BIGMAMAの新曲「Mirror World」が、NTTドコモ・スタジオ&ライブが立ち上げたインキュベーションレーベル、ALL ACCESS RECORDSから配信リリースされた。
2021年5月にBucket Banquet Bis(Dr)が正式加入し、2023年10月に現体制初のフルアルバム「Tokyo Emotional Gakuen」を発表したBIGMAMA。「Mirror World」は彼らが目指す次なるビジョンへの第一歩となる作品で、バンドの原点回帰、現メンバーだからこその進化を感じさせるアグレッシブなロックナンバーに仕上がっている。
このインタビューでは、Bucket Banquet Bisの加入がバンドにもたらした変化や、11月に初出演した中国のフェス「XIHU MUSIC FESTIVAL」でつかんだ手応え、新たなパートナーとしてNTTドコモ・スタジオ&ライブとタッグを組んだ経緯、「Mirror World」に込めた思いなどを語ってもらった。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 大城為喜
新しい風が吹いている
──BIGMAMAは2023年10月に新体制後のフルアルバム「Tokyo Emotional Gakuen」を発表しました。今年の4月から6月にかけては “追加履修”として「化学 | Utsu2」「美術 | ESORA」「家庭科 | PEACE OF CAKE」など、 “学校”や“青春”をテーマにした作品のリリースが続いていましたね。
金井政人(Vo, G) 今までのBIGMAMAは、僕のレシピをほかのメンバーがどう料理をしていくか、というような曲作りをしていました。そこにBucket Banquet Bisというドラマーでありながらコンポーザーとしても優秀な人間が加わって、バンド内のバランスが大きく変わった。それが僕らにとって一番大きな変革でした。「Tokyo Emotional Gakuen」の制作を進める中で「この新しいバランスでフルアルバムを1枚作ってみたい」と考えるようになって。デビューアルバムをもう一度作るような感覚を何か作品に還元できないかと考えたときに、“学校”や“青春”というテーマが似合うんじゃないかと思ったんです。
東出真緒(Violin, Key, Cho) バンドのブレインが3つになったような感じですよね。今はタロットの戦車のカードみたいに、金井ちゃん監修のもと、カッキー(柿沼広也)とビスたん(Bucket Banquet Bis)が2頭の馬のように、すごい勢いで走っている。
安井英人(B) ビスたんが入ってくれたことで、僕もベーシストとしてすごく刺激を受けています。作ってもらった曲に対して「こんなの速すぎて弾けないよ」と思うこともありますけど(笑)、そういうのも含めて今すごく新しい風が吹いている。ブレインが3つになったことでいい状況が生まれていますね 。
金井 「Tokyo Emotional Gakuen」のリード曲にあたる「現文 | 虎視眈々と」や、ミュージックビデオを撮った「17 (until the day I die)」は、バケツ(Bucket Banquet Bis)が持ってきた曲でした。アルバムの制作を通じて、バケツと柿沼がクリエイティブしたものに対して僕が歌詞を書くというスタイルを、1つの正攻法として確立できたと思っていて。
柿沼広也(G, Vo) バンドとしては「自分たちの好きな音楽であれば、なんでもいいよね」と一旦無邪気な気持ちに戻ったタイミングだったし、ビスと僕らの好きなものがけっこう近かったからこそ、アルバムを1枚作りきれたんだと思います。
Bucket Banquet Bis(Dr) ありがたいことに今“3つ目のブレイン”と言ってもらえていますけど、サポート期も含めるとここまでの4年間は、振り返って総括するのも難しいくらいめちゃくちゃ濃い期間でした。僕はBIGMAMAに加入する前から、いちリスナーとしても、いちドラマーとしてもBIGMAMAの音楽が好きだったんです。僕の場合は曲の骨組みを作るときに各パートのフレーズをある程度打ち込むんですけど、その時点で頭の中にカッキーさん、英人さん、真緒さん、金井さんがいる。皆さんそれぞれの演奏に対して「こういうプレイヤーだよな」と思うところがあるし、「カッキーさんにこんなギターを弾いてほしい」「真緒さんだったら、こういうふうにエッセンスを加えてくれるだろう」と想像しながら作っているんですよね。その愛があるからこそ、クリエイティブのコアに入れたのかなと思ってます。
金井 新しいバランスが生まれた末に何が起きたかというと、切磋琢磨が生まれるんですよ。僕ないし柿沼が「作曲で負けてられない」「もっといいものを自分がバンドに持ち込みたい」という気持ちになる。
柿沼 僕はアルバムの制作で、自分だけで1曲も書けなかったのがすごく悔しくて。追加履修の2曲(「化学 | Utsu2」「美術 | ESORA」)は自分が書いた曲でした。1曲はビスにも手伝ってもらいましたけど、自分自身が手応えを感じている曲を選曲会議のテーブルに出せて、そしてリリースまで持っていけてよかったです。
新体制での武道館ライブは一番素敵な形で
──ここ最近はライブ活動が盛んでしたね。
金井 10月31日にa flood of circleとのツーマン「F.A.D YOKOHAMA presents THE SUN ALSO RISES vol.296」があって、次の日には飛行機に乗って中国のフェス「XIHU MUSIC FESTIVAL」に出たあと、そのまま帰ってきて今という感じです(※インタビューは11月上旬に実施)。
──10月31日のライブは私も拝見していたのですが本当に素晴らしかったです。a flood of circleがMCで「2026年に日本武道館を予約したい」と言っていましたが、BIGMAMAも「この5人でもう一度武道館に立つ」という目標を持っていますよね。皆さんはMCで武道館について言及していなかったけど、「CRYSTAL CLEAR」から「現文 | 虎視眈々と」というラスト2曲の流れに、語らずともその思いが表現されていたように感じました。
Bis 意思表示の仕方、ストーリーの伝え方ってバンドの数だけあると思うんですよ。MCでわかりやすく伝えても、SNSで細かく発信してもいいと思う。そんな中で今の僕らはライブに関しては基本「音と曲だけで伝えるぜ」というスタンスでやっていて。
柿沼 フラッドはフラッドで、ストレートに言ってカッケーなと思ったんですけど、俺らは俺らの伝え方に自然となっているのが今で。音楽から自分たちの気持ちが伝わったのならよかったなと思うし、武道館に関しては、無理矢理はやりたくはないんです。みんなが「今やってほしい」と思ってくれたときに実現させるのが、やっぱり一番素敵だと思うので。
金井 口に出していることですから、すっとぼけるつもりはまったくありません。だけど、ただやればいいという話ではなく、「武道館でBIGMAMAを観たい」という人をきちんと集めた状態でやるべきだと思っているんです。2017年の武道館は10周年のタイミングでしたが、今はメンバーも違いますし、あのときとは違う山の登り方があるんじゃないかとも、そこをゴールにしてはいけないとも思っています。少し前までは「前回からあまり間を空けたくない」「バケツが加入してから最短でたどり着きたい」と思っていましたけど、そんなにスムーズにはいかなかったところも含めて面白さを感じています。この炎をずっと絶やさずにいれば、きっとたどり着けるので。
柿沼 そのタイミングを“虎視眈々と”狙っている感じですかね。
安井 おあとがよろしいようで。
中国ライブで感じた新たな可能性
──中国でのライブはいかがでしたか?
柿沼 すごくいい経験でした。可能性しか感じなかった。僕は洋楽が好きで、言葉がわからなくても「なんかカッコいいな」「好きだな」というふうに届くのが音楽のよさだと思っているんです。自分たちの音楽も中国の人たちにちゃんと届いている感覚があった。それがすごくうれしかったです。
Bis 僕はかねてから「BIGMAMAは海外で評価されるのでは?」と妄想していたんですよ。バイオリンがいて、バケツまでいるけど、音楽プレイはあくまで正攻法でぶつかっていく。そういう自分たちの強みは、国境を越えても評価されるだろうという自負がある。今回機会をいただいて実際にライブをしたら、お客さんのリアルタイムのボルテージもすごかったし、関係者の方からも評価を得られて、かなり手応えがありました。「間違ってなかった」と思えたし、自信につながりました。
東出 私は初めてフェスに出たときのような気持ちになりました。すごくウェルカムな空気だったんですよ。私たちの音楽やプレイに純粋に反応してくれて。
安井 BIGMAMAを初めて観る人たちがほとんどだったから、本当に新人バンドとしてデビューした感覚でした。あと個人的には、ちゃんとリベンジができたなと。もう10年以上前のことですけど、韓国のフェスに出たときにベースの音が出なくなっちゃって悔しい思いをしたんです。今回はちゃんと音が出たからよかった(笑)。
柿沼 今回は念のため、ベースを2本持っていたもんね。
安井 そうそう。トラウマがちょっと払拭されたから本当によかった。
東出 今はまだチャンスが巡ってきたと言っても、0が1になったくらいだと思います。だけどここから、100、1000、1億になる可能性も全然あるなと思うことができた。今まではアジア圏でライブをしてもモノにできていない感じがあったけど、今回はバックアップもちゃんとあるし、「これから一緒にやっていこう」と押してくださる中国のチームもいるんです。
金井 「“Roclassick”をいろいろな国でチャレンジしたい」という願望がずっとあった中で、それを後押ししてくれている中国のチームからイベントに呼んでもらった形でした。たぶん中国のオーディエンスは予備知識ゼロで観に来ていて、「あっ、5人組出てきた」「バイオリンがいるし、ドラムのやつもヤバそうだな」くらいの感じだったと思うんです。だけど30~40分もらえたら、最後には大きい拍手をもらえるだけのライブができる。それを1本目のライブから確かめられて、次につながりそうな手応えもつかめました。来年もこういう活動が増えてきそうですね。
信頼できる仲間が増えた
──ここからは5カ月ぶりの新曲「Mirror World」について聞かせてください。BIGMAMAは今作以降、NTTドコモ・スタジオ&ライブとパートナーシップを組んで楽曲をリリースしていくそうですね。
金井 僕の頭の中には「次はここに向かおう」という地図のようなものがあって、「Mirror World」はインビテーションのような立ち位置の曲です。学園モノの制作を終えて、今自分の中には「次はこういうものを作りたい」「BIGMAMAでこういうことをやれたら楽しいんじゃないか」というふうに思い描いているものがあって。「じゃあどこの誰と一緒にやっていこう」と仲間探しをしている中で、こちらのビジョンを汲んでくださったのが、ドコモの中にある「音楽で何か新しいことをしたい」とアンテナを張っているチームでした。
柿沼 2年くらい仲間探しをしていたんですよ。ドコモとのパートナーシップが決まってから、本社にご挨拶に伺って。信頼できる仲間が増えて、今は心強い気持ちです。
──すでに実績のある音楽レーベルではなく、新しいところがよかったのでしょうか?
金井 今回の作品は特に新しい視点をもたらしてくれる人たちと一緒にやりたかったんですよね。チャンスや可能性が一番あるのは、自分たちの唯一無二性を磨くこと、ほかのバンドはなかなかチャレンジしないけど楽しそうなことを提案することなんじゃないかと思ったんです。
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自信があるからこそ原点回帰できる