「ART」は、フランスの劇作家ヤスミナ・レザの戯曲。本作は、2020年に
マルク、セルジュ、イヴァンは15年来の大親友。ある日セルジュが現代アートの高価な絵を買ってきた。皮膚科医で現代アートが趣味のセルジュにとっては、やっと手に入れた自慢の作品だった。しかし白い背景に白い線が斜めに入っただけの絵を見たマルクは、不思議な顔をするばかり。マルクとセルジュの会話には、妙なすれ違いが生まれてしまう。一方、結婚を間近に控えるイヴァンにとってこの友達関係は何よりも大事。3人はこじれ始めた自分たちの関係を何とかしようとするが、やがて大げんかに発展してしまい……。
舞台後方にはヨーロッパの住宅を思わせるダークグレーの背景パネルが立ち、手前には白いソファが数台設置された。パネルの一部は回転式、または開閉式となっており、シーンによってそこには異なる家具や装飾品が現れる。これによって、クラシカルなシャンデリアや本棚、風景画などが飾られたマルクの家、最低限のいすや電気スタンドだけが置かれたセルジュの殺風景な家、書類や文房具、日用品などが雑多に散らばったイヴァンの生活感あふれる家と、それぞれ異なる特徴を持つ3人の自宅の様子が表された。
まったく異なる性格のマルク、セルジュ、イヴァンはそれぞれ、自分なりに友人を大切にしている。そんな彼らが、絵画に対する意見の違いをきっかけに、長年の付き合いで蓄積した不満を噴出させるさまを、出演者たちはコミカルに表現。登場人物は本音と建前を使い分けながら会話劇を展開し、スポットライトが当てられると、観客に向かって本音を漏らす。
傲慢で、何かと相手の優位に立ちたがるマルクを、イッセーは“実はセルジュとイヴァンのことが大好きなのに、つい見下した態度を取ってしまう”、どこか憎めない人物として立ち上げる。小日向はプライドが高いセルジュを、気難しげな雰囲気を漂わせて演じた。微笑みを浮かべたセルジュが「イライラしてないよ!」と言った次の瞬間、スポットライトの中で「イライラする……」と本音を告白するシーンでは、本音と建前のギャップに笑いが起きた。
赤いチェックのシャツに緑色のネクタイを締めたイヴァンは、少しお調子者で柔らかい人柄であるがゆえに、マルクとセルジュの間で板挟みになってしまう。初めは眉毛を八の字にして困り果てていたイヴァンが、とうとう限界を迎えた瞬間、地団駄を踏んで思いをぶちまけるさまを、大泉はコミカルに表現した。また劇中では、イヴァンが約5分間にわたって結婚式にまつわる不満を語る長ゼリフも。大泉がイヴァン、その妻、そしてイヴァンの母を落語のように演じ分けるさまにぜひ注目しよう。
開幕に際しイッセーは「小日向さんも大泉さんも3年ぶりに共演できてすごく楽しいです。人となりがお互いにわかっている分やりやすく、配役がそれぞれに合っているなと改めて思います。大千穐楽に向けて新たな発見もあると思うので、1ミリ1ミリがんばりたいです!」とコメント。
小日向は「初演はほんとうに大変で余裕がなかったんですが、今回はイッセーさんの表情を見ていたり、大泉くんとセリフを交わす時に余裕ができて楽しいですし、年齢を重ねたことで役に対しての力が抜けた分見え方もだいぶ変わっている気がします。3年越しに稽古をしてそれぞれが役を楽しんで出来ている部分があると思うので、三人三様を楽しんでみてもらえたらと思います!」と観客に呼びかける。
そして大泉は「演出の小川さん、イッセーさん、小日向さんと、芝居を作っていく過程は相変わらず居心地が良くて幸せな気持ちでした。1時間半の舞台を1か月稽古して『セリフの一言一言にどういう背景があるのか』っていうことを話し合いながら創っていく作業は役者にとっても大切な時間だなと思いました」と思いを語った。
上演時間は約1時間35分。東京公演は6月11日まで行われ、その後は15日から25日まで大阪・サンケイホールブリーゼ、6月29・30日に福岡・キャナルシティ劇場、7月7日から9日まで愛知・東海市芸術劇場 大ホール、15・16日に長野・まつもと市民芸術館 主ホールで上演される。
イッセー尾形コメント
滑稽でもあるし辛辣な内容でもあるけど1回壊れたものが思いもよらないかたちで再生していく、そういうキラキラした可能性を色々投げかける作品にしたいですね。きっとご覧になる人たちによって見方が変わるかもしれない作品かなと思います。
3年前とくらべて濃度が上がっている分、頭で考えることと身体を使うことが増えて疲れますが(笑)この3年という時間も作品に反映させていきたいです。小日向さんも大泉さんも3年ぶりに共演できてすごく楽しいです。人となりがお互いにわかっている分やりやすく、配役がそれぞれに合っているなと改めて思います。
大千穐楽に向けて新たな発見もあると思うので、1ミリ1ミリがんばりたいです!
小日向文世コメント
3人が元気で揃ったってことがやっぱり嬉しいです。3年前の初演はセルジュの役どころを生真面目な人として捉えてたので、貶されることに対してものすごい反発心やマルクに対してもっと神経質だったんですが、今回はもう少しラフな感じに役作りして、気持ち的にすごく楽になれました。
初演はほんとうに大変で余裕がなかったんですが、今回はイッセーさんの表情を見ていたり、大泉くんとセリフを交わす時に余裕ができて楽しいですし、年齢を重ねたことで役に対しての力が抜けた分見え方もだいぶ変わっている気がします。
3年越しに稽古をしてそれぞれが役を楽しんで出来ている部分があると思うので、三人三様を楽しんでみてもらえたらと思います!
大泉洋コメント
3年ぶりにまた同じメンバーで芝居が出来ることに幸せを噛み締めながら稽古しました。
前回の公演のときよりも深く解釈できた部分もあり、3年前とは明らかに違う「ART」になりました。イヴァンという役もさらに深めることが出来たと思うし、3年前とはみんなビジュアルも含めていろいろと変わっているので(笑)、初演を観た方も違いを楽しんでいただけるかと思います。
演出の小川さん、イッセーさん、小日向さんと、芝居を作っていく過程は相変わらず居心地が良くて幸せな気持ちでした。1時間半の舞台を1か月稽古して「セリフの一言一言にどういう背景があるのか」っていうことを話し合いながら創っていく作業は役者にとっても大切な時間だなと思いました。
今回は東京から始まって、大阪、福岡、愛知、松本と巡るのでいろんな土地で「ART」がどんな風に受け入れられるのか楽しみです。
「ART」
2023年5月27日(土)~6月11日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター
2023年6月15日(木)~25日(日)
大阪府 サンケイホールブリーゼ
2023年6月29日(木)・30日(金)
福岡県 キャナルシティ劇場
2023年7月7日(金)~9日(日)
愛知県 東海市芸術劇場 大ホール
2023年7月15日(土)・16日(日)
長野県 まつもと市民芸術館 主ホール
作:ヤスミナ・レザ
翻訳:岩切正一郎
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昭和マダムワンダー @Madam_wander
【公演レポート】イッセー尾形・小日向文世・大泉洋が大げんか「ART」開幕!約5分間の長ゼリフも(舞台写真 / コメントあり) https://t.co/vy8nFxzknu