事例から読み解くパンデミック下の音楽イベントの可能性 (前編:仮想空間編 ) [バックナンバー]
無観客ライブ配信の流行により、急速に多様化していく映像演出とバーチャルイベント
ディスプレイ内の視覚表現を拡張、「マイクラ」「あつ森」などゲーム内でのフェスやレイブも
2020年7月22日 21:15 52
オンラインならではの過剰な映像演出
VRやARなどの現代的な映像演出を有名アーティストに加えて話題になったのは、
オンライン配信が活発なジャンルは、ダンスミュージック系だろう。もともと配信が活発なジャンルということと、基本的にDJが1人でパフォーマンスするので、共演する演奏者との楽器のレイテンシーや、ステージ上に集ったバンドメンバーの感染を気にせずに済む。そして配信の画面内全面にVJがフィーチャーされるので、視覚的な表現を拡張させて飽きさせない。今ならではのアイデアが盛り込まれた映像の数々を鑑賞してほしい。
遊び心を盛り込みながら映像表現に力を入れているオンラインフェスティバルが、不定期で開催される「Digital Mirage」だ。仮想空間ならではの映像演出を意識していて、現実ではありえない広大な空間を構築したり、アーティスト自身に過剰なエフェクトがかかって映像に埋もれたり、プレイ中にDJブースが変形したり、オンラインならではの映像表現を楽しむことができる。
中でも、Baauer、NGHTMRE、ARMNHMR、SubtronicsといったDJ / プロデューサーの映像は、アーティストのスタンスを理解したうえでの奇抜なアイデアが盛り込まれ、映像制作チームの気合いを感じさせるものばかり。世界初と謳う水中からの配信や、パフォーマンスの代わりに「Black Lives Matter」のデモに参加する配信などチャレンジ精神あふれる企画を行っている。初回の開催時は400万人以上がこのフェスを視聴し、約3300万円の寄付金が集まったという。国内のメディア「Moment Tokyo」にて、クリエイティブディレクターへの動画インタビューが公開されているので、内情を知りたい方は一見の価値あり。
毎年ラスベガスで開催されるEDMフェス「Electric Daisy Carnival(EDC)」を主催するinsomaniacも、オンラインフェスティバル「EDC Las Vegas / Virtual Rave-A-Thon」を開催。EDMフェスだけあって、巨大なステージ演出を得意とし、配信スタジオも巨大さと物量で勝負している。筒状のLEDディスプレイを用いた映像演出や、電飾が輝く巨大なデコレーションなど、自分たちの持ちうる機材を配信のために活用している様子だ。視聴者はYouTube、Twitch、Facebookのライブストリームで映像を観るのにとどまらず、ほかの何百ものレイバーと一緒にZoomパーティに参加することも可能。そのうえ、PS4 VRヘッドセットを装着すればバーチャルリアリティでストリームを楽しむことができる。
ポーター・ロビンソンの主催による2日間のフェス「Secret Sky festival」は、
ビッグルームハウスでEDMシーンを牽引するW&Wは、XRを使ったライブ「W&W 20XX - XR Livestream」を開催し、仮想空間のスタジアムでパフォーマンスを行った。XRとは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)のすべての要素がある表現のこと。仮想都市の中でのスタジアムフェスにCGのオーディエンスが集い、現実のドローンでは再現できない大げさな空撮のカメラワークで視聴者を圧倒した。
ヨーロッパの巨大EDMフェス「Tomorrowland」もオンラインで開催。「United Through Music」と称して、DJの隣にZoomで参加するオーディエンスも映し出され、オンラインならではのコミュニケーションを生んでいる。なお「Tomorrowland」は7月25、26日には、3Dのバーチャル空間を舞台にしたオンラインフェス「Tomorrowland Around The World 2020」の開催が予定されている。
ヨーロッパ最大のダブステップとドラム&ベースのフェス「Rampage」の配信では、照明とレーザーによってDJブースを強調した映像で、まるで刺激の強い万華鏡を眺めているような視覚体験を演出している。鏡面のようなエフェクトを使い、あえて空間を把握させにくくしていることがほかとは一線を画している。公開中のアーカイブ映像を観て、配信ならではのサイケデリック感を堪能してほしい。
国内のクラブでは、秋葉原MOGRAが日本全国のクラブやライブハウスと連携して4月初旬にいち早くオンラインフェス「Music Unity 2020 #MU2020」を開催し、万単位の視聴者を集客。定期的に開催し、国内の映像作家が大勢関わって毎回スキルアップを感じさせる。DJにエフェクトを加えて盛り上げる映像演出が多く見られ、楽曲が盛り上がって過剰な映像になるたびにTwitchのチャットが盛り上がっている。新規性のある試みでは、投稿したコメントがDJ側の映像に加えられるなど、オンラインならではの現場感を作ろうとしている。
下北沢のクラブSPREADとレーベルFLATTOPによる定額制の配信番組「AMUSEMENT」は、100名近くのアーティストが出演し、映像ディレクターや照明アーティストなどが参加することによってクオリティの高いものになっている。中でも映像制作集団のBRDGを招いた、DJに手の混んだ映像をかぶせている配信は独特な酩酊感を作り上げている。また、Webマガジン「AVYSS」による独自のバーチャル配信プログラム「AVYSS GAZE」では、誌面を反映させたかのようなメタリックで退廃的な世界観を表現して、このコミュニティならではの美意識を感じた。
ライブストリーミングフェスに挑戦した秋葉原MOGRAへのインタビュー
「Music Unity 2020 #MU2020」を主催した秋葉原MOGRAは、2009年からUstreamを使用してDJイベントの配信を行ってきたため(2017年からはプラットフォームをTwitchへ移行)、以前からオンラインイベントに関するノウハウを持っていたようだ。それもあってパンデミック以降、NBCユニバーサルによる「ANISON DJ LIVESTREAM #NBC_DJ」や、ブシロード主催の「#D4DJ_StayHome」といったDJイベント配信の制作にも協力している。今回、その秋葉原MOGRAの代表・山田将行氏に取材を実施。視聴者に飽きさせずに映像を楽しんでもらうために、「Music Unity 2020 #MU2020」ではこんなところに工夫をしていたという。
「余計な要素は排除して画面内をごちゃつかせすぎないことですね。あとはチャットやSNSなど視聴者環境を想定して、場合によってはチャットそのものが映像演出になるように仕向けたりしています」
また、アーティストのポテンシャルを高めるために意識したことについて聞くと、山田氏は「各自がポテンシャルを発揮できるようなタイムテーブルを組むこと、出演する側の不安要素を排除すること、あとはなにより自由に楽しくやっていただくことが一番ですね」と回答。オンライン上でのオーディエンスとのコミュニケーションをどう考えているのかについては、「ストリーミングの生配信は配信者と視聴者の双方向性を確立することが一番重要と考えているので、チャット、画面内でのレスポンス、配信時間外でのDiscord(ゲーマー向けチャット)でのコミュニケーションなどをMOGRAでは意識して行っています」と説明した。
「Music Unity 2020 #MU2020」を振り返って「普段クラブでやっている内容と同じことをやらない、というのはとても意識してイベントを組んでいました」と語る山田氏、今後チャレンジしたいことを尋ねると、このように答えてくれた。
「音楽を主体にした配信の場合、現状では権利問題でのハードルがあまりにも高くて多いので、このあたりを引き続き出版各社の皆さんと相談しながらよりよい方向に進めていきたいですね」
今回の記事では、配信ならではのディスプレイ内の視覚表現を拡張させる取り組みを紹介した。次の記事では、現実空間に寄った演出を紹介したい。
<つづく>
- 高岡謙太郎
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ライター、編集者。雑誌やWebサイトで音楽やカルチャー関連の記事を多数執筆している。「Designing Tumblr」(ビー・エヌ・エヌ新社)、「ダブステップ・ディスクガイド」(国書刊行会)、「ベース・ミュージック ディスクガイド」(DU BOOKS)など共著も多数。
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光の粒子になっちゃったポーターの回にも触れてもらってて感謝