音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

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「茅ヶ崎ライブ」がある夏、日常と非日常の狭間で

文 / 三橋あずみ

「サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ 2023』powered by ユニクロ」10月1日 神奈川・茅ヶ崎公園野球場

潮風が抜ける小さな街が浮足立つ夏。2023年の夏は、「茅ヶ崎ライブ」がある夏だった。

今年6月にデビュー45周年を迎えたサザンオールスターズが、フロントマン・桑田佳祐さんの故郷である神奈川・茅ヶ崎公園野球場で4日間にわたって行ったアニバーサリーライブ「サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ 2023』powered by ユニクロ」を取材しました。桑田さんと同じく茅ヶ崎が生まれ故郷である自分にとっても、どうしたって特別なライブ。この機会に、我が街が日常と非日常の狭間にあったあの4日間のことを、少し振り返ろうと思います。

そもそもの話、茅ヶ崎公園野球場で音楽ライブが叶うこと自体、地元民的には信じ難い。信じ難いというか、「本当にサザンしか成し得ない……」という感覚があります。球場の南側は海岸線を走る国道に面していますが、その三方を囲むのは閑静な住宅地(しかも、市内でも一等地の)。球場周辺の道だって、車は通れども犬の散歩や自転車での買い物に程よいくらいの“生活サイズ”……。2万人近くの人々を一度に迎える一大事が起きるなんてことは夢にも想定していなかったであろう小さな球場で、過去3度も“それ”が起きて、日々の暮らしの中心に桑田さんのあの歌声がダイレクトに響く。「茅ヶ崎ライブ」が真の意味で奇跡の上に成り立っている時間なんだという興奮混じりの実感は、まだまだ自分が子供だった初開催(2000年)の頃には得ることができないものでした。

“茅ヶ崎市民枠”のチケットを見事に当てた名誉ある弟の付き添いを仰せつかり、姉弟2人で熱狂の祝祭を目の当たりにした2000年。今とは違う職場の記者として取材に入り、地の利を生かして自転車で周辺取材をしまくった2013年。ナタリーの記者として初めて「茅ヶ崎ライブ」を取材することができた2023年。そのどれもが自分の人生の中で決して忘れることのできない経験であり、特別な瞬間です。そして、まだまだ残暑を引きずっていたこの4日間。同じ青空の下に集まった人々には、それぞれの人生や生活と重ねたサザンオールスターズへの思い、茅ヶ崎ライブへの思いがある。音も潮風も日差しも、その場にあるすべてを感じ尽くそう、楽しみ尽くそうとする客席の大きな一体感の中でそんなことを考え、果てしない気持ちになったけれど……桑田さんの歌声と笑顔は、そのすべてをまるごと受け止め包み込んでしまう、本当に大きな包容力に満ちていました。いつの時代の「茅ヶ崎ライブ」よりもその歌声が「優しい、温かい」と感じたのは、自分自身の心境や環境の変化が故なのか。そして、またいつの日か“次”があるとしたなら、そのとき自分は何をしていて何を感じるんだろう。“3度目の奇跡”の余韻に浸りながら、慣れ親しんだ道を歩いて帰った10月1日。長かった夏の終わりを感じた1日でした。

U2がSphereで描き出した空前の景色

文 / 中野明子

「U2:UV Achtung Baby Live At Sphere」10月5日 ラスベガス・Sphere

I love you! I love you!

ブライアン・イーノのアート作品「TURNTABLE」を巨大化したというステージの上、ジ・エッジ(G)が弾く「Even Better Than The Real Thing」の印象的なギターリフに乗せて何度も繰り返されるボノ(Vo)のラブコール。それに大歓声で応えるオーディエンス──30年前に発表された名盤「Achtung Baby」を軸としたセットリストをもとにしたパフォーマンスに、めくるめく景色の連なり。天井から足元まで広がる微細な映像に、自分がどこにいるのかわからなくなってくる。ああ、これこそが没入感、とひとりごつ。

まず最初に断っておかなくてはいけないのが、音楽ナタリーは「国内アーティスト(邦楽)を中心とした音楽メディア」という肩書きを持っていること。そこに「編集部が振り返る今年のライブ」というお題とはいえ、現在U2がラスベガスの球体型会場「Sphere」で開催しているレジデンシー公演を取り上げるのはいかがなものか。しかし、自分の中で2023年において最もインパクトがあったのがU2のライブだったのでどうかご容赦いただきたい。

さて、U2が2024年3月までレジデンシー公演を行っているSphereについては多くのメディアが報じている通り、15万7000台の超高指向性スピーカーと、3.5エーカー(14164平方メートル)の半円型超高画質ビデオスクリーンが特徴の会場で、最高の音響と映像が楽しめるという触れ込み。

ホールに入ると急斜面の客席と対峙するように、コンクリ打ちっぱなしの壁が視線を支配する。この無機質な壁に映像が投影されるとしたら、スピーカーはどこ?と疑問に思いながらビールを飲みながら待つこと30分。次第に場内が暗くなり、ヘリが天井を横切るところからライブ本編へ。「Zoo Station」が始まった瞬間、壁が十字に開いていき、実はコンクリ打ちっぱなしに見えていたものすらも映像だったことが判明して言葉を失う。

プログラムコードに紛れ込んだかのような演出に、外の景色そのまま切り取ったようなラスベガスの街、暗闇の中を舞うように散る火の粉……解像度の高い映像が色とりどりの世界に誘う。映像の強烈さ故にバンドの演奏や音楽は二の次になってしまうのか。そういった懸念や指摘はあるが、そもそもが還暦を超えたメンバーたちのエネルギッシュなパフォーマンス(注:レジデンシー公演でラリー・マレン・ジュニア(Dr)に代わりサポートを務めるブラム・ファン・デン・ベルフは40代)、映像にまったく引けを取らない強度を持つ魅力的な楽曲があってこそ成立するライブでもある。音響的な面でいくと、大半が地面から上に向かって響いている印象だったが、アンコールの最後で披露された「Beautiful day」では壮大なクワイアを聴かせるパートがあり、天井から歌声が幾重にも重なって降ってくるようなすさまじい迫力を堪能することに。15万7000台のスピーカーの威力よ。

「すべてがハイライト」という陳腐すぎる言葉が観賞から数カ月経った今も出てくる有り様だが、その中でも1つだけ選ぶならアンコールでの「With Or Without You」から「Beautiful day」への流れだろうか。水面に浮かぶ青いSphereがボノのエモーショナルな歌声とともに花のように開いていき、「Nevada Ark(ネバダの方舟)」が視界に広がっていく。ただただ圧倒され、腕にびっしりと鳥肌が立つ。何百回も聴いてきたはずの曲がまったく違う景色を描き、これまで味わったことのない感情を呼び起こす。まごうことなき新体験である。

終演後、耳に入ってきたのは何人もの観客のつぶやく「Awesome(素晴らしい)」という言葉。それ以外表現のしようがないか、と思ったのは確か。ただ、この公演を映像作品にしたとて100%楽しめるかというと難しい気がする。スチール泣かせ、映像作家泣かせ、記者泣かせのステージなのだ。そして、どんなに言葉を尽くしても、どの瞬間を切り取っても伝え切ることはできない。視界が360°ない限りは。自分の表現力の乏しさにがっかりしながらも、新しい音楽体験ができたうれしさを噛み締める。そしてアジアや日本で生まれた音楽がそこで鳴る瞬間はあるのか?と妄想する。Perfume、YOASOBI、King Gnuやmillennium paradeの音楽は合うだろうか? 映像演出も魅力的なL'Arc-en-Cielがここでライブをやったらどうなるのか……とつらつらと書き連ねてしまった。

さて、大切なことなので最後にもう一度。

音楽ナタリーは「国内アーティストを中心とした音楽メディア」です。2024年もどうぞご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

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読者の反応

RYUTist_info @RYUTist_info

"音楽ナタリーの記事を通じて、少しでもその存在を世に広める手伝いができたらと思う。"

音楽ナタリーさん、いつもありがとうございます。とても嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。 https://t.co/XIBeBkKrMV

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