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細田守が高畑勲展で記念講演、愛を爆発させるも「1つだけ気に入らないことがある」

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「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」の様子。左から宇垣美里、細田守。

「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」の様子。左から宇垣美里、細田守。

高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」の記念講演が本日8月3日に東京・東京国立近代美術館で行われ、細田守宇垣美里が登壇した。

本展は、2018年4月に死去したアニメーション監督・高畑勲の業績を総覧する回顧展。1000点を超える制作ノートや絵コンテといった資料を紹介しながら、常に今日的なテーマと新しい表現方法を模索した高畑の創造の軌跡に迫る。

講演は宇垣が聞き手を務めて進行。「かぐや姫の物語」が好きだという宇垣は「走るシーンや桜の下で踊るシーン、すべてに躍動感があって目が離せない。そして、東映動画に入社されたときから構想を練られていたというのがすごいですよね」と語る。細田は「今回の展覧会は『かぐや姫の物語』の企画書から始まり、『かぐや姫の物語』で終わるという、1つの円を成しているような構成がよかった。この作品自体が高畑監督の集大成というか、これまでの作品の要素が入っているんです」と述懐する。

細田は、高畑が関わった作品の中で一番好きなものはテレビアニメ「赤毛のアン」だと述べ「1本の映画を分けて観ているような気分で、テレビ番組を観ている気分にならないんです。1979年の放送をリアルタイムで観ましたし、再放送も何度も見返しているんですけど見るたびに感じ方が違うんです」と語った。宇垣が「高畑監督の性格もあると思うんですが、どの作品も押し付けがましくないというか、人によって受け取り方が違うところも好きです」と話すと、細田は「高畑演出の特徴の1つですよね」と同意。続けて細田は「演出っていろんな目的があって、観客の気持ちや気分を持っていきたい方向に誘導することもあるんですけど、高畑監督の演出には客観性がある。主人公に感情移入させる方法ではなく、主人公を客観的に見て彼らの立場を観客が考えるんです。共感するだけが感動じゃないんだと。今は共感を求められる風潮がありますが、まったくの逆だと思います」と力説した。

宇垣が「アンのキャラクターも魅力的ですよね」と述べると、細田は大きくうなずきながらキャラクターデザインについて語りだす。「面白いキャラクターデザインだなと思いました。近藤喜文さんが手がけられたんですが、アニメキャラって写真をトレースしたようなリアルなものや、マンガマンガしたものになりがちなんですが、その両方のいいところが入っているんです」と述懐。「太陽の王子 ホルスの大冒険」のキャラクターデザインに話が移ると、宇垣が「私はまだ本編を拝見していないんですが、展示でいろんな方が描かれたデザインの変遷を見ていたら好きになってしまいました」と話す。細田は「観ていない!? これからホルスを観て、どういう作品か楽しめるっていうのはすごくいい! いいなあ、若い人はいいなあ」とうらやましそうに述べ、観客を笑わせた。

続けて、細田は宮沢賢治の小説を原作とする「セロ弾きのゴーシュ」で椋尾篁が手がけた背景美術について言及する。「僕の作品もそうなんですが、アニメの美術はリアル主義に偏りがちなんです。ですが、この作品は絵でやるっていうことを主張したような背景美術が素晴らしい」と述懐し、椋尾による同作の背景を、試し描きを含めて数パターン表示しながら解説していく。「やっぱりアニメーションは絵画なんです。美術の世界観によって伝わるものが多いんだと、今では忘れそうになることを思い出させてくれるのが椋尾さんの仕事。あまり一般的に知られていないかもしれませんが、椋尾さんと一緒に制作した高畑さんの素晴らしい作品だと思います」と述べる。

高畑に対して細田は「宮崎駿監督に比べて、絵を描かない監督と言われます。でも『アニメーションにとって絵とは? そもそもアニメーションとは?』という問題意識が強い人だったと思う」と考える。「ほとんどCGアニメに近くなっている実写映画もあれば、ほとんど実写に近いアニメもある。アメリカで『なぜリアルに作れるCGではなく、手描きのアニメを選ぶんですか』と聞かれたときに、それは違うんだよなあと思いました。僕らは手段としてアニメを選択しているわけじゃなくて、アニメを作ることを選択しているんです。実際の人間じゃないものを通して人間を感じたいんだから」と語り、「石ころがコマ撮りで動いていても人間を感じるのがアニメの醍醐味じゃないですか!」と述べた。

宇垣が高畑作品について「CGよりもよっぽど制作が大変なものはありますし、そのシンプルさに胸を打たれることがあります」と語ると、細田は「宇垣さんにそう言っていただけると……」と感謝。細田は「こういうお話をすると、高畑監督が突き詰めることの真反対に行ったことの理由がおわかりになると思うんです。そうでないと、今までは『緻密でクオリティが高いですね』と言われていた高畑監督が『ホーホケキョ となりの山田くん』や『かぐや姫の物語』を作ると、口の悪い人は手抜きとかいうわけですよ。違うでしょ! ひどいよ!と言いたいです。クオリティという言葉の意味をわかっていない」とひざをたたきながら熱弁する。「作品の美的価値は、そういう物差しや単純な言葉で推し量れるものじゃないと言いたいです。『かぐや姫の物語』などは本質的にどうすごいのかということを感じてくださるといいなと思う」と訴えかけた。

自身の監督作「未来のミライ」が第71回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、現地入りしていたことから、高畑のお別れ会に出席が叶わなかった細田。映画祭では「高畑が亡くなったことは、日本のアニメにどう影響を及ぼすか」と質問されたといい、「高畑監督が亡くなったからといって、監督が積み上げてきた作品作りの方法や物語のテーマ性を広げていくやり方を、日本のアニメ界が失うわけにはいかない。ここで終わらせず、誰かが引き継がなければいけないんだと言いました。高畑さんが問いかけてきたことや問題意識、テーマ、表現はこれから誰が引き継ぐのかということを問われていると思います」と述べる。

最後に細田は「今まで超信者のオルグみたいに語っていましたけど、高畑監督について1つだけ気に入らないことがあるんです」と語りだす。「高畑監督は絵が好きゆえに、絵を動かしちゃうんですよね。『ホーホケキョ となりの山田くん』では花札の絵とか古典絵画を動かすんです。それはなしです。絵は動かないけど、動いているように見えることを楽しむものですから。でもそういうところも動かしたくなるのは、高畑監督が絵を愛している証拠だと思います」と苦笑し、会場の天井を見上げ「どうでしょうか?」と天国の高畑に語りかけた。

「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」は10月6日まで同館で開催。

高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの

2019年7月2日(火)~10月6日(日)東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー
開館時間 10:00~17:00(金曜・土曜は10:00~21:00)※入館は閉館30分前まで
料金:一般 1500円 / 大学生 1100円 / 高校生600円
※中学生以下、障害者手帳を提示した本人およびその付添者1名は無料

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