福原冠

福原冠、ニューヨークの稽古場を巡る Vol. 2 [バックナンバー]

WSの内容だけじゃない、居心地の良さも重要

稽古場を巡って思うこと

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範宙遊泳やさんぴんのメンバーとして活動する俳優の福原冠が、2024年11月から2カ月間、ニューヨークに滞在する。目的は、“稽古場のリサーチ”のため。表現を通じてさまざまな人と出会ってきた福原は、稽古場の新しい形を模索中だという。本連載ではそんな福原がニューヨークの稽古場で見て、聞いて、体験したことをつづる。

ニューヨーク滞在、3週間目

こんにちは、福原冠です。現在2024年11月17日11時5分、マンハッタンは38丁目の喫茶店で書いています。朝から初めてのスタジオでヨガのクラスを受けて、明日までに必要な本を求めてThe Drama Bookshopという本屋さんまで来たけど準備中。近くの喫茶店でこれを書きつつ開店を待っているところです。タイムズスクエアであっても日曜日の朝は比較的静か。なんだかその方が違和感がありました。人がいなくても広告は流れ続ける。

The drama bookshopでは演劇にまつわる本が飛んでいた。

The drama bookshopでは演劇にまつわる本が飛んでいた。

ニューヨークに滞在して3週間目を終えようとしています。これまでさまざまなワークショップに参加してきました。印象に残った言葉も意味のわからなかった英単語も日々ノートに溜まっていって、整理が追いつかないほど。今回は訪れたいくつかのスタジオとそのワークショップについてお話してみようと思います。

優しく暖かく真剣な2時間

クラス:Trisha Brown Dance Company class

スタジオ:Eden's Expressway

ニューヨークに来て初めて受けたのがこれ。朝10時からのクラスでした。今回の滞在のコラボレイターである三橋俊平さんに紹介してもらい2人で参加しました。会場であるEden's Expresswayはマンハッタンのブティック街に立ち並ぶ巨大なビルの中にありました。建物の入り口でチェックインを済ませ、今にも崩れ落ちそうな階段を上って4階へ。

人が歩いたところがすり減ってる。

人が歩いたところがすり減ってる。

辿り着いたのは陽の当たる美しいスタジオでした。明るい色の木の床と白い壁、高い天井、そして大きな窓が三つ。その前に並ぶ植物たちを邪魔しないよう、参加者はそれぞれの荷物を置いていました。もりもり育った緑の葉っぱと秋の陽射しはクラスが始まる前の緊張感を緩和してくれていた。

このクラスではTrisha Brown Dance Company に所属している、あるいは過去に所属していた方が週替わりでレッスンを行い、テクニックをシェアしていく。この日ファシリテイトしてくれたのはMariah Maloneyさん。彼女がカンパニーに在籍していた時にこの会場をよく稽古場として使っていたとのことで、ワークショップのはじまりにTrishaとの思い出を語ってくれた。

横になって自分の状態を確かめ、そこから即興的な動きを発展させ、振付に。出てくる動きがYouTubeで見たいくつかの動画を連想させるもので静かに興奮した。「あなたならどうする? どう感じた? どう思う? あなたの動きにしていって」という言葉が印象に残った。最後は振付をもとに全員で即興的なワークをして終了。優しく暖かく真剣な2時間はあっという間に過ぎた。Mariahはワークの度に自分がカンパニーにいた時のことやTrishaに言われた言葉をシェアしていく。単にテクニックを紹介するだけじゃなく、人間性やそこにあったやりとりや景色すら手渡していく 。終わってからMariah、そしてワークショップを主催しているmovement researchのインターンの方に話をきいた。会場のことやmovement reseachのこと、おすすめのクラスやパフォーマンスを教えてもらう。はじめてがこのクラスで良かった~!

ワークショップが終わったあとのちょっとした時間が好きです。

ワークショップが終わったあとのちょっとした時間が好きです。

稽古場であり学校であり作業場でもある

クラス:Alexander Technique, Gaga / people etc.

スタジオ:Gibney at 280 Broadway

マンハッタンの南の方、ニューヨーク市庁舎の近くにあるこのスタジオは今回の滞在でとても重要な場所かもしれません。大小いくつかの部屋と広くて柔らかい廊下。御手洗はジェンダーニュートラル、更衣室はジェンダーアイデンティファイド。そして溜まり場。大きなスタジオには照明を吊るためのバトンとロールバックの客席も用意されていて、天井の一部はガラス張りになっていた。見上げると空が臨める。暗転できないってことだけど、まあいいのかそんなことは。

ここはいつ行っても活気に満ちていて、部屋は主催しているGibneyのレギュラークラスやGibneyが抱えているカンパニーの稽古、レンタルで借りている人たちの稽古やワークショップなどで常に埋まっている。チラシを手に取れてコーヒーも淹れられてパソコン作業もできる。稽古場であり学校であり作業場でもある。情報共有の場所でもあり、何となくいることができる場所でもあるのはきっと溜まり場の存在が大きいだろう。ある人が稽古の振り返りをしている横である人はご飯を食べ、ある人はストレッチをし、またある人は学校の課題らしきものをこなしている。自分もそれに紛れて同じクラスだった人に話しかけてコンタクトインプロのジャムを紹介してもらったりする。

Gibneyのロッカー。

Gibneyのロッカー。

今日までこのスタジオでいろんなワークショップを受けました。Alexander Techniqueでは誰にでもできるようなシンプルなアプローチで身体はあるべきところに戻り、Gagaでは天井の窓が曇るほど1時間踊り狂い、少人数で90分ずっと即興をやったり、2時間ひたすら身体を緩めるだけのクラスもありました。バリバリに踊るクラスからニッチなジャンルの集中クラス、セルフケアのクラスなど、多様なクラスがここでは受けられる。「アメリカは医療費が高い、だからセルフケアが大事」という言葉。「別のスタジオで教えているけど、何もかも忘れて踊りたくてこのクラスに来ている」という言葉。踊る場所でありながら「踊る手前」と「踊った後」を受け入れてくれるスペースがここにはある。個人的には更衣室が明るくて大きいということも重要かなと思います。ここで話が盛り上がる。

そして教育者向けのワークショップにも

クラス:Drama Educator Workshop

スタジオ:The American Academy of Dramatic Arts

名門演劇学校の教育者向けのワークショップに参加しました。俳優教育ではなく、学校で演劇の授業を教えている方に向けたプログラム。演技をする上で相手に反応するためのテクニックの体験、身体的接触やデリケートなシーンをどう捉えるかの意見交換とワークショップ、発声や発音のレッスン、ダンスや身体表現。これらを生徒の目線になって体験する。最後に感想のシェアと授業を進める上で役に立っているウェブサイトやコミュニケーションのゲームなどを共有する時間がとられた。眼から鱗のメニューの数々に加えて昼食も出た。これが無料であることの意味を考えました。

自分も感想を求められ、感謝と告白をした。自分はドラマの先生ではなく、月に一回の演劇部のコーチと機会があれば授業で数回ワークショップしているにすぎないということを。その上で質問を投げかけた。「『「drama(演劇)』という授業の目的はなんですか?」一瞬の沈黙。いま自分はとても雑な質問をしてしまったかもしれない。プライドを傷つけるような聞き方だったかもしれない。「結果ではなく過程にこそ意味がある」「読み、理解して、話す。それってとても大切なこと」「演劇のにあるさまざまな役割を通して自分に気づくことができる」「演劇の中にあるさまざまな役割を通して自分に気づくことができる。絵を書くこと、色を塗ること、図面に線を引くこと、照明や事務仕事に興味を持つ可能性もある」「自分は感情を持った人間で周りもそうだということを確認することができる。これからの4年間は特にそれが必要になってくる」。

本当はもっと沢山の答えが返ってきて、その中にはきっと重要なディティールがありました。でもメモを取れたのはここまで。

素晴らしい時間をありがとう!

素晴らしい時間をありがとう!

自己表現・コミュニケーション・特別プログラムといった名称の授業で講師として学生の方と接する度、教える側こそ教わるべきと思ってきました。コミュニケーションの仕方を誰からも習ったことのない人間が教える立場になっていいのだろうかと。半日かけたワークショップの終わり、小さな卒業証書のようなものをもらった。スマホもソシャゲもTikTokもない青春を過ごした大人達が一度彼らと同じ目線に立って考え、励ましあってそれぞれの場所に戻っていく。困ったことがあれば連絡を取り合えばいい。

ここまで書いて17時40分。お店は開店しているどころか急がないと閉まってしまいそう。ささっとお目当ての本を買い、借りられるならトイレも借りて今日はこれからブルックリンでDJ SPINNAのロングセットを聞きにいく。レジェンドのDJが15ドル! 楽しみ楽しみ。

次回は観劇した作品か、スタジオのことか、出会った人々のことか、何を書こうかちょっと悩んでいます。感情の全ては言葉にできないけれど、経験の全ては吐息に変わる。映る景色を吸い込んで、吸った時より長く吐く。

※初出時より、本文を一部変更しました。

福原冠

神奈川県出身。範宙遊泳所属。2015年からインタビューによって作品を立ち上げるユニット・さんぴんを始動。劇団以外でも古典劇から現代劇まで幅広く出演。近年はダンス公演にも出演している。近年の出演作に山本卓卓演出「バナナの花は食べられる」「心の声など聞こえるか」、福原充則演出「ジャズ大名」、三浦直之演出「BGM」「オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)」、永井愛演出「探り合う人たち」、杉原邦生演出「グリークス」、森新太郎演出「HAMLET -ハムレット-」、中村蓉演出「花の名前」など。

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福原冠 Kan Fukuhara @Kanfukuha_rah

ニューヨークの滞在記、第二弾出ました。うちのめされたり気付かされたり励まされたり焦らされたり考えさせられたりの日々。今日から後半線だ! https://t.co/B91rSe1u53

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