第97回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画「
軍事独裁政権が支配する1970年代のブラジルを舞台とする同作。元国会議員であるルーベンス・パイヴァの妻エウニセは子供たちと穏やかな日々を過ごしていたが、スイス大使誘拐事件を境に政情が一変し、ルーベンスは軍に突然連行されて消息を断つ。行方を追っていたエウニセ自身も軍に拘束されるが、絶望の淵に立たされた彼女の声はやがて時代を揺るがす力へと変わっていく。エウニセを
映像には愛する夫と子供たちに囲まれるエウニセの姿が映し出され、やがて成長した娘を海外留学へ送り出すシーンに切り替わっていく。過去と現在をつなぐその演出は8mm(スーパー8)、35mmと質感の異なるフィルムを入れ替えることで作り上げられており、観客はエウニセの視点から時の流れを行き来する体験を味わうことになる。
フィルムを使い分ける構想は企画段階からあり、サレスは、「スーパー8にはホームムービー特有のざらつきや揺らぎがあり、それだけで『これは記憶である』という感覚を直感的に伝える力がある」「35mmフィルムにはその時代へ観客を直接連れていくような粒子感と臨場性を持っている」とそれぞれの特徴を述べ、「アナログ映像が持つ物理的な質感には、あとからデジタル処理でフィルムグレインを加えても決して再現できない、圧倒的な説得力がある」と強調する。
そして1970年代から現代までを描く物語構造にも触れ、「エウニセという1人の女性の多層的な人生と、家族や社会に刻まれた記憶が、数十年をかけてゆっくりと再生されていく。その過程を描くためには時代の区切りにとらわれることはできなかった」と説明。子供たちが母親の思いを受け継ぐ「継承の物語」でもあり、映画の冒頭とラストには、その主題を象徴するような印象的で対となるモチーフが映し出されているという。
なお公開された本編抜粋シーンで背景に流れるのは、エラズモ・カルロスとホベルト・カルロスによる1971年の楽曲「É preciso dar um jeito, meu amigo」。この楽曲は独裁政権下の不正や人権侵害に対する抵抗、そして変革の必要性を歌ったもので、映画の注目に伴ってストリーミング再生が400万回を記録した。映画にはトーレスの提案によって使用されたそうで、ホベルト・カルロスは彼女への謝意をあらわにしている。
「アイム・スティル・ヒア」は8月8日より東京・新宿武蔵野館ほか全国で公開。
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「アイム・スティル・ヒア」監督ウォルター・サレスが仕掛けた“時の流れ”の演出とは、本編映像も到着
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「アナログ映像が持つ物理的な質感には圧倒的な説得力がある」
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