「プレデター:バッドランド」|人類の敵から“共感できる主人公”へ──入門編にして異端作!映画ライター高橋ヨシキ×村山章×アナイスが語り尽くす

「プレデター」シリーズの新章にあたる映画「プレデター:バッドランド」が11月7日に全国で公開。同作は、これまで人類の敵として描かれてきたプレデターを初めて主人公に据えた意欲作で、未熟な若きプレデター・デクと半身のアンドロイド・ティアのサバイバルが描かれる。

ティアを演じたのは「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」のエル・ファニング。デク役にはニュージーランド出身のディミトリアス・シュスター=コロアマタンギが抜擢された。監督は「プレデター:ザ・プレイ」「プレデター:最凶頂上決戦」でシリーズの世界観を押し広げたダン・トラクテンバーグ。

この特集では、「プレデター」シリーズの熱心なファンである映画ライターの高橋ヨシキ、村山章、アナイスが本作を鑑賞した。試写を観終えた直後、興奮冷めやらぬテンションのままクロストークを展開。「どこに注目すればいい?」というビギナーにもぴったりの“プレデター入門編”として、新章の見どころを3人とともに探っていく。

取材・文 / 金須晶子

映画「プレデター:バッドランド」予告編公開中

イントロダクション

高度な文明を持ち、強き者との戦いと勝利を誇りとする種族〈プレデター〉

若き戦士デクは未熟さ故に一族から追放される。

ヤウージャ族の若者デク(手前 / ディミトリアス・シュスター=コロアマタンギ)は父により一族から追放されてしまう

送り込まれたのは、生存不可能と恐れられる惑星〈バッドランド〉だった。

デクは生還するため、そして己の強さを証明するため、戦いに身を投じることを決意。

ヤウージャ族の若者デク。プレデターとしてのプライドは高いが、まだ若く経験も浅いため、戦闘でもミスが多い

旅の途中、下半身を失った陽気なアンドロイド・ティアと出会う。

未熟なプレデターと、秘密を抱えたアンドロイド——2人は奇妙な絆を育んでいく。

デク(右)の前に現れた半身だけのアンドロイド・ティア(左 / エル・ファニング)。陽気な性格で、窮地に陥ってもしゃべり続ける

狩るか、狩られるか。

敵だらけの世界で、彼らがたどる運命やいかに!?

即席コンビのデク(右)とティア(左)は生きて帰還できるのか?
「プレデター:バッドランド」ライター座談会

参加者プロフィール

高橋ヨシキ(タカハシヨシキ)

アートディレクター、映画評論家。雑誌、テレビ、ラジオ、インターネットなどメディアを横断して映画評論活動を行うほか、映画ポスター、書籍の装丁、CD・DVDのパッケージデザインも多く手がける。映画評論集「悪魔が憐れむ歌」シリーズをはじめ著書多数。「プレデター」シリーズでは「プレデター2」がお気に入り。

村山章(ムラヤマアキラ)

映画ライター。雑誌やパンフレットへの寄稿のほか、TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」などラジオ・テレビにも出演。2017年よりハル・ハートリー監督作品の日本における広報・配給業務に携わる。推しプレデターは「エイリアンVSプレデター」のスカー。

アナイス

ライター / コラムニスト。Webメディアを中心に、映画・ドラマ・アニメなどのレビューやコラム、インタビュー記事を執筆。視聴者参加型のインターネット番組「共感シアター」など動画メディアでも活躍している。「エイリアンVSプレデター」のスカーは“メロい”。

誰でも楽しめる少年マンガ的な成長譚(高橋)

──今日は「プレデター」ファンのお三方にお集まりいただきましたので、初心者としていろいろ質問させてください。まず「プレデター:バッドランド」を観終えたばかりですが、率直にいかがでした?

村山章 めちゃくちゃ面白かったです。ファンとして不安がなかったと言ったら嘘になるんですけど(笑)、観たら王道のSFアクションで。これ本当に「プレデター」なんですよね?というくらいハードルを愉快に越えてきた。「だまされたと思って観なよ」ってこんなに言いやすい映画、そうそうないです。もう誰が観ても絶対に面白いと思います。

アナイス 本当にそう思います! これまでコミックやノベライズに登場してきたプレデターたちの文化や世界観が描かれていて、ファンにはうれしいポイントも多いですよね。ヤウージャ(※プレデターの種族名)という呼称がついに劇中で使われたのも驚きでした。コアな要素を盛り込みつつ、プレデターという存在を紹介する作品としても成功している印象です。

高橋ヨシキ とても楽しく観ました。いくつものジャンルを組み合わせた作品になっていて、基本はタイトル「バッドランド」が示すような“秘境を舞台にしたアドベンチャー”。危険がいっぱいの未知の世界におけるサバイバル劇で、「ロスト・ワールド」(1925年)や「キング・コング」(1933年)から続くクラシックな冒険映画の系譜です。そういうフォーマットの中で若きプレデターの成長譚が描かれる。少年マンガみたいな映画だと思ったし、その意味で万人が楽しめる作品だと思います。

アナイス 戦闘種族の物語で、主人公はお父さんに認めてもらうために戦わなきゃいけない。そういった決意も含めて本当に少年マンガっぽいですよね。

デク役に抜擢されたのは、ニュージーランド出身の新鋭ディミトリアス・シュスター=コロアマタンギ。撮影ではプレデターの装甲を実際に身に着けてアクションに挑んだ

デク役に抜擢されたのは、ニュージーランド出身の新鋭ディミトリアス・シュスター=コロアマタンギ。撮影ではプレデターの装甲を実際に身に着けてアクションに挑んだ

──皆さん大絶賛ですね! こうしたドラマ性の高いストーリーでプレデターが主人公になるのは、シリーズの中でも今回の「バッドランド」が初めてなんでしょうか?

高橋 ゲーム以外では初めてかな?

アナイス これまでは、あくまで人間の視点で描かれていましたし、プレデター側の物語としては今回が初めてですよね。

高橋 今回は思い切りがよくて、人間が1人も出てこない。「プレデターが活躍するところが観たいのに、人間パートが邪魔!」と思っていたファンにはうれしいサプライズだったんじゃないでしょうか。

村山アナイス わかります(笑)。

高橋 今回は完全にプレデター視点でドラマが展開するわけで、そこは本当に思い切ったと思います。

村山 僕、今作の予告編を観たときに、プレデターのセリフに字幕が入っていたのを見て笑っちゃったんですよ。「プレデター語が字幕になるの!?」って(笑)。これまではかろうじて人間とコミュニケーションっぽいものが成立する程度だったのに、序盤からめちゃくちゃしゃべってるじゃないですか。最初は腹抱えて笑ってたんですけど、15分くらいしたら「ああ、もうわかった。お前が主人公でいいよ。付いて行くよ」と自然と受け入れていました。

プレデターとアンドロイド。異なる種族の2人が、過酷な惑星バッドランドを旅する

プレデターとアンドロイド。異なる種族の2人が、過酷な惑星バッドランドを旅する

──「プレデター」シリーズのビギナーとしても、主人公=プレデターという設定は最初からすんなり受け入れられました。

村山 「プレデター」シリーズってある意味“後付け”で育ってきたんですよね。最初の「プレデター」を観たときは、子供心に「透明になって隠れて襲ってくるなんて、ずるいやつだ」と思っていたんです(※編集部注:プレデターは光学迷彩で姿を消せる)。でもその設定のまま、いつの間にか「侍みたいに正々堂々と戦う戦士」というキャラクターになっていった。自分の中で決定的だったのは「エイリアンVSプレデター」ですね。プレデターの“戦士として強いヤツは認める!”という描写に「あ、今、プレデターという存在をつかんだな」と感じました。

高橋 戦闘種族プレデターに一定の倫理があることは「プレデター2」からはっきり示されるようになってきましたよね。透視スキャンして相手が妊婦とわかると殺さなかったり、ラストでは人間の健闘をたたえて記念品を授けてくれたりする。1作目からずっとある光学迷彩に関しても、おそらくその着想はニンジャやアサシン(暗殺者)の隠れ身の術から来ているんでしょう。それにプラスして「戦士としてのプレデター像」というものが、その後のシリーズや「エイリアンVSプレデター」などを経てさらに確立されていった。だから今回、そういうプレデターを主人公にしたのはある種の必然でもあったと思います。さまざまな時代で、いろんな人間と対峙してきたプレデターですが、プレデター側の視点から描いたドラマが求められる時代になってきたと。

アナイス プレデターのキャラクター性が垣間見えるように描かれてきた部分も大きいですよね。言葉は通じないし理解するのも難しい存在を主人公としたときにどう共感させるか、という描き方にはちゃんと説得力がありました。

「プレデター:バッドランド」では、シリーズ史上初めてプレデター自身が主人公に

「プレデター:バッドランド」では、シリーズ史上初めてプレデター自身が主人公に

村山 でも、違う星の生命体であるプレデターの感情や情緒がここまで人間に近くていいのかな、という疑問も少しありました(笑)。

高橋 そこは難しいところですよね(笑)。今回の主人公デクは“プレデターにしては”とても優しい心の持ち主だと思うし。それは個体差ということなんでしょう。すごく凶暴なやつもいるわけで。

村山 ちゃんと「昔お兄ちゃんを助けたことがある」という前振りもあって、デクが優しいプレデターであることが物語の序盤できちんと説明されている。その描き方は丁寧だなと思いました。

アナイス 今回の話を観ながら、「社会って厳しいし、家族も厳しいよな」と切実に感じました。家族に認められない主人公っていうテーマはすごく普遍的で、プレデターの話なのにとても人間的に感じたんです。監督の前作「プレデター:ザ・プレイ」とはだいぶ雰囲気が違う印象でしたが、今回は誰とでも気兼ねなく楽しめる映画になっている。「ザ・プレイ」も面白いんですけど、こちらはより親しみやすくて、コメディ的な要素や子供が喜びそうなシーンもあって、より幅広い観客が楽しめる作品という印象でした!

これは革命。プレデター界が崩れていきますよ……!(村山)

──先ほど「少年マンガ的」という話もありましたが、すごく感情移入しやすい主人公ですよね。誰でも見やすい成長譚として、特に心に残ったシーンはありますか?

高橋 プレデターの世界観では「強者であることが最大の価値」で、弱い者には情け容赦しないのが基本ですよね。そういう世界で育ったデクが異なる価値観に触れることで視界が広がり、成長していく展開がよかった。グッとくるものがありました。

アナイス エル・ファニング演じるティアを通して、これまでの「プレデター」シリーズにはあまりなかった“感受性”という要素が描かれていますよね。デクは最初、頭でっかちなところがあったけど、ある出会いをきっかけに、理解できないものを理解しようとする。そうして彼は、暴力で強さを証明するマッチョイズムではなく、誰かとわかり合おうとすることこそが強さなんだと気付く。そこが彼の成長のポイントだと思いました。

アンドロイドのティア(エル・ファニング)らとの出会いを通じて、主人公デクは少しずつ変化していく

アンドロイドのティア(エル・ファニング)らとの出会いを通じて、主人公デクは少しずつ変化していく

村山 最初にバッドランドに降り立ったときの、なす術のない“ひよっこ感”もすごくよかった。危険な生物がうようよしている中、口ばっかりで威勢はいいけど実力が伴わない。まさに少年マンガの主人公の最初の姿ですよね。実力のなさを思い知るシーンがあると、こちらも感情移入しやすい。ちゃんと応援したくなる、いい意味で教科書的な成長譚だなと思いました。

アナイス 戦闘力で勝ち進むんじゃなくて、知恵を使う戦い方が自分に合っていると気付いていくのもかっこよかったです。

村山 デクは“群れない戦士”というプレデターの価値観に異を唱えるような存在だと思うんです。これまで積み重ねてきたシリーズの世界観に、初めて反抗する若者が現れた。まさに革命ですよね。これからプレデター界が崩れていきますよ……!(笑) 本当に、そういうところも少年マンガの主人公っぽい。

アナイス デクっていう名前も“少年ジャンプの主人公”だよなー、なんて思ったり(笑)。

村山 ヤンキーものの世界観でもありますよね。「俺がてっぺん取ったるわ!」って意気込んで転校してきた不器用な男の子が……。

高橋 いろいろな経験を経て「大事なのは仲間なんだ!」って気付く(笑)。

村山 そうそう(笑)。

高橋 すごくストレートな、王道のいい話になっている。

若きプレデター・デクが、仲間を得て、試練の中で成長していく姿を描く「プレデター:バッドランド」

若きプレデター・デクが、仲間を得て、試練の中で成長していく姿を描く「プレデター:バッドランド」

──物語の芯は王道だけれど、今の時代に観るからこそ響くものもありました。

アナイス そうですね。例えば、家族というものがいったん解体されて、1人になる展開を経るというのは、すごく現代的だなと思いました。そこから再構築する流れが印象的でしたね。

村山 アメリカの物語って、大きく分けると“家族に回帰するもの”と“疑似家族を作るもの”があると思うんです。ただ、血のつながりや家系にこだわりすぎると、あまりいい結果にならないというのは昔から多くの物語が描いてきたテーマでもある。西部劇の時代から“血よりも絆”を描く作品はたくさんありますしね。「プレデター:バッドランド」もそうで、「自分でつながりを選んでもいい」というメッセージには誠実さを感じました。