ザ・リーサルウェポンズのミュージックビデオ集「Music Video Sellection 2020-2024」が12月25日に発売される。
アメリカ生まれのサイボーグジョーと、彼を“発明”した日本人プロデューサー・アイキッドからなる2人組バンドのザ・リーサルウェポンズ。1980~90年代のポップス、パンク、ディスコ、プログレ、シンセウェイブを取り入れ、その時代のエンタテインメントをオマージュした楽曲群で異彩を放つ彼らだが、コミカルで強烈な楽曲コンセプトを多彩なアイデアで視覚化したミュージックビデオも人気の要因の1つだ。デビュー以降すべての楽曲のMVが制作されており、ザ・リーサルウェポンズの音楽は常に映像とセットになっている。
MVの監督は結成時よりアイキッドが自ら務めてきたが、彼とともに映像制作を担当しているのが監督業のほか、編集、VFX、美術にも長けている名倉健郎。音楽ナタリーではMV集の発売を記念してジョー、アイキッド、名倉監督による鼎談をセッティングし、ザ・リーサルウェポンズの楽曲を楽しむうえで欠かせないMVの数々について、制作の裏話を交えながらたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 近藤隼人撮影 / 塚原孝顕
ポンズはMVがないと曲の内容や意味が伝わらない
──今回はミュージックビデオ集の発売に向け、ザ・リーサルウェポンズのお二人と、MV制作に携わっている名倉健郎監督の鼎談を企画しました。
アイキッド 基本的には私がMVの監督をやっていて、名倉さんには編集とかを手伝ってもらったり、たまに監督を担当してもらったりしていたんですけど、作業のやりとりをしているうちにもうどっちが何をやってるのかわからなくなっちゃって。最近は共同監督としてコンビみたいな感じでMVを制作しています。
──名倉さんがMV制作に参加するようになった経緯は?
アイキッド もともとは私とカメラマンの人だけでMVを作っていたんです。というか、それ以外も全部私がやっていたんですよ。バンドの経営的なところも含めて。でももう無理だと感じて、いろんな人に作業を振ろうと思い、2019年に「熱血ティーチャー」のMVを手伝ってもらったのが最初です。
サイボーグジョー 「熱血ティーチャー」で初めて名倉チームと撮影したのはよく覚えてる。ナイスメモリー。
──ザ・リーサルウェポンズはデビュー以降、リリースする楽曲すべてのMVを制作していますよね。シングルの表題曲や、アルバムのリード曲だけMVを作るのが一般的だと思うのですが。
アイキッド それだともったいないんですよね。CDを聴くよりビデオを観たほうが楽しいじゃないですか。例えば昔のロックの曲も、MTVから人気に火がつくことがあったり、画ありきだった。そもそもポンズは曲ごとのコンセプトがすごくはっきりしてるから、MVがないと曲の内容や意味が伝わらないし、もう全部作ろうと考えました。それはジョーをバンドにスカウトするときにも言いましたね。「全部MV作るから」って。で、初めはちゃんと絵コンテを描いて、撮影の手順も自分で組んでっていうことをやっていたんですけど、アルバム全曲でそれを自分がやるのはさすがにもう無理だと。それで2019年5月から名倉さんにお願いすることになりました。
──インディーズ時代のMVは特に手作り感が強いですよね。そこが魅力であり、ファンの方が面白がっているポイントなのだと思いますが、楽曲1つひとつのコンセプトが固まっている分、それを視覚化するのにかなりの試行錯誤したのでは?
アイキッド いや、そんなことは……ありますね(笑)。「いや」と言いましたが、たぶん苦労してるのは名倉さんのほうですから。美術もやってもらってますし。
名倉健郎 はははは。MVを撮る前にアイキッドと打ち合わせをして、新曲のコンセプトやアイキッドのやりたいことを聞くんですけど、本当に毎回曲の内容が違うから必然的に新しいアプローチになる。映画を作るような気持ちでMVを作ってますね。
アイキッド ポンズはMVで使う小道具が多いんですけど、名倉さんは“ポンズ工芸”の第一人者ですね(笑)。私も作りますが、段ボールを切ったり木を削ったり、細々としたものも含めて製作している数は名倉さんのほうが断然多いです。
名倉 「曲のイメージに合わせるならもうちょっとこうしたほうがいいかな」と思って、ついついやりすぎちゃってるというか。まあ大変ですね(笑)。撮影自体は1日に収めているんですけど、それもかなりギリギリで。
アイキッド 時間をめっちゃ伸ばすんですよ。例えば17時に終わる予定だったのに、普通に23時までかかったりする(笑)。
本当の「第3のリーサルウェポンズ」
──撮影や制作の面で、特に印象に残っているMVを挙げるとしたら?
アイキッド 我々ポンズとしては2つあるんですよ。「ウェザーリポート」、そして「あいさつメタル」。
ジョー うん、そうだね。
──「あいさつメタル」は、イギリスのエクストリームメタルバンドDragonForceのマーク・ハドソン(Vo)とのコラボ楽曲で、MVはイギリスで撮影されました。
アイキッド 名倉さんはカメラを持って我々に同行してくれたんですけど、行く先々で数々のトラブルに巻き込まれてました(笑)。
名倉 MVの準備段階から全部やらせてもらえるってことで、僕のほうでロケ地を探したんです。鞄1つ持って、ビッグベンのあたりで写真を撮りながらロケハンしていたんですけど、ちょっと怪しげな男の人が「写真撮ってあげるよ」と言いながら近付いてきて。それで写真を撮ってもらったら、「お金くれ」って言われてお金取られちゃったり(笑)。あと、電車に乗り間違えて全然違うところに行っちゃったり、いろいろありました。
アイキッド ホテルのトイレのドアが開かなくなって、外に出られなくなっちゃったりね。最終日にはBlack Sabbathのジャケットに使われている有名な水車小屋で撮影して。お金を払って撮影する場所だったんですけど、名倉さんが現金のポンドを持ってなくて、私が普通に貸すという(笑)。
名倉 イギリスはだいたいカードが使えると聞いていて。一応、両替して少しは現金を持っていたんですけど、ビッグベンでお金をだまし取られてしまったせいでお金がなくなっちゃったんです(笑)。そのことをすっかり忘れて現場に行ってしまった。
アイキッド もういかにね、キャッシュが大事かと。
名倉 アイキッドはキャッシュ派で、現金をかなり両替していたんですよ。「あんなに両替する必要ないのにね」って話してたら、そのアイキッドに助けられるという(笑)。「先生すみません!」って。
アイキッド ジョーも仮想通貨とかやってますけど、キャッシュ大事ですよ!
名倉 (笑)。撮影のスタッフが僕1人で大変でしたが、現地の方と知り合えてつながりができたのでそれはよかったです。僕がVFXの勉強のために観ていたYouTubeチャンネルがあるんですけど、そのYouTubeの人と偶然現場で知り合って、一緒に仕事をしました。
ジョー ナイス運命じゃないかー。
アイキッド 「あいさつメタル」とか、絶対に準備が大変になると最初からわかっているMVに関しては「全部譲ります」と言って名倉さんに任せてます(笑)。ロケハンも撮影の許可も全部やってもらっていますし、自分が使っていた機材もほとんど預けてますし、非常に素晴らしい活躍ぶりで。関わってくる人間が多くなると、「第3のリーサルウェポンズ」みたいな顔をして前に出てくる人がけっこういるんですけど(笑)、本当の「第3のリーサルウェポンズ」は名倉さんとアレンジャーの齋藤(真也)さんですから。
ジョーは何もわからず撮影に来るほうが輝く
──先ほど少し話に出た「ウェザーリポート」の撮影はいかがでしたか? MVにはアイキッド先生がセーラー服を着用しているシーンもあり、さわやかな青春の1ページが描かれています。
アイキッド 暑かったなー。
ジョー すごい日焼けした。長いし。全然終わんなかった。
アイキッド そう(笑)。線香花火を撮る画角を考えるのに1時間ぐらいかかったんです。
名倉 「青春ものを撮りたい」と前からアイキッドと話していてから、これはもうドキドキのシチュエーションを撮るしかないと。高校の校舎を借りて撮っていたら、どんどんこだわりが出てきちゃって。最後のシーンでは線香花火の光り方がちょっと気になって「もう1回!」って言いながら何回も撮り直しました(笑)。
アイキッド あの日、私は車で現地に行ったんですけど、帰りに車をこすったり、なかなか強烈な思い出がありますね。
ジョー ハハハハ。
名倉 あと、アイキッドのセーラー制服は僕が作りました。
アイキッド 若干サイズが小さくて、思い切り肩を張ると「北斗の拳」みたいに服が破けちゃうので、常に猫背で撮影してました(笑)。
ジョー かわいい。かわいいなー。
アイキッド 手を上げるシーンがあったら、そのときは「破かないように気を付けて!」って(笑)。
ジョー 「特攻!成人式」のMVも感動したね。紋付袴を着て。
名倉 あれはね、ちゃんと着付けを覚えて撮影に行ったんです。撮影の前日から袴をレンタルして、家でマネキンに着付けして。
ジョー いやー、大変だ。
アイキッド そういう地道な作業が多いんですよ、我々は。君は海から出ている氷山の一角しか知らないけど、私と名倉さんは水面下でバタバタとやっているんです。
ジョー それはさ、先生がそうプログラミングしてるんじゃないか。命令だよー。
アイキッド まあね(笑)、君はそういう立ち位置でいいんです。撮影前の打ち合わせとしてWeb会議をやるんですけど、そこにジョーくんは参加させませんから。現場で「これやってくれ」って伝えるだけ。何もわからず撮影に臨むほうが彼は輝くんです。
ジョー LINEのグループチャットで台本は見るんだけど、ほぼ漢字だから全然わかれへん。
アイキッド わかっちゃ困るんですよ。わかったら自分なりの演技プランとか考えてきちゃうから。そんなんしなくていい。アイキッドの言う通りやればいいの。君は瞬発力で輝くんだから。
ジョー はい、そうね(笑)。
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ムチャぶりを形にするのが好き