YOSHIKO氏

2010年代のアイドルシーン Vol.14 [バックナンバー]

日本のアイドルダンス文化、何がどう変わった?(前編:振付師・YOSHIKOインタビュー)

モーニング娘。“フォーメーションダンス”誕生の裏側

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2010年代のアイドルシーンを複数の記事で多角的に掘り下げていく本連載。ひさびさの更新となった今回はアイドルシーンにおける“ダンス”に着眼し、前編、中編、後編の3本立てで記事を展開する。グループとしてもメンバー個人としても、歌唱力と同様にダンススキルの高さは大きな武器となり、ほかのアイドルとの違いを生み出す個性につながるが、アイドルが踊る“ダンス”にさまざまなスタイルが生まれたのも、ファンがその文化を楽しむようになったのも実は2010年代に入ってから。どのような背景があって、アイドルのダンスは進化していったのだろうか。

記事の前編となる本稿では、アイドルカルチャーに革新をもたらしたモーニング娘。の“フォーメーションダンス”にフォーカスし、このダンスの生みの親と言われている振付師・YOSHIKO氏にインタビュー。フォーメーションダンス誕生の裏側を振り返ってもらった。

取材・/ 小野田衛

アイドルのダンス史におけるターニングポイント

これまで当連載では2010年代のアイドルシーンをさまざまな角度から分析してきた。いわゆる“アイドル戦国時代”の到来によって、何がどのように変わったのか? 最も大きな要素の1つとして、ダンスが注目されるようになった点が挙げられる。

もちろん1970年代に日本で女性アイドルというジャンルが確立して以降、ダンスは常にパフォーマンスの一部として存在していた。たとえそれが軽いサイドステップ程度のものであったとしてもだ。しかし、考えてみてほしい。森昌子、桜田淳子、山口百恵の“花の中3トリオ”、、松田聖子や中森明菜ら代表される80年代初頭のアイドル……どの時代でも「歌がうまい」と称賛されるアイドルはいたが、「ダンスがすごい」「動きがそろっている」といった評価軸で語られることはほとんどなかったのではないか。

日本中の子供たちがこぞって振付を覚えて真似したピンク・レディー、「LOVEマシーン」などメガヒットを連発していたときのモーニング娘。ですら、コミカルな振付が話題になることこそあれ、メンバーのダンススキルに言及する声は極めて限定的だった。現在の目で見ると後藤真希の動きなどは当時からキレキレだったが、観る側のリテラシーが追い付いていなかったのだろう。楽曲、歌唱力、ビジュアルなどに比べて、アイドル文化の中でダンスが軽視されてきたことは間違いない。

ももいろクローバーZのえびぞりジャンプに代表されるアクロバティックなステージング。AKB48に対するカウンターとして機能したSKE48の汗が飛び散る妥協なきパフォーマンス。でんぱ組.incの人工的な高速ビートに呼応するような演劇的振付。2010年前後から各グループがダンス面で自己主張をぶつけるようなり、ファンも振付に対する関心を高めていった。そんな中で大きなターニングポイントとなったのが、モーニング娘。の提示した“フォーメーションダンス”である。

フォーメーションダンスとは、メンバーが激しく場位置を移動しながら集団としてのダンスで魅せる集団行動のようなアプローチを指す。後世に与えた影響は絶大で、現在においては大所帯グループの必須科目とも言えるほど。そしてこれを生み出したのが、長年にわたりハロー!プロジェクトに携わっている振付師のYOSHIKO氏とされているのだ。

「つんく♂さんは本当に全部をプロデュースしていた」

文字通り、アイドルカルチャーの文脈を一変させたフォーメーションダンス。その誕生の裏側には何があったのか? 最重要キーパーソンのYOSHIKO氏は「私は2000年の『黄色いお空でBOOM BOOM BOOM』(黄色5)からハロプロに関わっているんですけど……」とプロデューサーのつんく♂との関係から説明し始めた。

「つんく♂さんは本当に全部をプロデュースしていたんです。楽曲はもちろんだけど、歌い方から、衣装から、髪型から、セットリストから、ステージ監督まですべてを。ですから振付に対しても、毎回ものすごく細かい指示を出されていました。『今回はこういうテーマ。◯◯っぽく全員で踊る感じにしてくれ』というように指示はいつも具体的でしたね。それをモーニング娘。だけじゃなくて、Berryz工房や℃-uteやスマイレージにも同じように全部やっていました」

YOSHIKO氏

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「メンバーは直接つんく♂さんと会う機会がなかなかない。なので代わりに私たちが踊り方や歌い方のポイントをつんく♂さんから伝えられるんです。そして、それを私たちがメンバーに伝言していく。『もっとリズムを気にしてって言われていたよ』というふうに。なおかつリハーサルのV(映像)は必ず一緒にチェックしていました。そこでつんく♂さんからダメ出ししてもらって、『うん、だいぶよくなったね』とOKをもらう。『○○には、もっとしっかり歌わせておいて』と気になったメンバーを名指しすることも多かったです」

つんく♂のディレクションに関するYOSHIKO氏の説明は続く。

「振付の打ち合わせが始まったら、まずいきなり自分で踊って伝えてくれました。『こういう感じで』と実際に身振り手振りで体を使って表現してくれるから、ニュアンスは汲み取れるわけですよ。『こういうことをやりたいのかな』って。それで実際に自分たちが振付を考えて、『こんな感じで作ってみましたけど』って見せる。そこで『そうそう!』と言われることもあれば、『いや、全然違うな』って言われることもありましたね。指示が変わることもありました。『閃めいちゃったけど、ごめん、やっぱり違ったわ』という感じで」

2012年の「ワクテカ」で個人より団体として見せる方針へ

つんく♂が単にサウンド面だけを管轄する音楽プロデューサーでないのは明確だ。グループや楽曲についてのビジョンが、細部に至るまで頭の中でイメージできていたのだろう。そんな中で、つんく♂からYOSHIKO氏に「ダンスを団体で見せる感じで作ってほしい」「歌割とか気にしなくていいから、大人数で移動するイメージで」というオーダーが届いた。その楽曲が、2012年にリリースされた51枚目のシングル「ワクテカ Take a chance」だったという。

モーニング娘。「ワクテカ Take a chance」MV

なお、フォーメーションダンスは当時モーニング娘。が推し進めていたEDM路線のサウンドとセットで語られることが多いが、EDMに主舵を切った49thシングル「恋愛ハンター」の時点ではまだフォーメーションダンスは導入されていなかった。このことは譜久村聖も同様の証言をしているが、YOSHIKO氏は以下のように語ってくれた。

「結局、その前の時代というのは、メインで歌うメンバーを目立たせていたんですよ。『この曲は高橋(愛)を目立たせたい』『今回は田中(れいな)で』みたいな指定がありましたし。だから振付師としても、自然とその子をセンターに置くようになるわけですね。仮に場位置がズレたとしても、すぐ戻れるようにしていました。あとは、それ以外のところで歌割に合わせて目立たせるメンバーに変化をつける、といった発想でしか基本は作っていなくて。道重(さゆみ)がよく『歌割が“あ”しかなかった』とか自虐気味に語っていたじゃないですか。でも、あれは本当にその通りなんですよ。高橋がリーダーだった頃は私も“歌割が少ない=目立たない”というのが当たり前だと思っていましたしね。それが急に2012年の『ワクテカ』で個人より団体として見せるに方針転換したんです」

モーニング娘。「ワクテカ Take a chance」初回生産限定盤Aジャケット ©UP-FRONT WORKS

モーニング娘。「ワクテカ Take a chance」初回生産限定盤Aジャケット ©UP-FRONT WORKS [拡大]

ここまで話を聞いて、1つの疑念が浮かんできた。もしかしてフォーメーションダンスを“発明”したのは振付師・YOSHIKO氏ではなくて、プロデューサー・つんく♂だったのではないか? そのことを恐る恐る口にした瞬間、YOSHIKO氏は若干食い気味に答えてくれた。

「まさにその通りですよ! 少なくとも言い出しっぺは確実につんく♂さん! 『もっと全体を見せたいんや』って話を切り出してきたわけですから。あくまでも私はそれを形にする手伝いをしただけなんです。じゃあ具体的にはどうやって団体で見せるか? そこで私が参考にしたのは、日体大とかでやっている“集団行動”。ちょうどあれがテレビのニュースとかで取り上げられ始めた時期だったんですよね。練習風景とか、先生の指導方法が紹介されていて。それを見てすごいなと思ったし、興味を持っていたんです」

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