W&Wが5月に行ったXRを駆使した配信ライブの様子(写真提供:エイベックス)

事例から読み解くパンデミック下の音楽イベントの可能性 (前編:仮想空間編 ) [バックナンバー]

無観客ライブ配信の流行により、急速に多様化していく映像演出とバーチャルイベント

ディスプレイ内の視覚表現を拡張、「マイクラ」「あつ森」などゲーム内でのフェスやレイブも

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新型コロナウイルスの感染拡大は、これまで普通のことだった“たくさんの人々が同じ会場に集まって音楽を聴きながら盛り上がる”ということを困難にし、音楽イベントのスタイルを短期間で一変させてしまった。これに抗うように世界中のアーティストやイベンターが、音楽の楽しさをリスナーに届ける手段を模索し、現在では無観客ライブの有料配信が1つの流行となっている。

やむを得なしに始まったこの流行だが、それによって多くの人々が今後のライブのあり方を考えるようになり、パンデミック下でもライブができるように工夫を凝らしたり、急速に進化を遂げる演出の技術を現場に反映させたりするようになった。まだ粗い部分もあるが、将来振り返ったときに現在はコロナ以降のライブ演出の黎明期になるに違いない。

前後編のうち前半となるこの記事では、仮想空間を舞台にしたオンラインイベントの話題を中心に、世界中で開催された事例を紹介。さらにライブストリーミングフェス「Music Unity 2020 #MU2020」を主催した秋葉原MOGRAへのメールインタビューも公開する。

/ 高岡謙太郎 ヘッダー写真 / W&Wが5月に行ったXRを駆使した配信ライブの様子(写真提供:エイベックス)

歴史的なアーティストもリアルタイムで配信

ライブ配信の歴史と音楽は密接に関連する。世界初のインターネットライブ配信は1990年代半ばにインディバンドによって行われ、メジャーグループでは1994年11月にThe Rolling StonesがM-Boneと呼ばれるインターネットサービスを介して配信したことが始まりと言われる。近年人気のあるライブストリーミングサービスは、過去10年以内に生まれた。2011年にTwitchとYouTube Liveが開始され、2015年開設のPeriscopeとFacebook Live、2016年開設のInstagram Liveは現在親しまれている主な配信サービスになっている。

2020年は新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックによって、音楽イベントのほぼすべてがキャンセルになった。フェスやライブハウス、クラブなど現場で音楽を聴く欲求を補うかのように、自宅で配信を観ることがここ数カ月で一般化した。そこでのミュージシャンたちは、他者に触れ合わない安全な環境で演奏を行いながら、さまざまな演出を駆使してライブ現場で感じる熱量の再現を試みている状況だ。

このパンデミックによっていち早く無観客配信を行った国内のアーティストは、BAD HOP(参照:BAD HOP、無観客の横浜アリーナから世界に届けた希望「俺たちは止まらねえ」)や、NUMBER GIRLceroなど。最近では、サザンオールスターズAKB48などがNTTドコモの動画配信サイト「新体感ライブCONNECT」でライブを行うまでに無観客配信は一般的なものとなった。この配信プラットフォームでは、ARやVR、投げ銭などの機能が導入され、実際のライブとは違った体験を提供する。サザンオールスターズの配信に関しては、18万人がチケットを購入し、推定で50万人が視聴。国民的なバンドの影響力の強さを感じさせた(参照:サザンオールスターズ、22曲熱演に込めた感謝とエール!横アリからライブ配信「暑い夏を乗り越えよう」)。また、国重要無形民俗文化財「郡上おどり」も、少人数でお囃子と踊りを実演する配信をYouTubeとFacebookで行い、伝統的な盆踊りまで巻き込んでいる。

海外に目を向けても配信に出演するラインナップは豪華になり、YouTubeが企画した「Dear Class of 2020」には、レディー・ガガ、BTS、バラク・オバマが出演。Apollo TheaterがGIBSONと組んだバーチャルプレゼンテーションには、B.B.キング、パティ・ラベル、スティーヴィー・ワンダーなど伝説的なミュージシャンが出演した。もはや配信ライブをすることは世代やジャンル問わず、世界的に当たり前になった。

そして、歴史ある音楽フェスティバルもオンラインで開催するまでに。アメリカ・ネバダの砂漠で共同生活を営むフェス「Burning Man」、イギリスのロックフェス「Download Festival」、そして「Glastonbury Festival」のレイブステージがVRで開催された。そしてジャズの祭典「Montreux Jazz Festival」は、16日間にわたってオンラインフェスティバルを行った。国内の大型フェスである「VIVA LA ROCK」や「a-nation」もオンラインフェスとして開催。奇しくもフェスシーズンを自宅で迎えるようになった。

ただこういった配信は、時間を問わずに鑑賞できるミュージックビデオやライブのアーカイブ映像とは違った観賞体験を提供しなければならない。MVはシーンが変わりカット割りも細かく作られていて、鑑賞者を飽きさせないような視覚体験が数多く盛り込まれている。また、ライブのアーカイブ映像は熱狂的なオーディエンスの存在がパフォーマンスに影響を与える面白さがある。それらと違ってリアルタイムでの配信で重要なのは、映像演出や鑑賞者とのリアルタイムなオンラインコミュニケーションになるはずだ。小規模のイベントであれば、チャットやドネーション(投げ銭)などが重要になる。規模が大きなイベントになれば、出演者もコメントを追いきれないので、楽曲の展開に応じた映像演出のほうに力が入ってくる。パフォーマンスを引き立たせる画作りや、タイミングのいいスイッチングで飽きさせないことも重要だ。

今までに開催された主要な配信イベントは「Pichfork」「INSIDER」などの海外メディアの記事で記されている。配信ならではのオーディエンスを楽しませる演出の数々は、傾向を大きく分けることができるので、数多く配信される中から目に付いた事例をおおまかに整理してみた。もちろん配信自体まだ成長中なので、今後紹介した以上の事例が出てくるだろう。では、配信ならではのクリエイティブを楽しんでいる事例を紹介していこう。

ゲームなどの仮想空間でパフォーマンス

配信ならではの映像演出を強化するために、バーチャル空間の開拓が始まっている。クオリティの高い仮想空間で配信したいアーティストは、ゼロから3DCGの空間を構築するのではなく、既存のオンラインゲームやアプリケーションの世界の中でパフォーマンスを行う。アーティスト本人がアバターとなってゲーム空間でパフォーマンスを行い、オーディエンスも仮想空間に参加することで場を共有する一体感を作り上げる。また、インタラクティブに操作できることでオーディエンスを飽きさせないという利点も。主なジャンルでは、リスナー層が若いヒップホップやEDMなどで盛り上がりを見せている。ヒップホップの事例に関しては「FNMNL」のこの記事が詳しい。

ゲーム空間とライブのコラボレーションでの今年一番の話題となったのは、オンラインゲーム「フォートナイト」内での、ラッパーのトラヴィス・スコットによるパフォーマンスだ。ゲーム空間内で巨大な3Dアバターがパフォーマンスする姿をひと目見ようと1200万人が参加した。これはゲーム制作チームのエフェクトプロデューサーとの連携によって成功した例と言える。

元をたどると「フォートナイト」内での試みが成功したのは、昨年EDMのDJ、マシュメロが「Marshmello Holds First Ever Fortnite Concert Live at Pleasant Park」を開催して760万人が参加した前例があったことが大きい。現在までに「フォートナイト」では、ほかにもデッドマウス、スティーヴ・アオキ、ディロン・フランシス、100 gecs、チャーリーXCXなどがパフォーマンスし、ロックバンドのWeezerは新曲を公開した。そして、マンチェスターのカルチャースペース・Factoryは「フォートナイト」でバーチャルスペースがオープンし、ゲーム空間がさまざまな波及の仕方を見せている。

また、マシュメロはほかのオンラインゲーム「マインクラフト」でもパフォーマンスを行った実績がある。マシュメロがマスクをかぶったアバター化しやすい見た目だからゲームの世界に適応しやすいというのもあるのだろう。「マインクラフト」内では過去に、世界最大級のフェス「Coachella」のバーチャル版である「Coalchella」や、「Fire Festival」「Mine Gala」といったコンサートが行われ、そして6月には巨大なオンラインフェスティバル「Electric Blockaloo」が開催された。「マインクラフト」内に設置された40を超えるステージに300人以上のDJとライブアーティストが出演する大規模なフェスだ。ほかのゲームソフトでは「あつまれ どうぶつの森」でレイブを行うアーティストも出てきた。

国内では、「ストリートファイターV チャンピオンエディション」のキャラクターを素材に使用してRhizomatiksが映像演出をするDJ配信「SFV SPECIAL VJ DJ SHOWCASE」など、実験的なプロジェクトをライブストリーミングする「Intel Presents. SFV PLAYING TOKYO vol.0」が実施された。ちなみに2013年には、ラッパーを動作検知してリアルタイムで格闘ゲームの画面に取り込み、ゲーム内でMCバトルをするイベント「STREET CHYPER」が行われていた。

ゲームだけでなく、既存のWebサービスをイベントに使うものもいくつかある。一番多く流用されたプラットフォームは、ゲーム配信用のサービス「Twitch」だろう。チャットや投げ銭など必要な機能がそろい、便利なユーザーインタフェイスということもあって音楽イベントで定番となりつつある。有名ではないサービスでの個性的な取り組みでは、バーチャルアバターチャットゲーム「IMVU」を使った、バーチャルフェス「nu:cenosis」や、バーチャルチャットサービスHabbo HotelことHabboを使った「Digital Bunker」といったものも。国内では、チャットをすることがメインのRemoというオンラインツールを使ったパーティ「SPA at Sankeys PENTHOUSE [VIRTUAL]」も行われた。

オンライン配信の普及によって、既存のWebサービスに頼らずに独自のシステムが構築されるようにもなってきた。ライブ配信スタートアップの「Wave」はモーションキャプチャーを使ってアーティストのデジタルアバターを制作する取り組みを行う。国内では、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」をオープンさせた。

アイドルの公演がメインとなる配信プラットフォーム「REMOTE STAGE」では、声援や表情をステージに届ける機能もある。「bitfan LIVE」は、提携しているライブハウスから有料配信ができる。配信プラットフォーム「Thumva」では、友人とビデオ通話しながら観賞が可能。そしてユニバーサルによるVFX技術を用いたライブ配信コンテンツ「LIVE-X」が2020年8月から始動する。

また、都内には配信の演出に特化したスタジオ「PAR!!!!」が立ち上がり、実験的に運営されている。アーティストの3DCGアバターを制作可能な、バーチャルライブ制作プラットフォーム「REALITY Live Stage」や、アバターを介してバーチャル空間上でさまざまな共体験を生み出すバーチャルパークシステム「VARP」、バーチャルヒューマンアーティストYELLOCKによるARアプリ「Future of Music WebAR Experience」など、仮想空間による音楽体験から派生した表現の多様化は、これから期待できそうだ。

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オンラインならではの過剰な映像演出

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