Vol.Mが8年ぶりに再始動!共鳴する表現者、松岡充・丸尾丸一郎・街裏ぴんくが語る「UME -今昔不届者歌劇-」

SOPHIAのボーカル・松岡充と劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が2017年に立ち上げたプロジェクト・Vol.Mが約8年ぶりに再始動。Vol.Mの旗揚げ公演として2017年に上演された「不届者」が、「UME -今昔不届者歌劇-」として新たに生まれ変わる。轢き逃げ事件で妻を殺された男・梅本と、徳川吉宗の物語が交差するスリラー復讐劇「UME -今昔不届者歌劇-」には、主演を務める松岡、脚本・演出を手がける丸尾、「R-1グランプリ2024」で優勝した漫談家の街裏ぴんくらが出演。異なるフィールドで活動しながらも、表現者として共通点を持つ3人に、「UME -今昔不届者歌劇-」にかける思いを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 佐々木康太

街裏ぴんくは“真っ白”で“ぴんく”なパレット

──松岡充さんと丸尾丸一郎さんは、鴻上尚史さん演出の音楽劇「リンダ リンダ」(2012年)で初共演し、意気投合。その後、お二人それぞれの頭文字である“M”から名付けたプロジェクト・Vol.Mを2017年に立ち上げました。そのVol.Mが約8年の時を経て、2026年に再始動します。今回上演するのは、旗揚げ公演「不届者」(2017年)をミュージカルに昇華したエンタテインメント作品「UME -今昔不届者歌劇-」です。

松岡充 丸くん(丸尾)と、「不届者」上演時から「Vol.Mは長く続けていきたいよね」と話していたんです。当時はがむしゃらにやっていたけど、この8年の間に僕も丸くんもさまざまな経験をしてきました。今こそ僕らの自信作「不届者」をパワーアップさせてもう一度上演しよう、ということになり、2年くらい前から具体的に動き始めました。

松岡充

松岡充

丸尾丸一郎 「不届者」の上演から8年経って、僕自身いろいろな経験を積んだことにより、「不届者」をミュージカル化して松岡さんに歌を歌ってもらう決心がようやくつきました。松岡さんとはわりと長い付き合いになりますが、今でもまだ緊張しますよ。「浅いなあ、こいつ」と思われないかなって。ほかの創作においてもそうではあるんですが、松岡さんとご一緒するときはより一層、生半可な気持ちで挑んではダメだと思っていて。

──「もう一度」という思いがあって、「不届者」をベースとした「UME -今昔不届者歌劇-」を上演することになったんですね。「UME -今昔不届者歌劇-」ではキャストもガラリと変わり、「R-1グランプリ2024」で優勝した漫談家の街裏ぴんくさんや、フィリピン出身の実力派シンガー・Beverlyさんをはじめとした多彩なメンバーが登場します。ぴんくさんの出演は松岡さんからの推薦だそうですが、なぜ今回「UME -今昔不届者歌劇-」でご一緒したいと思ったのでしょうか?

松岡 まず、Vol.Mのメンバーである僕と丸くんは根底にあるものがすごく似ていると思っていて、この感覚を言語化するのが難しいんですけど、それぞれ心の中に、普段は見せないドロドロした部分や鬱屈した部分を持っていると思うんです。必ずしも悪しき部分というわけではないんだけど、その部分こそが表現者としての創作の源になっている。僕たちとは違うジャンルですが、同じものを感じる人が出てきた。それがぴんくさんでした。ぴんくさんはドロッとした感情を持っているからこそ、現実生活に疲れた人々を癒やすパフォーマンスができているんじゃないかなって。丸くん的に違ったら申し訳ないんだけど(笑)、僕も丸くんも、自分自身が体験した苦しかったこと、悲しかったことを歌や芝居で表現したいと思っているから、通じる部分があると感じて。

丸尾 松岡さんのお話、めっちゃわかりますよ! 僕が思う優れた役者って、シンプルな黒い背景の前に立っているだけでも、その人が歩んできた人生が浮かび上がって見えてくるような人なんですけど、初めてぴんくさんをテレビでお見かけしたとき、そのオーラを感じました。ぴんくさん、今までなんで役者業をやっていなかったんやろ?と不思議に思ったぐらい。

丸尾丸一郎

丸尾丸一郎

街裏ぴんく ほんまですか! ありがとうございます。芸歴20年を超えて、丸くなった風を演じているところがあるんですけど、実は自分はまだゴリゴリに尖っていて。それを見抜いてくださったお二人と、今回ご一緒させていただけることにワクワクしています。お二人が考えるより20倍浅い、あかんたれな人間ですが……それでも、漫談という芸能と出会えて、自分自身救われている部分はあると思います。

松岡 漫談のネタは自分一人で考えているんですか? 誰かと共同?

街裏 今までは自分だけで考えることが多かったんですが、今回の独演会「藪の中」(参照:街裏ぴんく独演会「藪の中」12月に大阪、名古屋、東京、札幌で開催)で初めて作家さんに入ってもらいました。

松岡 ぴんくさんは、ほかの人の意見を取り入れることができるタイプなんですね。というのも、僕の考えですが、俳優の役割は、作家や演出家から提示されたものに応えることだと思われがち。だけど、僕らのような別ジャンル出身の人間は、たとえて言うなら、客演みたいな感じで呼んでもらうことが多い。そもそも僕たちには「自分じゃないと意味がない」という自負があるじゃないですか。演劇を始めた頃は、僕はそこの折り合いをつけるのが大変だったな。僕以外でもできる役ならやりたくない。僕じゃないとできないことをずっとやってきました。たとえば、SOPHIAの楽曲はすべて僕が歌詞を担当しています。自分が想いを込めて書いた詩を歌うことが僕の表現。魂を込めて歌うって、そう生半可なことじゃないから。

街裏 なるほど。そういうせめぎ合いがあるんですね。今の自分は“真っ白”で“ぴんく”なパレットのような状態なので、お二人の力で何色にでも染めていただければと思います。

街裏ぴんく

街裏ぴんく

悪魔と契約する松岡充を見たかった

──松岡さんはロックバンド・SOPHIAのボーカルとしての活動と並行して、俳優としても活躍し、近年ではミュージカル「LAZARUS」、ミュージカル「キルバーン」などで主演を務めています。丸尾さんとぴんくさんから見た、松岡さんの印象を教えてください。

丸尾 改めて、なぜ「不届者」という作品を書いたのか考えてみたんです。先ほど松岡さんが、松岡さんと僕には共通点があると言ってくれましたけど、僕はわりと鬱屈した感情を表に出すタイプ。対する松岡さんは、鬱屈とした感情を極力隠すようにしているイメージがあって。だから逆に、自分の中に溜め込んだものを吐き出すような役を、松岡さんに当て書きしたいと思ったんです。希望を語る松岡充ではなく、悪魔と契約する松岡充を見てみたかったんですよね。

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

左から丸尾丸一郎、松岡充、街裏ぴんく。

街裏 僕にとって松岡充さんはスターです。先日、ミュージカル「キルバーン」を観させていただいたのですが、あふれ出す主人公感と言いますか、松岡さん以外の主演は考えられないというほどの存在感を放っていました。そういったスター性がありつつ、今、僕ととても心地の良い温度感で接してくださる。しかも、キラキラとした光の部分だけでなく、鬱屈とした闇の部分まであるなんて……その奥行きも素晴らしいですよね。今回ご一緒させていただく中で、闇の部分も知ることができたらうれしいなと思います。

松岡 闇の部分なんかないで! 僕は聖人君子ですよ。好きな食べ物、ゼリーやし(笑)。

街裏 いや! ついさっき、「鬱屈とした部分が似てる」って言ってくださったやないですか! あと、ゼリーは僕も好きです(笑)。

松岡 でも、ぴんくさんが一番好きなのはホイップクリーム(参照:街裏ぴんく 漫談 「ホイップクリーム2020」)でしょ?(笑)

街裏 「ホイップクリーム」の漫談、知ってくださっているんですね(笑)。ありがとうございます。そういえば、「UME -今昔不届者歌劇-」に出演するにあたって、「不届者」の映像を拝見したのですが、前説をしている松岡さんの存在感に圧倒されましたね。「自分たちはこういう思いで『不届者』という作品を作っていて、こういう思いで公演に臨んでいる」ということをお客さんに伝えてから上演する。自分も漫談独演会に向けて「2時間だけ現実から逃げましょう」とお客さんに言ったりするので、近い考えを持っている方々と出会えて良かったなと思いました。