ヒトリエのニューシングル「NOTOK」が11月27日にリリースされた。
表題曲の「NOTOK」は、2019年4月に亡くなったリーダー・wowaka(Vo, G)が作詞作曲を手がけた楽曲。歌詞は今年5月に刊行された「wowaka 歌詞集」に掲載され、9月に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で行われたワンマンライブではシノダ(Vo, G)の歌唱により初披露された。以降、ファンから音源化を望む声が多数上がっていたが、今回のシングルでついに実現。wowakaが生前に録音したボーカルデータと演奏をもとに、シノダとイガラシ(B)、ゆーまお(Dr)がトラックを完成させる形で収録されている。
シングルにはこのほか、wowakaが作曲し、シノダが作詞と歌唱を務めた未発表曲「daybreak seeker」や、wowakaの楽曲「ワールズエンド・ダンスホール」「テノヒラ」の新録バージョンを収録。全4曲がwowaka作曲というメモリアルなシングルとなっている。
バンドのメジャーデビューから10年、wowakaの急逝から5年を経た今、このような作品をリリースするに至った経緯とはどんなものだったのか。また各楽曲に対するメンバーたちの思いとは。音楽ナタリーではシノダ、イガラシ、ゆーまおにインタビューを行い、「NOTOK」の全貌について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
こういうシングルを出せるのはデビュー10周年の機会しかない
──ニューシングル「NOTOK」は、wowakaさんが手がけた4曲を収録した作品です。今回、こういうコンセプトの作品をリリースするに至った経緯を教えてもらえますか?
シノダ(Vo, G) wowakaの書いた曲を今の僕らのポテンシャルで演奏して録音したらどうなるのか?ということもあったし、こういうシングルを世に出せるのはデビュー10周年の機会しかないというのもあって。さまざまな経緯があって実現した感じなのかなと。
イガラシ(B) 今年は「wowaka歌詞集」を出させてもらったり、wowakaがたどってきたことに目を向けてもらう機会を作ってこれたと思っていて。ヒトリエとしては春にメンバー4人が作曲した曲が入ったシングル(「オン・ザ・フロントライン / センスレス・ワンダー」)を出しましたが、今回はバンドの根幹でもあるwowakaの楽曲を10周年の今改めて聴いてもらえたらと思いました。それは単に節目のタイミングというだけではなくて、シノダが歌ってライブをするようになって、ある程度経験を積んできたからできたことでもあるのかなと。野音のライブでも「NOTOK」を演奏したんですけど、中途半端なことはできない、しっかりしたクオリティで表現しないといけないという気持ちもあって。それを含めて、今だったのかなと。
ゆーまお(Dr) 個人的には、10周年じゃなければ出したくなかったですね。wowakaがいないことを理由に、彼の特別シングルを作りましたとは言いたくないし、10周年だからできた企画という認識のほうが強くて。あとはイガラシが言った通り、シノダが先頭に立ってみんなに歌を聴かせられる状態が仕上がってきたというのもあります。ただ、これを聴いてみんながどう思うのかはわからないですけどね。びっくりするのか喜ぶのか、がっかりするのか。
──wowakaさんの楽曲だけのシングルが出ると知ったときは「賛否両論があるかもしれないな」と思いましたけど、作品を聴かせてもらって「これなら誰もが納得するはずだ」と確信しました。「wowaka歌詞集」に「NOTOK」の歌詞が掲載されたときも「この曲を聴きたい」というファンの皆さんの声が上がっていましたし。
シノダ 「NOTOK」に関しては、wowakaのボーカルデータが入ったデモがあったんですよ。これを形にして、みんなに聴かせないといけないだろうなという使命感みたいなものもあったし、それはメンバー全員の共通認識でもあったと思います。今回のシングルもまず「『NOTOK』を世に出そう」というのが最初にあったんじゃないかな。デモ自体はみんなでスタジオに入って作ったんですけどね。
イガラシ 「HOWLS」(2019年)の制作時期だと思います。
ゆーまお この曲に関しては、wowakaから「こうしてほしい、ああしてほしい」と口頭で伝えられて。
イガラシ そう、その場で作っていったんです。それぞれの音をちゃんと録って、wowakaが自分の家でボーカルを入れて、そのデモが残っていたという。
ゆーまお ワンコーラスだけだけど、人に聴かせられる状態にしてあったんです。ボーカルの録音もそんなに悪いものじゃなくて。たぶんいいマイクを使ってたんだろうし、だから「この歌を使おう」ということになりました。
イガラシ そこからは手探りだったんですけどね。ワンコーラスだけのデモをシノダが預かって、フルコーラスの曲にまとめてくれて。
シノダ その工程は初めてじゃなかったんですよ。「DEEPER」(2016年発売のアルバム)の時期は、wowakaがワンコーラス分のデモを作って、それを我々3人がスタジオでフル尺にしている間に、彼は次の曲に取りかかるという分業制だったので。
ゆーまお そうだった。「これでwowakaは“いい”と言うだろうか?」と思いながら作業して。
イガラシ 2016年は1年でフルアルバムを2枚作ったので、制作のスケジュールが詰まってたんですよ。
シノダ そういう経験があったので、「NOTOK」をフル尺にするときも「デモを元にして、どんどんアイデアを出していけばいい」と。身に覚えがあったからこそできたという感じですね。
ゆーまお wowakaのジャッジがあるかどうかの違いだけですね。以前は俺らが作ったフル尺に対して、本人のイメージが膨らんだり、「これでいい」とか「もっとこうしたい」という判断があったりしたんだけど、今回は3人で仕上げるしかなかった。
ひさしぶりにwowakaの性格や人間性に触れた
──「NOTOK」の制作を通して、改めて気付いたこと、感じたこともあったのでは?
ゆーまお ひさしぶりに彼の性格や人間性に触れた感じがしましたね。デモにはwowakaが作ったフレーズがそのまま入ってたから、制作の中で「こういうフレーズは好きそうだな」とか「これはよくないかも」みたいなことも感じて。Bメロのところでドラムをドカドカ叩いてるんですよ。みんなで同じ“点”を追っていくようなリズムですけど、「そうそう、こういう感じだった」と思い出したり。自分は横にスライドしていくようなリズムを好む傾向があるんですけど、wowakaはけっこう“点”なんですよね。抽象的な話ですけど、そういうところに彼の意思を感じるし、ちょっとした違和感もあって。
イガラシ 違和感の話をよくしてましたね、ゆーまおとwowakaは。「リズムが流れてない」「それがいいんだ」みたいな感じで。「NOTOK」を聴いて演奏するだけでも、wowakaの指示がそこにあるような感覚もあったし。
シノダ 「そういえばこういうところに重きを置いてたよな、俺ら」という感覚もありました。wowakaが言ってることを理解しようとして、彼の中にある音楽の理想形に近付けるために研鑽を重ねてきて。「NOTOK」を録ってるときも、「これを形にできるのは当たり前か。そのために練習してきたからね」と思いました。
──歌詞に関してはどんな印象がありますか?
シノダ そうですね……よくスタジオで歌詞が仕上がるのを待っていたんですよ。wowakaのボーカルRECの日に自分のコーラスも録ることが多かったんですけど、「まだ歌詞が書けてません」ということもけっこうあって。「NOTOK」は1番しか歌詞がないから、「このあと、何を書こうとしてんだろうな」とか、「いつまで待ったらいいんだろう」みたいな気持ちにもなりました。あと、「正解不正解なんて あたしの中にしかないわ」というラストの2行。「これに尽きるな、wowakaという人間は」というか、彼のパーソナリティがギュッと詰まっている歌詞だなと思いましたね。
ゆーまお うん。wowakaはこのことを言葉を変えながらずっと言ってたような気もして。こういうストレートな言葉選びをするようになってたんだなとも思いました。
シノダ あと「それでも人は続く 呼吸をやめるまで」という歌詞があるんですけど、とても本質を突いているというか、その通りだなと思いましたね。僕という人間が続いているから野音で「NOTOK」を歌うことにもなったし、自分自身とシンクロする部分もあって。“背中を押される”ではないですけど、すごくいいエネルギーを感じました。
──野音で「NOTOK」を披露したときは、どんなことを思ってました?
イガラシ やり遂げようという気持ちだけですね。しっかり演奏して、ちゃんとお客さんに聴いていただかないといけないので。
ゆーまお 初披露だったし、とにかく丁寧にやりました。
イガラシ 聴いてくれる人たちがどんな気持ちになるかはわからないけど、自分たちの最低限の仕事として、まずはしっかり演奏して届けようと。それ以外のことは考えないようにしてました。
──音源の制作も同じですか?
イガラシ そうですね。自分たちが続けてきたからできることだし、自分たちにしかできないことでもあるので。こうやって出せてよかったと、今は思ってます。
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「この曲なら歌っていいよ」って言われている感覚