ミュージカルの話をしよう

ミュージカルの話をしよう 第1回 [バックナンバー]

海宝直人、ミュージカルは自分にとって特殊なもの(後編)

自分の居場所も含めて考える

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生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどのように感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第1弾は海宝直人前編では、音楽に囲まれた幼少期や、今の道を示したミュージカル「ミス・サイゴン」との出会いを語ってくれた。後編では海宝のミュージカル俳優としてのプロフェッショナルな姿勢に迫る。自身が大切な作品として挙げたミュージカル「ノートルダムの鐘」での葛藤、2015年から3度マリウス役を演じたミュージカル「レ・ミゼラブル」でのエピソードのほかに、これまでの作品で言いにくかったセリフなど、海宝のチャーミングな一面も届ける。

取材・/ 大滝知里

小さな波が寄せては返す稽古場

──海宝さんはこれまでの俳優人生の中で、ミュージカルとご自身の“距離”が離れたと感じた瞬間はありますか?

小さな波としてはありますね。稽古に行き詰まったときや、問題を打破できないときに、「なんでこんなしんどいことやってんだろう」「向いてないなあ」とか。根は人前に出ることが得意じゃなくて……オーディションでは今でも酸欠で手が痺れたりしますよ。8月の「THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE」で楽屋が一緒だった藤岡(正明)くんが「直人、緊張するの? 俺あんまり緊張しないんだよな」って言っていて、うらやましいなあと(笑)。

──緊張することに対して、解決方法はお持ちですか?

最近は「あっ緊張してる、手震えてる、ウケる(笑)」ってあるがままを受け入れるようになりました。無理にがんばるのではなく、受け入れて、意識的に楽しむ。あとは、本番前に練習してきた以上に自分を大きく見せようとしないことですね。そのためにも準備を怠らない。だから、「緊張しているように見えないね」と言われると、「見えないところでがんばってるぞ」と思うときはあります(笑)。

──ミュージカル作品に出演するときやオーディションに挑む際に、海宝さんの中で大切にしている基準は何ですか。

“この役がやりたい”ですかね。自分の俳優としての居場所も含めて考えます。悪役がやってみたいとか、今までの自分のイメージとは違う作品や役に挑戦してみたいとか。「ノートルダムの鐘」は特にその思いが強くて、自分の中でも大きい作品。演じたカジモドは、声や肉体的にもハードルの高い役で、キャラクターの持つ複雑性や置かれた環境が難しく、作りがいがありました。でもそれが、楽しかった。毎公演、群衆の1人として舞台奥から出てくるときに「今日はどんな感じになるんだろう」と、作品がどう動くのかわからない部分があったんですよね。それはメタシアターの構造をしていたからなんですが、“舞台上で役に入っていく”という感覚が僕にとっては初めてで、独特な作品でした。

ミュージカル「ノートルダムの鐘」より。(撮影:阿部章仁)(c)Disney

ミュージカル「ノートルダムの鐘」より。(撮影:阿部章仁)(c)Disney

──作品に出会うことで新しく自分が開かれることは多々あるのではと想像しますが、海宝さんは「翼をください」の作曲家・村井邦彦さんのコンサートでの出会いをきっかけに、ロンドンで「TRIOPERAS」という作品に挑戦されました。この出演を決めた理由は?

やりたいからやったっていうのが大きかったかな。多少無理があってもチャレンジできる機会があればやるという……多少どころかかなり無理があったんですけど(笑)。あれよあれよと出番が増えたり、泣きたくなるくらい大変でした。イギリスのお客さんに向けて英語で歌うことにも、感じたことのない緊張感と恐怖がありましたね。

──そこで英語のスピーチコンテストでの経験が生きてくるのでは!?

やっていて良かったと思いました(笑)。作品に関しては賛否両論だったけど、キャストを褒めてくださる評もいただきましたし。僕自身、俳優としてはいろいろな引き出しを持っていたほうがいいと思っているんです。シアノタイプというロックバンドで音楽活動もしていますが、これが実はミュージカルとイーブンくらいの割合を僕の中で占めていて。ミュージカルには少し聖域みたいなところがあって、イメージとか、俳優として守らなければならない部分が多少なりともある。でもシアノタイプの表現にそれはないし、“はみ出す”ことが許される場所。バンドでパッとはみ出してみた感覚が、ミュージカルで生きてくることもあって、どちらにも影響を与え合っているんです。

2018年、「TRIOPERAS」出演のため滞在中のロンドン市内にて。英国ロイヤル・オペラ・ハウスのコンサートマスター・Vasko Vassilevとパチリ。(Photo by Mika Iwamura)

2018年、「TRIOPERAS」出演のため滞在中のロンドン市内にて。英国ロイヤル・オペラ・ハウスのコンサートマスター・Vasko Vassilevとパチリ。(Photo by Mika Iwamura)

2019年にたどり着いた、マリウスとしての旅

──ミュージカルの場合、再演で同じ作品や役に挑む機会も多いと思います。再演することで面白く掘り下げられた作品はありますか?

「レ・ミゼラブル」に関しては、2015年と2017年でプロダクションの方針が変わり、マリウスのキャラクターも大きく変化したんですよね。2015年は多くの方がイメージするキャラクター像に近い正統派なマリウス。それが、2017年では、日本より前に開いたブラジルのプロダクションで、10代の俳優さんがマリウスを演じていたんだそうです。そういった影響もあってか、2017年のマリウスは若さあふれるエネルギッシュなキャラクターに大きく変化しました。だから、2017年は以前に堀り下げた役を新しく構築する感じでしたね。

──それは演じ手として気持ちの整理がつきにくいのではと思うのですが、葛藤はありましたか。

そうですね。「レ・ミゼラブル」という作品が小さい頃から憧れていたミュージカルであるということもあって、自分の中のイメージを1度全部捨てて、さらに体に染み付いた2015年の役をいかに削ぎ落とすかという点で難しかったです。求められた変更には若いからこそ成立する部分もあって、「『僕は飛ぶよ虹の空へ』の『よ』の部分でジャンプして音も高く上げてください」と言われても日本語だと1音に入っているのは単語ではないので不自然になってしまう。また、それをいかに二十代後半の俳優が成立させるかという苦悩もありました。2019年になると演出補が変わって、一気に正統派というか全体がぐっと戻った感じがあって。フレッシュな新キャストも入ってきて、穏やかに稽古を進めていた印象ですけど、2017年を経て、より自分の中のマリウス像がいい意味で融合して、2019年で掘り切った感覚があったんですよね。

──マリウスは2019年で卒業された、と。

そうですね。いろいろなことを試せて、やり切ることができたという思いもあったし、実際に19歳の三浦宏規くんがマリウスを演じる姿を観て、やはりこの役のフレッシュさは演技で出せるものではないなと。うまいへたではなくみずみずしく役にマッチしていた。30歳を超えた自分がまたやるのではなく、次の世代がやるべき役だろうなあと。「レ・ミゼラブル」に関わらないと思うと寂しい気持ちもありますが、これから客席で観られる日が楽しみですね。

──再演を重ねて深まる役もあれば、まっさらな状態で役を作り上げる面白さもある。海宝さんはミュージカル俳優としてどちらに魅力を感じていますか?

オリジナルキャストになることは役者として非常に試されることだと思います。ミュージカル「イヴ・サンローラン」は荻田浩一(作・演出)さんの史実をトレースしない世界観の中で、現代に実在した人物を演じるバランス感覚が難しくもあり、面白かったですし、コメディの「ロカビリー☆ジャック」では幕が開くまで「これちゃんと面白い?」っていう不安がずっとあった(笑)。一方で、海外ミュージカルの日本初演でオリジナルキャストに選んでいただいたときって、ガチガチに動きなどが決まっている中で、どう自分の解釈や個性で闘っていけるかという面白さもあって。また、年単位の時間をかけてオフ・ブロードウェイからトライアウトを踏んでブラッシュアップされた作品の、キャラクターの位置からセットの隅々にまで神経が通った世界の中に立たせてもらうと、本当にいろいろな勉強になります。

──海宝さんがこれまでの作品の中で“言いにくかった”セリフはありますか?

「イヴ・サンローラン」はけっこうあった気がするなあ(笑)。アーティストだから常人の感覚ではなくて、「愛する人にそれを言う?」ってくらいひどい言葉を投げたりして。「マラケシュに住みたい」って言うんですけど、「簡単に言うなあ」って思いました。パートナーのピエールは愛にあふれているので、マラケシュに家を買ってしまうんですけど。ほれたら負けなんでしょうね……。「ちょっとイタリアに行きたいんで、仕事全部キャンセルしてください」とか僕は言えないです(笑)。

──では、“言えて良かった”セリフは?

「ぼくを信じて?」かな。ミュージカル「アラジン」の決めゼリフですね。言うとお客さんがみんな喜んでくれました。(ミュージカル「ライオンキング」の)「心配ないさ」も(笑)。思いを大事にして言いたいと感じたのは「ノートルダムの鐘」の最後のセリフ。命がけでしゃべらなければいけないセリフだなと思っていて……本当に大切ですね。

──もう一度チャンスがあればやりたい、やり直したい役はありますか?

うーん、ミュージカル「ファントム」のシャンドン伯爵はもっとキラキラした人がやったほうがいいし。「アラジン」はロングラン作品なので僕の中では終わりという感覚がない。もし年齢が戻るのなら、ミュージカル「RENT」をまたやりたいですね。「美女と野獣」もまた関わりたい作品。「アナスタシア」もやりたいし、「ミス・サイゴン」のクリス役もやってないからやりたいですね(笑)。

──出演作が多いので選択肢がたくさんありますね。

でも、カジモドは「絶対もう1回はやりたい、やるぞ!」と思っています。劇団四季さんがどうおっしゃるかわからないですけど(笑)。

プロフィール

1988年、千葉県出身。7歳のときに劇団四季のミュージカル「美女と野獣」チップ役で舞台デビュー。その後、劇団四季「ライオンキング」の初代ヤングシンバ役を務めた。主な出演ミュージカルに「レ・ミゼラブル」「ジャージー・ボーイズ」「アナスタシア」、劇団四季「アラジン」「ライオンキング」「ノートルダムの鐘」など。また自身がボーカルを務めるロックバンド・シアノタイプが2018年にメジャーデビュー。2019年にはソロとしてウォルト・ディズニー・レコードよりデビューを果たす。12月2日にセカンドアルバム「Break a leg!」をリリース予定。今後の出演作には、10月に「恋を読む vol.3『秒速5センチメートル』」、2021年3月にブロードウェイミュージカル「アリージャンス~忠誠~」、8・9月にミュージカル「王家の紋章」が控える。

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