MESが制作した東京・Contactの床のグラフィック。 (写真提供:MES)

事例から読み解くパンデミック下の音楽イベントの可能性 (後編:現実空間編 ) [バックナンバー]

絶景の山頂でライブ、湖の真ん中でDJ、ウイルス防止スーツ……飛沫感染を防ぐために世界各地で行われていること

Rhizomatiks真鍋大度、huezとしくにに聞いた演出側からの意見も

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現在は、現実空間でもソーシャルディスタンスを保ちながら、音楽イベントが開催されるようになった。後編となるこの記事では、前回に引き続き配信での取り組みを紹介しつつ、人同士の距離を取りながら行われる音楽イベントについて紹介していきたい。

また記事の最後に、これまでさまざまな配信ライブの演出を手がけてきた真鍋大度(Rhizomatiks)、としくに(huez)へのインタビューも掲載。事例の紹介のみではなく、演出家側の意見も聞いた。

/ 高岡謙太郎 ヘッダー写真 / MESが制作した東京 ・Contactの床のグラフィック (写真提供:MES)

見入ってしまうロケーションからの配信

まずは、配信機材の進歩によって、どこからでも配信できるようになった事例から。

室内にいるアーティストに向けてCG映像を合成するのではなく、景色のいい場所を背景にする配信も増えている。DJ機材がターンテーブルからCDJになったことによって、機材を手軽に持ち運べるようになり、へんぴな場所でもDJプレイができるようになった。また、広い屋外のほうがソーシャルディスタンスを保ちやすい。DJ機材だけでなく撮影方法も進化して、ドローンを用いた上空からの引きの画が撮影できるようになったのも現代ならではだろう。フランスのユニット・The Blazeはモンブラン山系の針峰・エギーユデュミディでライブを行った。その映像で借景の魅力を楽しんでもらいたい。

このThe Blazeの動画を配信しているYouTubeチャンネル「Cercle」では、絶景でプレイするDJの動画を多数公開中。「Cercle」ではパンデミック以前から、世界遺産的なロケーションに機材を運んでパフォーマンスを撮影し、ドローンを使った映像によって自然の魅力と共に音楽を届けている。

DJプレイを動画配信することが浸透したもとをたどると、約10年前にロンドンを本拠地とした音楽ライブ配信チャンネル「BOILER ROOM」ができたことが大きい。国内では配信スタジオ「DOMMUNE」が2010年に生まれ、屋内でのアーティストのパフォーマンスがリアルタイムで観られることは画期的だった。そこから屋外に移動するようになり、ロケーションに重きを置くようになってきたのが現在の潮流。それがパンデミック以降は一層増えている。

機材さえ設置できればどこでもパフォーマンスができるので、例えば優雅な川下りを鑑賞しながらのDJプレイが堪能できる動画もある。EDMのトップDJ、マーティン・ギャリックスや、ドイツのアンダーグラウンド系テクノDJユニット・Pan-Potは船上でDJプレイを敢行。両者を見比べてみるとカメラワークなど演出の違いが如実にあり、ロケーションや撮影スタッフが違うだけでだいぶ印象が変わる。

DJ大国のオランダの配信チャンネル「SLAM!」も、ロケーションに関してのチャレンジ精神に富んでいる。湖面にDJブースを建てての配信、無人のサッカースタジアムからの配信、路面電車の中からの配信など、ソーシャルディスタンスが確保できつつもテンションが上がる場所を開拓している。さらに配信イベント「PUSSY LOUNGE 2020」では観覧車に乗りながらDJするという、派手な試みが行われた。

オランダの音楽フェス「Sensation」の配信は、巨大な会場に大量に並べられた光る人形とムービングライトを並べて行われ、光の演出によって仮想の盛り上がりを作っている。

ドイツのテクノフェス「Awakenings Festival」もオンラインフェスを開催。広大なホールの真ん中でDJがプレイし、広い空間で栄える照明で煽るというのは、EDMとは違ったテクノらしいミニマルな演出だ。近年の配信で多く見受けられることだが、DJをスター的に扱って撮影せず、あえて会場のオブジェクトの一部のように扱うのが今ならではのアーティストとの距離感なのだろう。

ベースラインハウスDJのジョイライドは、もともとスポーツカーをフィーチャーしたMVを多く制作しているのもあって、このコロナの状況下になってジープの上でDJプレイをした。曲の展開によって、ヘッドライトや照明が光り、ライティングだけで飽きさせない動画となっている。

絶景とZoomの合わせ技もある。テックハウスを中心にしたスペインの人気パーティ「elrow」による配信「elrow SHOW」は、アントニ・ガウディが手がけた世界遺産カサ・バトリョから配信。もともと「elrow」がサーカスのような華やかな雰囲気のパーティなのもあって、DJが出演するZoomの窓とは別の窓にピエロやオーディエンスが登場したりと、このパーティならではの映像演出が施された。

国内では野外フェス「Rainbow Disco Club」が開催を中止した代わりとして、いち早くオンラインイベントを実施した。その際は会場になるはずだった静岡・東伊豆クロスカントリーコースでドローンでの空撮を行い、オーディエンス同士がコミュニケーションをできるようにZoomを使ったチャットなどが用意された。

インターネットによって会場を中継することも可能になり、地域の距離感も変化した。配信イベント「VirtuaRAW」では北海道から沖縄まで16カ所のクラブやライブハウスをつないで50組以上のアーティストのパフォーマンスを中継した。また「オンラインやついフェス」では、全国20カ所以上の会場の様子をLINE LIVEやニコニコ生放送などを含めたさまざまなプラットフォームから配信。さらに今後も、2016年から毎年東京の下北沢、新宿、渋谷で行われてきたライブサーキット「TOKYO CALLING」の新企画として、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌など日本各地のライブハウスを使ったオンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」の開催が予定されている。

一風変わった取り組みでは、バルセロナのリセウ・オペラハウスが、全席に配置された植物に向けて演奏するライブ配信を行った。公演はビジュアルアートのプロジェクトの一貫として、継続が予定されている。

アイドルグループ・CY8ERのワンマンライブは、学校の中を移動しながら、曲ごとにシチュエーションを変えてワンカットで撮影された。演出はTHINGS.とhuezが担当。無観客ライブは固定された客席を設ける必要がないため、ステージの存在に囚われずどこでもライブができるようになった。

ドネーションやアクティビズムとの連携

イベントに対する参加費の支払いも、観客が体験するコミュニケーションの1つ。配信ライブにおいてはPayPal、ZAIKO、Streaming+、PayPerView、ニコニコ生放送などを通じて入場料を払うことで閲覧可能になるサービスや、YouTubeやTwitchのように投げ銭(チップ)を払うシステムを盛り込んだサービスもある。

そして、募金活動や政治活動を目的としたオンラインパーティも増えてきた。デヴィッド・ゲッタはWHOなどを支援する資金を募るためにニューヨークでライブストリームパフォーマンス「United at Home - Fundraising Live from NYC」を実施。DJブースの前にはLEDディスプレイが置かれ、Zoomによって参加者の姿が映し出される。DJは配信中にオーディエンスの反応を見ることが難しいが、このようなセッティングによって対話が可能になっている。

ニューヨークのクラブ・Nowadaysによるオンラインイベント「Virtually Nowadays」は、クラブコミュニティへのドネーションに関する配信を行っていたが、最近はBlack lives Matterに関する配信を行い、デモ映像をDJプレイにかぶせていて時事性に対応した。アーカイブは、パトロンサイト「Patreon」に課金することで閲覧可能だ。また、ドイツのクラブシーンを支援するドネーションを含めた24時間オープンのバーチャルクラブ「United We Stream」や、Zoomによって開催されるクィア向けのナイトクラブ「Club Quarantine」など、失われた集まる場を補うように、さまざまな試みが取り組まれている。国内でも抗議活動を含めたDJイベント「Protest Rave」が定期的に開催され、安倍晋三首相のInstagramアカウントに直接抗議をしている。

配信自体を広告として見せ、新規のアプリのプロモーションを行う企業もいくつかある。ファストファッション小売業者のSHEINは、アプリ内でデジタルイベントを開催。このイベント内で展開された、ケイティ・ペリーとリル・ナズ・Xが音楽とファッションを組み合わせる「バーチャルショーケース」では、ライブ配信中に服を購入することができ、これは新しいマネタイズ手法と言えそうだ。人気が急上昇したビデオチャットアプリ・Housepartyにて行われたライブストリーミングイベント「In The House」には、ケイティ・ペリー、スヌープ・ドッグなど、40名を超える有名人が出演。配信の定着に乗じて、認知度を上げたい企業は多いはずだ。

ラジオやテレビのように

いつでも始められる手軽さもあって、定期開催する配信もある。Boogie Down ProductionsのDJ D-Niceは早い段階から定期的にInstagramで配信を行った結果、10万人が閲覧して話題となり、リアーナやジョー・バイデン前アメリカ副大統領までも引き寄せた。

チャーリーXCXはディプロ、リタ・オラなどと一緒に、パンデミックの影響で自主的に隔離生活をしている人のためのインスタライブ「Self-Isolation IG Livestream」を毎日行っていた。国内では、宇多田ヒカルがInstagramで「自宅隔離中のヒカルパイセンに聞け!」と題した生番組を1カ月限定で毎週日曜日に配信。KOHHがゲスト出演して話題になった。

ディプロはYouTubeチャンネルで毎週5つのDJセッションをプレイしていた。ライブではないが、マイリー・サイラスも月曜日から金曜日まで毎日Instagramで多数のゲストを招いて配信を行っている。また、ジル・スコットとエリカ・バドゥ、ネリーとリュダクリスなどによる、雑談を交えたラッパー同士のセッションが見られる。スマートフォンさえ持っていれば配信は可能になり、日常になった。

多くの配信は自宅から行われるが、一風変わったものもある。クエストラブによる仮想ディナーパーティ「Questlove's Potluck」では、彼が自宅のキッチンでお気に入りの料理や飲み物を調理する様子を公開。アーティストの私生活が垣間見れるのは、自宅待機が推奨されていたこのタイミングならではだろう。

Seihoは睡眠障害により眠れない夜を過ごす人々に向けた音楽番組「DESTINATION 最終目的地」シリーズを配信。それまでの音楽性とは異なる表現にも挑戦するようになった。

巨大なフェスは過去の開催を再放送するようになった。海外の「Download Festival」や国内の「SUMMER SONIC」などは貴重なアーカイブ映像を公開し、同じ時間に鑑賞するオーディエンスのコメントによって一体感を提供している。RadioheadはYouTubeチャンネルで毎晩コンサート動画をストリーミングし、同じようにMetallicaは毎週月曜に過去のライブ映像を公開。バンド編成のミュージシャンは集うことが困難ゆえに、過去のライブ映像を流すことをオンラインフェスと銘打って行う傾向がある。

視覚だけでなく音楽性へも影響

アーカイブ映像に頼らずに、現状の音源を聴いてもらいたいバンドも多い。そのため、このステイホームの環境で多くの人々がバンド演奏を同期させながらのリアルタイム配信に挑戦している。多くの場合、各メンバーがおのおのの家にいながらZoomを使って演奏を重ね合わせ、その動画がYouTubeなどを経由して配信されている。しかし、メンバーが一緒にステージ上にいて同じモニタースピーカーから音を聞いて演奏するライブハウスとは違って、自宅での演奏は通信環境によって再生までの速度が異なるため、どうしてもレイテンシー(遅延)の発生が避けられず、それによって音を鳴らすタイミングにズレが発生してしまう。

そんな中で、ニューヨークのライブハウス・The Jazz Galleryは定期的な配信を実施中。YouTubeでライブ配信を観たり、Zoomでのセッションに参加できたり、Zoomで音源を聴いて質疑応答に参加できるなど、さまざまな取り組みが行われている。ジャズに関する取り組みは「Billboard Japan」の記事が詳しいので、読んでもらいたい。

国内で挑戦的だった配信もある。LITEはメンバーそれぞれの自宅から生配信しながら演奏を合わせるのみならず、かつリアルタイムでVJを入れてリモートでセッションを実施。演奏のレイテンシーや、音と映像のシンクロの遅延を克服するためのノウハウがnoteに記載されているので詳細を読んでほしい。

LUCKY TAPESの高橋海が配信したソロライブも、作り込まれたアニメーションや映像エフェクトを効果的に使うことで、自宅で撮影しているとは思えないような演出となった。

また、リアルタイムの配信ではないが、1000人が同じ曲を演奏している映像を1つの動画に編集し、一緒にセッションしているように見せる企画「1000人ROCK WEB SESSION」が公開され話題になった。

飛沫感染を防止するためには、声援もコントロールされる。アイドルグループ・せのしすたぁの運営は、「観客がライブ中に声を出さなくても、手元のタブレットを操作すると、あらかじめ録音した声援が会場に大音量で響く」というシステムを開発した。

ただ、緊急事態宣言が終わったことにより、現状は少人数で集まることが可能になり、個々がステイホームをしながら配信するというよりは、演者のみが会場に集まって演奏を配信するという流れになってきている。

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