十代で「ライオンキング」ヤングシンバ役に抜擢、二十代を蜷川幸雄率いるさいたまネクスト・シアターで過ごし、32歳となった今年、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」のロン・ウィーズリー役で活躍中の俳優・
第7回は、前回に続き竪山の俳優仲間・
構成
第7回の課題「制限時間を楽しむ!」
平岩「プロのカメラマンが仕事で役者さんを撮る時に必ずある条件が制限時間です。僕でいうと普段は10~20分間ぐらいで撮影することが多いです(少ないときは1分ということもありました)。今回は、限られた制限時間の中で事前にロケハンして、撮影のプランを考えて実際に撮影してもらいました。制限時間を設定することで緊張や焦りを押さえながらどう撮影していくかということを実際に隼太くんに経験してもらいたかったからです」
1st Trial
夕方の渋谷の路地裏は、表通りの喧騒とは別の活気に満ちていた。慌ただしく人が行き交い、夜の営業に備えて飲食店からは美味しそうな匂いが漂い、決して落ち着いた雰囲気ではない。しかし竪山と藤原はそんな場の空気に飲まれることなく、また制限時間を意識しつつも変に焦ることもなく、自分たちのペースで撮影をスタートさせた。
竪山「今回も事前に下調べをして、スナップ撮影ルートを20分ぐらい歩いてからの挑戦となりました。前回のみっちー(小沢道成)のとき(参照:第5回 これまで習った技術を総動員!撮りたい画をより明確に)は緑や公園など爽やかな場所が多かったのですが、今回の撮影場所が繁華街で賑やかすぎたので(笑)、画の切り取り方が難しかったです。品がなくなってしまったらどうしようと迷いながら撮影。とにかく必死に画になりそうな場所をパシャパシャしました。制限時間を設けられ、終了時間に近づいたとき、『狭い路地にはストーリーが詰まっている』と、前に平岩さんに教えていただいたことを思い出し、それを撮ろうと季節に無茶ぶりして狭い路地に入ってもらいました。僕なら難色を示しそうな場所でも季節は楽しんでくれたように思います。おかげでカッコいい写真が撮れました」
2nd Trial
あらかじめ竪山が考えていたルートを1周したのち、同じルートを今度は平岩先生のディレクション付きで回った。1脚ぽつんと置かれていた道端のいすに座ってみたり、あえて背景がごちゃっとした空間で撮影してみたりと、平岩先生は街中にあるさまざまな要素を、写真に生かしていく。そんな平岩先生の撮影を見てヒントを得たのか、竪山も徐々に大胆に、藤原に自分のアイデアを伝え始めた。
竪山「同じルートで平岩さんのディレクションが入りました。やっぱり視野が広い、判断が早い。平岩さんは映画の登場人物のような、1枚でキャラクターも伝わりそうな場所を選択されていたように思います。写真を見返してみてより思います。電信柱やお店の看板など面白い写真がまたたくさん撮れました。その場にある物を使って、最高の1枚を撮る。時間も場所も制限がある中で、最高のパフォーマンスを目指す平岩さんはやっぱりカッコよかったです。そしてどこでとっても画になる藤原季節が最高の被写体でした」
Review
平岩「今回は隼太くん1人でロケハンをしてもらい15分の撮影時間で藤原季節さんの撮影をしてもらいました。最初はマンションの廊下や階段、外に出て路地で撮影したり、これまでの経験と知識を駆使しながら撮影してもらいました。残り1分で細い路地を見つけ、そこで撮影をしたのですが、その写真がとても良かったところにこの企画の意図を理解して、最後まで諦めずに踏ん張った隼太くんの根性を感じました。2回目は同じ場所からスタートして、僕ならここでも撮るよという場所を実際に伝授しながらの撮影をしました」
モデル・藤原季節が語る、隼太とHAYATA
隼太さんってめちゃくちゃまっすぐで、お芝居もまっすぐだと思うんですけど、まっすぐな人が写真を撮ると写真もまっす
ぐになるんだなって(笑)。そのことが今回わかって、面白かったです。だからお芝居をしているときの隼太さんと撮影しているときで、あまり印象が変わりませんでした。
今回撮影してもらった写真を見て、「これは絶対使えそうだな、長い付き合いになりそうな写真だな」と思うものがありました。おしゃれな服を着ておしゃれな雑誌に載っているときの自分よりも飾り気ない、そのままの俳優としての自分が写っていて、やっぱり俳優が撮った写真って、俳優を写しているなと実感しました。
竪山隼太が語る、俳優・藤原季節
竪山「今思い出してみると季節との出会いは最悪でした(笑)舞台の間柄は同じチンピラグループの僕がボスで季節はそのメンバーだったのですが、出会ったときの季節はキレッキレで(笑)、季節からお酒をもらう芝居があったのですが、そういうシーンではないのに態度でバチバチにケンカを売られました。休憩時間中に季節とセットの裏に行き、『リーダーに対してそういう態度取らなくない?』って聞くと『俺は取りますね』と一言。『なんだこいつ!?』と思ったんですけど、それと同時にうそのない子だなと感じて。チンピラグループだし、とがってる子がいてもおかしくないわ、と妙に納得させられました。よくしゃべるようになったのは本番に入ってからで。そのあとこんな仲良くなるとは人生わからないものです。季節の映画や加藤拓也さんの劇団た組の芝居を観に行ったり、さいたまネクスト・シアターの公演を観てくれてシェイクスピアにドハマりしてくれたり。この撮影のときも文庫本の『ハムレット』を持って来ていて、見せてくれましたからね。そんな奴います?(笑) 舞台に映像に八面六臂の活躍を魅せてくれる藤原季節。いまだにボスと呼んでくれる季節に恥じないよう僕も負けてられません。また芝居で対峙したい俳優さんです」
第7回を終えて
竪山「3次元を画として切り取る。言葉では簡単ですが本当に難しい。平岩さんの判断が早すぎて、質問してみました。普段から散歩してても『あっ、ここは画になるなと考えて歩いてるよー』と笑顔で答えてくださいました。平岩さんって優しい笑顔が特徴的なんですけど、なんか自分の中に獣を飼ってる方なんですよね。きっと自分に厳しいから人に優しい方で。そういうところが僕自身惹かれたところなんだなと思います。その場所でしか撮れない画を被写体の個性と抱き合わせて1枚に収める。これからもいろんな場所でトライアル・アンド・エラーを重ねていきたいです」
第1回から7回までを振り返って
平岩先生からの課題に応え、プロカメラマンの技術と心得を学んでいく本連載も今回が7回目。今回で、ファーストステップは終了となる。第1回から7回までを平岩先生と竪山の2人に振り返ってもらった。
平岩「ひょんなご縁から竪山隼太さんという俳優さんのプロフィール写真を撮ることになり、本人に初めて会ったのはちょうど2年前でした。その頃から隼太くんはとにかく人間味がありました。愚直なくらい真っ直ぐで熱くて努力家。応援したくなる人が持っている独特の雰囲気がありました。しばらく経って彼から写真の相談を受けた時に『撮影の手伝いにおいでよ。それが一番勉強になるよ』って誘ったら、彼はすぐに来てくれました。めちゃくちゃ熱心に学ぶ姿勢を良く覚えています。彼のその行動で自分の心が動かされました。やりたいことを迷いなく出来る彼の可能性を広げるお役に立てたらこんなにうれしいことはないという思いで、写真をマンツーマンで教えたり、彼の作品撮りのアシスタントをしているうちにこの連載にまでつながりました。この連載で彼はカメラマンとして更に成長するきっかけを掴んだと思います。この連載を通して、あらためて俳優が俳優を撮る意味と価値はめちゃくちゃあると思いました。僕では引き出せない3人の被写体の素の良さを彼はしっかり引き出しておりました。彼がプロカメラマンとしてデビューする事を心から願っております。ステージナタリーさん、その際は何卒宜しくお願いします」
竪山「2020年の緊急事態宣言から公演中止ラッシュが続き、演劇に代わる表現を見つけないと自粛しすぎて自分が腐ってしまうと始めたカメラは、平岩さんに導いていただき、ナタリーの熊井さんに声をかけていただき、ヘアメイク大藤さんの協力を経て、第7回まで連載させていただきました。那須凜さん、小沢道成さん、藤原季節くんという僕が出会ったリスペクトしている豪華な顔ぶれ。平岩さんの手ほどきを直接受けられたこと、写真を見ながらモデルさんについて文章を書き、自分の思考を言語化するとても貴重な機会をいただけたこと、感謝しかありません。誰かの心に引っかかる写真を撮れたかな。とにかく平岩さんから、出来なくても動いてみる行動力を学びました。カメラも演劇も僕自身、竪山隼太本体が成果に大きく左右されると思います。コロナはまだ収まりません。不安な日々が続きますが、人生の荒波に負けないよう精進し続けたいと思います。今回の経験を経ていつかまたチャレンジしたいな。僕にとって大切な企画でした。関わってくださった皆様、そして読んでいただいた皆様、この度は貴重な体験を本当にありがとうございました」
プロフィール
竪山隼太(タテヤマハヤタ)
1990年、大阪府生まれ。2000年に劇団四季ミュージカル「ライオンキング」ヤングシンバ役でデビュー後、「天才てれびくんワイド」にレギュラー出演し子役として活動。2009年に蜷川幸雄率いる演劇集団さいたまネクスト・シアターで活動。最近の出演作に「Take Me Out 2018」、「ガラスの動物園」(上村聡史演出)、さいたまネクスト・シアター最終公演「雨花のけもの」(細川洋平作、岩松了演出)など。7月から舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」に出演中。
平岩享(ヒライワトオル)
1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年はドローンを使った動画など、新しい手法にも取り組んでいる。
藤原季節(フジワラキセツ)
1993年、北海道生まれ。近年出演した舞台作品に「サンソンールイ16世の首を刎ねた男ー」(白井晃演出)、劇団た組「ぽに」(加藤拓也作・演出)など。ドラマ10「プリズム」(NHK総合 / 毎週火曜22:00~)が放送中。待機作に、劇団た組「ドードーが落下する」(加藤拓也作・演出)、「監察医 朝顔 2022スペシャル」(CX系列/9月26日21:00~)、AmazonOriginal「モダンラブ・東京」第三話「最悪のデートが最高になったわけ」(山下敦弘監督 / 2022年10月21日全世界同時配信)などがある。
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OFFICE作 Official @office_saku
【藤原季節】
ステージナタリーコラム連載
前回に続き、第7回「隼太からHAYATAへ」
で撮影をしていただきました。
是非、ご覧くださいませ!
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#ステージナタリー https://t.co/se2iFm5lRh