TVer10周年!成長のそばにはいつもドラマがあった、取締役・佐竹正任インタビュー
「下町ロケット」での好スタート、「silent」で見えてきたサービスが果たすべき役割
2025年11月14日 17:30 1
民放各局が制作したテレビコンテンツを無料で楽しむことができる動画配信サービス・TVerが、10月26日に10周年を迎えた。
同じく2015年に誕生した映画ナタリーでは、現在10周年企画を展開中。その第3弾として、TVer取締役の佐竹正任氏にインタビューを実施した。佐竹氏いわく、TVerは「下町ロケット」「silent」「潜入捜査官 松下洸平」といったドラマとともに成長してきたという。また映画が配信されることはめったにないが、最近では風向きが変わってきたという話も。この10年を振り返ってもらった。
取材・
TVerは協調領域の象徴
──10周年おめでとうございます。今では多くの人がTVerでさまざまなテレビ局の番組を観るようになりましたが、ライバル企業でもある在京民放5社(日本テレビ放送網、テレビ朝日、TBSホールディングス、テレビ東京、フジ・メディア・ホールディングス)が1つのサービスのために一致団結したことに、当時は驚いた人も多かったと思います。TVerはどのような経緯で誕生したんですか?
TVerに出向する前はフジテレビ編成部の人間としてTVerに関わっていたので、全容を把握しているわけではないんですが、とにかくユーザー目線でいいサービスを作りたいという思いで連帯したんだと思います。競争領域と協調領域という考え方があって、テレビ局は視聴率や営業成績で競い合う関係性にもありますが、協調領域の象徴がTVerなのではないかなと。在京5局を中心にスタートしましたが、今では在阪民放5社(読売テレビ放送、朝日放送テレビ、MBSメディアホールディングス、関西テレビ放送、テレビ大阪)が資本参加しており、各地の独立局から番組を提供していただくこともあります。世界を見渡しても、ここまで多くのテレビ局の番組が無料で観られるサービスはTVerしかないんです。
──テレビ局の関係性は変化してきているんですね。
そうですね。「手を取り合って何かできることはないか」という考えにもとづいた取り組みはTVerのローンチ後に加速していて、例えば2024年9月には在京民放5社によってテレビCM考査センターが設立されました。これによってCMの内容が放送基準に適合しているかの確認が一本化されて、今までよりもスムーズな考査が実現していると聞いています。
──YouTubeなどのプラットフォームの台頭により、テレビ局の連携を強化していかないとまずいという意識があるんでしょうか?
危機感もありますが、もっとシンプルに「手を取り合って連携できるところは連携することで、より多くの人に良質なコンテンツを届けられる。そしてそれは各局の成長にとってもよいことである」という考え方がベースにあると思います。
──今はドラマ、バラエティ、アニメ、ニュース、スポーツなどTVerで配信されているジャンルは多岐にわたっていますが、ローンチ時の番組数はどれくらいでしたか?
在京5局で10コンテンツずつ出しましょうという話だったので、最初は約50番組です。今ほど配信が主流ではなかったので、権利の手続きはどうすればいいのか、テレビ局からTVerにどう動画を渡せばいいのかなど、50番組集めるまでに相当な苦労がありました。翌年2016年には約90番組、2017年には約150番組まで増えて、今では常時800を超える番組を配信しています。そしてそれらの番組が毎週のように更新されていくことは、ほかの配信プラットフォームにはないTVerの強みだと思っています。
「silent」が示したTVerの役割
──特に人気のジャンルはありますか?
圧倒的にドラマです。TVerはドラマとともに成長してきたと言ってもいいと思います。一番最初に配信したドラマは池井戸潤さん原作、
──「下町ロケット」のほかに反響が大きかったドラマは?
──今では多くのドラマの3話までがクールの終わりまで配信されていますが、「silent」がきっかけだったんですね。
ちょうどそういったことを考えていた時期に「silent」の放送があったというのが正直なところです。こんなに面白いドラマがあるのでぜひ知ってほしいという気持ちはありましたし、3話まで観ていただけたら作品のファンになってもらえる自信もありました。ドラマ全般に言えることですが、1話だけではその作品が面白いのかどうか判断がつかないことも多いと思うんです。3話までTVerに出すことでテレビの視聴率が下がってしまうのではないかという声もありましたが、実際には「silent」は最初は配信で火がついて、放送が進むにつれて視聴率が上がっていきました。いつでも3話まで観られることによって作品のファンが社会現象のように増えていき、SNSにも「『silent』で泣いた」という感想があふれ、テレビのリアルタイム視聴も増加するという理想的な展開となった。これこそがTVerが果たすべき役割なのかなと今も思っています。
──「3話まではTVerで観られるからまだ追い付ける」といった考え方も浸透してきていますよね。その後、2023年9月にはTVer初のオリジナルドラマ「潜入捜査官 松下洸平」が配信されました。在京民放5局のバラエティ番組(「ぐるぐるナインティナイン」「あざとくて何が悪いの?」「ラヴィット!」「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」「全力!脱力タイムズ」)に
当時TVerに出向していた小原(一隆)くんというプロデューサーが企画したドラマなんですが、彼はテレビ局が手を取り合ってコンテンツを作れないかということをずっと考えていました。各局それぞれでは難しいけれどTVerだったらできることはないか、ということを起点に局のドラマ担当が集まって話し合い、バラエティ番組を絡めたフェイクドキュメンタリーのような作品は面白いんじゃないかというアイデアが出てきました。私はフジテレビの担当として参加していましたが、各局を横断することでしか到達し得ないステージを見てみたいと、参加者は目を輝かせていたように思います。結果的に多くの方に観ていただけて、TVerでしかできないことはまだまだあるという気付きのきっかけになった作品です。
──ちなみにここ最近でよく観られているのはどのドラマでしょうか?
風向きが変わってきた映画配信
──ドラマ以外では、どんな施策がTVerを成長させてきましたか?
コネクテッドTV(インターネットに接続可能なテレビ)の分野に力を入れて、テレビでもTVerを楽しめるようになったことが大きいです。先日「東京2025世界陸上」がありましたが、テレビで放送されている内容のリアルタイム配信もしつつ、そのほかの競技も楽しめるように4本の回線でライブ配信を実施しました。
──私もTVerで観ていましたが、複数の競技を同時に追うことができてすごく便利でした。
ありがとうございます。2026年2月の「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」でも同じようなことをやりたいと考えています。
──これも“TVerでしかできないこと”ですね。10月25日からは実写映画「
映画は複数の企業が出資する製作委員会方式で作られることが多いため権利関係も複雑ですし、有料のプラットフォームで配信されている場合、TVerで無料配信されてしまっては困るという事情もありました。しかし、ちょっと風向きが変わってきていて、TVerが月間4000万ユーザーを超えるまでに成長したことで、TVerで作品を観てもらうことのプロモーション効果がデメリットを上回ると感じていただけるようになってきました。同様の理由でアニメも最初は少なかったんですが最近は増えていて、TVerの成長がコンテンツの幅を広げることにつながっています。
──シリーズの新作映画が劇場公開されるとき、テレビで過去作の放送があったりしますが、それと同じようなプロモーション効果を期待されるようになってきたということでしょうか?
そうですね。こういうケースは増えていくと思います。すでに何件かご相談もさせていただいています。
安心・安全を守り続ける
──最近は縦型ショート動画の機能がリリースされました。
配信されている番組の見どころを切り抜いた映像などが集まっていて、TikTokを観るような感覚で楽しんでいただけます。番組の数が多いので何を観ればいいのか迷うこともあると思いますが、気になった番組の本編にすぐに飛べる仕組みになっているので、コンテンツへの新しい入り口として使っていただければと思っています。
──今後もTVerを含むさまざまな配信プラットフォームが進化していき、新しいサービスも誕生すると思います。その中でTVerを使ってもらうために大事なことはなんだと思いますか?
多くの方がお茶の間でテレビを観る時代は数十年続きましたが、インターネットが普及し、最近は日常的にAIを使う人も増えるなど、世の中はすごいスピードで変化しています。コンテンツ視聴の仕方に関してもこれまで以上の速度で変革していくと思うので、「こうすればうまくいく」というのは正直わかりませんが、必ず守らなければいけないと思っているのは安心・安全なコンテンツを提供し続けるということ。テレビ局は放送法にのっとって番組を作っているので、TVerがそうなるのは自然なことではありますが、今後どれだけ進化したとしても、コンテンツ・広告・サービス・プロダクトなどTVerで目に触れるものはすべて安心・安全を保っていく必要があると思っています。もちろん過激な描写を含む素晴らしい作品は世の中にたくさんあって、例えば去年Netflixで配信された「地面師たち」は個人的にも、ものすごく面白かった。ただTVerが目指すべきは、小さなお子さんからお年寄りまで誰でも楽しめて誰もが話題にしやすいコンテンツの集合体になり、新たなコンテンツに次々出会っていただける機会を提供することだと考えています。
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