愛する楽器 第27回 [バックナンバー]
石川紅奈(soraya)の愛用ウッドベース「オリエンテHO-30」
ウッドベース弾き語り動画で話題、ポップスユニット・sorayaでも活躍する新世代ベーシストの大きな相棒
2023年2月20日 23:00 15
アーティストがお気に入りの楽器を紹介するこの連載。第27回に登場するのは、ジャズベーシストにしてポップスユニット・
取材・
「うちはアンプ使えるから入りなよ」でジャズバンド部に
ピアノなど音楽系の習い事はしたことがなくて、最初に触った楽器がベースなんです。中学生まではずっと運動部で、水泳とかテニスとか。でも、お父さんが趣味で弾いていたエレキベースが家にありまして。両親はソウルやロックが好きで、子供の頃から車で流れているのはSly & the Family Stoneだとか、The Jackson 5やスティーヴィー・ワンダーなどのモータウン系でした。自然とそういう音楽が好きになって、中学生の頃だったか、お父さんがスティーヴィー・ワンダーの曲を聴きながらベースの音を拾って「こうやって遊ぶんだよ」と耳コピーの仕方を教えてくれて。思い返すとそれがベースを始めたきっかけです。
それで「高校に入ったらエレキベースが弾ける軽音部に入ろう」と決めたんですけど、私が入った高校では軽音部が人気すぎて……ベーシストもアンプの数より多いから、外に座って生音でスラップの練習しているのを見て、大変そうだなと思ったんですね(笑)。その高校には軽音部以外に、ジャズバンド部というちょっとマイナーな部活動がありまして。ジャズバンド部の先輩が、ジェフ・ベックの「Head for Backstage Pass」の演奏をしているのを観て「完成度と楽器のうまさが高校生の次元じゃないな……」と感動していたら「うちはアンプ使えるから入りなよ」と誘われて(笑)。ここに入ればきっとうまくなれるだろうと思って、ジャズバンド部に入りました。
そこで顧問の先生から「ベースの人はこれも弾くんだよ」と渡されたのがウッドベースで。だからもともとウッドベースを弾きたくてジャズを始めたわけではないんです。ジャズは聴いてこなかったので不安だったんですけど、クラスの友達とはなかなかできなかった「Jamiroquaiの2ndアルバムがいいよね」とか(笑)、そういう話ができるのもうれしかったし、すごく居心地がよかった。好きな音楽の話がしたくてジャズバンド部に入ったというのもあります。
ウッドベース女子高生、小曽根真とジャムセッション
ウッドベースは指が痛くなるし、運ぶのも大変だし……すごく大変な楽器ですけど、続けているうちに、少しずつ楽器が鳴らせるようになってきて。そこからどんどん夢中になっていきました。ウッドベース奏者として最初に憧れたのは、顧問の先生に教えてもらったニールス・ペデルセンというデンマークのベーシストです。あまりの楽器のうまさに「こういうことができる楽器なんだ!」と衝撃を受けました。
高校でもブラスバンド部はよくありますけど、コンボ形式で演奏するジャズバンド部があるのが珍しいこともあって、国立音大にジャズ科ができたときに「ぜひ見学に来ませんか」とお知らせが来たんです。それでジャズピアニストの小曽根真さんがオープンキャンパスでやっていたコンボクリニックに行ってみたんですけど、その晩に小曽根さんからDMをいただいて。その機会が本格的に音楽の道に進むきっかけになりました。そのあと、「一度セッションをやってみよう」とお話をいただいて、銀座のヤマハでジャムセッションをさせてもらいました。そのときはエレキベースを背負って行きましたが、小曽根さんはウォーキングベースのリズム感を褒めてくださったのを覚えています。
愛着のあるマイ・ファースト・ウッドベース
今使っているこのベースは、オリエンテという日本のメーカーのものです。実はこれ、初めて買ったベースなんですけど、今でも使っていて。高校のジャズバンド部の部室にあったのが同じもので、弾きやすくて好きだったので、同じメーカーのもので探しました。2003年に産まれた楽器なので、ウッドベースとしては新しい部類です。でも最近になって自分が出したい音や欲しい音の質感が、新しく見えてきて、昔は気にならなかったところが気になってきたから、そろそろほかの楽器にも出会ってみたいなと思っています。
この木目と色に愛着があるんですよね。音や弾きやすさはもちろんですが、買うときにそこもすごく大事にしていて。ステージ上、写真に写るときも、いつも一緒じゃないですか。それを考えると、見たり触ったりしてテンションが上がるような、好きな色や作りは自分にとって大切です。
ウッドベースと歌
ベースを弾きながら歌を歌うようになったのは、音大を卒業した頃。在学中に、なかなかジャズのスタンダードを覚えられないことを国立音大の先生でサックス奏者の池田篤さんに相談したとき、「ベースラインと一緒にメロディを歌ってみるといいよ」と教えてもらったことがあって。その練習しているうちに歌詞も歌ってみたくなって、卒業したあとライブをさせてもらっていたいろんなお店で、アンコールや数曲だけ歌わせてもらうこともあったんですけど……ライブだと当たり前だけど家とは全然違って、人前で歌うにはちゃんとレッスンを受けたいと思い、レッスンに通うようになったんです。
2年くらいレッスンを続けた頃、コロナ禍になって。ライブもほとんどなくなってしまって、自分で練習のモチベーションを上げるためにウッドベースの弾き語り動画を上げてみたら、そこからいろんなことが動き始めて……ピアニストの壷阪健登くんとポップスのユニット・sorayaを結成して、ついにはソロデビューすることになりました(参照:石川紅奈、ユニバーサル内ヴァーヴ・レーベルからメジャーデビュー)。
ウッドベースを弾いて歌も歌う、というとやっぱりエスペランサ(・スポルディング)などが浮かびますし、私もエスペランサが大好きですけど、日本で生まれた自分ならではのルーツも大事にしながら、いろんなジャンルをまたいでいける音楽家になりたいです。
石川紅奈(イシカワクレナ)
1994年4月16日生まれ、埼玉県出身のベーシスト / ボーカリスト。高校在学中にジャズバンド部でウッドベースを始め、国立音楽大学のオープンキャンパスで出会ったピアニスト小曽根真に才能を見出される。国立音楽大学ジャズ専修にてベースを井上陽介と金子健、卒業後はボーカルを高島みほに師事し、主にジャズのフィールドで活動。2021年には小曽根真と俳優の神野三鈴が立ち上げたプロジェクト「From OZONE till Dawn」に参加、さらにピアニスト壷阪健登とポップスユニット・sorayaを結成するなど活動の幅を広げている。2023年3月、ユニバーサル ミュージック ヴァーヴ・レーベルからミニアルバム「Kurena」でソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。
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