本作は、ジョルジュ・ビゼー作曲のフレンチオペラ「カルメン」を、ピーター・ブルックの娘であるイリーナの演出・衣裳で立ち上げる新制作オペラ。イタリア・ミラノのスカラ座やオーストリア・ウィーンのウィーン国立歌劇場などの主要歌劇場でオペラを手がけてきたイリーナが、日本でオペラデビューを果たす。指揮を沖澤のどかが務め、カルメン役を加藤のぞみと和田がWキャストで演じる。
本公演のオファーを受けたとき「言語はフランス語、舞台はスペインという作品を、日本で上演することがチャレンジだと感じた」と言うイリーナは、「オペラを演出するときはストーリーを歌で伝えることを一番大切にしているので、物語を伝えるのに妨げになる要素を省きました」と述べる。「公演ビジュアルや、本日の朝妃の衣裳はスペインに寄せてもらいましたが、本番ではスペインの民族性が濃い要素を除いています。また、『カルメン』にはロマの人々が登場しますが、このプロダクションでは、現代では東欧に多い彼らに焦点を当てるのではなく、想像上の世界を作り上げます」とイリーナ。具体的には「今から20、30年後の近未来を舞台に、“ノーマンズランド”(誰にも支配されない中間地帯)で旅をしながら生きる人々を描きます。映画『マッドマックス』の砂漠のような場所」と説明し、「第1幕の舞台美術のイメージは、“美しいガレキ”です。本当はそのガレキの上に大きな高速道路が走る構図にしたかったのですが、大人の事情で高速道路はなくなりました(笑)」と構想の一部を明かす。記者からどのような衣裳になるかを問われると、「ロマ社会の女性たちが、安くて少し汚らしい、現代的なポリエステルの衣服を着ているプロダクションもありますが、我々は汚らしさは残しつつ、特定の時代や場所を感じさせないことを目指しています」と回答した。
さらに本プロダクションの特徴として、「『カルメン』で長くなりがちなレチタティーヴォ(歌ではないセリフの部分)をすべてカットしました」と明かす。イリーナは「歌手の皆さんがどんなに素晴らしくても、セリフが長いと歌のエネルギーが続かないからです。沖澤さんたちとカット作業をしたとき、70%ほどカットしたところで、『おう、カルメン。こっちに来い』と突然しゃべり出すのも変だということになり、結局、全カットすることにしました(笑)」とおちゃめにサムズアップ。「非常にテンポの良い作品で、言葉で説明されなくても動きでわかるようになっています」とアピールした。
イリーナとの稽古について、和田は「彼女はとても柔軟な演出家で、歌手たちの意見をよく聞いてくれるので、稽古場は楽しい雰囲気に包まれています。初めて稽古するシーンでいきなり『ちょっとやってみて』と言われると困ることもありますが(笑)、だからこそ自分にしかできないような新たなカルメン像をお届けできるのではと期待しております」と声を弾ませる。また会見では、カルメン役を和田とWキャストで務める加藤のテキストメッセージが代読された。加藤は「イリーナさんは歌手のエネルギーを瞬時に感じ取ってその場で動きを付けてくれるので、舞台を一緒に作り上げていることをより実感でき、舞台人としての幸せを感じています。今までの『カルメン』のイメージをガラッと変える公演になると思います」とコメントした。
会見では、イリーナが父ピーターに対する印象や、自身との演出スタイルの違いを語る一幕も。「ミニマリストな父とは対照的に、私は小道具をいっぱい使うのが好き。映画のように、どこを切り取っても視覚的に真実味のあるようにしたい」と話すイリーナは、「父は何もない空間で演者を目立たせるのが得意ですが、私のやり方はたくさんの要素を使って演者の魅力を増幅させること。父の演出では演者が“裸”のような気持ちになってしまうので、小道具を与えて安心させてあげたいという思いもあります」と、俳優としてもキャリアを積んできた視点から考えを口にした。
公演は2月20日から24日まで東京・東京文化会館 大ホールにて。上演はフランス語で、日本語と英語の字幕付き。
東京二期会オペラ劇場「カルメン」
2025年2月20日(木)〜24日(月・祝)
東京都 東京文化会館 大ホール
スタッフ
原作:プロスペル・メリメ 小説「カルメン」
台本:リュドヴィック・アレヴィー / アンリ・メイヤック
作曲:ジョルジュ・ビゼー
演出・衣裳:
指揮:沖澤のどか
出演
カルメン:加藤のぞみ / 和田朝妃
ドン・ホセ:城宏憲 / 古橋郷平
エスカミーリョ:今井俊輔 / 与那城敬
ミカエラ:宮地江奈 / 七澤結
スニガ:ジョンハオ / 斉木健詞
モラレス:室岡大輝 / 宮下嘉彦
ダンカイロ:北川辰彦 / 大川博
レメンダード:高田正人 / 大川信之
フラスキータ:三井清夏 / 清野友香莉
メルセデス:杉山由紀 / 藤井麻美
※日本語および英語字幕付原語(フランス語)上演。
※学生席、U-39席あり。
ステージナタリー @stage_natalie
【会見レポート】イリーナ・ブルックが「カルメン」で描くのは“ノーマンズランド”、「時代や場所を感じさせない作品に」
https://t.co/BU1Ca4QbTW
#東京二期会 #イリーナ・ブルック #和田朝妃 #加藤のぞみ https://t.co/qjW8PA1zvh