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ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第58夜 [バックナンバー]

選者 / 野水伊織「サンクスギビング」

殺人鬼はとってもお料理上手、鑑賞後はお肉を食べたくなるはず

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ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。

第58回は、野水伊織イーライ・ロスの「サンクスギビング」を熱量たっぷりに紹介。込められた風刺、謎解き&ゴア要素のバランス、料理上手な殺人鬼ジョン・カーヴァーについて楽しく語ってくれた。

/ 野水伊織(コラム)、田尻和花(作品紹介)

感謝祭の翌日に感謝を忘れる人々…風刺がピリッ

「サンクスギビング」場面写真

「サンクスギビング」場面写真

新年、あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます、野水伊織です。

さてさて、まさに元日も年の始めの記念日ではあるが、記念日にまつわるホラー映画といえば、やはり作品数も多いハロウィーンが印象深いように思う。
あともしかしたら最近日本でも頭角を現してきたイベント、イースターもこれからの注目株かもしれない。記念日を題材にしたオムニバスホラー「ホリデイズ」(2016年)でもテーマになっていたし、昨年12月公開の「ファミリー・ディナー」で取り扱われたばかりだ。
しかし「ホリデイズ」でも触れられず、日本ではゲーム「どうぶつの森」くらいでしか馴染みのないであろう記念日を知っているだろうか? それは感謝祭(サンクスギビング)。
私の大好きなイーライ・ロス監督の新作「サンクスギビング」が、今まさに公開中なのでおすすめしたい!

感謝祭(サンクスギビング)発祥の地・マサチューセッツ州プリマス。
年に一度の祝祭ムードの中、ダイナーで起きた殺人事件を皮切りに、次々と人々が消えてゆく。
一方その頃、同じ高校に通うジェシカたちのグループは、“ジョン・カーヴァー”を名乗るInstagramの投稿に自分たちがタグ付けされたことを知る。
その投稿には、ジェシカたちの名札が配置された食卓が写っていた……。

サンクスギビングというのは、イギリス人がメイフラワー号という船で新天地アメリカに降り立った翌年、苦難を乗り越え初の収穫を祝ったのが由来と言われている。
だがそんな慎ましやかな歴史とは真逆に、現代では、感謝祭の翌日にはブラックフライデーが開催されるという。
「サンクスギビング」も、ブラックフライデーで起きたとある悲劇から幕を開ける。プレゼント欲しさに押し寄せた客たちがマーケットのドアを破り、押し合いへし合いで死人まで出る大惨事に発展してしまうのだ。
これがなんなら本編中で一番むごい。実際にあった事件が基になっているというのもあるが、状況は違えど日本で起きた事件にも通ずるものを感じるから怖いのだ。
このあたりは、「グリーン・インフェルノ」(2013年)で過激な環境保護活動を行う学生がアマゾンの原住民に食い荒らされる皮肉を描いたイーライらしいとも言える。
だってねぇ。感謝祭の翌日に感謝を忘れ、辺り構わず消費行動に躍起になる人間、愚かとしか言いようがない!風刺がピリッと効いている。

それでもテーマやメッセージが強いホラーにせず、娯楽としてのホラーに落とし込んでくれるのがイーライ・ロスのいいところではないだろうか。
今作は「殺人鬼の正体は誰?」という、「フーダニット(Who done it)=誰がそれをやったのか?」の謎解き要素とゴア要素の塩梅が面白い。あいつもこいつも動機があって怪しいな~と思っている間に、人がどんどん死んでゆく。
しかもこの殺人鬼ジョン・カーヴァー、とってもお料理上手。調理器具を正しく使って獲物を調達したり、じっくりお料理するシーンは必見。予告にもある、サンクスギビングの料理といえばコレ!なお料理シーンは、ホラー好きは間違いなくテンションが上がるヤツだ。鑑賞後はお肉を食べたくなるはずなので、劇場近くのお肉料理屋さんをチェックしておくといいかも。

そのくらいポップで軽快に人死にを描いているのに、ギャグになりすぎないギリギリを保っているのがイーライの上手いところだと思う。
昨年末の東京コミコン2023のステージ、「東京“怖”コン」に登壇した際、「イーライ・ロスは新作から逆順で観る方が見やすいかも」という話が出たのだが、確かに今作はR18+と言えど、ゴア初心者にも安心しておすすめできる痛さレベルだ。初期の「ホステル」(2005年)目指して、ここからイーライ作品マラソンをしてみるのも一興かもしれない。

そしてご存知の方も多いかもしれないが、本作「サンクスギビング」、元々は2007年のアンソロジー映画「グラインドハウス」の中の、フェイク予告の一本として製作されたもの。それが16年経って本当に映画として公開されるのだからまぁ夢があるッ……!
当時のシーンの再現などもあるので、鑑賞前に「グラインドハウス」のコンプリートBOXを持っているお友だちに見せてもらうなどすると、ちょっとお得な気分が味わえるぞ!(もちろん観てなくても最高に楽しめます)
余談だがこのフェイク予告、全5本中これが3本目の映画化である。となると残り2本も……と夢が膨らむではないか。「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年)のエドガー・ライト監督が手がけた「Don’t」も観たいんじゃ~~~! そこに出ている推しのサイモン・ペッグちゃんの出演ホラーが観たいんじゃ~~~!(嬉しいけど最近はミッション・インポッシブルばっかりでね)

もう! 野水さんたら話がすぐ逸れる! すみません。
そんなわけで(?)、映画初めには景気良く人が死にまくる「サンクスギビング」はいかがでしょうか?
一富士、二鷹、三七面鳥。2024年もホラーに生きていきましょう!

「サンクスギビング」場面写真

「サンクスギビング」場面写真

「サンクスギビング」場面写真

「サンクスギビング」場面写真

野水伊織(ノミズイオリ)

野水伊織

野水伊織

北海道出身、声優。2009年放送のアニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせ、以降テレビアニメ「デート・ア・ライブ」「ムヒョとロージーの魔法律相談事務所」、ゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」に参加している。現在は配信番組「まろに☆え~るのYouTube LIVE」に出演中。

「サンクスギビング」(2023年製作)

「サンクスギビング」ポスタービジュアル

「サンクスギビング」ポスタービジュアル

映画「グラインドハウス」内で流れた架空の予告編「Thanksgiving」を手がけたイーライ・ロスが、16年の時を経て自ら長編映画化した本作。感謝祭(サンクスギビング)発祥の地とされる米マサチューセッツの田舎町を舞台に、清教徒集団の指導者ジョン・カーヴァーのお面をかぶった殺人鬼が残虐なやり口で人々を殺めていくさまが描かれる。
「魔法にかけられて」のパトリック・デンプシーや、アディソン・レイマイロ・マンハイムジェイレン・トーマス・ブルックスネル・ヴェルラークリック・ホフマンジーナ・ガーションが出演した。配給はソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが担当。なお全米では大ヒットを記録しており、続編の製作が決まっている。

※「サンクスギビング」はR18+指定作品

「サンクスギビング」全国公開中

映画「サンクスギビング」予告編

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読者の反応

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野水伊織 @nomizuiori

【お知らせ📢】
映画ナタリーさんのリレーコラム 『今宵も悪夢を』今回は公開中『サンクスギビング』について書きました🦃🪓

今年の映画初めもポップなゴアで景気良く行きましょう!! https://t.co/I94DPABc4y

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