音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

台風クラブ、男闘呼組、OZROSAURUS、KREVA、サザンオールスターズ、U2、フィッシュマンズ、NUANCE、RYUTist、超特急

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ノスタルジアとは一切無縁!現在進行形のフィッシュマンズはめちゃくちゃカッコいい

文 / 望月哲

「FISHMANS TOUR “LONG SEASON 2023"」10月24日 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)

普段ライブは静かに観るほうだ。涙を流したり震えたり拳を突き上げたりするようなことは、まずない。仕事目線とか、そういうことではなく学生時代からずっとそんな感じだ。声を出すより息をのむタイプ。「ライブを観て泣かないと冷たい人と言われそう」──斉藤由貴の「卒業」じゃないけど、エモく盛り上がっている人を見ると純粋にうらやましいなと思う。とはいえ決して無感動なわけではない。「うおー!」とか叫ぶことはないが、本当に素晴らしいライブを観たときは「すげー」「ヤバ」という感嘆のつぶやきが心の奥底から自然に湧き出てくる。いわば静かに感動しているのだ。

その意味で、今年観たライブの中で最も感動的だったのが、7年ぶりに行われたフィッシュマンズのツアー東京公演だ。中でも「LONG SEASON」の演奏中には、感嘆のつぶやきが、汲めども尽きぬ泉のようにドバドバとあふれ返ってきた。「LONG SEASON」はフィッシュマンズが1996年に発表した1曲35分にも及ぶ楽曲で、ここ数年は海外のリスナーの間でも多大な人気を博している。事前のインタビュー(参照:フィッシュマンズ茂木欣一、「LONG SEASON」を語る)で茂木欣一(Vo, Dr)さんが「2023年の今の気分で『LONG SEASON』を鳴らしたい」と話していたこともあり、それなりに覚悟していたつもりだったけど……実際目の当たりにした2023年版の最新型「LONG SEASON」は想像以上にヤバかった。ステージ上の演者が、すさまじいテンションで1音1音を鳴らし、全員で壮大な音の曼陀羅を描き上げていく。いわゆる“再現ライブ”ではなく、楽曲に新たな息吹が生々しく注ぎ込まれていくさまをリアルタイムで目撃するような、このうえなくスリリングな38分。個人的には、静かに目を閉じ全神経を集中させた茂木さんがドラムソロに突入する瞬間が、この日のパフォーマンスのハイライトだった。ライブ後に取材メモを見返したら「雷雨!」と殴り書きされていて思わず笑ってしまったのだが、本当にそんな感じで、笑っちゃうくらい、ただただ圧巻の演奏だった。

1973年生まれの僕は、佐藤伸治(Vo)さん存命時のフィッシュマンズのライブを体験できた幸運な世代だ。「LONG SEASON」発表直後、1996年12月26日に赤坂BLITZで行われた「LONG SEASON '96~97」の最終公演で披露された「LONG SEASON」の衝撃も、「すごいものを観てしまった!」という会場全体の雰囲気込みで、ありありと覚えている。そして当時の衝撃をハッキリと覚えているからこそ、今回のライブで感じた衝撃がまったく別モノであることも“体感”としてよくわかる。言語化するのは難しいのだけれど、あえて言葉にするならば、「ノスタルジアとは一切無縁のプリミティブな感動」というか。この日も27年前と同じく「すごいバンドのすごいライブを観た!」という純度の高い興奮が場内に渦巻いていた。ふと周りを見渡せば観客の多くが若者ばかりだ。「LONG SEASON」が発表されたときには生まれていなかった人も、かなりの数いたのではないだろうか。なんなら外国人もいる。最高の笑顔で「Fu●kin' Great Fishmans!!」と叫んでいる外国人がいて正直ちょっとうらやましいなと思った。現在進行形のフィッシュマンズはめちゃくちゃカッコいい。

NUANCEやRYUTistに感じる贅沢な“もどかしさ”

文 / 近藤隼人

NUANCE HALL ONEMANLIVE "HOME"」 4月22日 神奈川・神奈川県民ホール
RYUTist ACOUSTIC LIVE. at duo MUSIC EXCHANGE」 11月26日 東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE

こんなすごいことになっていたのか。4月に神奈川・神奈川県民ホールで開催されたNUANCEのワンマンライブ「NUANCE HALL ONEMANLIVE "HOME"」を観たときにそう思った。NUANCEは神奈川・横浜の街を連想させる楽曲を発表し続けているアイドルユニット。神奈川県民ホール公演では“ドリーヌュ号”で世界中を航海するお嬢様4人の“HOME”横浜のお屋敷を舞台に、演劇パートを挟みながら大所帯の生バンドをバックにしたパフォーマンスが繰り広げられた。時にグルーヴィで時に繊細なサウンドを生み出すアンサンブル、椅子を取り入れた独創的な振付、俳優や芸人を交えた本格的な芝居やコント……それらが歌やダンスとナチュラルに融合し、完成度の高い1つのステージに。それまで都合が合わずNUANCEの生バンド公演を観れていなかった自分は、正直かなりの衝撃を受けた。

神奈川県民ホールはNUANCEにとって過去最大規模の会場だったものの、動員は満員にまでは至ってなかった。それが不思議でならず、この日はレポート記事のためにライブ写真を撮影させてもらったが、「これをもっと多くの人と共有しなければいらない」という一心でシャッターを切った。「楽曲やパフォーマンスがよくても売れるとは限らない」というのはアイドル界で時たま耳にする言葉。アイドルはあらゆる要素をごちゃ混ぜにした総合エンタテインメントで、最近はTikTokやSNSでの“バズ”が知名度を高めるために必須になっている側面がある。そのひと筋縄でいかないところが面白くもあるが、もどかしい。自分が目撃するのが遅れただけで、NUANCEの曲とライブの質の高さはアイドル界でよく知られていることだし、神奈川県民ホールにも多くのファンが集まっていたが、「ここにいる人たちだけでこのライブを独占しちゃっていいの?」と素直に感じた。

新潟を拠点に活動しているRYUTistに対しても同じことをよく感じる。11月に行われたアコースティックライブはこれが東京での初開催だったが、「もっと早く東京でやってくれてよかったのに!」と。2010年代初めから爆発的に数が増えたご当地アイドルの中には彼女たちを筆頭に、地方で宝を抱えているグループは少なくない。そしてそんなグループはやけに謙虚なのがだいたいの共通点。RYUTistの所属レーベル・PENGUIN DISCを主宰する音楽ライターの南波一海さんは以前、別媒体のインタビューで「ずっと素振りをやりまくってたら、めちゃめちゃバット・コントロールできるようになっちゃったみたいな人たち」と例えていた。彼女たちのライブを観るたびに感銘を受けつつ、「甲子園で優勝できる実力があるのになあ」と毎回のように思う。ライブ会場などの活動規模の大きさが“正義”とは思わないが、やっぱり単純に「もったいない」と内心でおせっかいを焼いてしまうのだ。音楽ナタリーの記事を通じて、少しでもその存在を世に広める手伝いができたらと思う。

真実の世界へ駆け出そう──時計の針を進めた超特急のライブに見た未来

文 / 三橋あずみ

超特急「BULLET TRAIN ARENA TOUR 2023『T.I.M.E -Truth Identity Making Era-』」12月24日 大阪・大阪城ホール

選曲に、歌詞に、衣装に、演出に、そして9人のダンスや表情、歌声に。あらゆる角度からすさまじい密度で詰め込まれるファンへの思いと未来への意志。超特急が“今”を刻んだ年末アリーナツアー「BULLET TRAIN ARENA TOUR 2023『T.I.M.E -Truth Identity Making Era-』」は、夢の場所へと走り続ける彼らの確かなマイルストーンになる。そう思わずにいられない公演でした。

「T.I.M.E -Truth Identity Making Era-」は、12月に活動12周年を迎えた超特急が「時間」をテーマに作り上げたライブ。“ひと回り(12年)”の時間経過を時計というモチーフに重ねつつ、これまでの歩みの中で彼らが獲得してきた彩り鮮やかな魅力がメンバーそれぞれの無二の個性とともに次々と提示されていく。超特急のライブはメンバーのユーキさんが演出を担当しているのですが、その表現の1つひとつには“当事者”でしか注ぎ得ない熱量の意味やメッセージが込められていて、一時も目が離せない。今回のライブは、そんなメッセージ性の高さと彼らのパフォーマンス力の高さがひときわ高次元で融合していて、その充実度に目を見張るほどでした。

感想は尽きないのですが、ここでは1つだけ。「T.I.M.E」のライブ本編は「SURVIVOR」という楽曲で幕を閉じ、メンバーは「1時(13時)」を指す時計が映し出されたLEDパネルの奥へ、9人で進んでいきます。「SURVIVOR」は、超特急が活動初期にovertureとして使用していたトラックに歌詞を付けた、1stアルバムの収録曲。ライブの最後に次へ進むためのovertureを響かせ、力強く足を踏み鳴らす彼らの眼差しは燃えるように熱く、闘志と希望に満ちていました。

「SURVIVOR」の歌詞には「真実の世界へ 駆け出そう」という一節があります。彼らが今見つめている「真実の世界」って、どんな世界なんだろう──曲に乗せて届けられるメッセージの捉え方は、本当に人それぞれだと思います。ですが私の頭の中には、彼らが長い間待ち望んでいた“光”の中へ駆け出していくような……そんなイメージがふと浮かびました。

「ずっと進化してゆこう 無限の可能性感じながら」。ライブ本編のクライマックスで歌われた「My Buddy」の歌詞にも特別な意味を感じつつ、実際に9人が8号車(超特急ファンの呼称)さんに見せた進化と可能性、そして充実感に満ちた言葉の数々に頼もしさを山ほど受け取った「T.I.M.E」(ライブの詳細については、ぜひ音楽ナタリーのレポートをご覧ください!)。「もっともっとたくさんの人に、この魅力が届いてほしい」。初めて彼らのライブを観たときから、記事を書くうえでずっと変わらない思いですが、その思いが最大限に高揚するのを感じた、そんな夜でした。

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RYUTist_info @RYUTist_info

"音楽ナタリーの記事を通じて、少しでもその存在を世に広める手伝いができたらと思う。"

音楽ナタリーさん、いつもありがとうございます。とても嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。 https://t.co/XIBeBkKrMV

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