ラミン・カリムルー

ミュージカルの話をしよう 第10回 [バックナンバー]

ラミン・カリムルー、物語を伝える使命

演じる役が次のステージへ連れて行ってくれる

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生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第10回には、世界で活躍するミュージカルスター、ラミン・カリムルーが登場する。イランに生まれ、イタリアへ渡ってカナダで育ち、クルーズ船のパフォーマーを経て、ミュージカルの世界に足を踏み入れたカリムルー。現在も、旅するように世界の舞台に立ち続けている。そんな彼の俳優の原点は、幼い頃にミュージカル「オペラ座の怪人」を観て衝撃を受けたことだったとか。以来、紆余曲折を経て、当時28歳という若さでファントム役をつかみ取った。2013年の初来日以降、来日を重ねて日本にも多くのファンを持つ彼。抜群の歌唱力のみならず、芝居の表現力にも定評のあるカリムルーが、ミュージカルの魅力について、メールインタビューに答えてくれた。

構成・/ 大滝知里

物語を伝えるのは、ミュージカルも同じ

──幼少期は音楽が周りにあふれる環境でしたか? カリムルーさんの音楽との出会いについて教えてください。

我が家では常に音楽が流れていました。イランの音楽やロック、カントリーミュージック、いろいろな種類の音楽でした。僕は物語のあるような音楽を聴くのが、小さい頃から好きでしたね。

──プロとしての初舞台はイギリス・チャタムでのパントマイム「アラジン」でした。何をきっかけに舞台の世界へと足を踏み入れようと思ったのでしょうか?

ずっと一緒に育ってきた音楽のように、舞台には物語を伝えるという共通点があるということに気が付いたんです。僕は物語を聞くのも好き。だから俳優になることや、舞台の世界に挑戦することには、すぐに興味が湧いたんです。演劇・ミュージカルの世界が“物語を伝えられる場”であるということに、グッときて、やってみようと思いました。

──デビュー当初から「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」「ミス・サイゴン」など、ミュージカルの大作に次々と出演されます。作品選びについて当時、どのようなポリシーがありましたか?

演じるなら、それが僕にとってチャレンジであったり、興奮させてくれたりするようなものが良かったんですよね。自分自身をアーティストとして成長させてくれるような役っていうのかな。ほとんどの場合、演じていて自分が楽しいと感じられる役を探しています。それから僕は今でも、そのプロダクションに誰が参加しているのかというのを聞くようにしています。演出家や共演者が誰なのか、どういう人たちと作品を作るのかを知ってから、臨みたいんです。

──ミュージカル「レ・ミゼラブル」では25周年のコンサート版にも出演されましたね。

「レ・ミゼラブル」は参加できたことが本当にうれしく、素晴らしい作品でした。作品と共に成長できた感覚があったのも良かった。「レ・ミゼラブル」では長年にわたって、いくつかの役を演じさせてもらいましたが、自分はなんて幸運なんだろう!と、やるたびに思います。アンジョルラスを演じられたのは“ご褒美”のようでしたね。だから「レ・ミゼラブル25周年記念コンサート」でこの役を演じられたのも感慨深かったです。一夜限りの公演でしたが、日本にいるたくさんの僕のファンの皆さん、世界中の僕のサポーターに観てもらえたので。

役が新しい世界を運んでくる

──ミュージカル出演を重ねるにあたり、ご自身の歌唱力や表現力のレベルがぐんと上がったと感じられた作品は何でしたか?

どの作品のどの役も、僕を次のステージに連れて行ってくれていると感じます。これまで演じてきた役というのは、僕にとってはそれぞれに相互関係にあると思っていて。人生で起こることはいつも、自分のために用意されたもの。若くしてミュージカル「オペラ座の怪人」のファントム役を演じたことは、僕の名前を世に広めてくれたし、ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」や「レ・ミゼラブル25周年記念コンサート」、「オペラ座の怪人」など、すべてが層になって自分を形作っています。ミュージカル「アナスタシア」も、僕を変えてくれた作品でしたね(編集注:カリムルーは本作で悪役グレブを演じた)。最近だと、イギリスのBBC放送のテレビドラマ「ホルビー・シティ」で演じたキアン・マダニという役も、新しい“オーディエンス”、つまりミュージカルファン以外の人とつながる機会を与えてくれたし(編集注:キアン・マダニは薬物中毒の心臓外科医という役どころ)。どの役も新しい世界を見せてくれるので、1つには絞れないですね。

ミュージカル「アナスタシア」より。(Photo by Matthew Murphy)

ミュージカル「アナスタシア」より。(Photo by Matthew Murphy)

──ご自身から見て、日本の舞台ファンはミュージカルをどのように楽しんでいると感じますか? また、拠点とされているイギリスの舞台ファンとの違いがあれば教えてください。

日本の観客も、ほかの国の観客も、僕の経験から言うと、同じようにサポートしてくれています。文化の違いはあったとしても、舞台を楽しむ心やアーティストを応援したい気持ちというのは変わらないんじゃないかな。みんな、自分自身から逃げたいときや、目を逸らしてしまいたいことってあるでしょう? 舞台ってその余白を提供できる場で、ストレートプレイやミュージカルを観ながらみんな少なからずそういう体験をしていると思うんです。その気持ちはきっと世界共通なんじゃないかな。

俳優は楽しい、人生は楽しくあるべき

──今年の5月には来日公演が中止されるなど、昨年からコロナの影響で国内外での活動が制限される中、どのようなことを感じていますか?

まさかコロナの影響がこんなに長く続くとは。劇場の開かない時間が多く過ぎ去っていった中、舞台界は少しずつ、希望を持って前進しています。以前のような状況に戻りつつあることが感じられて、すごくハッピーなんだ。今こそ劇場が必要とされている。“時が来た”と思っています。

──7月には日本で「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」再演がスタートします。公演への思いや、ご自身が思う“聴きどころ”があれば教えてください。

今回の「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」は、2019年に初演されたときよりも長い日程でお届けできることにすごく興奮しています。それに、多様性のあるキャストと共演できるのも最高です。おすすめのシーンなんてないなあ……シンプルに、どこも見どころになっている、“マストシー”ショーだと言えると思います。

──カリムルーさんがミュージカルに惹かれる理由は何でしょうか? ミュージカルへ出演し続ける理由を教えてください。

やはり僕にとっての魅力は、物語を伝えるものであるところ。絶対にミュージカルであるべきではないんだけど、僕はストーリーを伝えたいんです。アーティストとして、自分が今やっていることは大好きだし、ミュージカルをはじめ、舞台に立つ俳優になれたことを今でもうれしく感じています。楽しいしね。人生って、楽しいものでしょう?(笑) もし大好きなことがやれているなら、それは本当に幸運だし、祝福されていることなんだと思います。

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」前回公演より。(撮影:下坂敦俊)

プロフィール

1978年イラン生まれ、カナダ育ち。俳優、ミュージシャン、シンガーソングライター。クルーズ船でのパフォーマー経験を経て、2002年にイギリスで舞台デビュー。2007年、「オペラ座の怪人」ファントム役を最年少の28歳で射止める。その後、数々の大作ミュージカルに出演。主な出演作にミュージカル「レ・ミゼラブル」「ラブ・ネバー・ダイ」「エビータ」「アナスタシア」や、「レ・ミゼラブル25周年記念コンサート」「オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン」など。2014年、ブロードウェイデビューとなった「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン役でトニー賞主演男優賞候補に。日本でも「4Stars」「プリンス・オブ・ブロードウェイ」「アイ・ラブ・ミュージカルズ」「エビータ」来日公演に出演するほか、自身のソロコンサートを開催する。7月12日から「ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート」に出演。

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LIM編集部 @lesmisquarti30

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