映画館で待ってます 第6回 [バックナンバー]
“面白いことをなんでもやる”名画座:東京 新文芸坐 前編
「朝、誰もいない場内に入って座るんです。音しないんですよ? でも、“声”が聞こえるんです」
2022年3月25日 12:05 30
観客に作品を楽しんでもらうだけでなく、映画の多様性を守るための場所でもある映画館。子供からシニアまでが集まる地域のコミュニティとしての役割を担う劇場もある。
本コラムでは全国各地の劇場を訪ね、各映画館それぞれの魅力を紹介。今回は東京都にある新文芸坐を取材した。2000年12月に名画座「文芸坐」を引き継ぎ、以来21年にわたり多くの映画人から親しまれてきた劇場だ。映写設備の老朽化に伴い1月31日に休館。約2カ月間の改装工事を経て、4月15日にリニューアルオープンを迎える予定だ。
このたびの取材では、長い歴史に幕を下ろすのではなく、新時代の名画座として「進む」ことを選んだ同劇場のマネージャー・花俟良王と営業部 部長 / 支配人の高原安未にインタビューを実施。前編ではこれまでの歩みを紹介し、4月15日掲載予定の後編ではリニューアルの詳細や将来像について話を聞いた。
取材・
“面白いことをなんでもやる”のが新文芸坐のスタンス
──21年の歴史の中で印象深いエピソードを聞かせてください。
花俟良王 挙げればキリがないほどありますが、一番古い思い出は
高原安未 常連のおばあさんはノートに毎日観た映画のことを思い思い書いて帰るんです。小さいボロボロのノートに観る前・観たあとのことを書いていて、それを何年も続けられている。
花俟 もちろん追悼上映をするうえでさまざまな葛藤はあります。反対の声もいただきますが、ファンの方が望んでいるのであれば絶対にやるべきだと思っています。やっぱりみんなスクリーンで観たいんですよ。
──ファンの方々の気持ちに柔軟に応えられるのも名画座のいいところですね。
花俟 そうですね。ミニシアターそれぞれに個性があるものですが、260席のキャパシティは大きいと思っています。旧文芸坐は2つスクリーンがあって、今では1つの大きな箱になった。“面白いことをなんでもやる”のが新文芸坐のスタンスで、ふざけたことも含めて皆さんが受け入れてくださった。怪獣映画からホラー映画、文芸映画と全部ひっくるめて「いい体験をしてください」と提供し続けている。その信頼のおかげでここまでやってこれています。
「こんなに面白いんだ!」という発見をしてくれることは日常茶飯事
──花俟さんが思う、映画館で映画を観る魅力とは。
花俟 映画って映画館で観るために作られているんですよね。現代の映画は違うかもしれませんが、私たちが上映する古い映画は間違いなく映画館で観るために作られています。それはテレビやスマートデバイスではわからないことがあるから。例えば、
──名画座としてうれしい感想なのでは?
花俟 そうなんです。映画館で映画を観る素晴らしさを今の若い世代に伝えるのが使命だと思っています。スマートデバイスで映画を観ることもいいんですが、本来の映画の醍醐味を味わえていないはず。
みんなで笑って泣く、それが映画体験
──映像や音のよさはもちろん、上映後に拍手をしたりしてみんなで娯楽を共有できるのも映画館の醍醐味ですよね。
花俟 みんなで笑って泣く、それが映画体験です。「
高原 35mmフィルムの存在は知っているかもしれないけど、その仕組みを伝える機会ってめったにないですよ。
──まだまだ面白いエピソードがたくさんありそうですね(笑)。
花俟 コロナ前は応援上映がいろいろな劇場で開催されていたと思います。「
“人の世を坐る(まもる)”名画座として進み続ける
──本当にいろんな思い出が詰まった場所なんですね。
花俟 朝、誰もいない場内に入って座るんです。音しないんですよ? でも、“声”が聞こえるんです。オカルトでもロマンチックなことでもなくて、ここで長く働いていると染み付いた声が聞こえる。この話は別のメディアでしたことがあって、それを読んだ地方の劇場の方から「私も聞こえます」と反響がありました。そういう染み付いたものを大事にしていきたいし、文芸坐を作り上げた先人の思いを受け継いでいきたい。上映後に泣きながら出てくる方を見ると「やったぜ!」と思うんです。誰かの人生が変わった瞬間、その場所に立ち会える喜びは何ものにも代えがたいですね。
高原 歴史を振り返ると、1948年の人世坐からスタートしています。“人の世を坐る(まもる)”と書いて人世坐。お客さまに楽しんでいただける、人の世を坐る名画座としてこれからも進んでいきたいです。人世坐時代は
花俟 当時、大島さんの「
高原 時代は変われどスピリットは変わらない。受け継いできたものを存在意義としていますが、当時失敗したことは繰り返さないようにしていきたいですね。
花俟 この場所にどんな思いや涙、笑いが染み付いているのか。考えるだけでドラマチックです。
──素敵なお話をありがとうございます。
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新文芸坐 @shin_bungeiza
ナタリーさんに取材をしていただきました!
前半です!
※写真は休館前のものです
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