左から「劇場版アイカツ!」キービジュアル、「ムーンシャーク」DVDジャケット(右 / 販売元:アルバトロス)©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO ©2014 BNP/BANDAI, AIKATSU THE MOVIE

すべての道はサメ映画に通ず(?) 第2回 [バックナンバー]

「アイカツ!」×「ムーンシャーク」

神崎美月から星宮いちご、そして大空あかりへ /「ジョーズ」からアサイラム、そして世界中の夢見るインディーズ作家たちへ

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サメ映画ではない作品を「サメ映画的である」とこじつけて語る、サメ映画ルーキーによる連載「すべての道はサメ映画に通ず(?)」。「KING OF PRISM」×「シャークネード」に続く第2回では、「アイカツ!」と「ムーンシャーク」を取り上げる。神崎美月から星宮いちご、そして大空あかりへ。「ジョーズ」からアサイラム、そして世界中の夢見るインディーズ作家たちへ……魂のバトンは受け継がれていく。

/ サメ映画ルーキー

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大空あかりが辿った道と、アサイラムが歩んだ道

アイカツ!×プリパラ THE MOVIE -出会いのキセキ!-」で10年分の涙を流した皆様、こんにちは。本来はサメ映画ではない作品に対して「サメ映画的である」と言い掛かりをつける連載、第2回は「アイカツ!」と「ムーンシャーク」である。どう考えても無茶な組み合わせであることに間違いないのだが、筆者の幻視と幻聴にお付き合い頂ければ幸いである。なお、先に断っておくと、今回の劇場版で奇跡の共演を果たした「プリパラ」シリーズは、随所でサメが顔を出すので、改めて言うまでもなくサメ映画である。全国のプリパラアイドルたちは、この記事を読まずに今すぐさまざまなサメ映画を観て欲しい。

「アイカツ!」とは、アイドル養成学校「スターライト学園」でトップアイドルを目指す女の子たちが、アイカツ!カードを使って様々なアイドル活動(=アイカツ!)に励む、スポ根サクセスストーリーである。一見すると女児向けのキラキラしたシンデレラストーリーに見えるかもしれない。だが、その実態は「崖を登る」「斧で木を伐採する」「発声訓練を兼ねた走り込み」「トランポリンを用いた跳躍特訓」といった物理的なトレーニングが日常的に行われる、極めて硬派なスポ根アニメである。彼女たちは様々な壁にぶつかりながらも、アツいアイドル活動に全力で取り組んでいく。そして何より、この作品の真髄は、先輩から後輩へと受け渡される熱い魂のバトン──「継承」のドラマにある。
……お気づきだろうか?
巨大な先人が作った歴史にがむしゃらに挑み、自分たちの地平を切り拓く。そう、この構造は、サメ映画の歴史そのものなのだ。

「アイカツ!」3rdシーズンのキービジュアル ©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO ©2014 BNP/BANDAI, AIKATSU THE MOVIE

「アイカツ!」3rdシーズンのキービジュアル ©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO ©2014 BNP/BANDAI, AIKATSU THE MOVIE [高画質で見る]

「アイカツ!」3rdシーズンから4thシーズンの主人公、大空あかり。彼女の物語は、その登場時の髪型からも分かるように、憧れの星宮いちごの“模倣”から始まった。彼女が唯一無二の“アイドル・大空あかり”としての自分を見つけるまでの艱難辛苦は、本編をご覧になった方ならよくご存知のはずである。大空あかりファンから張り倒されそうなことを言うが、これはサメ映画界の雄・アサイラム(アメリカの映画会社)とかなり重なるところがある。彼らもまた、「トランスフォーマー」を模した「トランスモーファー」や、「クローバーフィールド/HAKAISHA」にインスパイアされた「バトルフィールド TOKYO」など、大ヒット作のパッケージやタイトルを徹底的に模倣する「モックバスター(便乗映画)」からスタートしたのだ。もちろん、アサイラムに大空あかりのような高い志があった訳ではないのだが……。何はともあれ、あかりが辿った道も、アサイラムが歩んだ道も、入り口は同じ “模倣” だったのである(正確に言えばアサイラムには更に前史があるが、今回は割愛する)。

月の裏側にサメ文明を築き上げ、単為生殖に成功

だが、ただの模倣ではトップにはなれない。アサイラムは「メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス」「ダブルヘッド・ジョーズ」、そして「シャークネード」といったオリジナリティ溢れる奇抜なサメ映画を連発し、「サメ映画といえばアサイラム」という独自の地位を築いた。ここで思い出すべきは、「アイカツ!」の“地下の太陽”こと三ノ輪ヒカリの存在だ。彼女はネットライブを中心に活動し、表舞台とは異なる場所、すなわちスターライト学園の地下にあるスタジオで熱狂的なファンを獲得した。あえてメインストリームの光が届かない“地下”に潜り、そこで独自の輝きを練り上げたのである。

この生存戦略は、「サメ映画のトップランナー」という我が道を見出したアサイラムの、そして何より今回取り上げるサメ映画「ムーンシャーク」の設定を強く想起させる。本作に登場するサメたちの出自はあまりに悲しい。彼らは冷戦時代、旧ソ連によって「サメと人間のハイブリッド兵器」として生み出された怪物(キメラ)である。制御不能と判断された彼らは、地球から追放され、誰もいない月の裏側へと打ち上げられた。普通のサメならそこで死に絶えるだろう。しかし、彼らは諦めなかった。極寒と暗闇の中で40年もの間、血のにじむような努力を続けたのだ。その結果、彼らは月の裏側にサメ文明を築き上げ、単為生殖に成功し、人類に対する強大な脅威にまでなったのだ。……サメ映画に慣れ親しんでいない読者には意味が分からない話に聞こえるかもしれないが、サメ映画ファンを自称する私も理解に苦しむストーリーである。

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum [高画質で見る]

アイドルは努力を人に見せない、それはサメ映画も同じ

三ノ輪ヒカリが地下という場所で、彼女でしか持ち得ない強烈な個性を確立したように、ムーンシャークたちもまた、誰にも観測されない月の裏側で、常識外れの進化を遂げていた。サメが何をどうすれば文明を築けるようになるのか全く想像出来ないし、本編でその辺りが詳しく描写されることもないのだが……。さらに、「ムーンシャーク」にはセルゲイ博士という天才が登場する。旧ソ連で生物兵器研究に携わっていた彼は、暴走したハイブリッドシャークを道連れにスペースシャトルで宇宙へと旅立った。月に降り立った彼は酸素の生成や食物栽培に成功し、長らく一人で生き延びてきたのである。だが、そこに至るまでの彼の努力は一切描写されない。重要なことは大体画面の外側で起こるのがサメ映画である。

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum [高画質で見る]

セルゲイ博士の「人に見えない努力」は「アイカツ!」のトップアイドル・神崎美月を思い起こさせる。幼少期から芸能界に身を置き、順風満帆なキャリアを歩んでいた神崎美月は、伝説のユニット「マスカレード」のライブを目撃し、その輝きに瞳の奥を灼かれてしまった。彼女はその衝撃ゆえに、これまでのキャリア、子役としてすでに築かれていた既存のレールから自ら降りることを選んだ。全ての芸能活動を休止し、誰も知らない場所で特訓を重ねる「空白の1年」を選んだのである。1年後、スターライト学園のアイドルとして、かつてのマスカレードのように鮮烈なデビューを果たした神崎美月は、瞬く間にトップアイドルへの階段を駆け上がっていった。しかし彼女はその頂に到達した後も、努力を怠ることはなかった。その痕跡は、スターライトクイーンとして彼女が過ごした専用寮(通称・美月パレス)のレッスンルームの床にしっかりと刻まれている。

「アイカツ!」1stシーズンのキービジュアル ©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO ©2014 BNP/BANDAI, AIKATSU THE MOVIE

「アイカツ!」1stシーズンのキービジュアル ©BNP/BANDAI, DENTSU, TV TOKYO ©2014 BNP/BANDAI, AIKATSU THE MOVIE [高画質で見る]

アイドルは努力を人に見せない。それはサメ映画もまた同じなのである。サメ映画がそうなるのはただ単に手を抜いているか予算が足らないという可能性も排除できないが、そういうことにしておいて欲しい。そんな神崎美月は、「劇場版アイカツ!」で星宮いちごに対し覚悟を込めた言葉を告げる。
「トップアイドルを譲るわけじゃない。あなたに奪われたいの。いちごの時代を作って」
至高にして孤高の存在であるがゆえに、自らに相応しいライバルを欲し、いちごを導いてきた彼女の喜びと不安、寂しさがない交ぜになった叫びだ。そして自身の予言通り、自らが君臨し続けてきたアイカツランキングの1位をついに星宮いちごに明け渡すこととなった。

伝説のマスカレードに憧れ、誰よりもストイックに頂点を目指し、孤独な月として輝き続けてきたのが神崎美月である。しかし、いちごという太陽が自分を追い抜き、ランキングが変動したその瞬間、彼女は絶望していただろうか?
否。彼女はかつてないほど穏やかな笑顔で、後輩の成長を祝福していたはずだ。孤高の玉座を後輩に“奪われる”ことで、彼女はようやく呪縛とも言える己への追求から解き放たれ、一人のアイドルとして、本当の意味でのアイカツを楽しむことができるようになったのである。

アサイラムによって弄り回されたサメたちも、全く同じだ。かつて彼らは「海の恐怖」「シリアスなパニック映画の悪役」という役割を背負わされていた。しかし、「ジョーズ」という王者は無言のうちに語っていたはずだ。「私の模倣はいらない。私の時代を終わらせてみせろ」と。実際にスピルバーグがそんなことを言った訳ではないが、アサイラムはその呼び掛けに対し、勝手に応えてしまった。それも正攻法ではなく、サメを巨大化させ、頭を増やし、台風に乗せ、ついには月に行くという狂気的な進化をさせることで、その威厳を徹底的に剥奪したのである。重力からも、生物学からも、そして「ジョーズ」という偉大な先祖の呪縛からも解き放たれ、月面を縦横無尽に暴れまわる彼らは、何かに縛られていた頃よりも遥かに自由で、生き生きとしているではないか。彼らは時代を譲られたのではない。その圧倒的なナンセンスで、無理やり“奪い取った”のである。

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum

「ムーンシャーク」場面写真 ©2022 The Asylum [高画質で見る]

受け継がれるバトン

そして歴史は続いていく。「アイカツ!」において、いちごに憧れた大空あかりが新たな物語を紡いだように、アサイラムが切り拓いた自由な「サメカツ!」は、世界中で新たな世代を生み出している。アサイラムの常識外れな姿勢に触発され、「ハウス・シャーク」(家の中にサメが出る)や「シャーケンシュタイン」(フランケンシュタインの怪物×サメ)といった、低予算ながらも情熱に溢れたインディーズ作品が次々と世に送り出された。「ここまでやっていいんだ」「自由でいいんだ」というアサイラムのメッセージは、確実に次世代のクリエイターたちの魂に火をつけたのだ。その波は遠い極東の島国・日本にさえ届き、温泉地でサメを暴れさせる「温泉シャーク」という新たな才能までも生み出している。

神崎美月から星宮いちごへ、そして大空あかりへ。「ジョーズ」からアサイラムへ、そして世界中の夢見るインディーズ作家たちへ。そのバトンは受け継がれ、眩いばかりのSHINING LINE*が描かれる。これからも、全くもって穏やかじゃないサメ映画が生み出されていくだろう。しかし、我々サメ映画ファンはこう呟いてその誕生を祝福するのだ。「うんうん、それもまたサメ映画だね」と──。

サメ映画ルーキーとは?

サメ映画専門のバイヤー兼翻訳家。「(ほぼ)月刊サメ映画」編集長。日本サメ映画学会会長。サメ映画の魅力を日々伝え続けている。

サメ映画ルーキー (@Munenori20) | X

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映画ナタリー @eiga_natalie

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