「音楽ナタリー編集部が振り返る、2022年のライブ」

音楽ナタリー編集部が振り返る、2022年のライブ

アイナナ、Aマッソ×フレシノ、蓮沼執太&ユザーン、吉田山田、超とき宣、soraya、安全地帯、BiSH、King Gnu、ラルク、GLAY、鬼龍院翔、虹コン、リリスク、フィロのス、エビ中

28

610

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 189 409
  • 12 シェア

世界がコロナ禍に突入してから3年目を迎え、ライブエンタテインメントも徐々に復活の兆しを見せ始めた2022年。10月に業界団体が改訂したガイドラインにより、ライブハウスの収容人数が条件付きで100%まで緩和され、観客の声出しを解禁した公演も増えてきている。「SUMMER SONIC」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」をはじめとした数多くのフェスや大型イベントも3年ぶりに開催され、ひさびさにライブの楽しさを実感した音楽ファンも多いのではないだろうか。

この記事ではそんな2022年に開催されたさまざまなライブの中から、音楽ナタリーの編集部員たちが“個人的に印象に残ったもの”を振り返る。

目次

IDOLiSH7初単独公演の記憶――永遠より、このライブが奇跡だ

文 / 酒匂里奈

IDOLiSH7「IDOLiSH7 LIVE BEYOND "Op.7"」1月22、23日 さいたまスーパーアリーナ

推しのグループやバンド、アイドルがいる人は誰しも永遠を願ったことがあるのではないかと思う。ずっと仲よく、ずっと元気で、ずっと変わらずにステージで輝き続けてほしい。

1月に埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催されたIDOLiSH7初の単独公演「IDOLiSH7 LIVE BEYOND "Op.7"」を観て、私は“アイドルの永遠“を超えたものを受け取った。

IDOLiSH7はスマートフォン向けアプリ「アイドリッシュセブン」から生まれたアイドルグループ。七瀬陸、和泉一織、二階堂大和、和泉三月、四葉環、逢坂壮五、六弥ナギの7人からなる。単独公演では声優キャストがライブを行い、キャラクターとのシンクロ率が高いパフォーマンスでファンを沸かせた。

IDOLiSH7のセンター・陸はゲームの作中でこう語っている。「オレたちは死なない星じゃない。限りある時間を生きて、かけがえのない時間を過ごしている。みんなと笑い合って、眩しいライトの下で、二度とない瞬間を生み出していく。永遠より、この毎日が奇跡だ」。この言葉を体現するかのように、この公演は永遠よりも価値のあるライブに感じた。

例えば環と壮五によるユニット・MEZZO”の絆を感じさせる美しいハーモニー。「解決ミステリー」での陸の“訴求力”が爆発した弾けるような笑顔と、トロッコに腰かけながら歌う一織の大人びた表情。「My Friend」で大和、三月、ナギがお互いを愛おしげに見つめ合いながら歌唱する仲睦まじい様子。そして7人の声が合わさったときのピースフルなムード。陸が作中で語る「オレたちが歌うたび、物語が蘇る。楽しい気持ちを、幸せな気持ちを、リフレインさせることが出来るんだ。真っ暗な夜空に、流れ星を降らせるみたいに」という言葉の通り、これらの記憶はある種、永遠と等しいほどの価値があると言えるのではないだろうか。会場を出て、7色にライトアップされたさいたまスーパーアリーナを見上げながらそんなことを考え、IDOLiSH7に思いを馳せた。単独公演から約1年経った今でも、脳裏にはステージで輝く彼らの姿が焼き付いている。

また作中で環が壮五にかけた言葉でこんなものがある。「いいとか、悪いとか、正しいとか、間違ってるじゃなくて。あんたが好きなもん、好きでいいんだよ」「遠慮しないで、好きなものは好きって言えばいい。もっと、大きな声で」。これからも私は声を大にしてIDOLiSH7というアイドル、そして「アイドリッシュセブン」という作品が好きだと言い続けたい。ゲームの第6部の特設サイトでは「物語はクライマックスへ!」という文字が躍っているが、彼らがどんな“クライマックス”を迎えるのか、その顛末を見守りたいと思う。

AマッソとKID FRESINOは何をしたのか、不意に目の当たりにしたカテゴライズ困難なステージ

文 / 橋本尚平

Aマッソ+KID FRESINO「QO」2022年1月30日 Spotify O-EAST

そもそもの話、僕は今までAマッソのライブはおろかお笑いのライブ自体をほとんど観たことがなかったので、これがほかのお笑いライブと比べて何が特殊なのかということについては語る言葉を持っていないんですが、終演後の客席から聞こえたざわつき、会場に広がる「何かすごいものを観てしまったぞ」という空気から、少なくともあの場にいた人たちは誰も似たものを観たことがなかったんだろうと思います。

今年1月から2月にかけて、AマッソとKID FRESINOが「QO」と題したライブツアーを東京、福岡、大阪の3都市で開催しました。このことが発表されたときに、お笑いコンビとラッパーという異色すぎる組み合わせにSNSでは「どうして?」「何をするの?」とクエスチョンマークが飛び交っていましたが、その詳細が事前に何も明かされないままツアーは開幕。おそらく来場者の多くは直前まで「いわゆるツーマンライブのように、前半後半に分けてAマッソとKID FRESINOが順番にステージに立つイベント」をイメージしていたのではないかと思います。しかしその日に会場で繰り広げられたのは、その場にいた誰もが「思ってたのと違う!」と驚いたであろう、観客の想像の範囲から逸脱した不思議なステージだったのです。

東京公演の模様は現在Prime Videoで配信されているので、今からでも新鮮な感覚でそちらを観ていただけるように、ストーリーや演出などの詳しい内容については伏せますが、1つだけ言うと、このライブは「1本のコントと1曲の演奏が交互に披露される」という構成でした。しかしながらそれらのコントと音楽は、各々の領域に侵食してシームレスに混ざり合いながら、トータルで1本の物語を作り出します。「お笑いのライブ」とも「音楽のライブ」とも呼べない、どちらがメインでどちらが脇役ということのない均衡した力関係。とはいっても1曲ごとの演奏、1本ごとのコントが単体の作品としても成立していて、ミュージカルのように完全に混ざり合って一体化しているわけでもない。実際、三浦淳悟(B)、佐藤優介(Key)、斎藤拓郎(G)、石若駿(Dr)、小林うてな(Steelpan, MainStage, Cho)、西田修大(G)という凄腕プレイヤーを従えたバンドセットでのKID FRESINOのライブは、メンバーそれぞれの個性が高い次元でぶつかり合う見応えのあるパフォーマンスでしたし、ストーリーから切り離して「音楽のライブ」として観ても、あるいはAマッソによる「お笑いのライブ」として観ても満足できるものになっていました。

このツアーでライブ演出を担当したのは「そうして私たちはプールに金魚を、」「ウィーアーリトルゾンビーズ」「DEATH DAYS」といった、独特な映像表現の作品で知られる映画監督の長久允。確かに、劇中の時間帯ごとに分けて章立てながらストーリーが進む構成や、コミカルさの中に漂うどこか不穏な雰囲気は、長久監督のほかの作品にも共通するものがあるんじゃないかと感じます。「QO」がこのようにカテゴライズ困難な公演になったのは、映画監督という、音楽サイドでもなくお笑いサイドでもない存在が橋渡しの役割を受け持っていたからというのも大きいのかもしれません。

音楽ライブに限らずあらゆるエンタメのコンテンツに触れていると、鑑賞後に「誰かと感想を話し合いたい」「ほかの人の解釈や考察を聞きたい」という気持ちにさせられるものと出会うことがたまにあります。「ライブを観てそんな気持ちを味わってみたい」と思っていても、そういう体験はいつでも簡単にできることではありませんが、この「QO」はまさに“そんな気持ち”になれる公演でした。皆さんにもPrime Videoで観ていただき、ぜひ感想や考察などをSNSに書いてもらえたら幸いです。自分が読んでみたいので。

蓮沼執太&ユザーン、予定調和が嫌いな彼らのパフォーマンスに惹き付けられる理由

文 / 鈴木身和

蓮沼執太&ユザーン「Shuta Hasunuma & U-zhaan "Good News Live"」2022年4月8日~10月9日

蓮沼執太&ユザーンのライブでU-zhaanがよく口にするセリフがある。

「予定になかった曲やってもいい?」

ライブ中盤に聞くことが多い気がするが、アンコールで急に飛び出すこともある。

これを言われた蓮沼は「えー!?」と驚きつつ、どんな曲を提案されてもにこにこと引き受ける。

このやりとりを観るたび、私はおもむろに悟空とベジータのような、桜木花道と流川楓のような、強者同士のライバルバトルを想像してしまう。ヤムチャ視点の私には見えない高度な技を繰り出す2人が、打てば響く互いの力のぶつかり合いを楽しんでいるように感じるのだ。

蓮沼執太&ユザーンが5年ぶりにリリースしたアルバム「Good News」のレコ発ツアーでもこのセリフを聞いた。2人はツアー初日のBillboard Live OSAKAでグランドピアノでアレンジした表題曲「Good News」や、完全初演となるU-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESSの楽曲「七曜日」のカバーなど新たな試みの楽曲を次々と披露。ようやく初日の緊張が解けた頃合いのアンコールで、U-zhaanはさらりと「予定になかった曲をやるんで」と言い放ち、照明スタッフには「ダンスホールみたいな感じで」とリクエストまでして「テレポート」を演奏した。これは蓮沼だけでなく、Billboardという歴史ある会場のスタッフへの信頼もあってこそだろう。

また博多の西林寺で行われたライブでは、いざ開演というタイミングでタブラの締め紐が切れてしまうというハプニングが発生した。タブラはリズム楽器なのだが、U-zhaanはサイズが異なる複数のタブラを並べるという独自の手法で音階を作り出している。1タブラにつき1キーしか出ないので、紐が切れてしまったそのタブラの音はもう出せない。当然、事前に考えたセットリストも白紙だ。いったいどうなるのか会場に不安がよぎったのもつかの間、2人はわずか二言三言の言葉を交わしただけにもかかわらず、蓮沼が「U-zhaanの機転で演奏できるようになりました!」と仕切り直した。U-zhaanは残りのタブラだけで演奏できるセットリストをその場で考えていくので、そもそも予定になかった曲だらけのはずなのだが、さらにここでも「やる予定のなかった曲やってもいい?」とタブラソロ曲「I Like Peshkar」を「半音上げで」と差し込んできた。もはやこの状況を楽しんでいるとしか思えない。あの短いやりとりで瞬時に互いの言いたいことを理解し、ライブを成功に導いた2人の余裕と強い信頼関係をまざまざと見せつけられた。

U-zhaanから蓮沼へのムチャぶりということで言えば、京都METRO公演で披露された時代劇「大岡越前」のテーマ曲もそうだろう。もともとU-zhaanが好きだった楽曲で、「何か京都っぽい曲をやりたい」という理由で選曲されたのだが、蓮沼はテーマ曲どころか、そもそも「大岡越前」を知らなかったという。アルトホルンとシンセサイザーでやけにクールにアレンジされた「大岡越前」のカバーはとてもカッコよかったが、曲が終わってオーディエンスにアンケートを取ると、オリジナル曲を知っている人は3割ほどという結果に。「いいメロディだと思うんですけどね」と肩を落とすU-zhaanに、蓮沼が「『~だと思うんですけどね』で終わる会話って寂しいよね(笑)」と独自の視点で寄り添う場面がほほえましかった。

蓮沼執太&ユザーンのライブはゆるゆるとした空気の裏で、とんでもない技の応酬がされている。しかしそれを背後に隠し、表立って見せないところも、彼らのパフォーマンスに惹き付けられる理由の1つかもしれない。予定調和が嫌いな2人がこれからどんなムチャぶりの応酬を見せてくれるのか、新しい企てが楽しみである。

次のページ
吉田山田、超ときめき♡宣伝部、soraya

読者の反応

吉田山田の山田義孝 @yamadayositaka

来年も沢山ライブします✨ https://t.co/EfcxLgzHPM

コメントを読む(28件)

関連記事

小野賢章のほかの記事

このページは株式会社ナターシャの音楽ナタリー編集部が作成・配信しています。 小野賢章 / 増田俊樹 / 白井悠介 / 代永翼 / KENN / 阿部敦 / 江口拓也 / Aマッソ / KID FRESINO / 長久允 の最新情報はリンク先をご覧ください。

音楽ナタリーでは国内アーティストを中心とした最新音楽ニュースを毎日配信!メジャーからインディーズまでリリース情報、ライブレポート、番組情報、コラムなど幅広い情報をお届けします。