毛皮のマリーズ「ティン・パン・アレイ」全曲解説・第3部

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毛皮のマリーズのメジャー2ndアルバム「ティン・パン・アレイ」が1月19日にリリースされた。ナタリーでは、Power Pushのページでフロントマン・志磨遼平のインタビューを掲載しているが、これとは別に志磨自身による「アルバム全曲解説」のテキストも入手。関係者向けの資料として配付されたテキストを3回に分けて公開中だ。

毛皮のマリーズ

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最終回となる今回は「(4)制作についての告白」と「(5)あとがき」と題したパートを掲載。志磨独特の文才が冴えるこの貴重な文章を、アルバムを聴きながらぜひ読み込んでみてもらいたい。

毛皮のマリーズ 2ndアルバム「ティン・パン・アレイ」全曲解説

(4)制作についての告白

私のHP上での公開日記によりますと、2010年1月初旬に前作『毛皮のマリーズ』を完成させた我々は、そのわずか3週間後の1月25日よりすでに今作の制作に着手しております。

一体なにが、私を急き立てたのか?

前作のレコーディングにおいてのピアノやホーン・セクション、パーカッション等の外部ミュージシャンの導入と、第三者をエンジニアに迎えるというどちらもバンド史上初であった試みは、私にとってまさに天地もひっくり返る様な経験でありました。

例えば以前なら「ストリングスが欲しくても用意できない」というジレンマは、私の創作意欲にストレスを与える代わりに「限りなくストリングスに近いサウンドをギター、もしくはベースで生み出す」という発明を授けていました。それはとても斬新なアレンジメントという形で毛皮のマリーズの音楽の一種トレードマークともなりうる発明でしたが、その陰で私だけに聴こえたアイディア、神の啓示にも似た『まだ誰も知らない音楽』は、結局誰の耳に届くこともなく闇に葬り去られていたのです。

4人で再現可能な音楽を、というバンドマンとしての貞操は、同時に豊潤な音楽の中絶でもあった、という事です。

生まれるはずの命を絶って何かを守る行為。それに私が違和感を感じていたのは確かでした。

しかして突如私の目の前に射した光、失われる命を救う道、それこそがメジャー移籍後の前作からの環境であり、熟練の音楽家達の技巧と、豊富な知識を持ったエンジニア陣だったのであります。

もう殺さなくていい。私は私が授かった命を、守り抜く事ができるかもしれない。笑われるかもしれませんがその心境はまさに女手一つで子を育て上げる決意によく似たものである気がしています。この身に何が起ころうとも、このメロディだけは幸せにしてみせる!

私は溢れ出るメロディをそのままに、全てノートに書きつけていきました。その数は前作の完成を待たずに数十曲を越え、レコーディングの日程は延長され間髪入れずにそのまま今作の制作へとなだれ込む事が決まりました。

盲目となった私は、次のアルバム制作ではそれらの愛すべきメロディ達が欲する(そして愛すべき東京に似合う)アレンジメントと楽器を全て用意するつもりでした。生ピアノ、バイオリン、チェロ、アコーディオン、フレンチ・ホルン、クラリネット、ペダル・スチール、リコーダー、子供の歌声… 

そしてそのリストに雄々しいエレキ・ギターの名が挙がったのは、“序曲(冬の朝)”においての一度きりでした。

このアルバムを構成しているほとんどの主題は、ゲストミュージシャンによるものです。私の曲は、メンバーの手を必要とはしませんでした。そして今作でドラムをプレイしたのは、富士山富士夫ではなく私です。

斯くして完成したこのアルバムにロックバンド「毛皮のマリーズ」の陰はありません。私が案じた“この身に起こる何か”、それはやはりロック・バンドとしてのアイデンティティの喪失だったのです。

私が私のバンドの作品に『ティン・パン・アレイ』と名付けたのは、私を含むバンド自身への皮肉でもある訳です。

(5)あとがき

そして今、マスタリングも終えた全11曲を何度も反芻し、私は考えます。今作で聴ける音楽を支えているのは、その道の一流と呼ばれる参加ミュージシャンそれぞれがその楽器を持った日以来絶えず続けた努力と鍛錬、その結晶である「技巧」に他なりません。いつかの彼らが費やした努力の日々が、私のメロディと確かに繋がっていた事実、彼らが長年流し続けた汗、それがしみ込んだ楽器がこの日私のメロディの為だけに鳴った事実。これほど感動的で、且つ私を奮い立たせる事実はありません。

そしてこの事実を前に、ロックンロールは、毛皮のマリーズは何を思うのだ。

「努力のない勝利」ってあるのか?
「継続より美しい瞬間」ってあるのか?
「経験に勝る度胸」ってあるのか?
「知識に勝るひらめき」ってあるのか?
「技巧じゃ足りない感動」ってあるのか?
セッションマンとバンドマンのちがいは?
私にとって、その必要性は?

旋律と絆は、どっちが尊いのだ!
必然と奇跡は、どちらに価値があるのだ!

私がすでに想いはじめている、毛皮のマリーズの次なる作品は「ロックンロール」から「音楽」をマイナスして残る、危ういほどに純真無垢なものであるべきだ、と考えています。

平成22年11月3日 志磨遼平

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読者の反応

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フジタ @tenpsy_bombpsy

すっごい今更の記事なんだけど、これの最後の部分、この後に続くアルバムがTHE ENDであることを鑑みるとなんだかな。なんだかな。いや、全くその通りだ! 毛皮のマリーズ「ティン・パン・アレイ」全曲解説・第3部 - 音楽ナタリー https://t.co/o3E7EgSwmB

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