中村雀右衛門、「傾城道成寺」で父・四世雀右衛門をしのぶ「父の面影を感じてもらえるように」

東京・歌舞伎座で3月に上演される「三月大歌舞伎」の出演者である中村雀右衛門の取材会が、本日2月13日に東京都内で行われた。

「三月大歌舞伎」昼の部で雀右衛門は、自身の父・四世中村雀右衛門の十三回忌追善狂言として「傾城道成寺」を上演。傾城清川実は清姫の霊を勤める。雀右衛門は、四世雀右衛門の七回忌追善では「男女道成寺」、五代目雀右衛門襲名の際には「京鹿子娘道成寺」と、「傾城道成寺」と同じ“道成寺もの”を上演してきた。雀右衛門は「父は、道成寺ものに対して大変思い入れが強く、今回の『傾城道成寺』に限らず、『娘道成寺』『二人道成寺』『男女道成寺』、さらにちょっと変わったものですと『切支丹（きりしたん）道成寺』など、自主公演となる『雀右衛門の会』でも度々上演しておりました。私にとりましても（道成寺ものは）大切」と語る。また十三回忌追善公演に向け「父は最後まで、美しく女性らしいお姫様の役を主に勤めておりましたし、今回私が演じる傾城というのも、父にとりまして大切な役柄の1つでございました。私は父の足元にも及びませんが、父のことを大事に思って観てくださったお客様方に、父の面影を感じてもらえるように演じたいです」と言葉に力を込める。

「傾城道成寺」の物語について「根底を成しているのは、安珍と清姫の伝説を題材にした道成寺ものですが、そこに平維盛伝説の要素が加わっています」と触れ、「今回は、ありがたいことに（尾上）菊五郎のお兄さんや、うちの兄（大谷友右衛門）や、おい（大谷廣太郎、大谷廣松）、そして安珍として（尾上）松緑くんが出てくれます。お客様にとっても、父の勤めていた傾城の風情を感じていただきつつも、飽きることなくご覧いただけるのでは」と座組に自信を見せた。

記者から、四世雀右衛門の稽古での様子を問われた雀右衛門は「芸以外のことは、大変に自由で優しい人でしたが、稽古では非常に厳しかったです。『娘道成寺』を教わったときも、ちょっとした手の位置の違いや腰の入れ方など、手足を引っ張られながら、文字通り手取り足取り教えてもらいました（笑）。そうやって教えてもらった型は、身体の状態としては違和感があるんですけど、実際に鏡で見たり映像で観たりすると、『なるほど、こういう型なのか』と納得するんです」と語る。さらに「父からは『お前には、気持ちが足りない』『気持ちをぐっと凝縮して演じないと、お客様には伝わらないんだ』ということを厳しく言われておりましたね。父はいつも、1つひとつの役に全力投球で魂を込めておりました。それがお客様に、濃厚な芸として受け止めていただいていたのではないでしょうか」と振り返る。

雀右衛門は、夜の部の通し狂言「伊勢音頭恋寝刃」に、主人公・福岡貢の恋人である油屋お紺役で出演する。お紺役について、雀右衛門は「初役ですので、（中村）魁春のお兄さんからご指導いただきます。ただ、お兄さんからは『お父さんのビデオを観ていらっしゃるでしょう』と言っていただきまして、父のお紺をベースにしながら、お兄さんに稽古を見ていただき、監修していただくことになりました」と明かす。「油屋でのお紺の愛想尽かしが、お客様にとっても見応えのある場面かと思います。本心のように聞こえるんだけど、実はそうではない……という、役の肚の部分を大事に表現できればと思っています」と意気込みを語った。

歌舞伎座「三月大歌舞伎」は3月3日から26日まで歌舞伎座にて。チケットの一般販売は明日2月14日10:00にスタートする。