Aぇ! group佐野晶哉×上白石萌歌が語る「トリツカレ男」 | 夢中になることって素晴らしい!好きという気持ちは温かくて尊いもの

劇場アニメーション「トリツカレ男」が11月7日より全国で公開される。いしいしんじの小説をもとにした同作では、何かを好きになると無我夢中になってしまう“トリツカレ男”のジュゼッペと、公園で風船を売る女の子ペチカのラブストーリー・ミュージカルがつづられる。佐野晶哉(Aぇ! group)がジュゼッペ、上白石萌歌がペチカを演じ、柿澤勇人、山本高広、川田紳司、水樹奈々、森川智之も声のキャストとして参加。「映画クレヨンしんちゃん」シリーズの「ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」「謎メキ!花の天カス学園」で知られる髙橋渉が監督を務め、劇団ロロ主宰の三浦直之が脚本、荒川眞嗣がキャラクターデザインを担当した。主題歌はAwesome City Clubが担い、同バンドのatagiは劇中音楽も手がけている。

映画ナタリーでは佐野、上白石にインタビューを実施。アフレコの感想や、音楽経験のある2人だからこそ抱いた歌唱シーンの印象、自らの声にまつわる発見を語ってもらった。加えて初共演となる互いの魅力、歌によって仲を深めたエピソードも。“何かを好きになること”という、本作の持つ根源的なメッセージにも触れた。

取材・文 / 大畑渡瑠撮影 / 間庭裕基

映画「トリツカレ男」予告編公開中

こんな素敵なキャラを演じさせてもらえるなんて、役者冥利に尽きる(佐野)

──お二人ともミュージカルへのご出演経験がありますが、本作のオファーを受けた印象は?

佐野晶哉 ミュージカルアニメーションはずっとやってみたかったので素直にうれしいです。こんなにすぐ願いが叶うとは思ってなくて……。

佐野晶哉

佐野晶哉

上白石萌歌 私もミュージカルアニメーションに挑めることがとても光栄でした。でもドラマや映画のように生身ではない分、普段のお芝居をするとき以上に自分が発する声のトーンや歌のニュアンスを考えなければ、と。難しいチャレンジだなとも感じました。

──原作はいしいしんじさんによる長年愛されてきた小説です。

上白石 家に、いしいさんのエッセイ本があるほどファンでしたので、改めていしいさんの世界に声で命を吹き込めるという喜びがありました。

佐野 僕はオファーをいただいてから原作を知りましたが、読んだときに「こんな素敵なキャラを演じさせてもらえるなんて、役者冥利に尽きるな」と思いました。ジュゼッペは余白の多いキャラクターで、とりつかれる対象によってはガラッと人間性が変わったり、劇中では医者に扮するシーンもあったりとさまざまな面を見せていく。さらにペチカに恋をしたときや励ますとき、照れているときなど、1つひとつの振る舞いで感情がとても揺れ動きます。「これは楽しそうだな」とワクワクしましたよ!

ジュゼッペが太陽ならば、ペチカは月(上白石)

──好きなものに無我夢中になってしまう感情豊かなジュゼッペ、そして天真爛漫だが影となる面ものぞかせる女の子ペチカ。この2人を演じる際に考えたことは?

「トリツカレ男」場面カット。ジュゼッペがペチカに「友達になりたいんだ」と伝えたことで、2人は心を通わせていく

「トリツカレ男」場面カット。ジュゼッペがペチカに「友達になりたいんだ」と伝えたことで、2人は心を通わせていく

佐野 普段よりも高めの声を意識しました。ジュゼッペの顔を見ながら「この人が出しそうな声のイメージはなんだろう?」と。キンキンするほどの音程じゃないけれど、陽気さをなるべく表現できたらと思っていましたね。

上白石 私は「ジュゼッペが太陽ならば、ペチカは月」というイメージをずっと持っていて、ペチカの声で“雪がしんしんと降っている”ような印象を与えられたらと考えていました。最初のほうの芝居を録っているときには、監督から「今の声色だと元気なペチカすぎるね」というアドバイスをいただいたので、普段の自分の芝居よりも引き算をしながら、心に曇りがあるような声を探っていきました。

──個性的なキャラクターである分、アフレコは苦労されたのではないでしょうか。

上白石 もちろん大変だったのですが、アニメーションとしての姿形や動きが事前に決まっているので、実写作品や舞台よりもヒントにできる材料は多かったです。アフレコ前はいただいたラフ映像を観ながら、キャラクターと自分自身の共通点を探る作業をしたり、台本を読みながら声を録音して「もうちょっと音程を低くしてみようかな」など細かい調整をしました。ここまで繊細にやるのはアニメ作品ならではでしたね。

上白石萌歌

上白石萌歌

佐野 ジュゼッペが何かにとりつかれたときのテンポ感、間をどう作るかは悩みましたが、ずっと台本しか参考にしていなかったことに気付いたんです。アニメーションで彼の動きはすでに作ってくれているから、画に合わせていこうと意識することで自然とジュゼッペっぽい声になれた気がします。

上白石 「自分ってこういう声なんだ」という発見もあったよね。

佐野 そうですね! 監督の求めるセリフのテンポや間は今までの自分の芝居よりも速くて、逆に間をたっぷり取る箇所も独特。お芝居の幅が広がりましたし、新たに自分の声を見つけられたような気がしました。

──演じるうえで、特定の誰かをイメージしたりしましたか? 例えば「ジュゼッペはあの人っぽいな」みたいに。

「トリツカレ男」場面カット。“探偵ごっこ”にとりつかれたジュゼッペ

「トリツカレ男」場面カット。“探偵ごっこ”にとりつかれたジュゼッペ

佐野 初めてジュゼッペのキャラクターを知ったときは、同じグループの小島健くんに似てるなと思いましたね。彼も“トリツカレ男”っぷりがすごい(笑)。何かにハマったらずっと一途に追いかけ続け、また別の好きなものを見つけて……という移り変わり具合はそっくりですね。

上白石 わたしはあまり思い浮かばないですが……。ペチカはきっと晴れている日より雨の日が好きそうだな、とか。そういう細かい妄想をしていました(笑)。