杉原邦生と藤田貴大が語る、面倒くささと面白さ「試される状態に身を」

3

169

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 28 74
  • 67 シェア

杉原邦生藤田貴大の対談が、去る6月中旬に某所にて行われた。

左から藤田貴大、杉原邦生。

左から藤田貴大、杉原邦生。

大きなサイズで見る(全10件)

左から藤田貴大、杉原邦生。

左から藤田貴大、杉原邦生。[拡大]

杉原が演出する木ノ下歌舞伎「勧進帳」と、藤田が演出を手がける「A-S」は、京都・京都芸術劇場 春秋座にて、いずれも今年上演される。「A-S」は同劇場にて行われてきた、出演者を公募する一般参加型企画の第3弾。2014年には杉原が演出した「レジェンド・オブ・LIVE」、2015年には森山開次、ひびのこづえ、川瀬浩介のダンス作品「LIVE BONE IN 春秋座」が上演された。2人は対談でこのたび上演する作品と、一般参加型の作品創作について、それぞれの思いを語った。

木ノ下歌舞伎「勧進帳」過去上演より。

木ノ下歌舞伎「勧進帳」過去上演より。[拡大]

木ノ下歌舞伎「勧進帳」は、弁慶の義経への“忠義”が描かれたお馴染みの物語を、頼朝への“反忠義”の話であると捉え再構築した作品。2010年に初演され、このたび木ノ下歌舞伎の10周年企画・木ノ下”大”歌舞伎として、長野、愛知、福岡、そして京都にて上演される。杉原は「木ノ下歌舞伎では今は恒例となっている、歌舞伎の映像を見ながらコピーしていく“完コピ稽古”をやり始めた作品ということもあり、エポックメイキングな作品。それにもう一度挑戦できるということで、僕も楽しみにしてるし、気合いが入ってます」と意気込みを見せた。

藤田貴大演出作品「A-S」チラシ

藤田貴大演出作品「A-S」チラシ[拡大]

「A-S」は、とある町に存在していたはずにもかかわらず、皆の記憶の中に存在しない“あやか(A)”と、皆の記憶には存在しているが、町に存在していた形跡のない“さやか(S)”をめぐる物語。藤田は「うちの母親が変わった人で、僕は女子だったら(名前は)藤田さやかだったんですね。女子だったらというレベルよりも、本当に女子として生まれてきてほしかったみたいで」と語る。「生まれてから数ヶ月“さやか”って呼び続けられたって言うことを大人になってから知って。僕、『女性』に対する意識が結構強い作家だと思うんですけど、母親が笑い話にしてきたこのエピソードがすごい影響してるんじゃないか、だとしたら名前ってなんだろうって思って。今回はそのことと向き合いたい」と作品の構想を覗かせた。

藤田貴大

藤田貴大[拡大]

藤田はこのたびの上演に際し、出演者に加えスタッフとして公演を支えるプロジェクトメンバーを募集した。起用について、「普段東京で作品を作っていても思うんですけど、スタッフさんとのコミュニケーションと、役者さんとのコミュニケーションをいかにフラットにしていくかっていうことで、舞台の質が変わってくると思うんです」と考えを明かす。「いかにも俳優さんと向き合ってきたんだな、っていう舞台はあんまり好きじゃないっていうのもあるんですけど……。全部のコミュニケーションが等価なんだなっていう状態を、ここ数年マームとジプシーは目指してきたので、役者さんと同じように、プロジェクトメンバーともコミュニケーションを取っていって、その子たちから出てきたものを採用したい」と説明した。

杉原邦生

杉原邦生[拡大]

一般参加型の作品創作について、杉原は「自分の活動だけだと出会えない人たちと、作品を作ったり、出会えないお客さんと出会えたり。リセットまでいかないけど、1回考え直せるし」と振り返る。さらに「あと創作してて思うのは、普段俺が俳優さんに向かって使ってる言葉が、通じないっていう……」と感想を漏らすと、藤田は「わかるわかる!」と大きく相槌。杉原が「そう、それをまたイチから説明しなきゃいけないという面倒くささと面白さ。それは毎回思います」と続け、「本当に修行になるんですよね」と藤田も同意した。

左から藤田貴大、杉原邦生。

左から藤田貴大、杉原邦生。[拡大]

次代を担う演劇人として、創作を続ける同世代の2人。今後の展望について記者から尋ねられると、杉原は「一緒に活動できる人にしても、経済的な部分でも、場にしても、やっと自由に選択できるとこまで来たなと思っていて、今後はこれをどこまで広げていけるかですね」と回答。続く藤田も同意をしながら「20代のときには、上の世代から学ぶことを僕の外側に求めてたんだけど、今年からマームとジプシーで、定期的にワークショップをしていく『ひび』というプロジェクトを始めて、そこに演劇というジャンルにとらわれずに作るっていうことをしたい人たちが集まってくれた。なのでその人たちに僕らなりに考えてきた作るという作業を、教えたり、見ていってもらったりしようと思ってます」と、自身の創作に対する向き合い方の変化について語る。

左から藤田貴大、杉原邦生。

左から藤田貴大、杉原邦生。[拡大]

さらに、「邦生さんとか(木ノ下歌舞伎主宰の)木ノ下(裕一)くんとかを見てすげえいいなと思っているのは、色んな目が入ってるじゃないですか。色んな目が入ってないと、ちょーつまんないなって思うんですけど、2人は色んな人の目を意識的に入れるから。淀んでなくて、風通しがいい感じがする」と杉原に賛辞を送り、「今回こういう(一般参加型の)企画を引き受けたのもそういう理由。さっき邦生さんが言ってたみたいに、言葉が試されていくみたいな状態に身を置いていくのは、必要なことなんじゃないかなと思う。通じる人にしか通じない言葉で喋っていくっていうことも、表現をフラットにしていく作業としては必要なのかもしれないけど」と結んだ。

この記事の画像(全10件)

藤田貴大演出作品「A-S」

2016年7月30日(土)・31日(日)
京都府 京都芸術劇場 春秋座 特設客席

構成・演出:藤田貴大
出演:飯田一葉、今井菜江、大石貴也、木下朝実、小林千晴、佐藤拓道、四方いず美、四方みもり、白鳥達也、高田大雅(「高」ははしごだかが正式表記)、谷田真緒、辻本達也、中澤陽、中田貞代、西村瑞季、南風盛もえ、森史佳、安田晋 / 川崎ゆり子

プロジェクトチームメンバー:石田絵里香、牛嶋木南、貴羽るき、表ゆき、香川由梨子、加藤菜月、北野ひかり、草場祐実、志村茉那美、杉山絵美、谷川世奈、谷田あや子、とくらゆきこ、南光望美、日比野加奈、福田香菜、堀江香那、八木澤ちひろ

木ノ下歌舞伎「勧進帳」

2016年11月3日(木・祝)~6日(日)
京都府 京都芸術劇場 春秋座 特設客席

監修・補綴:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生
出演:リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉

全文を表示

読者の反応

  • 3

マームとジプシー @mum_gypsy

【藤田貴大|掲載情報】京都で製作することについて、杉原邦生さんと対談致しました。https://t.co/3bSckSTDYq

コメントを読む(3件)

関連記事

杉原邦生のほかの記事

リンク

このページは株式会社ナターシャのステージナタリー編集部が作成・配信しています。 杉原邦生 / 藤田貴大 / 大柿友哉 / 川崎ゆり子 / 岡野康弘 / 中澤陽 の最新情報はリンク先をご覧ください。

ステージナタリーでは演劇・ダンス・ミュージカルなどの舞台芸術のニュースを毎日配信!上演情報や公演レポート、記者会見など舞台に関する幅広い情報をお届けします