ヒット作はこうして生まれた! Vol. 12 [バックナンバー]
「赤い糸 輪廻のひみつ」配給・葉山友美&小島あつ子が語る異例のロングラン上映の舞台裏、“今の台湾映画”への思い
上映を終わらせたくない一心で歩んだ約2年を振り返る
2025年11月15日 12:15 10
2023年12月に日本で封切られた台湾映画「
なかなか日本で公開されない中、手を挙げたのはこれまでも個人で台湾映画を配給してきた葉山友美と小島あつ子。さまざまな困難にぶつかる中、上映を終わらせたくない一心で約2年間、宣伝活動を続けてきたという。
ヒット作の裏側を関係者に取材する本企画では、そんな2人にインタビューを実施。異例のロングラン上映の舞台裏、“今の台湾映画”への思い、目指す未来を聞いた。
取材・
台湾映画が日本で配給されにくい事実に気付いた(葉山)
──お二人は、これまでも個人で台湾映画を配給されてきました。台湾映画をお好きになったきっかけを教えてください。
葉山友美 両親が台湾出身なんですが、台湾エンタメにはもともとそんなに興味がなかったんです。「悲情城市」や「カップルズ」などは観ていたけれど、台湾ニューシネマをさほど追うこともなかった。ただ映画は好きだったので、叶井俊太郎さんが社長だったトルネード・フィルムに入社することになったんです。でも半年ぐらいで潰れちゃって(笑)。その後はトランスフォーマーという配給会社に数年いました。ちょうど業界に入った頃に公開されたのが台湾で大ヒットした「
一同 (笑)
葉山 それまでは台湾映画ってちょっと荒削りなイメージがあって、自分に刺さるものに出会っていなかったんです。でも「GF*BF」は、粗なんかなくて、完璧だった。そこからさらに台湾映画に興味が湧いて、留学中にも現地の劇場でなるべく新作を観るようにしていました。そこで心をつかまれたのが、のちに自分で配給することになる「
──個人で楽しむのではなく、配給したいと思ったのは映画関係の仕事をしていたのが大きかったんでしょうか?
葉山 というよりも、私の語学力だと理解しきれなかったのが大きいと思います。「台北セブンラブ」は台湾からDVDを取り寄せたんですが、やっぱりちゃんとはわからなくて、プロの字幕付きで観たいと思いました。せっかく字幕を付けるんだったら、皆さんに観てほしいし、ペイもしたい。不純な動機なんです(笑)。だから小島さんは不思議。だって台湾の書籍を翻訳して出版もしている人ですから。
小島あつ子 内容をきちんとわかりたいので、やっぱり日本語字幕で観たいですよ(笑)。そのために立ち上げたのが台湾映画同好会(※)でした。
※編集部注:日本未公開・権利切れ映画の自主上映を行う会
葉山 私がもし、完璧に中国語がわかっていたら、配給しようという考えに至らなかったかも。100%楽しみきれないのが悔しいんです。最新のハリウッド映画を日本の劇場で楽しむのと同じように台湾映画を観て最高!って言いたい。それが私の原動力。でも小島さんみたいに翻訳者として活動していても、日本語字幕付きで台湾映画を楽しみたいって思うんだね。
小島 一生、そういう感覚だと思います。書籍の翻訳も成り行きで、しなきゃいけない状態になったので(笑)。
葉山 そんな成り行きある!?
一同 (笑)
小島 最初に“成り行きで”翻訳することになったのは、昨年配給した「
葉山 台湾作品にはこだわってなかったの?
小島 でも、台湾ドラマがよかったかな。韓国ドラマも放送されていたけれど、ハマれなくて。台湾の作品って“人がいい”感じがあるじゃないですか。決定的な悪人を作らない世界に癒やされたんです。当時は台湾の芸能情報を紹介してくれる番組がやっていて、映画の情報も知ることができた。そこで「雞排英雄(ナイトマーケット・ヒーロー)」が2011年の春節に上映されるということを知ったんです。たまたま中華航空の機内上映で観たら、すごく面白くて。同じ年に封切られたのが、ギデンズ・コー監督の「あの頃、君を追いかけた」でした。当時はまだ渋谷の香港王や、新宿の東方糖菓(アジアンドロップス)が営業していたので、直輸入のDVDを買って観ていたんです。「あの頃、君を追いかけた」は主題歌「那些年」のMVがよかったし、これは絶対面白いはず!と思って、娘と一緒に観始めたら、いきなり下ネタで始まって(笑)。
葉山 びっくりするよね(笑)。
小島 結局、夜に1人で観直しました。そんなことをしているうちに台湾映画にハマっていったんですが、日本で観られる作品はすごく限られていた。だからもっと台湾映画のことが知りたくて、本を読み出したんです。そこに必ず登場するのが「台湾ニューシネマ」「ホウ・シャオシェン(侯孝賢)」「エドワード・ヤン(楊德昌)」「海角七号」でした。でも台湾ニューシネマがなんなのかもわからないから、本の内容が全然入ってこなかった。それで、ホウ・シャオシェンとエドワード・ヤンの作品を古い順に観ていこうと。
葉山 すごい!(笑)
小島 ホウ・シャオシェンって誰?という状況だったので、観るしかなかったんです(笑)。それで、ホウ・シャオシェン監督たちが手がけた「坊やの人形」のDVDに入っていた田村志津枝さんの映画解説を読んで、台湾の近現代史を初めて知ることになった。もちろん台湾が日本に統治されていたことは知っていたんですが、その後のことはよくわかっていなかったんです。映画を通して歴史を知っていくのがすごく面白くて、どんどん沼にハマっていきました。ちょうどそのタイミングで「台湾巨匠傑作選」が始まった。シネマート六本木が閉館する前に行われた台湾映画特集も観に行きました。
台湾映画はニューシネマだけじゃなく、いい作品がいっぱいある(小島)
──台湾ニューシネマが好きだからといって、新しい台湾映画にハマるとは限らないですし、その逆もしかりだと思うんですが、小島さんはどちらもお好きになったんですね。
小島 私はどちらも好きですね。ただ、今はどちらも仕事にしているからこそ、その溝の深さを感じます。どうやったら埋められるんだろう?と。
葉山 日本では台湾映画と言えば、いまだに台湾ニューシネマなんですよね。ニューシネマが強すぎる。お客さんもすごい入っていて、いいなーって(笑)。
小島 わかる、わかる。
葉山 「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」のリマスター版をやるとなったら、やっぱりお客さんがめちゃくちゃ入りますよね。ニューシネマは固定のファンがいるから。一方で、“今の台湾映画”を配給することの難しさも、痛感してしまう。お客さんが入らなければ、そりゃ配給会社は買わなくなっちゃうよねと。「言えない秘密」や「あの頃、君を追いかけた」が日本で公開された時期はもうちょっとお客さんが入っていた気がするけれど、ここ何年かは厳しい状況が続いている気がします。最近でこそ「本日公休」や「鯨が消えた入江」のようにヒット作もありますが。
小島 2017年にエドワード・ヤン監督の「台北ストーリー」の4Kデジタル修復版が公開されるときに、「SNSの運営をしてもらえませんか?」と声を掛けられて、それが私にとって初めての商業映画のお仕事です。ホウ・シャオシェン監督と「風櫃の少年」以降のホウ・シャオシェン監督作品の脚本を手がけたチュー・ティエンウェン(朱天文)さんが来日するから取材に同席させてもらうことになって。台湾ニューシネマに関わっていた映画人の話を紐解いていくと、ニューシネマ以前からニューシネマ以降に続く人と人との関係性がすごく密で魅力的なことに気付かされました。映画人を縦・横に線でつなぎながら台湾映画を追っていってもすごく面白いんですが、日本ではホウ・シャオシェンだから、エドワード・ヤンだからと、有名作家の作品ばかりに注目が集まってしまって、そのほかの監督やスタッフ、俳優を起点につながりで追うことが難しい。日本で一般公開されていない作品の中にもたくさんいいものがあるので、もったいないと思います。
葉山 ちょうど小島さんが台湾映画を好きになった時期の作品は、面白いのに日本で配給されていない作品も多いよね。
小島 そうですね。ハマって、調べていくうちに、台湾でヒットする作品というのは、台湾の人たちにとって自分たちの物語だということがわかっていきました。逆に海外受けのいい作品というのは、実は台湾で全然ヒットしていなかったりする。
葉山 確かに、台湾ニューシネマは台湾では観られていないものもあるからね。
小島 初期作品は観られているんですよね。台湾の人たちにとって自分たちの物語だから。もちろん「悲情城市」もそう。私個人の好みとしては、台湾の土着的なものが描かれている作品が好きなので、台湾でヒットした作品は自分にもフィットする気がしています。だからと言って、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の作品が好みじゃないかと言われれば、大好きだし。両方フラットに観ています。2018年から、「台湾巨匠傑作選」の“中の人”をやることになったので、特集で扱う作品も観る一方で、今まさに台湾でヒットしている映画も並行して観ることになりました。台湾映画はニューシネマだけじゃなく、いい作品がいっぱいあるのにと思います。
葉山「赤い糸」もようやく日の目を見てきたけれど、映画ファンに届ききってはいないと感じますね。
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映画『赤い糸 輪廻のひみつ』公式 @yuelao_jp
「ヒット作はこうして生まれた!」
Vol. 12は……
まさかの「#赤い糸輪廻のひみつ」🤣
Vol. 11 は「教皇選挙」のこのコーナー。
他にもっとヒットしていて有名な作品がゴロゴロあるなか、本作を抜擢して下さった映画ナタリーさん😭
もう愛しかないです❤️🔥
皆様ぜひご一読下さい🥰 https://t.co/geHQbrfm7O