音楽ライターの松永良平が、さまざまなアーティストに“デビュー”をテーマに話を聞く連載「あの人に聞くデビューの話」。前回に引き続き、
取材・
念願のunBORDE入り
──unBORDEからメジャーデビューするにあたって、契約など事務的なやりとりも発生してきたと思うんですけど。
Rachel そういうことは周りの人たちに甘えていろいろ助けてもらいましたね。当時ディレクターとマネジャーを兼任してくれていた山田と一緒にワーナーでお世話になることになったんですよ。「EP」(2017年)からワーナーと一緒に作っていこうみたいな感じになって。でも楽曲を制作するメンバーは変わらなかったです。
──レーベル側から、制作チームは今のままでいいです、と。
Rachel そうですね。私たち主導でやらせてもらいました。今も基本的にメンバーは変わらなくて、ビートとかは友達に頼んでる感じですね。
──有名なトラックメイカーと組んだら? みたいな話もなく?
2人 あー!
Rachel 確かになかった。
Mamiko なんでそういうのがなかったんだろうね?
Rachel 全部尊重してくれましたね、私たちの意見を。知らない人が来たらけっこう身構えてたよね。今だったら違うかもしれないけど、あの頃は、「大人が連れてきた人だ!」ってなってた気がする(笑)。そういう私たちを身近にいる人たちもわかってくれてたから。
Mamiko 尖ってたからね。今思うとすごい尖ってたんだよ。
Rachel 「アタシたちこういう感じでやりたいんで」って(笑)。
Mamiko 最近、山田に会ったら「めちゃくちゃ尖ってたよ!」って言ってた。自分では気付かなかったけど。
──1stアルバムの世界観を崩さないで、ブラッシュアップできるところだけもうちょっとキレイにすればいけるみたいな感触があったんでしょうね。
Rachel 確かにいい感じで方向性を付けてくれたと思う。私たちがやりたいことと、それをどれくらいたくさんの人に届くようにするか、というところをすごくいいバランスで取ってくれたなと思います。
Mamiko なんか、こうしたほうがいいとか言われてたっけ?
Rachel 言われてても覚えてない(笑)。でも基本、尊重してくれてたんじゃない? ダメとか何も言われなかったよね。「
Mamiko 確かに(笑)。
Rachel 私たちのメジャーデビューのアルバム「POWER」(2018年)って、chelmicoの声よりも先になかやまきんに君の声が聞こえるんだよ?
Mamiko おかしいよね(笑)。きんに君もよくオッケーしたよね。だから、特別何も言われてないと思います。
Rachel めっちゃ伸び伸びやらせてもらえました。私たちが見てないところで、いろんなやりとりがあったのかもしれないですけど。やりたいことだけやらせてくれました。
──「POWER」にはゲストとして
Mamiko なんでU-zhaanさんオッケーしたんだろ?
Rachel ホントだよね。私は会ったことなかったと思う。せっかくメジャーでやれるし今まで頼めなかった人にもオファーしてもらえたりするっていうので名前が出てきたのがU-zhaanさんだった。ドキドキしながら現場に行った気がする。
Mamiko U-zhaanさんのことめっちゃ好きだったからオファーしたんですよ。
chelmico「POWER」
メジャーに移って変わったこと
──ここまではインディー時代から変わらずにできたことの話をしてましたけど、じゃあ逆に、メジャーに移って、ここはすごく変わったなということはありますか? 例えば取材をいっぱい受けるようになったとか。
Mamiko 確かに取材とかはそうかも。
Rachel たくさん取材してもらえるようになったよね。
Mamiko ラジオとか。
Rachel 最初はインタビューの答え方とかもよくわかんなかったんですけど、いろいろ話していくうちに「あ、曲のこと言えばいいんだ」みたいなことがわかってきた。当たり前なんですけど(笑)。最初のインタビューとかヤバかったと思う。
──覚えてます?
Rachel 「どういうアルバムですか?」とか言われて。「えっ? なんかカッコいいと思って~」みたいな感じだった(笑)。「パワーが出るように」とか(笑)。
Mamiko ははは。本当にそんなだったと思う。「パワーが出るように」って言ってたわ(笑)。
Rachel ライターさんも、よく書き上げてくれたよね(笑)。困っちゃったと思う。
Mamiko 「なんできんに君をフィーチャーしたんですか?」「好きだからです」(笑)。
Rachel 「元気が出ると思って」(笑)。ヤバすぎるよ。
Mamiko こわっ。
Rachel でも今は、考えながらしゃべれるようになりました。あとはタイアップがあるうえで曲を作ったりすることはインディーズ時代には経験していなかったので、そういうのもやらせてもらえるようになって、 いろいろ経験値が上がったと思います。
パソコンにラップを吹き込む
──ここからは、もう1つのデビューについて聞きます。Mamikoさんが
Mamiko そうですね。
──コロナ禍の時期は、人と会えなかったから、その時間を使って新しいことを始めた人がミュージシャンでもけっこういるようです。
Mamiko あの時間は自分的にはよかったですね。家にいられて(笑)。
──コロナ前に忙しい時間を過ごしたりしていたから余計にそう思うんですかね。
Mamiko そうですね。ツアーもやってたしバタバタしてたから。みんなが同時に家にいるっていうのはよかったですね(笑)。
Rachel 自分だけ家にいるんじゃなくてね。
Mamiko みんな家にいたから、「ま、いっかー」って思えた(笑)。
──それでソロをやってみるのは面白いかもと?
Rachel でも、もともとソロ出してたもんね?
Mamiko Mamiko名義で「DEEP GREEN」っていうEPを2017年に出してます。20歳くらいだったかな。その後ソロは作ってなかったね。
Rachel chelmicoいっぱいやってたしね。
Mamiko ソロアルバムを出そうとは思ってなかったんです。でも、「ソロアルバムを出さないの?」って言ってくれる人もちょこちょこいたんで。あとは、Rachelが妊娠して休みになって、コロナ禍だったから時間があったんで作った、という感じですね。だから「ms」のときはデビューという気持ちはなかったですね。
Rachel 「DEEP GREEN」を出したときはデビューみたいな感じあったの?
Mamiko いや、別にデビューって感じではなかった。ただ、なんか作ってみたかったの(笑)。
Rachel SoundCloudにはソロ音源を上げてたしね。盤を出したかったってことか。
Mamiko そうそうそう。でも、それも自分の意思で動いている感覚じゃなかったな。ULTRA-VYBEの神保(和哉)さんが「サンクラのやつよかったよ、CD出しちゃえよ!」って言ってくれて(笑)。私は「はー」みたいな感じ。
Rachel すべて神保さんが出させてくれる(笑)。
Mamiko その頃の私は盤の出し方もよくわからないし、「ミックスとかマスタリングってなんですか?」って状態だったから(笑)。
Rachel すべてにおいて「なんですか?」だったよね、あの頃。
Mamiko サンクラに初めて上げた「19」って曲なんて、録音用のマイクを持ってなかったんで、パソコンでラップを録ってたし。そんな状態なのに神保さんが全部助けてくれた(笑)。
Rachel 神保さん、スタジオ貸してあげなよ~(笑)。パソコンに吹き込んだラップをそのまま使っちゃダメだよ! レコーディングし直さなきゃ(笑)。
Mamiko 確かに(笑)。でも、そういう意味では、サンクラに「19」をアップしたときが、私にとってのソロデビューだったかな。ジャケも自分でアップロードして。
Rachel 手作り感がすごい。だってビートも自分で作ったんでしょ?
Mamiko ミックスとかの概念がわかってなかったけど、「とりあえず音量これぐらいかな?」ってやってた。それをchelmicoも手伝ってくれてたパブリック娘。のたっちゃん(齋藤辰也)に送ったら「これ自分でミックスやったの?」とか言われて、「えっ? ミックスって何?」みたいな。そしたら、「えーと、音量とかを自分で調節したの?」って改めて聞かれた(笑)。本当に何も知らなかったから。
Rachel 調べろよ(笑)。「サンクラ」「上げ方」「ミックス」とかで調べろ。
Mamiko はははは。
Rachel でもあれ、いいよね、「19」のミックス。
Mamiko 適当にやったわりによかったと思う(笑)。あれがデビューですね。SoundCloudです、私のデビューの場は(笑)。
suzuki mamiko「19」
──そういう経緯を聞いても、恵まれてますよね。運というか、人に恵まれてる。
Mamiko 確かに、途中で誰かにバカにされてたらキツかったかも。泣いちゃってたね(笑)。
Rachel でも、「ダメだよ」って言われたら、それはそれでムカついて逆にがんばるかも。
Mamiko あの頃、めっちゃ負けず嫌いだった。
Rachel 「ダメだよ、こんなんじゃ」って言われたら。「はあ?」みたいな。すぐ怒ってたよね(笑)。
Mamiko 「これがいいんだよ!」って感じだったよね。根拠のない怒り(笑)。
──やっぱり尖ってた(笑)。
Rachel でも周りの人が優しかったんで、結果めっちゃ甘やかされてたと思う。「いいね!」って言ってくれる人ばっかりで。ラッキーです。
Mamiko ラッキーです!
全然まだRIP SLYMEになりたい
──今までのお話を聞いていると、神保さんの存在もすごく大きいですね。2人のデビューにとって影の重要人物。
Rachel 神保さんはマジで優しかった。善人すぎる(笑)。
Mamiko ホントだよね。
Rachel おいしいごはんとか食べさせてくれた、BATICAの隣で(笑)。
Mamiko おいしいジュースとか買ってくれた(笑)。優しかった。全部教えてくれた。
Rachel 全部私たちによくなるようにやってくれて。
Mamiko とにかく褒めてくれたしね。「chelmicoは大丈夫だよ」って。
Rachel 「最高だから大丈夫!」「カッコよかったよー!」みたいな(笑)。神保さんはうちらのこと「キャッツ」って呼ぶんですよ(笑)。「キャッツあけおめ!」みたいな。
Mamiko はははは。
Rachel うちらのこと「キャッツ」って呼んでるの神保さんだけ(笑)。
Mamiko あとで神保さんにLINEしよ!
Rachel 「取材で神保さんの話になりましたよ」って(笑)。でも、そうやって面倒を見てくれる人とか気にかけてくれる人が今でも連絡取れる関係性なのもマジで恵まれてると思います。
──次のステップに行ったから、もう昔からの関係は閉じましたよ、みたいな感じでは全然ないですね。
Rachel 皆さんずっと見守ってくれてましたね。チームから離れたり、直接的な関わりがなくなっても連絡を取り合ったりとか、たまに会ったりとかしてね。すごく恵まれてます。いろんなことを教えてもらったし。
──もちろん今では、ミックスやマスタリングは大事だぞって思ってますしね。
Mamiko 一番大事!
Rachel エンジニアさんによって、こんなに変わるんだーって(笑)。昔は「やっておいてください♪」って簡単に済ませてた。
Mamiko いろんな音楽を聴くにも、ミックスとマスタリングをすごく気にするようになりました。
Rachel なんでクレジット出てないんだよ!って怒ったりする(笑)。
Mamiko 不思議ですね(笑)。
Rachel 昔は全然知らなかったのにね。とりあえずミックスには立ち会うけど「サイコーですねえ!」しか言えなかった。やっとわかってきた。いろいろ言えるようになってきたね。
──お二人の場合、知識がなくて幼かった頃と今がうまくつながってる。もちろん今はプロフェッショナルだと思うんですけど、始まりと今がちゃんとつながってるのがすごく大事な気がしてます。
Rachel どっちも経験できたことがよかったなと思います。こないだまみちゃんとピザを食べながら
──12年前に知り合った女性2人の友人関係が今こうなってるというのは、すごく面白いですよね。デビューしてミュージシャンになって、今も最初の感じが続いて、一緒にRIP SLYMEのDVD観たりしてるっていう。
Mamiko 確かにそうですね。まだ「リップになりたい!」って思ってるし。
Rachel まだなりたいし、DVDを観たらもっとやりたいことが出てきた。こういうのやりたいな、これからが楽しみだなって思えたので。
Mamiko 自分たちでも驚くよね? 全然まだリップになりたいよね。
Rachel ね? 本当になりたい! DVD観てて、服装とか、イントロとかにいちいち反応してね!
Mamiko 「こういう曲いいよね!」って。
──最初の頃と全然変わってない(笑)。
Mamiko 私たちいっつもピザ食べてるよね! 会ったときから、いつもピザ食べてる。
Rachel またアー写でピザ食べたりしたい(笑)。
Mamiko 1回やってるし、ミュージックビデオでもピザ食べてるんですけど、まだやりたい!
Rachel まだピザ持ちたいんだよ、私ら(笑)。あと顔をパックしてるアー写とかも撮りたい。
Mamiko 撮りたいね(笑)。
──デビューを目指してる10代の子たちがこのインタビューを読んで、ゼロからのスタートでもいいんだって後押しになるのでは?
Rachel そう思ってもらいたいよね(笑)。勇気持ってもらいたい。
Mamiko 私たちリハもミックスも意味わかってなかったから!
Rachel 大丈夫、大丈夫。私たち一緒に行ってあげるよ、リハ。ついていって助けるよ。何したらいいかわかるよ、きっと(笑)。
chelmico(チェルミコ)
RachelとMamikoからなるラップユニットとして、2014年にイベント出演を機に結成。2016年10月に1stアルバム「chelmico」を発表すると、奔放なキャラクターとポップなセンスが話題を呼ぶ。2018年8月にワーナーミュージック・ジャパン内レーベルのunBORDEよりメジャーデビューを果たす。最新アルバムは2022年6月リリースの「gokigen」。CMソングやドラマのテーマソング、アーティストへの楽曲提供、客演など、さまざまな方面で活躍している。
chelmico official site _ チェルミコのオフィシャルサイト
chelmico(@chelmico_offi)|X
chelmico|Instagram
- 松永良平
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1968年、熊本県生まれの音楽ライター。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌「リズム&ペンシル」がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務の傍ら、雑誌 / Webを中心に執筆活動を行っている。著書に「20世紀グレーテスト・ヒッツ」(音楽出版社)、「僕の平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック」(晶文社)がある。
バックナンバー
chelmicoのRachel @ohayoumadayarou
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