「リンダ リンダ リンダ 4Kデジタルリマスター版」のBlu-rayが1月21日に発売される。山下敦弘が2005年に発表した同作は、文化祭直前にバンドを組んだ高校生たちが、THE BLUE HEARTSの楽曲をコピーすると決め、3日後の本番に向けて練習する様子を描いた青春映画だ。ペ・ドゥナが韓国からの留学生でボーカルのソン、前田亜季がドラムの山田響子、香椎由宇がギターの立花恵、関根史織(Base Ball Bear)がベースの白河望を演じ、劇中バンド・パーランマウムはCDデビューも果たした。
映画ナタリーでは、ソフトの発売を記念し、パーランマウムの4人にインタビューを実施。20年ぶりに再集結した心境や、当時の思い出を語ってもらった。さらにBlu-rayで何度も観たいお気に入りのシーンも聞いている。
取材・文 / 金子恭未子撮影 / 清水純一
ここまで愛される作品ってなかなかない(ペ・ドゥナ)
──1月21日に「リンダ リンダ リンダ 4Kデジタルリマスター版」のBlu-rayが発売されますが、これを機会に新たに作品に出会う人もいるのではないかと思います。
ペ・ドゥナ 初めてご覧になる方は2時間、本当に楽しくて、たくさん笑えるのではないかと思います。とにかく自信を持ってお薦めできる作品です。私もいくつか映画に出演していますが、ここまで愛される作品ってなかなかない。これから出会う方がうらやましいです。
前田亜季 本当にそうだね!
香椎由宇 これを機会に興味を持ってくださる方がいたらうれしいです。観てみようかなと思ってもらえたら、私たちは勝ったなというか(笑)。
一同 (笑)
香椎 観ていただければ、絶対好きになってもらえる自信があります。特にこう観てほしいということはなくて、何も考えずに観てほしいです。
前田 純粋に楽しんでほしいですね。私は10代の甥っ子が2人いるんですけど、若い世代の人がこの作品を観てどう思うのか、感想がすっごく聞きたいです。カセットテープがあるアナログ的世界はどう見えるだろうって。
ペ・ドゥナ 今の若い人たちは、映画を早送りしたり、倍速で観る文化がありますよね。でもこの作品はぜひ早送りせずに観てほしい。細かい描写に魅力がありますし、それがゆっくりとしたテンポの中でとても生きています。
一同 うん、うん。
関根史織 この映画って、言ってしまえば女子高生がTHE BLUE HEARTSをコピーするだけの作品なんですよね。それだけ聞くと、もしかしたら暑苦しいものを想像するかもしれないですが、そういうものとはひと味違った魅力を持つ作品だと思います。サブカルの匂いがして、すごく不思議な映画。20年経って、その独特の魅力って伝わらないのかな?とも思ったんですけど、リバイバル上映されて、そのムードを見ていると、今も面白がって観てもらえるのかなと感じます。
──8月21日に行われた前夜祭舞台挨拶では20年ぶりにパーランマウムがそろいました。胸が熱くなったファンも多かったと思います。
香椎 メイク中に「ソンちゃん来たよー!」と言われて、メイクさんに「いったんメイクは置いておいていいですか?」って聞いて(笑)。
前田 会いに行きたくてね!
関根 そうだったねー。
香椎 ちょっと緊張していたんですけど、みんなあの当時のままだから一気に時間が戻った感じで。舞台挨拶の最後、はけるときにドゥナがドアにぶつかったんです。それを見たときに変わってないなと思って、ほっとしちゃって(笑)。再会した日は夢心地のような気分で過ごしていました。
ペ・ドゥナ 再会する前はすごく緊張していたんですが、4人で再会できて、監督ともお会いできて、まるで夢のような舞台挨拶でした。泣きそうになりましたし、胸が張り裂けそうでした。「リンダ リンダ リンダ」はローバジェットでスタートして、みんなで団結して、心をひとつにして作った映画なんです。そんな作品を皆さんに評価してもらい、公開から20年経って4Kでもう一度上映していただくというのはすごいことだと思います。
前田 もう一度あんなに大きなスクリーンで観られるなんて、こんなに幸せなことってなかなかないなと思いました。会場も満員で、お客さんから“待っていました!”という思いが伝わってきて、うれしかったです。本当に「リンダ リンダ リンダ」は恵まれた作品だなと思います。
関根 再会する前は私も緊張していたんですが、会ったらみんな、本当に変わってなくて、それがすごくうれしかったです。楽しい時間でしたね。
──この20年間、やはりお互いの活動は刺激になっていましたか?
香椎 私はすごく気になっていました!
ペ・ドゥナ 私も気になってた!
前田・関根 (うなずく)
香椎 次、何やるのかな? どこで撮影しているのかな? どこでライブやっているのかな?って。
前田 そうだね。同級生の友達を応援する気持ちだよね。
関根 そうそう。
──共演者とはまた違った感覚ですか?
ペ・ドゥナ そうですね。永遠の友達、永遠の同僚を得たような気持ちなんです。
音楽によって、ひとつになれた(前田)
──前夜祭舞台挨拶ではソンに思いを寄せるマッキーこと槙原裕作を演じた松山ケンイチさんがサプライズで登場し、劇中の告白シーンを再現しました。ペ・ドゥナさんはセリフを覚えていたんですか?
香椎 よく、すぐ出たね!
ペ・ドゥナ あのセリフは撮影しているときから変わったセリフだなと思っていたんです。「嫌いじゃないけど、好きじゃない」ってある意味残酷。こんな言い方ができるんだって、脳裏に焼き付いていて(笑)。もしかしたら日本では一般的な告白の断り方なのかもしれないんですが。よく話す言葉なのかな?
香椎・前田・関根 違う、違う!
ペ・ドゥナ あー! じゃあ「リンダ リンダ リンダ」ならではのセリフなんですね(笑)。
──現場では皆さんで日本語と韓国語を教え合っていたと聞きました。
ペ・ドゥナ 金出せ!とか(笑)。
前田 私たち変な言葉を教えてる(笑)。逆に변태(ピョンテ)って言葉を教えてもらったり。
ペ・ドゥナ 変態という意味です(笑)。
一同 (爆笑)
香椎 そんなふうに学生のノリで単語を教え合っていましたね(笑)。
ペ・ドゥナ 現場ではおなかが空いても「おなか空いたー」なんて言えないじゃないですか。だからみんなで「배고파(ペゴパ=韓国語でおなかが空いたという意味)」と言ったりしていました。
──Blu-rayに収録されているメイキングを拝見しましたが、仲の良さが伝わってきました。
香椎 当時は常に一緒にいましたね(笑)。
ペ・ドゥナ みんな10代、20代前半だったと思うんですけど、3人がプロフェッショナルだったことをとてもよく覚えています。ライブをやり遂げるんだって、カメラが回っていないときも必ず練習していた。不平不満を言わないこの3人のおかげで、現場での立ち居振る舞いの基準が上がってしまいました。
前田・香椎・関根 恐れ多い!(笑)
香椎 私たちが基準というか、「リンダ リンダ リンダ」の現場が基準になっていると感じます。デビューしてから、この作品が私にとって3作目なんですが、あの頃は香椎由宇としてできあがっていない頃。そんな中で、韓国からペ・ドゥナさんが来るし、さらに亜季ちゃんは前田亜季としてできあがっているし、史織ちゃんはプロのミュージシャンだし。私はどの立ち位置でいればいいんだろう?ってそわそわしていたんです。でも現場に入ったらそんなの気にならないぐらい楽しくて。ホテルではそれぞれの部屋があるのに、キムチや豆腐を持ち寄って、誰かの部屋に集まっていました。もう何をやるにしても楽しかった。当時、私は高校生だったんですが、こっちの学校生活のほうが楽しかったです(笑)。
前田 ただただみんなで楽しく過ごしていましたね。今思うとありがたい時間だったなと思います。リハーサルをしていても楽しかったですし、のんちゃん(関根)が練習を始めたら、みんなつられて演奏を始めたり。そういういい空気感がありました。
関根 そうだったね。映画公開にあたってパネル展示をやっていたんですが、当時、お互いに撮り合った写真が飾ってあったんです。それを見返すと、みんな自然に抱き合ってる(笑)。
前田 そう! ベタベタしてた(笑)。
関根 すごい仲良かったんだなって。
香椎 今も仲いいよ!
関根 そうなんだけどね(笑)。距離が近かったなって。青春でしたね。
ペ・ドゥナ 音楽が私たちにもたらしてくれたものが大きかったと思います。
前田 音楽につないでもらったね。スタジオで初めてみんなで合わせたとき、すごく楽しかったんです。私たちの演奏が曲になった!ってうれしくて。あのときのことは今でも覚えています。音楽によって、ひとつになれたのかなと思います。
得体の知れないエネルギーが込もった作品(関根)
──4K公開にあたって上白石萌歌さんら著名人も熱いコメントを寄せていましたが、皆さんはなぜ20年経った今でも、この作品が愛され続けていると思いますか?
ペ・ドゥナ コピーバンドが登場する、音楽が題材の青春ストーリーというのはこれまでもたくさん作られています。そんな中、この作品にはTHE BLUE HEARTSが伝えようとしているメッセージが盛り込まれている。世界各国、それぞれ文化に差がありますが、この映画にはそういったものを超えて伝わるユーモアがあると思うんです。「リンダ リンダ リンダ」は老若男女問わず、笑わずにはいられない作品。さらに映画の中で描かれるストーリー、感情、感性は誰でも共感できるものだと感じます。
香椎 10代が持っているリズムってあると思うんです。大人になると1日が短く感じるけれど、高校生の頃はとても長く感じることがあった。彼女たちのリズムで過ごした時間を本当にそのまま映画に残してくれたので、同じように過ごした人に共感してもらえるのではないかと思います。
前田 等身大で、何者でもない4人がそこにいる。観る人たちも、彼女たちを見ながら、自分が過ごしてきた日々を思い返せる。とても物語に入りやすい作品だと思います。あとはやっぱり山下監督独特の低めのテンションが作品にぴったり。監督すごいです!
関根 この映画はすごく面白いけれど、いわゆる大衆に向けて作られた映画ではないと思うんです。だから、なぜこんなに評価されるんだろうって、出演している自分でもわからない。でも、キャスティングや監督の演出など、いろんなことが本当にうまくいったと思います。そこに何かマジックがある。得体の知れないエネルギーが込もった作品だと思いますね。
──だからこそ、この20年間、何度も映画を観返しているファンがいるのではないかと思います。皆さんはどんなときに、「リンダ リンダ リンダ」を観返していましたか?
前田 ここ2人(ペ・ドゥナと香椎)は観てないんですよ!(笑)
一同 あははははは(笑)。
ペ・ドゥナ 私は自分が出演した作品をなかなか観返せないんです。
香椎 私も! 今回、よく4Kの試写に行ったなって(笑)。
ペ・ドゥナ 撮影で100%が出せたと感じても、どうしても足りない部分があるんじゃないかと思ってしまって。現場ではモニタも観られないですし、試写で観ても“もっとできたんじゃないか”という部分が気になってしまう。でも前夜祭の日に20年ぶりに「リンダ リンダ リンダ」を観て、なかなかうまくやってるじゃないか!と思えました。
──前田さんと関根さんはいかがですか?
前田 すごく好きな作品なので私はふとした瞬間に観たくなります。あとは自信がないときに観て、私はこんなにいい時間を過ごしたんだ!って励まされます。
関根 本職で音楽をやっているので、フェスに行ったりするんですが、いろんなところで「『リンダ リンダ リンダ』の人だ!」「すごい好きです!」と声を掛けられるんです。そのたびにすごい熱量で愛情を伝えてくれるので、そんないい映画だった?って観返します(笑)。
前田 ほかの映画は観返したりできないけど、これだけは観返したくなる。「リンダ リンダ リンダ」には魔法が掛かっているんです。
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胸を張って「観て!」と言える映画(香椎)
