これのドラムを聞け!5秒だけでもいい Vol. 16 [バックナンバー]
BOBOのドラム原体験となった曲たち
「こんな曲聴いたことある? “ドラムイントロ俺ランキング”永遠の1位です」
2024年4月9日 18:00 15
楽曲のリズムやノリを作り出すうえでの屋台骨として非常に重要なドラムだけど、ひと叩きで楽曲の世界観に引き込むイントロや、サビ前にアクセントを付けるフィルインも聴きどころの1つ。そこで、この連載ではドラマーとして活躍するミュージシャンに、「この部分のドラムをぜひ聴いてほしい!」と思う曲を教えてもらいます。第16回はVaundy、imase、ano、MIYAVI、ALI、TK from 凛として時雨、くるり、フジファブリックといった個性的なアーティストのサポートを務めるドラマー・BOBOさんが登場。BOBOさんがまだドラムを始める前、ブラジルのサンパウロで過ごしていた少年時代に衝撃を受けたドラムの原体験について、雄弁に紹介してくれました。
構成
ドラムフレーズが好きな曲とその理由
Kiss「I Love It Loud」
1982年に人生で初めて買ったアルバム(「Creatures of the Night」[邦題:暗黒の神話])のB面の1曲目で(B面!!)、まだドラムとか何も知らないBOBO少年にとって、なんか太鼓で始まって、しばらく太鼓だけでそれからすさまじい叫びが来て、「なんじゃこりゃー!」って。4小節のドラムイントロなんですけど、これが僕のドラム原体験です。いつ聴いても震えます。いや、この記事のおかげでひさびさに聴いたんですけど。ありがとうございます。で、今どきの日本の子なら飽きちゃって4小節待ちきれず次の曲クリックしちゃうかもですけど、当時はレコードなんでこれ聴かないと先に行けなかったんですよね。でもこの曲に絶対に必要なイントロなんで、これは単なるドラムのリズムパターンの域を遥かに超えた、まさに音楽そのものです。当時僕はブラジルのサンパウロに住んでたんですけど、Kissがニューアルバムのリリースワールドツアーでブラジル来るぜ!みたいな感じで街中がKiss一色になってて、ずっとこの曲がかかってて。その雰囲気や空気を体が鮮明に覚えてるんです。なのでこのドラムイントロを聴くと一瞬でブラジルに戻れるんですよね。サンバとかボサノバとかブラジル音楽を聴くより(笑)。しかもこの曲、曲のエンディングでフェードアウトで終わります……と思いきやフェードインしてまだ続いてまたフェードアウトするっていう。そんな曲聴いたことあります? 多分作ってたとき大笑いしてただろうなー。終わ……らないー!とか言って。スタジオ爆盛り上がりで。ドラマーはオリジナルメンバーのピーター・クリスに代わって加入したエリック・カーで、曲中複雑なフィルインをまったくせず、リズムフィルインというか、パターンを少し変えたりして曲に強烈な色を与えています。ノリやビートの感じ含めてピーター・クリスだったら絶対にできてない曲だろうな。とりあえず、ドラムイントロ俺ランキングの永遠の1位で、これはもう死ぬまで破られることはありません。そもそも絶対的に「曲」ありきで、ドラムだけで作れるものじゃないんで、ショボい曲にこのイントロ付けてもただの4小節のリズムパターンで終わります。
Kiss - I Love It Loud (Official Music Video)
Ozzy Osbourne「Over The Mountain」
これも同じくらいの時期、1981年にリリースされたアルバム(「Diary of a Madman」)の1曲目。BOBO少年がドラムに出会う全然前に聴いた曲で、ドラムのフィルインから曲が始まります。というかアルバムの始まりを告げます。曲が始まる期待値を最高潮に爆アゲします。もう何が起こってるのか全然わかんなかったんですけど、「ドラムすげー!」って思ってました。ドラムはリー・カースレイクってイギリス人のドラマーで、Uriah Heepってバンドのメンバーとしての活動が有名です。Ozzy Osbourneに参加するためにUriah Heepを脱退、で、このアルバムは全曲叩いてるんだけどレコーディング後に金銭面トラブルで脱退、というか解雇され、Uriah Heepに出戻りました。いろいろあって元サヤ、みたいな。ボロボロになってやっぱりお前が……あなたが……みたいな。そしてなんと参加ドラマーとしてクレジットされ、中ジャケの写真に写ってるのはその後加入した別人の超凄腕セッションドラマー、トミー・アルドリッジっていう。ところが当時はそんなに問題視されなかったんです。今なら大問題ですけど。もちろん当事者のリー・カースレイクにとっては信じられない出来事だったと思いますが、80年代初頭は音楽やミュージシャンの権利ってのがまだまだ曖昧な無法地帯だったんでしょうね。生活面でも飲酒運転や路駐なんて当たり前、飛行機も全席喫煙可でしたし。ただトミー・アルドリッジはこのアルバムに関して自分は一切参加しておらず、すべての功績はリー・カースレイクにある、とあらゆる取材や公の場で表明しています。そしてリー・カースレイクはその後オジーサイドと裁判をして大負けして破産、家も売って、しかもがんになる、っていう。もう「これのドラムを聞け!」の趣旨から外れまくってるけど大丈夫でしょうか? 大丈夫でしょう。多分。
Ozzy Osbourne - Over the Mountain (Official Audio)
Ozzy Osbourne「Steal Away」
そんなトミー・アルドリッジの加入直後のツアーがライブ盤になってリリースされてたりします。この曲の3分23秒からドラムソロが始まります。これがBOBO少年にとって、人生で初めて聴いたドラムソロです。死ぬほど聴いたなー。ちなみにBOBO少年が初めて自分で買ったドラムスティックはトミー・アルドリッジモデルです。それまでは音楽室に置いてあるやつとか友達から借りパクしたやつとかでした。友達! ごめん! 今さらだけどBOBOモデルでよかったらあげる! そして高校生になりブラジルから日本に帰って来て(生まれは日本です)初めて行ったドラムクリニックもトミー・アルドリッジでした。ドラムクリニックってのは公開ドラム講習会みたいなもんです。トミーがWhitesnakeってバンドのツアーで来日してて。そこで初めて生のトミー・アルドリッジのドラムを受けたんですけど、何がすごかったって、ドラムソロの構成が上に挙げたソロとほぼ一緒だったことです。決め打ちだったんかい!みたいな。その場のフィーリングとかじゃなくて相当練って考えて流れを作ってたんですね。そう思ってこのソロを聴いてみてください。流れ完璧なんで。もちろんそのクリニックで衝撃だったのはソロの構成に関してだけじゃなかったんですけど、なんせ初めて自分のアイドルが目の前にいる、って状況だったんであんまりよく覚えてません(笑)。ただそれだけトミー・アルドリッジが好きで、ソロ聴きまくってたのに、僕が演奏活動するうえで一番嫌いでやりたくないのがドラムソロです(笑)。多分トミーのソロ聴きすぎて適当なソロが許せないのかも。言い訳ですけど。
Ozzy Osbourne「Steal Away」
The Power Station「Some Like It Hot」
トニー・トンプソン(Chicのメンバー)のドラムイントロで始まる曲です。しかも8小節! どんだけ! ただ正直この曲に必要かどうかはわからないんですけど、トニーのドラムがすさまじすぎるので、もはや曲じゃなくてドラムループとして聴けます。Duran Duranのジョン・テイラーとアンディ・テイラー、Chicのトニー・トンプソンとボーカルにロバート・パーマーっていう1984年当時のスーパーバンドで、バンド名のThe Power Stationってのはニューヨークにあるスタジオの名前で、数年前そのThe Power Stationでレコーディングしたときは、「ここかー!」って感動しました。そのとき使った部屋がデヴィッド・ボウイの「Let's Dance」のリズムを録った部屋みたいで、スタジオのレコーディングエンジニアが、「ヘイBOBO!この部屋で『Let's Dance』のドラム録ったんだぜ! グルーヴの神様が降りてくるかもな!」とか言ってて、アメリカーーーー、って思いました(笑)。
The Power Station「Some Like It Hot」
マイケル・ジャクソン「Rock With You」
この曲始まりのフィルは、なんせ世界一のドラムフィルとして有名なんで、「ああ、これが世界一有名なドラムフィルなんだー!」って思ってくれればいいかなと。叩いてるのはジョン“JR”ロビンソンっていうドラマーで、当時世界一売れてたドラマーです。で、歌ってるのは当時世界一人気のあったマイケル・ジャクソンです。
Michael Jackson - Rock With You (Official Video)
自身でドラムフレーズをプレイする際に意識していること
ちょっと最初の質問でエネルギー使い果たした感ありますが……。余計なことは絶対にしない、できる限りシンプルにする、デモ(レコーディング前にもらう、こんな曲ですよー、みたいなだいたい生ドラムじゃなくて打ち込みで作ってある音源)が複雑なときはバレない範囲でシンプルにしちゃう……するなよ!みたいな。デモ通りに叩いてほしそうな現場だったら必要以上に完コピして演奏する……当てつけか!みたいな(笑)。聴いた人が口ずさんじゃうようなフレーズを心がける、とか? まあ理想ですけどー! とはいえ、フレーズとか以前にドラムを演奏するってことでいっぱいいっぱいなんですけど。キックの感じ、スネアの感じ、ノリに入れているか、みんなが入れるノリを作れているか、音量、ダイナミクス、なんせただドラム叩いちゃってるんじゃなくて、音楽やれてるか、みたいな。意味わかんないですよね。大変なんですよ!
自身のプレイスタイルに影響を与えたドラマーや最近気になるドラマー
ありきたりだと思うんだけど、いっぱいいすぎて絞るの難しいですね。いやそこはトミー・アルドリッジでしょ!みたいな(笑)。実際トミー・アルドリッジは憧れましたけど、あの感じはトミーがいるからトミーに任せて、じゃあ俺はどうする?みたいな感じでした。なので踏襲するって意味じゃない影響を受けてます。ジョン・ボーナムもジェフ・ポーカロもそうですね、死ぬほど真似して捨てる、みたいな。ウルトラレジェンドに対して俺偉そー! 世界的にも昔から時代を作ってきた曲たちにはそれ相応のドラムがあったんですけど、今やトラック全盛で時代をリードする曲がもれなく生ドラムを使用してないんですよね。寂しいですけど。日本はまだ全然生ドラムの需要がありますけど、アメリカだとほぼ100%トラックです。でもそれはドラマーの責任でもありますよね。その機械より俺のほうがいいぞ!って歌い手やコンポーザーやプロデューサーに提示できれば、そこにチョイスが生まれますから。生ドラムのいいところ、トラックのいいところ、みたいな。そこには“古き良きドラム”だけじゃなく“新しき良きドラム”を模索し続けないといけないんだと思います。全然見つかりませんけどー! まったく質問の答えになってないですけど今日のところはこんな感じで。ご清聴ありがとうございました。
※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
BOBO
フリーランスのドラマー。幼少期をブラジル・サンパウロで過ごし、帰国後の高校時代にドラムを始める。1997年にオルタナティブロックバンド・54-71に加入。54-71は2009年頃に実質的に活動休止し、現在ではVaundy、imase、ano、MIYAVI、ALI、TK from 凛として時雨、くるり、フジファブリックといった個性的なアーティストのライブやレコーディングに参加している。
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