第50回菊田一夫演劇賞の授賞式が、本日5月21日に東京都内で行われた。
菊田一夫演劇賞は、劇作家の菊田一夫による業績を伝えると共に、大衆演劇の舞台で優れた業績を示した芸術家を表彰する賞。既報の通り、第50回となる今回は菊田一夫演劇大賞に
演劇の力で世界の在り方を問う作品に栗山民也「1つひとつの言葉から勇気を得た」
栗山は「オーランド」「ファンレター」をはじめとする演出作品の成果が評価され、大賞に選ばれた。栗山は約35年前、イギリス・ロンドンのロイヤルナショナルシアターでテネシー・ウィリアムズ「やけたトタン屋根の上の猫」の稽古に参加した際の思い出話を披露。同作には、シェイクスピア俳優として知られたエリック・ポーターが出演していた。その約5年前に「リア王」を演じ、久しぶりの現代劇だったというエリックは「やけたトタン屋根の上の猫」でおじいちゃん役を担当した。台本には「おじいちゃんの叫びが聞こえる」というト書きがあり、稽古場に集まった30~40人ほどが固唾を呑んで待っていると、舞台の奥からは「おおおお……」という低い声が。その瞬間稽古場は爆笑に包まれ、青ざめて出てきたエリックに稽古場の面々は「エリック、それじゃ『リア王』だ!」と声をかけたのだと栗山は語る。
続けて栗山は「でも若手だけの場面で、空っぽの舞台を歩くエリックがふっと振り向き『ここは海です』と言った瞬間、その場の全員が『ここは海だ』と感じていた。あれは演劇の力、本質と出会った瞬間でした」と振り返り、「『オーランド』は360年生き、詩を書くことで世界を描いた女性の半生の物語。『ファンレター』は日本統治下で母国語を奪われた韓国の若き文学者の話です。この2作は演劇の力によって、世界の在り方を問う作品だと思いましたし、稽古しながら1つひとつの言葉から勇気を得ました」と述べる。さらに栗山は、昨年ノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガンの「どうやったら世界を抱き締めることができるか?」という問いを挙げ、「僕はこれから何本舞台を手がけられるかわかりませんが、彼女の『世界を抱き締める』という言葉を胸に、もうしばらくがんばってみたい」と結んだ。
明日海りおが“舞台愛”語る、「役を作り上げた時間を心の宝箱に」
「王様と私」アンナ役、「昭和元禄落語心中」みよ吉役の演技が評価された明日海は「いずれも私にとって『人生のこのタイミングで出会えて良かった』と思えるお役。役として舞台に立ったときの思いや光景はもちろん、役を作り上げるまでにいろいろな方と話し合った時間のすべてが愛おしく、心の宝箱にしまっていました。その宝箱を堂々と開ける機会をいただきうれしい」と微笑み、「私は、人と関わりながら舞台を作ることが生きがい。大好きな仕事を続けていけるよう、皆様への感謝を忘れず精進したい」と結んだ。
賞を勇気に変えて!長澤まさみの思い
NODA・MAP「正三角関係」唐松在良 / グルーシェニカ役の演技を評価された長澤まさみは、約半年にわたって同作に取り組んだことを「演劇学校に通うような日々だった」と振り返る。映像作品への出演をきっかけに俳優としてのキャリアをスタートした長澤は「かつて演劇を遠い存在に感じていましたが、舞台に立ってみたいと1歩進む勇気を出したあのときが、今こうして自分自身に返ってきているんだなと」と感慨を述べ、「今回賞をいただきましたが、まだまだやらなくてはいけないことが多いと感じます。ですが賞を勇気に変え、私は今も舞台に立っています。最後まで演じられるよう、がんばっていけたら」と笑顔を浮かべた。
“ド根性シアター俳優”の甲斐翔真は、舞台の世界が大好き
甲斐は「
オーディションに落ちたけど、“おかげでここに立てた”上田一豪
「この世界の片隅に」「HERO THE MUSICAL」の演出が評価された上田は、子供時代に地元・熊本の児童劇団で踏んだ初舞台をきっかけに俳優を志したという。鹿賀丈史に憧れ、「レ・ミゼラブル」に出ようと上京した上田は、同作のオーディションに挑戦するが落選。東宝演劇部の演出部に加わってから「モーツァルト!」のヴォルフガング・モーツァルト役の選考にも挑んだが、やはり落選だった。上田は「でも(オーディションに落ちた)おかげでここに立てている。ありがとうございます」と、「レ・ミゼラブル」演出のジョン・ケアード、「モーツァルト!」演出の小池修一郎に謝辞を述べ、「私1人では演劇作品を形にできない。皆様と一緒にお仕事してきたことが報われたのだと思う」と感謝を口にした。
まだまだ元気にやっております、伊東四朗が特別賞に喜び「伊東家の誇り」
永年の舞台における功績に対して特別賞を受賞した伊東は開口一番「こんにちは、ご覧の通りのじいさんです」と会場を笑いで包む。伊東は「もうすぐ芸歴67年ですが、年に1回は舞台をやっていた。二十代の頃は400日続けて舞台に出たこともある」と話し、三木のり平らが出演した「雪之丞変化」や、三宅裕司の誘いで取り組んだユニット・伊東四朗一座のシリーズなど印象的だった公演を挙げつつ、「まだまだ元気にやっておりますので、どっかで転んでるのを見たら助けて(笑)。受賞は長年、舞台を観に来てくれた皆さんのおかげ。この賞は伊東家の誇りです」とコメントした。
林与一が決意表明「あと100年は舞台に立ちたい」
伊東と同じく、永年の舞台における功績で特別賞に輝いた林は、歌舞伎俳優として大阪歌舞伎座で初舞台を踏んだのち、東宝に入社して活動してきた。過去に菊田一夫演劇賞を受賞している林は「演劇賞は良い作品、良いお役に恵まれていただけたものだと思う。でも特別賞をいただいて『今まで一生懸命がんばった。これからもがんばれ』と激励してもらった気がする。人生100年、200年に延びようとしています。ますます精進し、あと100年は舞台に立ちたい」とあいさつし、会場から大きな拍手を浴びた。
第50回菊田一夫演劇賞結果
菊田一夫演劇大賞
栗山民也(「オーランド」「ファンレター」をはじめとする演出の成果に対して)
菊田一夫演劇賞
明日海りお(「王様と私」のアンナ役、「昭和元禄落語心中」のみよ吉役の演技に対して) 長澤まさみ(「正三角関係」の唐松在良 / グルーシェニカ役の演技に対して) 甲斐翔真(「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」のクリスチャン役、「ネクスト・トゥ・ノーマル」のゲイブ役の演技に対して) 上田一豪(「この世界の片隅に」「HERO THE MUSICAL」の演出の成果に対して)
菊田一夫演劇賞特別賞
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NOBUHIRO MATSUZAWA @matsu__nobu
みなさま、おめでとうございます。たくさんのお久しぶりの再会もあって、とても素敵な式でした。一豪さん、本当におめでとうございます! https://t.co/7TUTMS5kS4