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山戸結希の“人生を狂わせた”塩田明彦、「影響の連鎖がうれしい」

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「山戸結希監督が塩田明彦監督に尋ねる『みずみずしさの映画術』」の様子。左から山戸結希、塩田明彦。

「山戸結希監督が塩田明彦監督に尋ねる『みずみずしさの映画術』」の様子。左から山戸結希、塩田明彦。

山戸結希塩田明彦のトークショーが本日9月22日、東京・東京国立近代美術館フィルムセンターにて開催された。

塩田の著書「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」にちなみ「山戸結希監督が塩田明彦監督に尋ねる『みずみずしさの映画術』」と銘打たれた同イベントは、現在開催中の第39回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)の一環として実施。塩田が監督を務めた「月光の囁き」の上映後に行われたトークで山戸は「高校生の頃『月光の囁き』を観て衝撃を受けました。映画監督はこんなにも素晴らしい作品を作れるんだと思ったんです。そして塩田監督の『映画術』を読んだあと、改めてこの作品は映画自体を更新するような映画であり、新しい芸術が生まれるときのみずみずしさを持っていると感じました」と本作を称賛する。

原作を描いたマンガ家・喜国雅彦について塩田は「喜国さんは『僕は100万人の人に自分のマンガを読まれたいとは思わない。でも1人の人間の人生を狂わせたいと思いながらマンガを描いている』とおっしゃっているんです。そして僕は狂わされた。この作品で商業デビューができて、しかもフィルムで撮れたことが幸福だったと改めて思いました」とコメント。続けて「その映画が山戸さんの人生を狂わせたんだとしたら、影響の連鎖がうれしい」と笑顔で語った。

「月光の囁き」は2度クランクインが延期されたことを明かした塩田は「プロデューサーが無理やり企画を通したんですけど、2度インが飛び迷惑をかけてしまったこともあって、決まっていたロケ地が貸してもらえなかったんです。しかも準備期間は10日しかなくて、仕方がないからまず屋外の場面を撮影可能な川沿いに全部書き直した。そうやって無理やり撮影に入った」と振り返る。そして「主人公の拓也の部屋も見つからなくて、スタッフが通りすがりで見つけたプレハブメーカーの工場のモデルルームを使ったんです。僕は撮影当日の朝に初めてその部屋を見て、その日に拓也の部屋のシーンをすべて撮り切った」と現場のタイトな状況を語り、「全然時間がないことは案外素晴らしい。考える時間なんてなくて、とにかく撮るしかない。だから用意した毛布がごわごわ過ぎて体にまとわりついて、想定している動きを役者ができなかったりした。でもそのおかげで、初体験の不器用な感じが出てよかった」と述懐した。

山戸から「ご自身のインスピレーションが沸かない役者の方とも一緒に作品を作れますか?」と率直な質問を投げかけられた塩田は、キャスティングにはこだわりがあると前置きしつつ「でも自分の理想が常に成立するわけじゃない。想定していない人が現場に来ることはある。そのとき僕は、圧倒的な自信を持って『誰が来ても大丈夫』という態度で現場にいる」と回答。さらに「『期待しないで撮ろう』と思って演出するのと、『この人はこれまでに見せていない引き出しを持っている』と思って俳優と向き合うのとでは結果はぜんぜん違う」と自身の経験を伝える。

「いつも役者さんの人生で一番美しい瞬間を撮りたいと思っている。それが汚く見えても」と述べる山戸は「テストのときのみずみずしさが失われることがある。テイクを重ねることによってどんどん悪くなることもあると思うのですが」とリハーサルの必要性を塩田に問う。その問いに塩田は「僕は脚本を書いた段階で、頭の中でカット割りができている。リハーサルをやるのは、役者に動いてもらうことによって頭の中にできてしまったカット割りを壊すため。つまり発見のためにリハーサルをしているんです。現場でその人の魅力を見つけ出そうと接しているから、役者もモチベーションを上げてくれる」と答える。

最後に主催者側から山戸へのアドバイスを求められた塩田は「映画を撮るチャンスが来たら撮ったほうがいい。それだけ。万全の条件はない」と断言。「『月光の囁き』のような原作に出会うことは人生に1度しかない。本当に好きな原作を映像化することにはプレッシャーが伴う。強い思い入れのない原作でも、どうしたら面白くなるか考えたほうがいい」と続ける塩田に、山戸は「今日教えていただいたことを受けて自作を撮りたいと思います。観客に『映画を撮りたい』という欲望をインストールさせるような作品を撮りたい。『映画は人の手によって作られたもの』という認識を持ってから観る映画は爆発的に面白いので」と意欲を語った。

第39回PFFは9月29日まで開催される。

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