松本穂香

俳優デビュー10周年記念インタビュー 第1回

松本穂香インタビュー|10年の活動を振り返り、当時の自分にエールを贈る「幸せな瞬間もこの先たくさんあるからね」

「ひよっこ」「この世界の片隅に」「桜のような僕の恋人」…出演作をたっぷり語る

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2015年にオープンし、今年で10周年を迎えた映画ナタリー。アニバーサリーイヤーを記念して、デビュー10周年を迎える俳優たちにデビューから現在までについてインタビューを行う連載をスタートする。

初回を飾るのは、2015年のデビュー以来、映画・ドラマ・舞台と幅広いフィールドで活躍を続ける松本穂香。大阪から上京した2015年当時の思いや、連続テレビ小説「ひよっこ」で“役が腑に落ちた”経験、主演ドラマ「この世界の片隅に」と「嘘解きレトリック」での心境の変化、有村架純ら事務所の先輩から受けた影響など、自身が選んだ“10大トピック”をもとに10年間の歩みをたっぷりと語ってもらった。

取材・/ 脇菜々香 撮影 / 清水純一

松本穂香が選ぶ10年間の10大トピックと、上京当時のこと

松本穂香

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──俳優デビュー10周年、おめでとうございます! 映画ナタリーの10周年企画にご参加いただけてとてもうれしいです。今回は事前にご自身で“10年間の10大トピック”を選んでいただきましたが、改めて振り返ってみていかがでしたか?

いろんな経験をさせていただいたなと思います。

松本穂香が選んだ10年間の10大トピック

松本穂香が選んだ10年間の10大トピック

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──トピックの話をする前に、まずは高校卒業後の2015年に上京されたときのことについてお聞きしたいです。当時、どんな思いで地元・大阪を出ることを決意したのでしょうか?

高校を卒業して少し経ってから上京したのですが、若かったのもあって、あまり“決意”という感じではなく。怖いもの知らずみたいなところもあったのかなと。「このお仕事をしたいから東京に行くのは当たり前」という感覚でしたね。わりとナチュラルな感じでした。

──すごく意気込んで上京したわけではないとは意外でした。目標や“こういうふうになりたい”というイメージはあったのでしょうか。

何を考えていたのかな?(笑) 当時のマネージャーさんと「こうしていきたいね」みたいな話し合いをして、そのマネージャーさんに導いてもらっていたと思います。基本的に、昔から“これ”っていう目標がよくも悪くもあまりないタイプで、わからないことも多かったのですが、マネージャーさんが私に合いそうな監督を教えてくれたことや、目標リストを渡してくれたのを覚えています。

──当時出会った方で印象的な方はいらっしゃいましたか?

松永大司監督は、今でもワークショップを開くときに声を掛けていただいて、たまに見学をさせていただくこともあるので、当時の関係がいろんなところでつながるんだなと思っています。でもまだ(リストで)叶っていないこともありますし、宮藤官九郎さんが好きなので、いつかご一緒してみたい。

──2015年から映画や舞台には出演されていましたが、まだ知名度としては全国的に大きく広がる前だったと思います。この1~2年間はどういった日々を過ごされていたのでしょうか。

デビュー直後、2015年頃の松本穂香

デビュー直後、2015年頃の松本穂香 [拡大]

その時期はいろんな監督のワークショップに参加させてもらっていた記憶があります。あとは事務所のボイストレーニングや演技レッスンで声の出し方、滑舌など基本的なところを指導していただきながら、とにかく映画を観たりしていました。当時のマネージャーさんがいろいろ指摘してくれるんですけど、10代だったからビービー泣いたりして(笑)。「こういうときはこういう言葉遣いをしたほうがいい」など、ちゃんとした社会人になっていくために怒られることも多かった時期ですね。

──その時期、お芝居は楽しかったですか?

「楽しい」は全然まだまだ。今でもたまに「うわ、楽しいな」と思うときがあったり、「振り返ってみたら楽しかった」ということがあるぐらいで、そんなに余裕はないんです。最初から「お芝居楽しい!」って言える人がうらやましいなと思うタイプですね。ただ、好きだから続けられているんだろうなと思いますし、刺激がないと続けられないタイプなので、そこは合っているんだろうなと。

──当時大事にしていた意識や、ご自身のルールはありますか?

ちょっとずつ成長すること、ですね。最初の頃にカフェ店員という役をいただいたとき、言ってしまえばほかの人でもできる役ですが、当時のマネージャーさんから「松本にしかできない役にしてほしい」と言われて。確かにその通りだと思い、自分が演じる意味を見出すために勇気を出して自分の色を出すなど、オーディションでも現場でもとにかく印象に残ること、爪痕を残すことを意識していました。

松本穂香

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「ひよっこ」で「澄子ってこれだ」と腑に落ちた感覚

──松本さんが選んだ1つ目のトピックは、2017年前期の連続テレビ小説「ひよっこ」でした。初めての朝ドラでいろんな出会いがある中、特に学んだことがあれば教えてください。

役について考えることです。「いい役にしたい」という思いで青天目澄子という役について考え続けたことで、台本にない役の背景などを考える時間も楽しいんだ!という気付きがありました。プレッシャーもすごくあったのですが、撮影初日に澄子を演じたときに「あっ、澄子ってこれだ」とすごく腑に落ちる感覚があったのは今でもすごく印象に残っています。

──うまく芝居ができず泣いていた際、事務所の先輩である有村架純さんから「今できちゃダメなんだと思うよ」と優しく励まされたという話もお聞きしました。当時はどんな心境だったのでしょうか。

ものすごく悔しくて、感情が止められなくなり、カットが掛かっても涙が止まらなくて。架純さんに支えてもらいながらセットを出て、楽屋でその言葉を掛けてくださり、とても救われました。あの歳(当時有村は24歳)でその言葉が出てくる架純さんってやっぱり偉大だなと思いますし、今振り返ると、自分自身がそこまでの覚悟や責任を持って役に取り組めていたんだ、ということにも気付かされます。

──過去のご自身を肯定される姿が素敵です。続いて2018年に始まったauのCM「意識高すぎ!高杉くん」シリーズは、松本さんのキュートさやツッコミ力が世間に知れ渡った1つのきっかけだと思います。これを10大トピックに入れた理由をお聞きしたいです。

「意識高すぎ!高杉くん」CM「はじまる」篇(30秒)

やっぱり世間では「auの人だ」という認識の方が多いと思うので、そう印象付けてくださったことはありがたいなと思っています。これだけ長く続いているのもすごいことですよね。

──あの制服を着始めて8年ですね。

制服着てますねー。毎回「大丈夫ですかね?」って確認しながら(笑)。でもいつも刺激があって楽しいです! 共演している神木隆之介さんは、人生=芸歴みたいな方なのに、ずっと謙虚でお芝居に対してワクワク楽しむ精神があって。できあがったCMを観ても毎回「すごいなあ」と思いますし、尊敬する先輩の1人です。

──今まで出演されたCMの中で特に印象的なものはありますか?

なんだろうな、本当にいっぱいあるので(笑)。WebCMだと尺の長さが決まっていないので、お芝居としての掛け合いができたのも楽しかったですし、高杉くん(神木)と細杉(こますぎ)くん(中川大志)が集まるとすごいです。全然コンテにないことを、2人で「こうします」とアイデアを出して演じていたカラオケ編やバスケ編は印象的ですね。2人とも実際は運動神経抜群なのに、バスケのシュートができない演技も上手で、本当になんでもできるんだなと毎回感じさせられます。

「この世界の片隅に」の撮影が終わったときは空っぽ

──続いて選ばれたのが、2018年7月期のTBS日曜劇場「この世界の片隅に」。約3000人の中からヒロインに選ばれ、ドラマ初主演を果たしましたが、オーディションのときのことって覚えていますか?

イベントレポート

ほかのオーディションと変わらず、いただいた台本を演じる、という形でしたね。

──放送が始まると「役にぴったり」「すずさんそのもの」という反響が大きかったと思いますが、オーディション時から役との共通点は感じていたのでしょうか。

私自身は、時代が違うということもあってそんなに近いとは思っていなかったのですが、プロデューサーの佐野亜裕美さんからは「ぴったり」と言われました。私は人からよくぼーっとしているように見られがちで、事務所の社長にもそのあたりが「すずさんっぽい」「演じすぎずそのままでいいと思う」と言ってもらっていました。でも私自身はほかの役と変わらず、「どういう人なんだろう?」と想像して練習していったのを覚えています。

松本穂香

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──撮影が始まってからはいかがでしたか?

日曜劇場という枠のすごさを今ほど理解していなかったので、最初はふわふわした感覚だったのですが、始まってからは必死でした。駆け出しだったので現場への行き帰りが車ではなく電車とバスで。

──電車で撮影に行っていたんですか!?

最初の頃はどの現場もそうしていたんですけど、さすがに「この世界の片隅に」の初日は帰りの電車で疲れすぎて寝ちゃって、1駅寝過ごして「はっ」と起きて、また反対方向に乗って寝過ごして、なかなか帰れなかったということがありました(笑)。相当がんばってやりきったなと思いますが、撮影が終わったときはもう空っぽというか……。反省点もたくさんあったのですが、何を反省して、何を改善すればいいのか?と、頭の中がぐちゃぐちゃな状況だったんです。あんまり自分を肯定できていなかった。そんな頃に、主演映画「わたしは光をにぎっている」など、“そのまんまでいいんだ”と思えるような作品が続いたのは大きかったですね。

──燃え付き症候群のような状態に陥ったとき、松本さんはご自身で切り替えるタイプか、別の作品に入ることで自然と変わっていくタイプか、どちらですか?

普段は役を引きずったりはしないタイプなのですが、そのときは特別に落ち込んで整理がつかない状態だったので、今とはちょっと違うかもしれないですね。

──「この世界の片隅に」で共演した皆さんは、松本さんにとってどんな存在だったのでしょうか。

自分自身が本当にいっぱいいっぱいだったので、皆さんすごすぎた、という記憶が残っています。(村上)虹郎くんは同い歳なのですが、持っている貫禄が違うのがすごいなって。なんでこんなに余裕があるんだろう?と、余計自分に自信がなくなったりもしましたが、必死で食らい付いていましたね。松坂桃李さんや伊藤蘭さんが優しく気にかけてくださったり、同世代の伊藤沙莉さんが現場ですごく和ませてくださったりして、そういう時間があったからこそ乗り切れたと思っています。

またどこかでラジオをやれたらいいな

──大きな作品を経験されて、主演映画の公開も続いたあと、コロナ禍に突入します。そんな2020年4月にTBSラジオ「新米記者・松本穂香です。」が始まりました。パーソナリティを務めた2年半はどんな期間でしたか?

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もともとしゃべるのが得意じゃないので……。

──本当ですか!?

本当です(笑)。だから大丈夫かな?と思いつつ、毎回自分が会いたい人や全然違う職種の人にお会いできるのはすごく楽しかったですし、ラジオの年越し特番「ハライチのタァァァン!!」にアシスタントで呼んでいただくなどそこからつながったお仕事もありました。逆に、ラジオきっかけで私を知ってくださって、俳優としての姿を見て「こういう見た目の方なんですね」と知ってくださる方も。

──リスナーからお便りが届くなど、普段映像作品を中心にお仕事をされているときとは距離感も違いますよね。

そうですね。お電話をさせてもらうこともあって、これはラジオをしていないと絶対にあり得なかったと思うので楽しかったです。最初の頃、ラジオのスタッフさんに「僕たちはいろいろ言わないので、松本さんはそのままでやってください」と言われて。自由に話させていただきましたし、またどこかでラジオをやれたらいいなと思っています。

──そのラジオきっかけで、ジャルジャルさんのYouTubeにも出演されました。

ゲストで出演してくださったときに「ぜひ(YouTubeに)出てくださいよ」と言われて、「なんでもやります!」と答えたら、私がオールバックになるコントに参加させていただくことになって。

──「松本穂香のヘアメイクでオールバックする美容師【日常撮る奴】」が配信された当時、ここまでやってくれるの!?と衝撃で(笑)。松本さんの困惑した表情が絶妙で素晴らしかったです。ジャルジャル好きとして、以前映画ナタリーにコラムを寄稿していただいたこともありますが、共演するにあたって特に楽しかったのはどんな瞬間ですか?

松本穂香のヘアメイクでオールバックする美容師【日常撮る奴】

ファンということもあって、ジャルジャルさんたちの裏を見れるのは楽しかったです! コントをやっているときはすごく生き生きしてるんですけど、余計なことをしゃべらない(笑)。始まる前に「このときはこうして」「終わり方はこうで」といったことは特に言われませんし、2人でも何かを話すわけではない。やっぱりこの空気感がジャルジャルなんだなと思いましたし、そこが2人らしくてすごく好きですね。

──芸人さんとコントをやることは、俳優業にどんな影響があるのでしょうか。

「コントの日」というNHKの番組に出演したときも、芸人さんが型にはまらず、その瞬間瞬間で臨機応変に反応するところがすごいなと思ったんです。その場の空気感を大事にすることはお芝居でも大事なことだと思うので、すごく勉強になりました。ジャルジャルさんとは一緒に写真集「アイ アンド ランド」を出させていただいたり、今年の単独ライブも招待していただいたりして、「またなんかやりたいですね」とお話ししたところなので、また機会があればいいなと思ってます。

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MAKI @ss_kn_xxx

健人くんと共演した「桜のような僕の恋人」の撮影時の話もしてくださっています

相手役の中島健人に「やっぱりこの人すごいな」 https://t.co/EQHuiNtORP

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