スクウェア・エニックスが手がけるMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)「ファイナルファンタジーXIV」(以下「FF14」)の最新オリジナルサウンドトラック「DAWNTRAIL: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack」が、10月30日にBlu-rayと配信にてリリースされた。
音楽ナタリーではたびたび祖堅正慶が率いるサウンドチームに取材をしてきたが、今回はスクエニ入社3年目のニューフェイス・矢崎早彩を交えてインタビュー。祖堅、今村貴文、石川大樹、そして矢崎の4名のサウンドクリエイターにチームの変化と、最新拡張パッケージ「黄金のレガシー」を盛り上げる音楽について語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士
「FF14」をきっかけにサウンドチーム加入
──「FF16」のサントラ、「FF14 GROWING LIGHT」のサントラの2回にわたって、祖堅さん、今村さん、石川さんの3人に取材しましたが、今回のインタビューには矢崎さんにもご参加いただいています。まずは矢崎さんがスクウェア・エニックスのサウンドチームにどういう経緯で合流したのかを聞かせてください。
矢崎早彩 私は高校を卒業したあと、地元の小さな会社でCADオペレーターとして働いていていました。もともとそんなにゲームをやらないタイプだったのですが、知り合いに薦められてプレイした「FF14」にとてもハマったのが、この業界に入るきっかけです。「FF14」をプレイするまではゲームの音楽を作る職業があるということを意識したことがなかったのですが、ゲームがきっかけで急にこのお仕事に興味を持ち始めました。いても立ってもいられず、愛知から上京して、CADオペレーターの仕事をしながら夜に音楽系の学校に通う生活をしていました。無事卒業してしばらくしたあとにスクエニに応募したところ、ご縁があって採用された形になります。
石川大樹 僕はサウンドクリエイターになろうと思ってもゲーム会社に入れず、メーカーに入社して人事をやっていた経歴があるので、ここまで一直線に夢を叶えるのはすごいと思います。
──祖堅さんはもちろん入社時に面接をしているわけですよね? どんな印象を持ちましたか?
祖堅正慶 少し話をしただけで「FF14」プレイヤーだというのは伝わってきたので、この人はいいなと(笑)。
──いろんなこと説明しなくていいですよね。
祖堅 そうですね。例えば石川と今村はゲーマーではありましたが、入社時点で「FF14」をプレイしていなかったので、このチームに入るときにまず「FF14」をプレイして最後まで遊ぶことを最初の仕事にしてもらいました。
今村貴文 はい、最初はずっと「FF14」をプレイしていました。
祖堅 もちろんプレイする以外にも、課題やほかの業務もありましたが、ほとんどの時間を「FF14」のプレイに充ててもらっていました。実際にプレイしないと、このゲームがどういう世界観や内容で、どういうふうにプレイヤーの皆さんが遊んでくれているのかがわからないですし、それがわからないといいサウンドは作れないと思っています。その分、矢崎は面接に来た時点で「FF14」をプレイしていて、当然最新パートまでプレイしている。これは話が早いぞ、とまず思いました。もちろんポートフォリオを確認させてもらって、スキルを持っていることも彼女の魅力でした。
──今村さんと石川さんは、音楽的なバックボーンが明確にあったうえでの採用でしたよね。矢崎さんの場合、「FF14」プレイヤーであること以外の音楽的な才能についてはどう捉えていましたか?
祖堅 非常に言語化しにくいところなのですが、ポートフォリオの時点で「これくらいできればやれる」というコンポーザーならではの勘が働き、矢崎はやれると感じました。ですので、面接で見ていたのはむしろ人間性で、素晴らしい方であることはわかったので「いつから来られますか?」とすぐ聞きました。
4人中3人が締め切り前に火がつく
──矢崎さんが入社してからおよそ2年半、その活躍ぶりはいかがですか?
祖堅 それは一番近くにいる石川、今村が一番よく知っていると思います(笑)。
石川 入社当時からゲームへの理解が深くて音楽センスもあり即戦力でした。ここ最近は仕事のやり方を覚えてさらに成長している部分もあるので、メキメキ実力を上げています。それと、これは僕も同じではありますが、社会人経験があるので会社員としての土台もあり、仕事を一緒に進めていくうえで非常にやりやすいです。これは本当に助かっています。
矢崎 ありがとうございます!
祖堅 褒めまくるね!(笑)
石川 強いて言えば、オンライン面接には僕らも参加させてもらっていたのですが、緊張していたからなのか、すごく硬く表情が石みたいに固まっていまして……。何を考えているのかよくわからない人が来たな、という第一印象でした(笑)。
矢崎 もともと「FF14」の音楽の大ファンだったので、祖堅さんはもちろん石川さんの名前も、今村さんの名前も知っていました。その憧れのお三方が、オンライン面接で突然勢ぞろいしていたら、誰だって緊張するじゃないですか!
祖堅 僕らはいつもの感じで普通に話しかけていたよね(笑)。
矢崎 3人があまりにもゆるい感じだったのも驚きました。
──今村さんは、矢崎さんと2年半働いてみて、どういうクリエイターだと感じていますか?
今村 とても優秀なのですが、欠点は僕と似ているかもしれないです。僕はだいたい締め切りに追われると火がつくタイプなんです。彼女にも若干その気配を感じるので「2人で気を付けよう」と言い合っています(笑)。
──クリエイターのほとんどが「締め切りに追われると火がつくタイプ」な気がしますが。
祖堅 石川はすごいんです。最初からスパートがかかってます。
石川 締め切り間近だから、みたいな感覚はないです。
祖堅 さっき今村と矢崎が「気を付けよう」と言っていましたが、僕はその比じゃないくらい火がつくのが遅い(笑)。だから毎日締め切りを設けられています。
石川 でもそれを間に合わせる実力とスキルがあるんです。
祖堅 どうにかなっているだけですね(笑)。
祖堅が掲げた「黄金のレガシー」サウンドコンセプト
──前作「GROWING LIGHT」の作曲クレジットを見返してみたところ、作曲者にクレジットされているスタッフの比率が変わったなと感じています。具体的に言うと、祖堅さんのクレジットの割合が減って、今村さん、石川さん、矢崎さんのクレジットがかなり増えてる。
祖堅 「黄金のレガシー」のBGMを作るにあたって、僕のほうでコンセプトを設けさせてもらいました。「暁月のフィナーレ」までは自分を軸にしっかり1つの筋を通ったものを意識していましたが、「黄金のレガシー」では新たな世界観でいろいろな文化に触れることがテーマとして描かれていたので、BGMもバラエティに富んだものにしなければならない。「暁月のフィナーレ」でそれまで続いていた流れの終止符を一度打ったのもあり、これからは新しい風を入れて、豊かなサウンドを鳴らす方向性を意識しています。具体的には、今まで僕がやっていたような領域の作曲も後輩たちに作ってもらいました。
──今回、わりとアレンジ元となるような象徴的な楽曲を各クリエイターが担当している印象があったのはそのためだったんですね。順番に聞いていくと、まずは冒険の序盤のフィールド曲である「山峡の夜風 ~オルコ・パチャ:昼~」と「極彩色の羽根 ~コザマル・カ:昼~」を矢崎さんが作曲しています。
矢崎 「オルコ・パチャ」と「コザマル・カ」は、プレイヤーが「黄金のレガシー」をプレイして最初に足を踏み入れるフィールドなので、“ザ・王道”のファンタジー感を目指して作りました。「オルコ・パチャ」は景色がとにかくキレイで鳥が気持ちよさそうに飛ぶイメージが見えて、気持ちいい風が吹いていそうなイメージを曲に落とし込んでみました。山がとても素敵なので、高所で有名な実在する地域なども少し意識しています。
今村 めちゃくちゃいい曲で、僕にはこういう曲は書けないと感じました。
矢崎 やったー! うれしい。
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髪の毛ボサボサの髭ボーボー、憑依型コンポーザー今村貴文