村井によるエッセイ「兄の終い」をもとにした本作は、“ダメ兄”の死によって再会した家族が、彼の人生の後始末に奮闘する4日間を描く物語。絶縁状態にあった兄の訃報を聞いた主人公・理子が東北へ向かい、兄の元嫁・加奈子、その娘と息子に再会することからストーリーが展開していく。理子を柴咲、兄をオダギリ、加奈子を満島が演じ、加奈子の娘・満里奈に青山姫乃、息子・良一に味元耀大が扮した。
「湯を沸かすほどの熱い愛」「長いお別れ」「浅田家!」など、これまで一貫して“家族の形”を描き続けてきた中野。彼は「僕は、家族を亡くして遺された人がどう生きるかにフォーカスして、人間が一生懸命がんばる滑稽で愛おしい姿を映し出してきましたが、『兄の終い』にはまさにそれがあったのです」と本作の企画を聞いたときのことを振り返る。
「浅田家!」を手がけた際に、実在する人物を描くことの面白さを体感したそうで「本人に話を聞くともっと面白いエピソードが出てくる」と考え、中野は村井への取材を重ねた。「村井さんのお宅にお邪魔した際、キッチンに仕事場を作っていて“面白い家だな”と思い、映画でもまねさせていただきました。そして、焼きそばのエピソードや、兄ちゃんと一緒に両親の職場に様子を見に行った思い出なども伺い、多少アレンジして採り入れています。強く覚えているのは、良一の下着のサイズが小さかったというエピソード。父親がそこに気付けないのはすごくリアルだと感じ、絶対に入れたいと思いました」と語った。
原作のタイトルは「兄の終い」だが、映画では「兄を持ち運べるサイズに」に変更された。その理由を中野は「『湯を沸かすほどの熱い愛』などもそうですが、映画を観た後に“そういうことか!”となるタイトルが僕は好きで、今回もインパクトのある作品名にできないかと考えていました。そんなとき、原作の帯に『兄を持ち運べるサイズにしてしまおう』という一節が引用されているのを見て“これだ!”と」と回想し、「僕はこれまでの作品で6回くらい火葬シーンを登場させてきましたが、自分の中で非常にこだわりのある“火葬”という言葉をこう言い換えるんだ!と心に刺さりました。観ていただく方にとっても、どういうことだろう?と興味を持っていただける素晴らしい表現だと思います」と伝える。
一方の村井は「遺体を引き取ってほしいと言われたときに、どうやってあんなに大きい人を運ぶんだと思って、『一刻も早く小さくしなくては』と、頭の中にずっとあったのがあのセリフだったので、いいところを拾ってもらったと思います」とコメント。また「自分が描いた本が映像になるのはなかなか想像がつかなかったのですが、映画を観て、こうやって文字って立体的になっていくんだなと感じました」「中野監督の手にかかるとこういうふうに動いていくんだなと感動して、不思議な気持ちです」と言及した。
「兄を持ち運べるサイズに」は11月28日に東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。

SYO @SyoCinema
記事のベースとなる中野監督のインタビューを担当しました。
実写映画としては今年最後のオフィシャルライター担当作。掛け値なしの傑作です。ぜひお楽しみに
中野量太がタイトル「兄を持ち運べるサイズに」に込めた思い
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