まらしぃ「Piano monkeys」インタビュー|ポケモン愛、地元愛、ボカコレ愛……さまざまな“愛”をピアノに乗せて

まらしぃがニューアルバム、その名も「Piano monkeys」を11月27日にリリースする。

「Piano monkeys」はオリジナルアルバムとしては約4年ぶりの作品となるが、本作がリリースされるまでの間にまらしぃは日本武道館にてグランドピアノ1台で単独公演を開催したり、ボカロカバー集「V.I.P X marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano」を発表したり、「ポケットモンスター」と初音ミクのコラボレーションプロジェクト「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」に楽曲を提供したりと、破竹の勢いを見せてきた。そんな日々を経て完成した新作には、「The VOCALOID Collection」で1位を記録した「新人類」、「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」に書き下ろした「むげんのチケット」といった話題曲や、地元の愛知県名古屋市にある東山動植物園のテーマ曲「& Piano」など計17曲を収録。ファンが待望していたフルアルバムにふさわしい充実した内容に仕上がった。

アルバムのリリースを記念して、音楽ナタリーではまらしぃにインタビュー。二宮和也主演ドラマ「ブラックペアン シーズン2」の劇伴参加というトピックを皮切りに、「Piano monkeys」に収録されている収録曲やレコーディング時のエピソードについて聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 板場俊

ドラマで二宮和也と再びコラボ

──アルバムの話をする前に、ドラマ「ブラックペアン シーズン2」の劇伴に参加された際のお話を聞かせてください(参照:まらしぃが二宮和也と10年ぶりコラボ、「ブラックペアン2」に録り下ろし劇伴を提供)。

前に二宮さんのソロ曲にピアノで参加させていただいた事をスタッフの方が覚えていてくださったのか、劇中で「ちょっとつよいクラシック」(2019年12月にリリースされたクラシックカバーアルバム)の収録曲「ちょっとつよい天国と地獄」を使わせてくれないか、というオファーが番組から届きまして。「ブラックペアン」はシーズン1も観ていたし、二宮さんのドラマということでお声がけいただいてめちゃくちゃうれしかったです。「ちょっとつよい天国と地獄」を第5話で使っていただいたのがマッチしたのか、その後第7話では「ちょっとつよい魔王」、最終話では「ちょっとつよいマゼッパ」を使っていただきまして。「魔王」と「マゼッパ」はドラマのために新たに収録しました。

──ドラマ用にアレンジするにあたって、どのようなことを意識しましたか?

もともとドラマを観ていたこともあり、ドラマ用にどうアレンジすればいいかはすぐイメージができました。劇中ではオペシーンなど緊迫したシーンでクラシックが流れるので、緊張感を増した演奏にして、起承転結をハッキリさせることを意識しています。

まらしぃ

──ドラマでご自身の演奏が流れるのはどういう感覚ですか?

これまでCM曲を何度か弾かせてもらったことがあるのですが、CMは自分の曲がすぐかかるのでわかりやすいんですよ。「あ、始まった!」って。でもドラマの場合は具体的に何分何秒から自分の演奏が流れるか把握していないから、ドキドキしながら画面に向かっている時間が続くのが新鮮でした。ドキドキしながら観ているけど、自分の演奏した音源が流れ始めたときって意外と気付かないんですよ。ドラマに入り込んでいるからか、「あ、このバックで流れているの、僕が弾いたピアノだ!」ってあとから気付く(笑)。本当にドラマの完成度も高かったし、いい作品に参加させていただきました。

せっかくなら猿の曲を

──アルバムにも収録されていますが、まらしぃさんが制作に携わったボカロ曲「新人類」は、「ボカコレ」ランキングで1位を獲得するなど、2023年に発表されたボカロ曲の中でも特に注目された作品となりました。「新人類」はまらしぃさん、堀江晶太さん、じんさんの共作ですが、そもそもなぜこの3人で曲作りをすることに?

僕のボカロ曲「アマツキツネ」の10周年バージョンを作る際に、堀江くんづてでじんさんを紹介してもらって。10周年バージョンを一緒に作る中で「せっかくだからみんなで新曲を作っちゃおうよ」みたいな話が持ち上がり、その場のノリと勢いで制作が決まりました。制作することは決まったものの、クリエイターが3人いると様子を見合う感じになっちゃうので「猿をモチーフにした曲にしよう」というのは僕から提案させてもらいました。

──なぜ「猿」をモチーフに?

せっかくこれだけのプレイヤーが集まっているのだから、最初はもっと小難しい、難解なコードを使うような曲にするアイデアもありましたが、3人が何の制限もなく自由に曲作りできるなら面白いほうが絶対にいいよなと思って。maras k(まらしぃとkors kのユニット)では猿をモチーフにした曲を作ったことがあったけど、ボカロ曲ではまだ作ってことがなかったから、これを機に猿の曲を作るぞ!と思い「ウッホウッホ」と繰り返す曲を作ってみました。堀江くんには「ウッホ」ってゴリラだけど大丈夫?って心配されましたが(笑)。

──じんさんはそのアイデアにどういう反応を?

「もっと面白くしようぜ!」と乗っかってくれました(笑)。放っておくと僕らは難しいことをしちゃうから、じんさんから「複雑なコードを使うのは禁止」「コードは3つまで」みたいな指定が来て(笑)。結果的にBメロなんて1コードで進行しますからね。すごく真面目にクリエイター3人が取り組んだというより、昔のニコニコのよくわからないアレンジを発表し合うみたいなノリに近かったです。

──発表の場として「ボカコレ」を選んだのはなぜですか? 「ボカコレ」にはどちらかと言うと若い世代のクリエイターが参加している印象があったので、ベテラン3人が組んだ楽曲が乗り込んできたことに大きな衝撃があったと思います。

僕らがもし真面目に共作していたら「ボカコレ」には出品していなかったと思います。昔のニコニコのノリで楽しみながら作った結果、なんか面白いものができちゃったからどこかに出したくなっちゃった先が「ボカコレ」だった。逆に僕らは「ボカコレ」で1位を獲ると思っていなかったんですよ。僕とじんさんは、「さすがに僕らが1位はなくて、いよわさんの『一千光年』が1位を獲るんじゃないか」と話していましたし。たぶん、「新人類」がいい意味で枠からはみ出した曲として捉えられたんだと思います。僕らが真面目に曲作りをしていたら1位にはなっていないと思います。

まらしぃ

──ほかの媒体のインタビュー記事で「夏の『ボカコレ』には参加しない」とまらしぃさんが話していましたが、冬の「ボカコレ」にはアルバム収録曲でもある「スマート???」で再び参加しています。なぜ再び「ボカコレ」に参加を?

やっぱり楽しかったんですよね。昔のニコニコ動画は24時間ランキングやジャンル別ランキングがあって、自分の投稿した動画がどれくらい注目されたかが一目瞭然だった。YouTubeはランキングとはちょっと別の軸で動画が観られているから、「ボカコレ」のようにランキングを競い合う文化自体が懐かしく感じられて。自分の楽曲がどのくらいの順位にいるのか、しょっちゅう見に行っちゃうあの感じ。ひさびさに味わうとクセになっちゃって。

──「スマート???」は、まらしぃさん主体で作詞作曲が行われ、編曲に堀江さんが参加しています。「新人類」と取り組み方を変えたのはなぜですか?

もう1回やってみたいけど同じ3人で組むのも違うなという思いがあったんですよ。どうしようか考えていたときにちょうど堀江くんと別件で話をする機会があり、「ちょっと編曲をやってくれない?」と声をかけたら「楽しそうじゃん、やるやる」とノってくれて。今回はフットワーク軽めに僕が作った曲を編曲してもらいました。

──結果として「スマート???」は、「ボカコレ」で2位に選ばれたわけですが。

さすがに連続1位は出来すぎなので、この結果で満足しています(笑)。僕は普段かわいい曲、キラキラした曲を作ることが多い中で、「スマート???」は珍しくちょっとシニカルな曲なんです。こういう新しいアプローチを試せるのもニコニコの1つの魅力なので、息抜きのようにこれまでとちょっと違う路線で曲ができたら、また発表の仕方を考えてもいいなと思っています。とにかく「ボカコレ」は楽しませてもらいました。