中国映画「She Has No Name」(原題「酱园弄」)のジャパンプレミアが第38回東京国際映画祭で開催され、東京・ヒューリックホール東京で行われたQ&Aに監督の
本作は1940年代、日本占領下の上海で実際に起こった殺人事件にインスパイアされた物語。劇中では主婦のジャン・ジョウが、夫を殺害し遺体を切断した容疑で逮捕される。単独の犯行と決めつけた警察による尋問と虐待に耐えるジャン・ジョウ。そんな中、彼女は無罪を勝ち取ろうとする。
2024年のカンヌ映画祭で上映されたが、その後、全面的な再編集を経て今年の上海国際映画祭でスクリーンにかけられた本作。今回の東京国際映画祭でも同バージョンが上映された。ピーター・チャンは「初めて脚本を読んだのは2015年のことだったのですが、そのときに完全にこの作品に魅了されました。脚本の段階ではとても長い物語で、今回上映したものは完成版ではないんです。ただしっかりとエンディングもあるので、1本の作品としても楽しんでもらえると思います」と紹介し、「実際は1993年まで物語が続きます。戦後に再審があり、それによって彼女が受ける刑は変わっていきます。もっと長尺の作品で、あと2時間半残っています」と説明した。
ピーター・チャンは、脚本の段階からヘンリック・イプセンの戯曲「人形の家」が本作のベースにあったことに触れ、「土台でありつつも、8年かけて企画を実現させていく中で私の考えや好みを少しずつ付け足していきました」と語り、「1945年頃の中国のフェミニスト運動も『人形の家』の影響を受けていました。『She Has No Name』は1940年台の上海が舞台ですが、ジャン・ジョウをサポートしようとする1人の女性記者の記事で世論が変わっていく様子や、家庭内暴力など、現代でも共感してもらえるストーリーラインだと感じています」と伝えた。
観客から権力の構造がとてもうまく表現されていて心に残ったという意見が飛ぶと、ピーター・チャンは「この作品の意図をとても理解してくださっている」と喜び、「権力を持つ者は弱者を押さえ付けますが、大きな権力を持っていてもさらに権力を持っている人がこの世には存在している。そして権力者だった人間もまた犠牲になることがある。この映画を撮る際にはカメラのアングルを意識していました。権力を持つものは高いところから、弱者は低いところから撮っています」と言及する。長い制作期間の中で起こった社会問題が、本作に影響を与えたのか?と問われると「世界中でさまざまな変化が起こっていますが、映画を作るうえで影響は受けていません。なぜなら権力者が弱者を押さえ付ける構造は昔から変わっていないからです」と回答。そして「この作品を最後まで撮って見えてきたのは、世界や国が常に変わっていく中で、人間はちっぽけだというテーマでした。ジャン・ジョウが生き延びることができたのは正義や良心のおかげではなく、ただ単純にラッキーだったからです。個人の希望というものはささいなもので、政治の中でいかに生き抜くかが我々の運命だと感じています」と口にした。
また彼は「本作は、今まで私が手がけてきた監督作とは大きく違う作品です。これまでは温かみがあって、ドラマティックでメロウでとてもポジティブな作品が多かった。この作品は私が手がけたものの中で、もっとも悲観的な作品だと思います。ダークでどんよりとした空気が漂っている。私の多くのファンはセンチメンタルなものを求めていると思いますが、今回はがらっと雰囲気を変えています。自分のことを“楽観的な悲観者”というふうに言うんですが、今回はどちらかというと私の悲観的な部分が大きく出ている作品です」と口にした。
第38回東京国際映画祭は11月5日まで東京の日比谷・有楽町・丸の内・銀座エリアで開催。
中国映画「She Has No Name」(原題「酱园弄」)予告
第38回東京国際映画祭 概要
会期・会場
開催中~2025年11月5日(水)東京都 日比谷・有楽町・丸の内・銀座エリア
映画ナタリー @eiga_natalie
ピーター・チャン「酱园弄」プレミアに登場、制作して見えてきたテーマを語る
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1940年代、日本占領下の上海で実際に起こった殺人事件にインスパイアされた物語。章子怡、王伝君、易烊千璽、趙麗穎、雷佳音、楊冪らが共演
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