モダンスイマーズの
舞台後方には5枚の大きなパネル、舞台中央には盆が設置され、盆を囲む形でイスや大型家電などが置かれている。ゲネプロ開始前、舞台上にはすでに森山の姿があった。森山はまるで日常生活を送っているかのように、ステージ上でリラックスした様子を見せている。そこに出演者たちが続々と現れ、全員が板付きになった状態で物語がスタートした。
冒頭のシーンでは、キヌとヒロヒコが回る盆の上を歩きながら、夫婦げんか一歩手前の軽い言い争いを繰り広げる。2人のやり取りは基本的に会話形式で進行していくが、時折ト書きを読むような言い回しになったり、モノローグのような形式になる場面も。イスに座って待機していた長澤と森山以外のキャストも次々と盆の上を歩き出し、キヌとヒロヒコが暮らす東京の街の雑踏が表現された。
その後、キヌとヒロヒコが演劇サークルで出会ったことや、2人が結婚した経緯、キヌの母・朋恵が結婚を反対していたこと、キヌの弟・光也が病の後遺症に悩まされていること、ヒロヒコの実家が東日本大震災で被災したことなどが明らかになっていく。
ヒロヒコが文章を書く仕事をしていることや、光也が病の影響で常にメモを取っていることに象徴されるように、本作では“テキスト”が重要なファクターになっており、場面が移り変わるごとに、舞台後方のパネルに日記のような文字が投影される。
長澤は、嫌悪しているにもかかわらず、自分の母のようにヒステリックな一面を見せるキヌの弱さを、森山は、意思疎通を諦めて心を閉ざし、相手を突き放してしまうヒロヒコの弱さを、それぞれ演技の端々ににじませる。長澤と森山は、“曖昧な理由”でつがいになることを選んだ不器用な夫婦像を丁寧に描き出した。
本作のベースになるのは生きづらさを抱える夫婦の物語だが、シリアス一辺倒ではなく、松島扮する光也の朗らかさに救われる場面や、皆川がパンチのあるキャラクターを巧みに演じ分けるシーンなど、心温まる場面や思わず笑みがこぼれるシーンが随所にちりばめられている。
開幕に際し、長澤は「その時の、心を大切に、夫婦の在り方を毎日作っていけたらいいなと思います。この物語の唸りがどんなものになるのか、私にも全くわかりません!! しかし、きっと、お客様には伝わるはず!!と思って、今はただ最後の稽古に励んでいます」とコメント。森山は本作を「踊らされる人々の話」と形容し、「蓬莱さんによって構成された振付作品であり、そこに関わることになった全ての人たちが保有する個人的な物語が混ざり合うドキュメンタリー作品であり、つまり、演出された舞台の上に広がる世界の断片です。カーテンコールをお楽しみに」と語った。
上演時間は休憩ありの約3時間。東京公演は5月4日まで。その後、10日から19日まで大阪・森ノ宮ピロティホール、24・25日に新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場、31日・6月1日に長野・サントミューゼ 上田市交流文化芸術センターで上演される。
長澤まさみコメント
共演の森山さんは相変わらず、頼りになる優しい方で、森山さんがいなかったらこの作品に立ち向かうことはできなかったと思います。その時の、心を大切に、夫婦の在り方を毎日作っていけたらいいなと思います。
この物語の唸りがどんなものになるのか、私にも全くわかりません!! しかし、きっと、お客様には伝わるはず!!と思って、今はただ最後の稽古に励んでいます。
楽しみにしているお客様に喜んでもらえるように出来ることをひとつずつ、積み重ねていこうと思います。
森山未來コメント
もしみなさんが、あなたにとっての世界を描くとしたら、何が起点になりますか。地球、環境、経済、宗教、国家、政治、会社、家族、隣にいる人。全てが絡み合ってこその世界ですから、どれかだけ、というわけにはいかないと思いますし、どれかだけで描写されるべきでもないでしょう。
「おどる夫婦」はそのどれもが絡み合う世界で、踊らされる人々の話です。それは蓬莱さんによって構成された振付作品であり、そこに関わることになった全ての人たちが保有する個人的な物語が混ざり合うドキュメンタリー作品であり、つまり、演出された舞台の上に広がる世界の断片です。カーテンコールをお楽しみに。
松島聡コメント
この物語は、正直言語化するのが難しく、捉え方次第では全員が良い人にも見えるし、悪い人にも見えるという、すごく複雑な内容です。演じている側も胸が苦しくなるような瞬間も多いですが、それが日常に起こるリアルなのだと現実を知るのは大切なことだと思います。自分の思う光也としての表現のアプローチがたくさん生まれてきているので、早くご覧いただきたいです。
伝えること、特に愛とは何か、人とは何か、その難しいテーマに答えるべく、作・演出の蓬莱さんをはじめ、長澤さんや森山さん、錚々たる共演者の皆さまと、演劇を通して発信していけることがすごく楽しみで、光栄に思います。
皆川猿時コメント
こないだ、衣装付き通し稽古のあと蓬莱さんが「いい感じです。ここからまた新たな感情に出会えると思うし、もっと自由になれるはずです」みたいなことを言ってました。私、皆川猿時、54歳、現在106キロ、それ聞いてうっとりしちゃいました。だって、自由になりたくて役者やってんだもん。というわけで、いよいよ初日です。うおー!!! ええ、非常に興奮しております。おかげさまで、膝、いい感じです。俺、がんばる、ゼッタイ!
小野花梨コメント
見どころは、作品の内容やそれぞれのキャラクターの魅力はもちろんですが、転換時のセットの大道具の動きに是非注目していただきたいです。1つの手を間違えてしまったら何手か先で大事故になるほど、物が流動的に、連動しながら動いていくことで場面を作っていきます!
まるで物が意思を持って生きているような、劇場自体が大きな生物のような、そんな空間の中で繰り広げられる蓬莱ワールド。必ず楽しんでいただけると思います!
伊藤蘭コメント
舞台とはそういうものとわかっていながら、今回は特に演じる側にとって全く油断もスキもあったものじゃない!……というのが正直な感想です笑
そんな中、どんな難題も軽やかにしなやかに次々とクリアしていくまさみさんと未来さんに毎日のように目を奪われ、そして励まされ、出演者一同稽古を積み重ねてきました。
蓬莱さんが丁寧に紡ぎ出した2人の物語、どうぞ皆様に届きますように。
Bunkamura Production 2025「おどる夫婦」
2025年4月10日(木)〜5月4日(日・祝)
東京都 THEATER MILANO-Za
2025年5月10日(土)〜19日(月)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
2025年5月24日(土)・25日(日)
新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
2025年5月31日(土)・6月1日(日)
長野県 サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター
スタッフ
作・演出:
出演
関連記事
NOBUHIRO MATSUZAWA @matsu__nobu
Bunkamura「おどる夫婦」開幕しました。プロジェクション映像を担当しております。本当に素晴らしい俳優、最高にかっこいいスタッフ、このカンパニーワークでしかできない、そして、なにより、演劇でしかできないことをやっていると思うので、劇場でぜひ。 https://t.co/Vf9csavdzi