Denkikan外観

映画館で待ってます 第11回 [バックナンバー]

1911年創業、何もない場所から“街を作ってきた”劇場:熊本 Denkikan編

「人が集まって来る場所、そういう存在であり続けられたら」

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観客に作品を楽しんでもらうだけでなく、映画の多様性を守るための場所でもある映画館。子供からシニアまでが集まる地域のコミュニティとしての役割を担う劇場もある。

本コラムでは全国各地の劇場を訪ね、各映画館それぞれの魅力を紹介。今回は熊本県熊本市内の繁華街に佇む、1911年創業の歴史ある劇場Denkikanを取材した。4代目館主・窪寺洋一氏が劇場と街の変遷、上映作品の選び方、九州の映画館同士の関係、今後やってみたい企画を語る。

取材・文・撮影 / 田尻和花

4代目館主として、メジャー系からアート系映画へ路線変更

──Denkikanは100年以上続く映画館で、2003年の第13回日本映画批評家大賞では映画館として初めて特別賞を受賞しました。劇場の歴史を簡単に説明していただけますか?

Denkikanの近くにあった芝居小屋で、私の曽祖父が映画を上映したのが始まりでした。曽祖父は活動弁士としても全国を巡業していたのですが、九州を訪れた当時、熊本には映画常設館がありませんでした。なので、芝居小屋を借りて1911年に電気館をオープンしました。そして1914年に現在の場所に移り、現在まで映画を上映しています。

大正時代のDenkikan(当時の名称は電気館)。

大正時代のDenkikan(当時の名称は電気館)。

──何度か建て替えをして今4代目で、窪寺さんも4代目の館主だそうですね。大学時代はアメリカに留学して、以前は東京で仕事をされていたとか。後継者といった立場で映画の勉強をされていたんですか?

いえ、大学時代は映画の勉強をしに行ったわけではないんです。ただ、ラスベガスで行われていた映画や映写機などの見本市に日本からたくさんの方が来ていて、帰りにロサンゼルスに寄っていた。そして当時僕が住んでいたロサンゼルスには、松竹が映画館を持っていました。Denkikanはもともと松竹系列だったこともあり、担当の方が見本市に来られるタイミングで、僕もロサンゼルスで話をしたりする機会はありましたね。

東京で仕事をしていたときも映画とは関係のない仕事をしていたんですが、1995年12月に4代目の建物がオープンする前に熊本へ戻って来ました。父が経営していたときはメジャー作品を上映することがほとんどでしたが、ミニシアターブームもあって、今のようにアート系の作品を多く上映するようになって。1995年当時はこのあたりに映画館が5軒(10スクリーン)あって、どこもメジャー作品を掛けていたので、うちはアート系の作品を扱っていくのがいいだろうと思ったんです。ただ最初は3スクリーンあるうち2つは松竹が直営していたこともあり、こけら落としでは大友克洋監督作の「MEMORIES」を掛けた記憶があります。

作品ジャンルは幅広く上映、熊本出身の監督・俳優が参加した作品も意識

Denkikan受付

Denkikan受付

──作品の選定はどういった基準で行っているんでしょうか?

現在Denkikanには3スクリーンあるので、幅広いジャンルから選んでいます。あまりこだわらず、ドラマ系もあればドキュメンタリーもあり、邦画洋画問わず。多いときは1日で9、10作品を上映しています。熊本出身の監督・俳優の方の作品は掛けるようにわりと意識はしていますね。例えば、行定勲さんの場合は「GO」で広く認知される前から監督作を上映していました。

──行定さんとは親交が深いそうですね。

行定さんと僕は同い歳なんですよ。うちでは長編監督2作目の「ひまわり(2000年)」を最初に掛けたんです。「ひまわり」の配給をやっていた方と僕が仲良しだったんですが、「いい映画ですよ」と35mmフィルムが送られて来たので試写をして観て、「いい作品だね、やろう」ということになって。そのときに「熊本で上映されるなら」と行定さんも熊本に帰って来た。うちで舞台挨拶をしたわけではなかったんですが、僕が空港に迎えに行って、いろいろ話しているうちに仲良くなって。そこからずっと、という感じです。熊本出身の俳優だったら高良健吾くんや、橋本愛さん、芋生悠さんがいますよね。舞台挨拶にもいらっしゃったりするので、そういう意味では地元出身の方とは話す機会があります。

──音楽ドキュメンタリーも多く上映されているんだなと感じました。

そうですね、音楽系は多いです。このあたりにはライブハウスがたくさんあるので、音楽やジャズに興味がある方もたくさんいて。知らない方からメールで要望が来たり、ライブハウスを経営している知り合いから「この作品をやってほしい」という声をもらいます。

──熱心なお客さんがいらっしゃるんですね。どんなお客さんが来ているんでしょうか?

平日はシニアの方が多いですが、土日はわりと若い方も来てくれます。最近若いお客さんが増えた気がしますね。わざわざ鹿児島から来られるような方もいるんですよ。先ほども話しましたが、昔はこのあたりは“映画の街”という感じでしたが、今はそうでもなくなってしまいました。ただTOHOシネマズ 熊本サクラマチさんがすぐ近くにできたので、うちとしては相乗効果が生まれればいいなと思っています。あちらでメジャー作品を観て、うちでアート系の作品を観て……と1日で行き来しているお客さんも多いんです。

──Denkikanで上映した中で印象深い作品はありますか?

ミニシアターブームだったときは、うちでも「アメリ」といった作品を掛けましたが、まさかあそこまで入るとは。何週やったかわからないですよ。1日4、5回上映してもお客さんをさばけない日が出てきて、来ていただいてもお断りするしかないような状況でした。当時はミニシアターが元気がよかったので、とにかく人が入ったイメージがあります。ウォン・カーウァイ作品やフランス映画もたくさん観てもらって。

行定勲監督作「いっちょんすかん」に登場する大きな絵が印象的な2階

──Denkikanで特徴的な場所と言えば、受付やカフェスペースがある2階エリア。ブルーの壁面がきれいですが、内装もこだわられたんですか?

このビルを建てたあと、2階部分に若干改装を加えたんです。アート系の作品も多いので、そういう雰囲気にしようかと(笑)。旅行に行ったりすると映画館に行くんですが、面白いな、ここすごいなという劇場がやっぱりあるんです。そういうところを参考にしつつ、熊本出身の建築家の方と進めました。今は大きい絵を置いているので、よりアート的な雰囲気が出ているのかもしれないですね。

Denkikan受付フロアの様子。

Denkikan受付フロアの様子。

テーブルもこだわりの一点。

テーブルもこだわりの一点。

──奥様の綾さんが描いた絵ですよね。もともと行定さんからの依頼で手がけたとお聞きしました。

そうです、映画「いっちょんすかん」で使いたいと行定さんに依頼されました。劇中では壁画というていで登場します。映画が終わったあとに、せっかくだからしばらくどこかに飾ろうとなって2階に置くことになったんです。

スクリーン2の前に飾られている、「いっちょんすかん」のために描かれた絵。

スクリーン2の前に飾られている、「いっちょんすかん」のために描かれた絵。

──カフェスペースも素敵ですね。ここで買った飲み物を劇場内にも持ち込めていいなと思いました。

ちなみにカフェの店主も映画好きなんです。以前は彼も参加していましたが、うちのスタッフは、朝日新聞(熊本版)に映画紹介コラムを毎週寄稿しているんですよ。カフェには今までの連載の切り抜きも保管しています。

Denkikan受付フロアにある「珈琲しもやま」。

Denkikan受付フロアにある「珈琲しもやま」。

連載の切り抜きを見せてくれた窪寺洋一氏。

連載の切り抜きを見せてくれた窪寺洋一氏。

──では上映スクリーンのお話も。2階スクリーンで映画を拝見しましたが、とにかく居心地がよかったです。2階スクリーンは96席、3階と5階のスクリーンは140席ですね。

3階スクリーンには少し大きめの舞台があり、舞台挨拶やライブができるような作りになっています。また3階と5階のスクリーンは椅子屋さんと話し合って、前列だけ少し角度を倒して設置したんです。

九州のほかの映画館と協力して企画を実施中

──Denkikanにはフィルムの映写機もあるそうですね。

使うのは1年に1回くらいなんですけどね。昔の作品は35mmフィルムしかないのでそれに使ったり、「映画ミーツ浪曲」といった特集上映でもフィルム上映をしています。ここ3、4年くらいは「映画ミーツ浪曲」特集を九州の映画館何カ所で一緒にやっていて。浪曲師さんと曲師さんの旅費なども掛かりますから、みんなで割って協力し合っています。

──九州各地の映画館で力を合わせると企画も実現しやすいわけですね。

そうなんです。監督や俳優の舞台挨拶に関しても、九州を一気に回るときは映画館同士でスケジュールを話し合います。うちは土曜日、あちらは日曜日と。35mmフィルムの時代だったらなかなかできなかったんですけどね。昔はフィルムが2、3本しか用意されていなかったので、映画館の距離が遠かったら配送が間に合わなかった。熊本で終わったあとに大分でやるとなったら、1週間余裕を見ないといけなかったんですね。輸送の時間もあるし、バラバラに分けられたフォルムをつなぎ合わせる作業もあるので。上映期間が終わったらまたバラして次のところに送るわけです。

──なるほど。九州のほかの映画館の方々とはどのように交流が始まったんですか?

昔は福岡まで週に1回、多いときは2回くらい試写を観に通っていました。試写室が熊本になかったんです。試写に行くと九州の劇場の方が来ていて、大分のシネマ5の田井(肇)さんや、今は閉館してしまったシネテリエ天神やシネ・リーブル博多駅の方もいて。劇場の方々と親しくなって情報交換もしましたし、東京の配給会社の作品を扱っている代理店のような会社もあったので、みんなで会って話をしていました。今も田井さんとお付き合いしていますし、福岡・KBCシネマの宮定貴子さん、宮崎・宮崎キネマ館の喜田惇郎さん、鹿児島・ガーデンズシネマの黒岩美智子さんとも。新しくできた映画館の皆さんとも仲良く情報共有しています。

何もない場所が繁華街に…映画には文化を作る力がある

──それでは、今後やっていきたい企画はありますか?

レイトショーをやってもっと多くの作品を上映したいですね。レイトショーって昔はシネコンでもけっこうお客さんが来たんですが、いつの間にか夜の回には来なくなった。うちも以前は夜の1回だけ上映するような作品もあったんですが、あるときからまったく人が入らなくなって。ただ東京でやっている映画を、熊本だとおそらく30%くらいしか掛けられていないと思うんですよ、おそらく。東京はレイトショーだけで上映している作品もあるでしょう? そのあたりは全然カバーできていない。もしかしたら興行的には厳しい映画かもしれないですが、そういった取りこぼしているような作品もレイトショーや夕方の時間帯でやっていきたいなと社内で話しているんです。チャレンジ枠として1週間だけでもいいし、1日だけでもいい。

──期間限定や1回だけと言われると、つい興味をそそられます(笑)。

1年53週と考えたら、1つのスクリーンだけでも年間53本できるわけですよね。絶対にこの時間帯に来ないと観れないという形で、1週間ずつやっていくのもいいんじゃないかなと。

──長い歴史を持つDenkikanですが、この映画館は熊本の人々にとってどういう存在でありたいですか?

聞いたところによると、このあたりは創業当時何もなかったような場所だったんですね。今のような商店街ももちろんなくて、映画館ができたことによって人が集まって来て、周りに飲食店もできて、このような繁華街になっていった。そう考えると、映画には文化を作る力があると思うんです。この付近には映画館がいくつもあったんですが、なくなってしまった。でも、まだここで営業できているDenkikanをこれからも続けていきたいなと思います。ミニシアターが厳しい厳しいって言われてて、実際にどこも厳しいですけどね(笑)。人が集まって来る場所、そういう存在であり続けられたらいいなと思っています。

Denkikan外観。館内から手を振って見送ってくれた窪寺氏夫婦。

Denkikan外観。館内から手を振って見送ってくれた窪寺氏夫婦。

Denkikan上映スケジュール

上映中

PERFECT DAYS
骨なし灯籠
悪は存在しない
無名
マリア 怒りの娘
ジョン・レノン 失われた週末

5月17日公開予定

正義の行方
インフィニティ・プール
ゴッドランド/GODLAND

5月24日公開予定

マンティコア 怪物
かづゑ的
燃えるドレスを紡いで

5月31日公開予定

霧の淵
エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命
ありふれた教室

6月7日公開予定

妖怪の孫

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子どもの頃はサンロード新市街に10館以上あった映画館も徐々に減ってDenkikanだけに😢

『プリンス ビューティフル・ストレンジ』みたいにシネコンではかからない渋い映画を上映してくれるDenkikanは最後の砦🙏 https://t.co/7CnyMIb7v5

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