音楽ライターの松永良平が、さまざまなアーティストに“デビュー”をテーマに話を聞く「あの人に聞くデビューの話」。この連載では多種多様なデビューの形と、それにまつわる物語をじっくりと掘り下げていく。第8回のゲストは、RachelとMamikoの2人からなる
取材・
RachelとMamikoでchelmico。2人の名前の頭じゃなく後ろを掛け合わせたユニット名は、センスのいいユーモアであると同時に、普段の2人の会話や飾らないムードから生まれたものなんじゃないかと思う。積極的に話をリードするRachel、オフビートなウケが絶妙なMamiko。漫才を聞いてるわけじゃないのに、自然と笑いがこぼれるし、ダメダメな話をしてるはずなのに勇気が出てくる。知り合ってから12年。ラップユニット、chelmicoとしてステージに立ってからは10年が過ぎた。いろんな経験を積んで、音楽的にもスキルアップした2人。Rachelは出産したし、Mamikoは
LINEで誘われて「いいよー」って返信
──2人にとってデビューというと、どのタイミングになると思いますか?
Mamiko 最初のライブじゃない?
Rachel 渋谷PARCOの?(※2014年10月に行われた「シブカル祭。」)
Mamiko そう。私の中では、あのライブがデビューって感じ。
Rachel chelmicoって名前が付いたのはそのときだった。
──chelmicoという名前で活動を始めるまでは、単に仲良しの2人?
Rachel そうですね。特に名前はない(笑)。RachelとMamikoでしたね。
──2人の名前を合わせてchelmicoって、すごくキャッチーな発明ですよね。
Rachel 「RachelとMamikoでchelmicoだったんだ!」って、けっこう驚かれます。
──もともとは2014年に「ミスiD」(※講談社が2012年に始めたガールズオーディション)で準グランプリを受賞したRachelさんが「ラップをしたい」と言って始まった。
Rachel そうですね。そこから「シブカル祭。」の出演につながってく感じです。「誰か一緒に出られそうな子いるかな?」っていうので最初に思い浮かんだのがまみちゃんだった。もともと私たちは、共通の友人であるカメラマンがつなげてくれて仲よくなったんですけど、その人が「チェルミコ」って呼んでくれてたんです。「レイマミ」じゃなかったっていう(笑)。たまに撮影で私たちをモデルとして呼んでくれるときも、その人が「チェルミコ、集合~!」とか言ってたので、ユニット名も「もういいよね、chelmicoで」ってなった。今思うと字面もいいし。おしゃれな感じもある。
──Mamikoさんは、突然ラップしようよって誘われて、どうでしたか?
Mamiko LINEで誘われて、すぐ「いいよー」って返信しました。
Rachel 早かった。めっちゃ返事早かった。
──躊躇はなかったんですね。「なんかできそう」という自信があった?
Mamiko なんなんでしょうね? 当時受験勉強中だったんですけど、あんまり身が入ってなかったんですよ。大学行きたい気もしないけど、とりあえず行っておかないとな、ぐらいの感じで勉強してたときにRachel からLINEが来て。なんか1回そういうことやってみるかっていう気持ちになったんでしょうね。
──でもラップグループを始めるとなると、トラックとかリリックとか、いろいろ必要になってきますよね。
Rachel 最初のライブは
──知らないお客さんの前に出ていくって、すごい度胸がいりますよね。
Rachel 何も考えてなかったです(笑)。怖いもの知らず。
Mamiko なんか平気だったよね。
Rachel ヘラヘラしてました、ずっと(笑)。トレーラーの上のステージだったんですけど、いろいろある催し物の中の1つだったから、誰も私たちを観に来てないし、別にいいやっていう感じ。
Mamiko しかも、私に関しては完全に部外者だったじゃん。関係者じゃなくて、単なるRachelの友達。
Rachel そうだね。Mamikoは「ミスiD」にエントリーしてるわけではなかったから。
Mamiko マジで何も怖くなかったし、何してもよかった(笑)。
Rachel お客さんがヒップホップに造詣がある人だったら怖かったかもしれないですけどね。観に来てる人はヒップホップのお客さんじゃないから、私たちが素人だってバレないだろ、「『YO!』とか言ってもいいっしょ」みたいな(笑)。そういう意味では怖さはなかった。
2回目のライブで意気消沈
──1回限りで終わってもおかしくないのに、その後も活動を続けていこうと思ったのはなぜ?
Mamiko 次のライブが決まっちゃったんです。誘われて、「いいよー、OK」って言っちゃったんですよね(笑)。
Rachel シンガーソングライターの栗原ゆうさんが「シブカル祭。」のライブを観て、企画に誘ってくれて。熱が冷めてない段階で誘ってもらったのがよかったんだと思う。少し落ち着く時間があったら、まみちゃんの受験もあったし、「ちょっとキビしいかもなー」ってなってたかも。
Mamiko うん、タイミングがよかった。
Rachel 今考えるとすごくカッコいいメンバーの中に混ぜてもらってたんですよ。
Mamiko こわ!
Rachel 当時、私たちはリハーサルの意味もわかってなくて。
Mamiko なんにもわかってない(笑)。
Rachel 本番前にリハーサルをやるじゃないですか? 会場に早めに集まって、音出して、PAのチェックをして。でも、私たちは「これ何やってんだろう?」って状態。「マイクの音が出てるから別にいいっしょ」みたいな(笑)。でも、ほかの出演者の人たちが「もっと中の音を上げてください。ローを切ってください」とか言ってるのを見てるうちにガクガクブルブルし始めて。「こういうことやんなきゃいけなかったんだ!」って気が付いた(笑)。
Mamiko 2人だけで行ったんだよね。
Rachel そう。GOMESSと一緒に行ってたら、「こういうことするんだよ」とか、たぶん教えてくれたじゃん。でも、うちら2人でリュック背負って「ここが会場ですか?」ってノリだった(笑)。
Mamiko すごいよね。本当にライブできてたのかな?(笑)
Rachel できてないよね! 一応立ち位置について歌ってはいた(笑)。
Mamiko あははは!
Rachel 「最後までやんなきゃ!」みたいな。そのときはGOMESSが作ってくれたオリジナル曲「ラビリンス'97」をやったと思う。あとBUDDHA BRANDの「人間発電所」。持ち時間10分で2曲やったはず。MCで「chelmicoです」とか言ったんじゃない?
Mamiko 記憶ない。
──初期は「人間発電所」をカバーしてたんですよね。
Rachel はい、持ち曲がなかったから(笑)。
──その2回目のライブでは、すごく落ち込んだと答えているインタビューを以前読みました。
Rachel 音楽を聴きに来てる耳が肥えたお客さんたちの前でラップして、全然ダメだった。で、駐車場で泣いたんだよね。
Mamiko 2人で体育座りして。
Rachel 「どこにいたらいいんだろう?」って。楽屋の中にいていいのかもわからないから、とりあえず外に出て座って「なんでこうなっちゃったんだよ!」って。でも、反省の仕方もわからなかったから!
Mamiko そう。何をどう直せばいいかわからないから。ただ落ち込むだけ。
Rachel で、どついたるねんの靴下買ったんだよね(笑)。
Mamiko ははは。
Rachel よく出してくれたよね。でも、ライブに間に合わせてオリジナル曲を作っていたのは大したもんだよね。
──反省したということも向上心の現れなのでは?
Rachel 確かに。「もっとこうなりたい!」っていう理想はあったんでしょうね。1回目の経験がすごくよかったから、夢を見ちゃってたんだと思う。最初のときは「HO!」って言ったら、お客さんが「HO!」って返してくれたし、もっとプロップスを得てるはずという見積もりがあった(笑)。でも「ラビリンス'97」ってそういうタイプの曲じゃなかったからね。しかも、「人間発電所」って思ったより長いじゃん(笑)。ステージに立ってる時間がすごく長く感じた。
Mamiko でも「人間発電所」は毎回フルでやってたよね。
Rachel 2ヴァースぐらいでよかったのに、いい曲だから(笑)。
Mamiko そもそもあれカバーしてるのヤバい(笑)。
Rachel 「変な人たち出てきた」ってみんななるでしょ(笑)。落ち込みました。
もうちょっとRIP SLYMEっぽくなりたかった
──でも、よかったと言ってくれる人もいたわけですよね?
Rachel いたのかな? でも、いたからここまでやってこれたってことですもんね。chelmicoを始める前からいた私個人のファンみたいな人たちは、みんな「(;^_^)」みたいな絵文字を感想で送ってきた(笑)。「がんばろうね」みたいな。しかも、あんなにつらい思いしたのに、次のライブがまたすぐに決まったんじゃなかったっけ? まみちゃんの知り合いの人のお誘いで。
Mamiko やったね、下北沢で。
Rachel CLUB251でね。メインステージじゃなくてサブステージのほうだった。あのとき、白衣着てライブした?
Mamiko そう。なんで白衣着たんだっけ?
Rachel 「実験室」っていうイベントだったのよ。うちらハロウィンとか大事にしてたし、「実験室」だから白衣着ようって。白衣を借りて眼鏡をかけて。みんなうちらのこと知らないのに、なんでおめかししたんだろう(笑)。
Mamiko 本当によくわかんないね。でも、楽しそう(笑)。
Rachel なんか楽しんでやってたよね。DJブースみたいなところで2人でやりましたね。
──そんな感じで活動を続けていくうちに、だんだん自信が出てきた?
Mamiko そうですね。
Rachel でも周りの人には本当によくしてもらったと思います。励ましてくれたし、時には「あのMCはよくなかった」とかちゃんと言ってくれる人もいて、だんだんやりがいを感じるようになっていった。曲を作るのは楽しかったし。2曲目からいきなり自分たちで歌詞を書くようになったもんね。なんであんなにやる気あったんだろう?
Mamiko なんでそうなったんだろう? なんで自分たちでラップを書こうって思ったんだろう?
Rachel やっぱ、もうちょっと
Mamiko そうだった気がする! 自分たちが好きな感じの曲をやりたいっていうのがあったよね。
Rachel そこの切り替えは早かったかもしれないです。ライブも2カ月に1ぺんくらいはやってたよね。
Mamiko 私、結局、大学に落ちたけど、また受験勉強しながら全然chelmicoやってました。
Rachel 2人ともけっこうスケジュールを合わせやすい感じだったんです。家も比較的近くて、しょっちゅうウチに集まったりしてました。
──2人で一緒にいて心地いい感じは、ラップを始める前からあった?
Mamiko 出会った頃は、もうちょっとお互いに気を使う感じで、よそよそしさみたいなのはあったと思う。
Rachel だんだん地の部分を出し始めたのか。最初からタメ口ではあったけど。
Mamiko 一緒にカラオケに行ってからじゃない?
Rachel あー、リップを本気で歌ってからかもしれない。ラップを通して意気投合。
──でも、まさかカラオケでリップ歌ってた2人が人前でラップやるようになるとは。
Mamiko 本当に思ってなかったですね。
早くも1stアルバムリリース
──でも、展開はあっという間で早くも2016年には1stアルバム「chelmico」がリリースされます。
Rachel アルバムを作りたいなとちょうど思ってた頃に、ULTRA-VYBEというレコード会社にいた神保(和哉)さんと出会って。
Mamiko あー、神保さんだ!
Rachel 神保さんがchelmicoを見つけてくれたんです。恵比寿のBATICAでやったライブとかをけっこう観に来てくれて「アルバム作らない?」って声をかけてくれた。スタジオもあるし、いろいろ手伝えることもあると思うからって後押しもしてくれて。あと、同じタイミングで私たちの初代ディレクター、山田も付いてくれるようになったんです。それで自主制作という形で作ったのが、1stアルバムの「chelmico」ですね。
chelmico「chelmico」
──その時点で、けっこう持ち曲はあったんですか?
Rachel 少なかったよね。「ラビリンス'97」と「JUNEJULY」と「Oh, Baby!」と、あと「サマーアドベンチャー ver.2」!
Mamiko あはははは! そうだ(笑)。
Rachel MamikoがGarageBandで作ってくれた「chelmicoソング」もあった。あとライブの最初に絶対やってた、タイトルがないSEみたいな曲。
Mamiko だったっけ? 「サマーアドベンチャー ver.2」、懐かしい(笑)。もう歌詞覚えてない(笑)。データも残ってないし。前に探したけど、なかったんだよ。
Rachel 私、歌えるよ。「♪ワンナイラブ、ワンナイラブ、そうやって、わらったって、う!あ!かわんないね、YEAH~」(歌詞を口ずさむ)。
Mamiko はははは! そんな感じだったかもしれない(笑)。ビートが思い出せないわ。
Rachel べーべーべーべー(ビートを口ずさむ)。
Mamiko (爆笑しながら)よく覚えてるね! すごいよ! 思い出した!
Rachel でも結局、「Oh, Baby!」と「ラビリンス'97」以外はアルバムには入れなかったんだよね。7、8曲くらいは新規で作ったと思います。
──アルバムに合わせて曲作りって、いよいよ本気のミュージシャンじゃないですか。
Rachel 締切とかは決まってたのかな? ユルかった気がするよね。ヤバい! 作んなきゃって感じはあんまなかった。
Mamiko ていうか暇だったから(笑)。2016年って何してたんだっけ?
Rachel 私はバイトだよ。
Mamiko 私もバイト。大学入ったけどすぐ辞めちゃったし。めっちゃ暇だったから締切とかなくてもすぐに歌詞が書けた。
Rachel トラックをもらって、その次の日には返すみたいな(笑)。確かに暇なのは大事だよねって話をこの間しました。
──そのときしかできない時間の使い方ってありますよね。
Mamiko いや、それが大事。無駄な時間っていうか。
──1stアルバムはいい意味でインディペンデントの香りがします。ジャケットも含めて。
Rachel ははは。ジャケの画質が悪いって、めっちゃ言われるよね(笑)。「画質どした?」って。でも、そこがいいよね。自画自賛(笑)。
──そして、粗削りだけどchelmicoのスタイルはすでに1stアルバムの時点で、できあがってるとも感じます。
Rachel そんな変わらないかも、スタイルは。
Mamiko 歌詞の内容はそんなに変わらないかもしれないですね。
Rachel うん。
──ライブも定期的にやって、CDも出して、その先というのは、その時点ではあまり想像していなかった?
Mamiko してなかった。
Rachel CDがタワレコとかにも置かれてたし、インストアライブにも呼ばれて、マジびびってた。
Mamiko 2人でタワレコとかあちこち回ったんだよね。
Rachel タワレコでアルバムの曲が流れているのをワーナーの人が偶然聴いて、それがメジャーデビューにつながるんです。「chelmicoって知ってる?」って社内で広めてくれたって、あとで聞きました。その人がけっこう気にかけてくれるようになり、何かこの先にあるのかなとは思ってました。
Mamiko 「リップと同じレーベル(ワーナー)に入りたい!」みたいな雰囲気は出てきてたよね(笑)。
Rachel メジャーに行きたい気持ちは特になかったけど、リップに会いたい気持ちは、めちゃくちゃあった(笑)。
Mamiko ヤベえファンだ(笑)。
Rachel 声をかけてくれたのがワーナーのunBORDEというレーベルの人だったし、「unBORDEじゃなかったらやらないっしょ!」みたいな(笑)。ほかにもいろいろ声をかけていただいてたんですけどね。名刺をもらったり。
──「うちのレーベルからデビューしませんか?」みたいな。
Mamiko あったよね。モテてたよね。
Rachel マジでめっちゃモテてました(笑)。「え? こんなに? わかんない! どうしよう?」みたいな。
<後編に続く>
chelmico(チェルミコ)
RachelとMamikoからなるラップユニットとして、2014年にイベント出演を機に結成。2016年10月に1stアルバム「chelmico」を発表すると、奔放なキャラクターとポップなセンスが話題を呼ぶ。2018年8月にワーナーミュージック・ジャパン内レーベルのunBORDEよりメジャーデビューを果たす。最新アルバムは2022年6月リリースの「gokigen」。CMソングやドラマのテーマソング、アーティストへの楽曲提供、客演など、さまざまな方面で活躍している。
chelmico official site _ チェルミコのオフィシャルサイト
chelmico(@chelmico_offi)| X
chelmico|Instagram
- 松永良平
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1968年、熊本県生まれの音楽ライター。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌「リズム&ペンシル」がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務の傍ら、雑誌 / Webを中心に執筆活動を行っている。著書に「20世紀グレーテスト・ヒッツ」(音楽出版社)、「僕の平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック」(晶文社)がある。
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