので、ハッピーな瞬間はもちろんあるけど、総じてそういった印象にはならなかったような気がしてて。そこは本当にすごく大きく変わったところだと思います。

──とは言え、阿部さんの歌でゾクッとする瞬間が何度もあったのも僕はすごくうれしかったんですよ。デビュー当時のライブでいつも感じていた、阿部真央の持っている“ひりつく鋭さ”みたいな部分がまったく失われていないことへの喜びというか。15年のキャリアを経て、なおかつライブが挑むものではなくなったにもかかわらず、そこが変わらないというのは純粋にすごいことだとも思うんですよね。

あー、めちゃくちゃうれしい感想ですね。ホントにうれしいな。確かに若いときの勢いやトゲって、年齢を重ねることでなくなる人が多いと思うし、正直、私もそうなるだろうと思ってたんです。だから、そこに対しても必死に抗って戦わなきゃいけないと思ってた節も、もしかしたらあるのかもしれない。でもね、抗って戦うことを思い切ってやめてみたとて、実際にはおっしゃっていただいたように自分のトゲは失われず、まだあるわけで。

──それこそが阿部さんが持っている本質だった、ということですよね。

そう。「なくなるかも」と怖がらなくても、ずっと私はイカれてるところを持ってたということで(笑)。あとはね、それが「なくなるかも」と恐れつつ、一方ではもっと普通でいようとしていた部分があったのかもしれない。みんながゾクッとしてくれるような要素に対して、少しブレーキ、コンプをかけていたというか。今の自分はいろんなことに対して“フリ”をしない生き方になったので、そのコンプが取っ払われて、よりピリついた自分が出てきたのかもしれないです。自分的にはアーティストとしてすごく平凡だと思って生きてはきたんだけど、まったくそうじゃなかったことに15年経って気付いた感じですかね。「あ、そっかそっか。私ってちゃんと怖いわ」みたいな(笑)。

──あははは。

それを自覚し、自分として安心するのに15年かかりましたね。これからはもういろんな“フリ”をすることなく、ありのままで大丈夫なんだと思います。だって私はちゃんと変なんだから(笑)。もちろん過信はしないですけど、「普通じゃないのかも」って今はちゃんと思えているので。

阿部真央

手がかりはABBA「Dancing Queen」の“明るい不気味さ”

──そんな阿部さんから、4月4日放送スタートのドラマ「ディアマイベイビー ~私があなたを支配するまで~」のエンディングテーマである新曲「マリア」が届きました。

はい。まず曲作りのために何かを感じようと思い、ドラマの脚本を読ませていただいたんですよ。そうしたらね、脚本がとにかく面白すぎて。第1話から「いやー、怖えー!」みたいな感じで、視聴者目線でもだえながら楽しんじゃった(笑)。で、その後、私に何が書けるかなというのを考えていきました。

──先方からオーダーなどはあったんですか?

打ち合わせの段階でドラマの監督さんからは、「こんな感じで曲を使いたいんです」っていうエンディング映像のイメージを伺ってはいましたね。そのときに監督さんは「なぜかABBAの『Dancing Queen』が流れているイメージが浮かぶんですよ」ということをおっしゃっていて。それを聞いたときに私も「わかる!」と思ったんです。なんだろう、明るい不気味さっていうのかな。曲の内容云々ではなく、曲の持つイメージがドラマの雰囲気にマッチするなって、私も思えた。で、そこから「Dancing Queen」を何度も聴きながらあれこれ考えていく中で、曲の中にある「You can dance, you can jive」のフレーズが私には“生きている喜び”という声に聞こえてきたんです。別にそんなことを歌っている歌詞ではないんだけど、その旋律が持つ勢いからそう聞こえたというか。さらにABBAの曲は声がたくさん重なっているので、そこから讃美歌やゴスペルのイメージも浮かんできて。曲のとっかかりとしては、そこからのスタートでしたね。

阿部真央

──仕上がった楽曲は重厚なコーラスが印象的で、ゴスペルというより、どちらかというと讃美歌、聖歌っぽいムードですよね。

そうですね。私の中でゴスペルに対しては明るいイメージがあるんです。それこそ映画の「天使にラブ・ソングを…」とかも観たんですけど、やっぱりゴスペルの要素が入ると明るくなるなと思った。その結果、必然的に賛美歌、聖歌寄りのアプローチになっていき、そこからタイトルにもなっている“マリア”というワードにつながっていきました。聖歌には“マリア”が出てくるものが多いので。