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耳で楽しむ「シン・ウルトラマン」 (前編) [バックナンバー]

この選曲は100点満点なのでは……!映画前半はまるで宮内國郎ベスト盤

“異化”ではなく“再現”に向かう原典音楽へのアプローチ

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「シン・ゴジラ」と「シン・ウルトラマン」で異なる、原典音楽への向き合い方

日常パートに流れる鷺巣氏による楽曲を2曲挟んで(「シン・ゴジラ」で流れた「Early Morning from Tokyo」のアレンジ違い「Early Morning from London」は、個人的にも大好きな楽曲なのでうれしい。ちなみにこれはもともと「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」のために制作された楽曲だったが、そのパートには映画「太陽を盗んだ男」からの楽曲「YAMASHITA」が選曲されたために使用されず、のちに「シン・ゴジラ」で使用されたという経緯があるようだ)、地中から出現する地底怪獣・ガボラ戦となるわけだが、その前に注目したい楽曲が「宇宙から来た暴れん坊 科学特捜隊(特捜隊のテーマ)」。「禍特対、出動!」というセリフとともに流れる「特捜隊の歌」のインストバージョン!という、ある意味で非常にベタで盛り上がるシーンなのだが、これが前奏部分しか流れないのだ。

メインのメロディが流れる頃にはバツンとカットされ、「虫がPC画面にたかってる」という盛り下がるシーンにつながるという、一種のギャグ的な扱われ方となっている。

せっかくならもっと聴きたかったと思うのが人の心ってものだが、「シン・ウルトラマン」のリアリティラインで「『特捜隊のテーマ』をバックに出動する禍特対」というのは、やや違和感を覚えるだろうと推測されるので、この曲の使い方は気が利いているなーと感心した。ギャグ的な前振りだからこそ、かなりノイズの目立つ音質でも成り立つだろうという選曲の“読み”を感じた部分でもある。

 

さて、ガボラ戦での新録曲は「ウルトラ作戦第一号 戦い」。ウルトラマンの戦闘シーンの定番曲であり、もちろんオリジナルのガボラ戦でも流れるのだが、この曲を新規録音の音質で聴けたのは素晴らしい体験だった。

こちらも、「盛り上がりのキメでガボラが“激ヤバ光線(禍特対談)”発射!」という新録ならではの映像とのシンクロで盛り上げてくれる。

だが、この戦闘での個人的な注目曲は、激ヤバ光線を体で受け止めたウルトラマンが、ジリジリと前進していくシーンで流れる「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」。ここ、最高です。何度でも言います、ここ最高です。カッコよすぎる選曲。

勇猛な打楽器が印象的なこの楽曲、「ウルトラマン」の第12話「ミイラの叫び」では科学特捜隊とミイラ怪獣・ドドンゴとの戦闘シーンで流れ、さらに続くウルトラマンとドドンゴの戦闘にはBGMを使用しないことで、望まず目覚めてしまったミイラ怪獣と戦う虚しさ、とどめを刺すのをためらうウルトラマンを印象付ける役割も果たしている。

また、6月3日から公開される「庵野秀明セレクション『ウルトラマン』4K特別上映」に庵野氏が寄せたコメントでは、「ウルトラマン」の第26話「怪獣殿下(前編)」古代怪獣ゴモラ戦での使用に言及し、「M-4T2曲が流れカラータイマーの点滅音が響く中、ウルトラマンが美しくやられていく様」を作品選定理由に挙げている(参照:庵野氏コメント到着、記念トークイベント決定!映画『シン・ウルトラマン』大ヒット記念 庵野秀明セレクション『ウルトラマン』4K特別上映)。

ちなみにサントラの収録リストを見ると、この「ミイラの叫び 出撃(M4T2)」も新録されており、そちらのバージョンは使用されなかったようだ。き、聴きたい……!

 

物語は、もう1人の外星人・ザラブの暗躍により、新たな局面を迎える。暗闇の中から出現するザラブに合わせて、「ウルトラマン」でもザラブとの接触シーンで使われた「遊星から来た兄弟 来訪者(L9)」が不安を煽る。

「ウルトラマン」は、怪獣とのバトルが魅力のエンタテインメントでもありながら、子供たちにとってはホラーやサスペンスとしての魅力もあったはずだ。ショック効果的に使われる「遊星から来た兄弟 悪魔の正体(K5)」など、一連のザラブのシーンには、まさにウルトラマンのサスペンス的側面を象徴する楽曲たちが選曲されている。

拘束された神永新二(ウルトラマン)を調べるザラブのシーンで流れるのが、アレグロで刻まれるピアノのメロディが斬新な「侵略者を撃て バルタン星人(C1)」。楽曲の魅力が際立つ素晴らしい選曲で、改めて「このピアノめちゃくちゃカッコいいな……」と恍惚としてしまう。

浅見分析官のバックアップで解放され、ビルを突き破って現出し、ザラブが変装した“にせウルトラマン”と対峙する本物のウルトラマン! 「ウルトラマンといえばこの曲!」という1曲、「遊星から来た兄弟 勝利(M5)」が高らかに鳴り響き、夜の街を舞台にしたザラブとの戦闘が始まる。

このザラブとの戦闘シーンが、映画内で宮内音楽が使われる最後のパートであり、同時に劇中もっとも盛り上がる音楽のポイントの1つでもある(実際、僕は「シン・ウルトラマン」を観てから、気を抜くとこの曲を自動的に口ずさんでしまう)。

「ウルトラマン」でもザラブ星人との戦闘シーンで初めて使用された「遊星から来た兄弟 勝利(M5)」だが、ここで流れる新録バージョンは、2回目から合いの手のように入る新たなストリングスメロディが追加されており、宮内音楽と鷺巣音楽の融合を聴かせてくれる。

さらに原典と同じ流れで、この曲とつながって使用されるのが「侵略者を撃て 空中戦(A2)」で、こちらも厚みを増した新録バージョン。原典を再現しつつ、最新の映像技術で描かれる外星人同士の超バトル、さらにそれを盛り上げるのはオリジナルをアップデートした名曲たち。“過去”と“現在”が拮抗して高みへと駆け上っていく、珠玉の名シーンとなった。

 

ここまでで、宮内音楽の引用パートは終わり、以降は鷺巣氏による劇伴のみが使用される。

正直、前半を彩る宮内音楽の選曲については、個人的に「これは100点満点なのでは……」と感じていて、「ウルトラマン」を敬愛する庵野氏の選曲、さすがの“ウルトラマン解像度”だ……と思いつつ、同時にあまりにも完璧で隙がなく矢継ぎ早に繰り出されてくるので、どこか機械的なサービスのように感じたという面倒くさい感想すらある。だからこそ、「宇宙から来た暴れん坊 科学特捜隊(特捜隊のテーマ)」の“ズラし”が印象深く残っているのかもしれない。

「シン・ゴジラ」では、要所でのみ挿入される伊福部音楽がサプライズ的な感動につながっていたことも間違いなく、「シン・ウルトラマン」では原典音楽への向き合い方が“異化”ではなく“再現”というまったく違うベクトルになっているのも注目したいポイントだ。

そしてもう1つ、触れておかないといけないのが「ウルトラマンの歌」の存在で、ご存知のように、こちらの楽曲は使用されていない。

ここまでやってくれるなら、どこかで「ウルトラマンの歌」のメロディを聴きたかったような、しかしこの世界観の中にあのメロディは合わないような……、そこについてはまだ自分の中でも整理がついていない。5回目を見たら、結論が出るかも……と考えてる時点で、選曲の術中に見事にハマっているのかもしれない。

<後編に続く>

タカハシヒョウリ

4人組ロックバンド・オワリカラや、特撮リスペクトバンド・科楽特奏隊のボーカル&ギター。女性アイドルグループ・開歌-かいか-や、大槻ケンヂのソロプロジェクト・大槻ケンヂミステリ文庫への楽曲提供も行う。サブカルチャー全般、特に特撮への造詣が深く、文筆家として雑誌やWebメディアでコラムなどの執筆活動を行っている。

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西田亜沙子(終末トレイン作業中!) @asakonishida

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