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レジェンドの横顔 第4回 [バックナンバー]

森田芳光が愛したもの 三沢和子×宇多丸 対談 前編

映画監督からラッパーに受け継がれた腕時計

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プライベートでは「タリモ」と呼んでいた(三沢)

──そして、このアングルファインダー(撮影画角の確認をする道具)ですが。

三沢 8mmのときからカメラワーク、編集、音とこだわっていたわけですけど、アングルが思っているものとちょっと違うと、森田は気になってどうしようもないわけです。独自にこのアングルファインダーを見て「いや、これは」と思ったときには言いに行っていました。いつからかモニターで画を確認できるようになって、このアングルファインダーは要らなくなりましたが。

──「TARIMO」とネームプレートが貼ってありますね。この呼び名は昔からのものですか?

三沢 小学校からです。森田が亡くなったあと、小学校の同級生の方がクラス会に私を呼んでくださって。みんな「タリモ」って言ってました。

宇多丸 へええ。

三沢 「タリモがあんな有名な監督になって」って(笑)。同じ森田という名字の人でいえばタモリさんのほうが有名だけど、年季は入ってるんです。

左から三沢和子、森田芳光。

左から三沢和子、森田芳光。

宇多丸 タモリさんと同じくジャズマンっぽい言葉の崩し方だなと思ってたんですけど、実は小学生からだったんですね。

三沢 実は私もプライベートでは「タリモ」と呼んでいました。だってほかに呼びようが……。下の名前で呼ぶような関係じゃないんですよ。友達みたいな感じです。

宇多丸 森田さんも「三沢」って呼んでましたし。

三沢 私たちが夫婦だということを知らない人がすごく多かったです。お葬式のときに喪主の名前を聞かれて「森田は嫌なんで三沢和子にしてください」と言ったら、葬儀社の方に「あり得ません! そういうことは。お葬式でそんなこと言う人いませんよ」とすごく怒られて(笑)。周囲の人に「三沢さん、こういうときぐらい妥協しましょうよ」と言われて森田和子にしたら、「森田和子って誰だ」「奥さんがいたんだ」なんて話になったぐらい。別に夫婦であることを隠していたわけじゃないんですけど。アナウンスする必要もなかったし。

宇多丸 それは葬儀屋が無粋ですね。何を言ってやがる、という(笑)。

三沢 三沢和子でよかったじゃないっていう。でもそのときは打ちひしがれていたから、素直に従ったんですが。

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後編に続く

森田芳光(モリタヨシミツ)略歴

1950年1月25日生まれ、神奈川県出身。東京・渋谷区円山町で育つ。日本大学芸術学部放送学科に進学すると自主映画の制作を開始。1981年に「の・ようなもの」で商業映画デビューを果たした。松田優作を主演に迎えた「家族ゲーム」で一躍有名になり、沢田研二の主演作「ときめきに死す」、薬師丸ひろ子主演の「メイン・テーマ」、夏目漱石の小説を映画化した「それから」などを発表してスター監督としての地位を不動のものに。吉本ばなな原作の「キッチン」やパソコン通信を題材にしたラブストーリー「(ハル)」などを手がけ、1997年には「失楽園」を大ヒットさせた。その後も「39-刑法第三十九条-」「黒い家」「模倣犯」「間宮兄弟」「サウスバウンド」「武士の家計簿」などを発表。精力的に活動を続けていたが、2011年12月20日、急性肝不全によって死去。翌年に公開された「僕達急行 A列車で行こう」が遺作となった。

三沢和子(ミサワカズコ)

1951年生まれ、東京都出身。大学在学中よりジャズピアニストとして活動する傍ら、のちに夫となる映画監督・森田芳光と出会い、宣伝や製作補佐、キャスティングという形で帯同する。その後、森田の監督作「キッチン」「未来の想い出・Last Christmas」「(ハル)」「39-刑法第三十九条-」「黒い家」「海猫」「間宮兄弟」「サウスバウンド」「椿三十郎」「わたし出すわ」「僕達急行 A列車で行こう」などにプロデューサーとして携わった。

宇多丸(ウタマル)

1969年生まれ、東京都出身。1989年にヒップホップグループ・RHYMESTER(ライムスター)を結成し、1993年にインディーズデビューを果たす。2001年から活動の場をメジャーへ移し、2007年には日本武道館公演を大成功させた。同年に放送が始まったTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」でパーソナリティを務め、映画批評コーナーで映画ファンにも広くその名を知られるようになる。2018年4月からは、TBSラジオの「アフター6ジャンクション」でメインパーソナリティを担当。映画関連の書籍にも携わっており、映画プロデューサーの三沢和子と共同で編著した「森田芳光全映画」が2021年9月に刊行された。

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