「猿若祭二月大歌舞伎」に向けた
今回の公演で夜の部に上演される「門出二人桃太郎(かどでふたりももたろう)」にて、勘九郎の長男が三代目中村勘太郎、次男が二代目中村長三郎を名乗り歌舞伎座で初舞台を勤める。取材会では子供達のことを中心に、勘九郎の亡父、十八世中村勘三郎のことや自身の思い出などが語られた。
記者からまず子供達の様子を聞かれた勘九郎は「親の私が焦っています。子供達はぽけっとしていて」と苦笑する。「2人ともセリフはもちろん覚えているんですが、三手四手の動きがございますし、立廻りが後半ございまして。昔私達がやったものとはぜんぜん違うのでそれを今、一から覚えているところです」と兄弟の様子を説明する。2人は今回、勘九郎と中村七之助が初舞台で着た桃太郎の鎧を身につける。そんな親子の繋がりに思いを馳せ「孝行したいときに親はいないと申しますが、私が初舞台のとき、父は今の私より若かったので、このような苦労をかけていたのだなあと改めてありがたみを感じますし、大変だったのだろうなと思います」と勘九郎はしみじみと語る。
勘太郎と長三郎の性格の違いについては、「勘太郎はしっかりしていて、自分がなんとかしないとという使命におわれています。弟を気にしながら演じていたりもするので、『堂々とやりなさい』と言っています。実はそれは、幼い頃に父から私も言われていたことなのです。弟の長三郎は……宇宙人です(笑)。1回きちんとできると後の稽古がしっかりしない。稽古のときにちゃんとやっていないと舞台で出てしまうので、それはよくないよと教えているのですが、そうはいってもまだ3歳。でも2人とも、やる気は満々らしいです」と笑顔になる。
2人の初舞台を支える面々も豪華だ。尾上菊五郎、中村梅玉をはじめ、桃太郎のお婆さんを中村時蔵、お爺さんを中村芝翫、犬彦を市川染五郎、猿彦を尾上松緑、雉彦を尾上菊之助が演じ、勘九郎自身は息子勘作と鬼の総大将の2役で出演する。「出てくださる方だけでなく関わってくださる方々に、本当に感謝します」と語った勘九郎は、中でも鬼役で出演する松本錦吾に触れ「錦吾さんが、芝翫のおじに言付けでうれしいことを言ってくれたんです。“鬼で出られるように勘九郎さんに言ってください”と。錦吾さんは私の父のとき、私達のとき、そして今回と三代の桃太郎で鬼を演じてくださいます」とうれしそうに語る。
「でも、子供達が出演する『門出二人桃太郎』も大変ですが、他の演目も大変なんです」と勘九郎。昼の部最初の演目「猿若江戸の初櫓」では江戸歌舞伎の幕開けを“猿若舞”で見せ、続く「大商蛭小島」では地獄谷の清左衛門実は文覚上人と北条時政の2役を演じる。「“猿若舞”は、父がいなくなってから初めてやらせていただくので身が引き締まります。『大商蛭小島』は昭和44年ぶりの上演。復活(上演)するというのは意欲的なことでもありますし、『黒髪』の原型にもなったものなので楽しめるのではないかと思います。(河竹)黙阿弥や(鶴屋)南北より100年や150年も前の作品なので難しいですけれども、わかりやすいものだけが面白いわけではない、こういう作品も面白く観せられるのが歌舞伎の魅力の1つかなと改めて思いますので、しっかりやらなければならないと思います」と言葉に力を込める。さらに夜の部の「梅ごよみ」では、染五郎演じる丹次郎を巡って、菊之助演じる芸者仇吉と丁々発止を繰り広げる芸者米八を演じる。「こういう女方は、とても久しぶりです。辰巳芸者の意地と情けを大事にする、気っぷのよさを見せたいですし、深川の街や人の匂いが出せたら」と目標を語った。
また、「猿若」の話から、野田秀樹が中村勘三郎へのオマージュとして書き下ろしたNODA・MAPの新作「足跡姫」の話に。「台本を拝見しましたら、妻夫木(聡)くんがサルワカで、(宮沢)りえさんが阿国なんです! “猿若”と“阿国”が歌舞伎座と東京芸術劇場の両座に出るんですね。野田さんも最近そのことに気づいたそうで、これも父のいたずらなのかと……。野田さんと父は同い年で、野田版の作品など一緒に作り上げてきた2人ですから、(こういった作品を作っていただけるのは)ありがたいです」と感慨深げに語る。
本公演には「江戸歌舞伎三百九十年」という冠がついている。次は400年ですね、と記者が発言すると「そのころには私も40代になっていますから、30代はいろいろな仕事をして吸収して、40代の踏み台にしたいと思います。あと10年のうちにやりたいことは……『スター・ウォーズ』のエピソード9に出ること(笑)。ジョージ・ルーカスは歌舞伎好きで、(『スター・ウォーズ』に)歌舞伎の要素がいくつも取り入れられていますから、歌舞伎役者もぜひ起用していただきたいです」と笑顔を見せる。勘九郎のそんな「スター・ウォーズ」好きは子供達も承知で、「街でグッズを見かけると、『おとうちゃまあるよ、スター・ウォーズあるよ』って教えてくれます」と微笑ましいエピソードも披露した。
最後に勘九郎は「『猿若祭』と銘打ち、こうして2月に興行ができるのは本当にありがたいことです。そして私たち歌舞伎役者にとって神聖な場所である歌舞伎座で、父と私達と子供達が三代にわたって初舞台ができる喜びを噛み締めながら、25日間たくさんのお客様に来ていただけるように演じさせていただきます」と思いを語った。「猿若祭二月大歌舞伎」は2月2日から26日まで、東京・歌舞伎座にて。
江戸歌舞伎三百九十年 猿若祭二月大歌舞伎
2017年2月2日(木)~26日(日)
東京都 歌舞伎座
一、「猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)」
二、「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」
三、「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」
四、「扇獅子(おうぎじし)」
一、「門出二人桃太郎(かどでふたりももたろう)」
二、「絵本太功記(えほんたいこうき)」
三、「梅ごよみ(うめごよみ)」
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勘九郎「猿若祭二月大歌舞伎」で、初舞台の子供達は「やる気満々」 https://t.co/NmQIdnm13u